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魔法使いは電気羊の夢を見る  作者: 明透(めい とおる)
序章 魔法使いは夢を見ない
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第六話 魔法使いは科学の世界の夢を見る

「ヨウ、もしや君の世界では魔法がないのか?」


俺達は交互で部屋に取り付けられたシャワーを浴びてホテルの備品らしい向こうでもよく見た上下セットの寝巻きを着た。

ワンポイントに俺にはクジラ、リシアのにはイルカが刺繍されている。


結局部屋はツインベッドで床で寝ることはなかったが、それぞれベッドに座りながら先程の思考をリシアに話せばむしろこちらが床で寝るほうだと堂々巡りになった。


そうして話題を変えるように出たのが先程のセリフだ。


「うん、無いよ」

「…なら何故僕が魔法使いと分かった?」

「あれ?そんなことあった?」

「名乗った時にやっぱりと口に出していた」


今日あったことなのになんだか遠い記憶を探って思い出す。そういえばおかしな現象が立て続けに起こって、まるで向こうで読んだ小説の様だと思ったのだ。


「あ、それか……いや、俺の世界でも魔法は昔あったとか言われてるんだけど結局は創作とか、空想上の扱い…みたいな感じで」

「そうか、魔法がない世界か……。僕から見て君の文明がそこまで低いようには見えないのだが魔法が失われるとは一体何が?」

「ああ、ごめん、多分ちょっと違う。えっと、」


なんと言えばいいのだろう。魔法はあったが今は無い。今あるのは代わりに。


「そう、科学!」

「……科学?」

「うん、科学っていう魔法みたいな技術が」

「科学だと??!!?!?!!!!!」

「うわびっくりした」


思わずといった感じでベッドの上で立ち上がった。


「科学とは、あの科学か?!?」

「ど、どの科学?」

「電力があって、鉱石や気体に式や法則があって、組み合わせ次第でどんな道具でも作れるあの科学なのか?!」

「そう。すごくその科学」

「小さな端末であらゆる情報が手に入ったり!」

「スマホ?」

「レールの上を浮く鉄の箱がとてつもない速さで人を運んだり!」

「モノレール!」

「たとえ世界の裏側に居ようと一瞬で情報共有が叶う!」

「インターネット!!」


死んだ目を見る機会が多かった彼女は今日一番で、信じられないほど輝いた目をしている。

言われてみればそんな世界から俺は来たのか。科学ってすごい。科学者ってすごい。


「そうか君は本当に果ての世界から…!!」


リシアは途端空気の抜けるようにぺしゃりとシーツの上にへたりこんで、俯いた。


「すまない…すまない…すまない…すまない…すまない…」

「え?あの、待って、なに?」


そしてブツブツと唱え始めてしまった。


「すまない…すまない…すまない…」

「えっと、何に謝られてるか分からないけど……ほら、俺はもうリシアにすごくお世話になってるし」

「すまない…本当にすまない…すまない…すまない…」

「びっくりするくらい綺麗な景色や不思議なことが見れたし」

「本当に…本当にすまない…決して…決してそんなつもりじゃ…」

「あと俺、リシアに会えたし、友達になれて良かった。…え、友達だよね」

「ヴッッ!!!!!!」

「リシア?!?!?!」


デジャビュである。このままだと話が進まない気配がしてならない。

が、向こうもそう思ったのかおもむろにサイドテーブルに置かれたポシェットを漁り出すと見覚えのある小瓶を取り出した。


蓋を開ける。

角砂糖を指で取り出す。


そのままジャリジャリと食べだした。


「えっと…歯磨きしてね?」

「…、ああ」


居ないはずのいつぞやの兄の幻聴が聞こえる。『お前いい子ちゃん過ぎてなんか嫌だね〜』うるさい。夢の中にまで出てくるな。

リシアは持ち直したのか小瓶を閉めるとポシェットに投げ入れるようにしまった。普通のポシェットじゃ怖くて出来ない芸当だ。


「君には全て説明してから謝りたい」

「誠実だね…」

「ただどれから話すべきか分からない。ヨウがそうして質問してくれてありがたい限りだ。そのままで居て欲しい」

「あ、うん…えっと、じゃあいろいろ聞いていい?」

「全て答える」


連れられるがまま、目の前のことが気になるがままに先のことなど何も分かっていなかった。宙ぶらりんな情報でよくもここまで来てしまったものだと反省する。


そろそろ別世界へと来た実感が湧いてきたので情報をまとめるには丁度いい頃合いだと思った。





その前に少し触れておきたい。


「科学知ってるの?」

「君の世界の魔法みたいなものだ。憧れや夢、空想。ちなみに充分に発達した魔法技術は、科学と見分けが付かないとも言われている」

「なるほど…」


どこかで聞いたような法則だ。


「そして僕はこの世界で何よりも科学が好きだ……」


聖なる像の前で罪を告白する信徒のように彼女は項垂れていた。

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