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放課後の訓練

「待って、ルージュ」


 少し気だるげそうな声に呼び止められ、僕は振り向いた。


 教会裏でアンリを目撃した翌日。

 授業がすべて終了し、僕が教室を出ようとしているときのことだった。


 振りむいた視線の先には、相変わらず眠そうなフリージアの姿があった。


「そんなに急いでどこに行くの?」


「あー...ちょっと用事があって」


「用事って何?」


 ずいっと一歩、フリージアがこちらに詰め寄った。

 答えを聞くまで解放する気はないらしい。


(...昨日もフリージアに何も言わず教会に行っちゃったからか)


 何故ここまで懐かれているのか不明だが、フリージアはいつも僕と一緒にいたがる。

 そんなに精霊を毛嫌いしているのだろうか。

 精霊から全く寄り付かれない僕にはわからない感覚だ。


 はあ、と僕はうなだれるように、両手を上げた。


「今からアンリのところに行くつもりだ」


「アンリ...この前の女の子...」


 むむむっとフリージアはその整った眉根を寄せる。

 やがて何かを決心したような顔つきになると、もう一歩僕との距離を詰め、袖を握った。


「私も行くの」


 フリージアとは短い付き合いだが、この小柄の少女がとても頑固であることは身に染みてわかっていた。

 フリージアが行くといった以上は、僕にこの子を止める術はないだろう。

 それに、フリージアが来てくれるというのであれば、願ったり叶ったりである。


「わかった」


 僕はフリージアを連れ、一度寮に寄ってから教会へと向かった。

 教会の入り口までたどり着いたが、扉の前には誰もいない。

 一応誰かに伝えておくべきかとも思ったが、結局アンリに会うのだから別にいいかとそのまま裏手に回った。


 バーモンの言った通り、アンリはいた。

 昨日よりも早く来たからか、アンリも今さっき出てきたばかりのようだ。

 僕は、こちらに気づいていないアンリに近づく。


「...アンリ」


「ひゃっ!?」


 声をかけられるなんて思っていなかったのだろう。

 アンリは初めて聞くような可愛らしい悲鳴を上げ、バッと振りむいた。

 そこに立つ僕とフリージアを見て目を丸くする。


「ルジー...どうしてここに...」


 アンリの当然ともいえる疑問に、僕は腰に下げた剣を掲げて見せた。

 さっき寮に寄ったのは、村から持ってきていた剣を取りにいったためだ。


「あー、その、だな。武闘祭のために、僕たちと一緒に訓練しないか?」


「...え?」


「迷惑なら断ってくれていいんだけど...」


 そういえば、アンリにとって僕の行動が迷惑になる可能性を考えていなかった。

 気持ちが先走った。

 断られたらどうしようか、と恐る恐るアンリの顔を伺ってみる。

 アンリは目を輝かせて、僕を見ていた。


「やる!やるわ!」


 嬉しそうに声を弾ませるアンリを見て、ほっと安堵の息を吐く。

 すると、アンリが疑問を口にした。


「それにしても、なんで私がここで訓練していることをルジーは知ってたの?」


 その質問に、僕はうっと言葉が詰まった。


「ば、バーモンさんに教えてもらったんだ」


「ふーん」


 幸いなことに、アンリはそれ以上突っ込んだことは聞いてこなかった。

 もし聞かれていれば、昨日アンリの訓練しているところを盗み見たことがばれてしまう。

 それは妙に気恥しいため、避けたかった。


「まあ、いっか。ルジーが来てくれてうれしいわ。ありがとう」


「...あ、ああ」


 満面の笑みでアンリから礼を言われ、僕は生返事をしてしまう。

 そんな僕とアンリの様子を見て、僕の後ろにいたフリージアが唸った。


「...訓練するのなら、ここで話している時間がもったいないの。早く始めるの」


 僕とアンリの注目がフリージアへと向く。

 アンリは少し不機嫌そうにその大きな目を細めた。


「あら。もし時間がもったいないなら、一人で帰ってくれて構わないけど?」


「む...そういうわけにはいかないの」


 闘技場での再現のように、二人の間でバチバチと炸裂する火花が見える。

 どうやらこの二人はとことん馬が合わないらしい。

 僕はひっそりとため息をついた。


「確かに時間がもったいないから始めようか。最初は僕とアンリが手合わせをするから、フリージアはそこで見ててくれ。何かアドバイスがあったら教えてほしい。...ごめん、フリージアにも剣を持ってくるよう言うべきだったな。僕の番が終わったら、貸すよ」



 僕とアンリは顔を見合わせ、お互い向かい合うように位置についた。


 僕は足元の小石を拾い上げ、軽く放る。

 六年前に使っていた僕たちの合図。

 トッと小石が地面に触れた。

 僕とアンリが同時に動き出す。


「...フッ!」


 アンリが僕の力量を図るように、上段から剣を振り下ろす。

 僕は剣を横向きに振り上げ、はじき返した。

 アンリがそれを見て面白そうに笑う。


「強く、なってるじゃない!」


「アンリにガッカリされるわけにはいかないからね!」


 僕たちの一振り一振りが、甲高い金属音となって耳朶を打つ。

 アンリの剛剣を僕はいなし、僕の鋭い一振りはアンリの防御に阻まれる。

 お互い決定打がない状態だった。

 両者の熱が高まっていく。

 それを冷ましたのは、フリージアだった。


「二人とも、そこまでなの」


 ベンチから立ち上がったフリージアが、僕たちの元までくる。


「はあ、はあ...どうかしたか?」


「言いたいことがあるの」


 フリージアはそう言うと、ビシッとアンリに指を突き付けた。


「え、私?」


「...惜しいの。惜しすぎてムカつくの」


 フリージアは腕組みをしながら鼻を鳴らした。

 いったい何を言いたいんだこの子は。


「もう少し詳しく言ってくれるか」


 勿論なの、とフリージアは首肯する。


「アンリエッタには才能があるの。この前戦った時も思ったけど、今見ても凄いセンスを感じるの。でも、だからこそ、ちょっとしたズレで全部無駄になっちゃってるの。アンリエッタが十分な力を出せば、ルージュと互角なんてありえないの」


「ちょっとはオブラートに包んでくれるかな!?」


 僕の六年間の努力がちっぽけなものに思われて、僕は思わず涙目になる。

 一応、フリージアはフォローを入れてくれた。


「別にルージュが弱いわけじゃないの。アンリエッタが凄いだけなの」


「え、え、えっと...」


 先ほどまで敵対心むき出しだった相手が、目を血走らせながら褒めてくれる状況にアンリは脳がついていかないようだ。

 僕もなにがなんだかわからない。


「よし、わかったの」


 フリージアが大きくうなずく。

 いや、何が分かったのか。


「私がアンリエッタ...いやアンリの師匠になってあげるの」


「ちょっと待った!」


 僕がいつの間にかアンリ呼びになったフリージアの距離の詰め方に戦慄していると、話の展開にやっと脳が追い付いてきたのか、アンリが手のひらを差し出し待ったをかけた。


「私は、あんたのこと認めてないわよ!師匠なんてお断り!」


「なるほど、生意気な弟子なの」


 もはやフリージアの中では、師弟関係が出来上がっているらしい。


「私はもうアンリを指南したくてうずうずしているの。禁断症状なの」


「「そんな禁断症状があってたまるか!」」


 僕とアンリの突込みが重なる。

 フリージアはやれやれという風に、わざとらしく首を横に振った。


「しかたないの。実力でわからせてあげるの」


「何なの本当に...」


 アンリは態度が急変したフリージアを見て困惑の表情を浮かべている。

 勿論僕も。

 展開が早すぎて意味不明である。


「フリージア、アンリと手合わせするなら僕の剣を貸すよ」


 僕の言葉に、フリージアは首を横に振った。

 そのまま何も言わずに、近くの木の傍まで歩いていくと落ちている枝を拾う。

 フリージアは、徐に枝を地面に向かって振るった。

 地面が、()()()


「「...ええ」」


 僕とアンリの声がハモる。

 どうやら剣聖という存在は、改めて規格外だということを思い知らされた。


「私はこれで十分なの」


 フリージアは枝をゆらゆらと揺らしながら、その先をアンリに向け、見下したように笑う。

 アンリのこめかみに青筋が浮かんだ。


「オッケー、わかったわ」


 その声は、周りの温度すら下げてしまったのかと錯覚するほど冷え切っていた。

 思わず鳥肌が立って僕は腕をさする。

 どうしようもなくこの場を離れたくなった。


「はじめましょうか」


 二人の少女が、一日ぶりに対峙した。





わわわ、今見たらブックマークが九件まで増えてました!

本作に興味を持っていただいた皆様、本当にありがとうございます!

これからも頑張ります!

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