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魔法使いは電気羊の夢を見る  作者: 明透(めい とおる)
序章 魔法使いは夢を見ない
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第三話 出発

「誠に申し訳がない」

「リシア?!?!」


これが三日ほど一緒に旅をして全く見知らぬ国について、一番良いホテルの一番いい部屋で一番豪華そうな椅子に座らされた後にしずしずと片膝をついたリシアに言われた台詞である。


「…え?俺今までずっと気にしないでって言ってきたよね?」

「……そうだったか?」

「俺のこの三日間なんだったの」

「尚のこと謝ろ」

「わー!!やめて!!!」


とりあえず順に説明しよう。





あの儀式のあとリシアは鞄と箒を掴んで、というかリシアが片手づつ手を開くと吸い寄せられるようにそれぞれにぱしっとひっついた。かっこいい。


リシアは行動しながら説明すると言った通り慌ただしく準備しながら、今から近くの都市の一番栄えた都に移動すること。

そこまで三日ほどかかると説明すると、何も無い宙から杖を取りだして俺に対して軽く振った。


するとこれまた宙からふわりと、着ていた制服の上に白いローブが重なる。ガラスの靴でもあれば気分はシンデレラだ。


同時に肩には皮で出来た鞄が下がっていて、試しに開けてみると既に小瓶や魔法陣の描かれた紙でそれはもうぎゅうぎゅうに中身が詰まっていた。使う時取り出せるのだろうか。

それに全くそんな重さを感じなかったので驚く。魔法って便利すぎる。


「これ何入ってるの?」

「君の護身用の武器だ。程よく離れてから敵や地面に向かって瓶が割れるように勢いよく投げるんだ」

「それってどうなるの?」

「中身がかけられた相手は瞬間的に燃えたり凍ったり爆発したりする。瓶によって効果はそれぞれだ」


怖すぎる。


「ねえもしかしてこの世界ってモンスターとか居る?」

「今から行く方向には森がある」

「こわ〜い魔獣とかいる感じ?」

「虫がいる」

「……それってそんなに怖いの?」

「当たり前だろう?虫といえば小さくとも毒を持っていたり血を吸う個体も居るからな」


過剰防衛が過ぎないだろうか。


「大きいものでは人を百人、いやそれ以上積み上げたような個体もいる。まあ普通は十人位だが」


ちょうどいい戦力だった。


「え?普通は?」

「普通は十人位だ」

「人間大とか当たり前?」

「虫とは基本人より大きいものだ」

「……虫って、その俺を蝶とか呼んでた感じのであってる?」

「その虫だ」

「蝶の前が芋虫とかサナギだけど」

「人間の子供大から大人大に育つ。最も育つには時間を要するし人よりずっと小さいままの種もいる」

「おれそんなおおきかったの…?」

「いや君はこのくらいだった」


リシアは人差し指と親指で一般的なサイズを示してくれた。もちろん俺の育った世界での一般的なサイズだが。


「その森通らなきゃダメ?」

「安心してくれ、僕はこう見えて強い」


違う。僭越ながら申し上げると現代人はそんなのを見ただけでも失神してしまうのだ。


「君は蝶だからな。蜘蛛やその巣にはよく気をつけるんだ」


どうか怖いことを言わないでほしい。


二泊三日ならその他にもっと必要なものがあるのでは無いかと思ったが、リシアはドタドタと別の部屋から別の部屋へと走り回り、ガシャンやゴトッなどと心配になる音を隣室のどこかでたてながらどんどん鞄を膨らませている。

同時にあの大きさでは到底入り切るはずのない、棚にあった瓶や本がすっからかんになっていた。


四次元宝箱の次は四次元ポシェットだ。とても羨ましい。任せよう。


しかしどうやら容量はあるみたいで一部のものを取り出したり別のものを入れていた。





そうして俺達は準備を終えて早速旅立った。空に。


「箒に乗ってるっていうよりは浮いてる?」

「ああ、箒はあくまで道具だからな。離せば翼のない僕らは落ちる」

「そういう原理だったんだ……」


こちらに気を使ってくれているのだろう、そっと箒は浮いた。

靴裏からゆっくりと離れていく草原やぶらりと垂れる足に宙に浮くドキドキ感があるが、それよりも箒の操縦士であるリシアに後ろで両手を回して掴まるような形で、密接とも言える距離の方がなんとも照れた。

せめてくっつかないようにしようとしたが不安定だと危ないと言われ、しっかり掴まらせていただいている。


「申し訳ない…」

「リョウ、君が僕に対して気にする事は何一つないしもし君が謝ることがあるならその全ては僕のせいだ」

「どうしてそんな…」

「説明した通りだ、君を別の姿に変えてしまったせいで君は今元の世界に帰れない…その代わり死ぬこともないが」


何メートルほど上空にきたのだろう、徐々にスピードを上げる箒はリシアの家をどんどん地上に置いていく。横にある崖を見ればエレベーターよりは大分早い速度で上がっていることがわかる。にしてはエレベーターの様に一切の風を感じない。さては魔法だな。


「あれ、さっきは死ぬかもしれないって」

「いや魔法で命を繋いだ。僕が生きる限りこの世界で君は、君の魂は死なない」


一蓮托生という言葉が脳裏を過ぎる。


「ただ君の体だけは死ぬかもしれない」

「それってもう帰れないってこと?」

「ああ、今君の魂は僕の体に乗り移ったようなものだ。あのまま人の形をした剥き出しの魂であれば気付くやつに気付かれたらおしまいだ。一体どんな目に遭うことか」

「へえ…」

「…僕が言うことでもないがここはもっと深刻な返事をする場面だ」

「ごめん、あんまり実感なくて」


リシアの家は米粒ほどになった。こう見ると草原や丘にはリシアの家以外はところどころ茂みがあるくらいでほとんど何も無く、暖かな雰囲気をしている割に随分寂しい場所だなと思った。


「恐らく君の世界とこの世界に共通するものとそうでないものがあるのだろう。アンデッドはわかるだろうか」

「ああ、うん、待って。その前に聞きたいことが二つあるんだけど」

「なんだ?」

「これどこまで浮くの?」


リシアの家が米粒から見えなくなって、だだっ広い草原なはずの若緑が見える。崖を見ている限りずっと、むしろすごい勢いで上昇しているはずだ。


なのにその景色がずっと、ずっと、ずっと変わらないのである。


「崖の上に上がるまでだな」

「高…深……」

「この崖、というより山は龍の肋骨で出来たものだからな」

「ファンタジー…」

「そうか?」

「あ、そうこれも。なんで言葉が通じるの?」


とある人が読書が好きだった。最近の本屋大賞から昔の純文学まで幅広く読む彼女と話題を合わせたくて、その時彼女のハマっていたライトノベルをいろいろ読んでからずっと思っているのだ。

理由のある作品も多いが大体そういったものはスキルとかで与えられていた。


「君にかけた魔法は言葉を与える魔法なんだ」

「やっぱり。じゃあリシアは俺の神様だね」


ぐん、と箒が止まった。

少ししてからまた変わりなく上へと上がっていく。


「…あまりおかしなことを言わないでくれ。僕は確かに言葉を与えたがその結果君の姿は変わり、禁忌と変わらないことをした」

「俺ってそういう経緯だったんだ」

「なあ、わかっているのか?僕は君の暮らしを奪い、君の世界を奪い、君はもう二度と親しい友人や愛する家族と会えないかもしれないんだ」

「あ、そっか」

「軽すぎる……」


リシアはぐったりと前かがみになってため息をつくと今度は上を向いてもう少しか、とこぼす。

一緒に上を向けば霧のようなものが見えた。


「もしかして雲?」

「そうだな」

「息苦しくないけどこの世界の空気とか気圧とかってどうなってるの?」

「雲の近くはもちろん空気が薄い。そして寒い。が、僕達には関係ない」

「それも魔法?」

「今僕達は呼吸をしていない」

「え?!」


試しに鼻から息を吸う。吸うことは出来た。吐くことも。

なら口を閉じて息を止める。しかし、苦しくない。鼻は塞げていないが確かに息を止めているのに。


「どうなってんの……?」

「魔法というのもあながち間違いでは無いが体質の問題だ。少し吸えば一年は呼吸が要らない。心音も人間に比べて遅いからほぼ止まってる。食事も普通に暮らせばほとんど必要ない」

「とんでもなく燃費がいいね…」

「その代わりかよく眠る」

「どのくらい?」

「三日起きて四日寝る。一年起きて五年寝る。そこは個人差だ」

「……わあ」

「それが魔法使いだ。そして僕と命を繋いだ君も」


そう言う内に雲へと突入した。真っ白だが俺たちを囲むように丸く空間ができている。


「寒さや風の対策はこれだ。狭い空間なら水中や火の中でも空気を留めておける」

「魔法すごい…」


風を感じなかったのはこれだろう。


その後も自分が注意するのはなんだが、まるで他人事のように話を聞くものじゃないとリシアには言われた。


しかしどれだけ意識が冴えていても、やはりこれだけ不思議なことが起こると夢でも見ているかのような心地なのだ。

呼吸をしていないなら水中散歩とか出来るのだろうか、もしかしてもっといろんな景色が見れるのではないか。


どんなに死ぬかもしれないと言われても今意識がある以上、この胸の歌うようなざわめきに、いつもより眩しく色とりどりにみえる世界に。


不安や悲しみなど掻き消えてしまうのだ。

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