第十七話 アイン
それはミューズの部屋について寝支度の済んだあと。
「ここからタウラスまでなら一日で行けますよ?僕だってそこから来ましたし」
「なん…だと…」
使い魔OKだったミューズの部屋は一人が一匹になるため昨日と同じツインベッドの部屋だ。相変わらず月明かり色の室内は蕩けたような高級感と落ち着きがある。
新たな仲間は俺たちがシャワーを浴びた後に人の姿をとったままシャワーを浴びて俺と同じ柄のパジャマを着ていた。宣言通り自分で面倒を見ている。
「あれ、パジャマあったっけ」
「ヨウを僕に写しているので同じ姿になるんです。鏡みたいなものですよ」
「へ、へぇー」
なんだかどんどん自分の常識を超えていかれてしまう。初めは夢だと思って素直に受け入れられていたのに何故だろうとは思ったが、それは手から伝わるシーツの感覚で何となく分かった。
少し慣れてきたおかげの現実感と増えていく情報量の空想感が入り交じっているからだ。
「脳がバグってきたなあ」
「……バグ」
「あ、うん、プログラムがおかしくなるのを言うやつ。友達がよく言うから移っちゃったな」
なんでも器用にこなす幼馴染を思い出した。彼と最後にした会話はなんだっけ。でも彼の背中を見て凄い人だと羨んでいたのは覚えている。それはいつもだったから。
「プログラム…!」
「えっと計画とか、機械の仕組みを指示するコード?ってやつとか」
「プログラムコードだな!」
リシアは昨日と同じようにベッドの上で胡座をかいていて両手を膝について表情をキラキラ輝かせている。
すると窓際にある机とセットの椅子に座る青年から声がかかった。
「あの!少しいいですか?」
「あ、俺も話したかったんだ」
「名前について」
彼と俺の声が重なった。リシアも右手の折り曲げた人差し指を顎につける。
譲渡会で出会った白黒のボーダーコリー、それは俺の使い魔となって今俺と同じ、にしては俺より背が高かったりなんかかっこ良い姿をしている。
メイスさんの探すデイジーちゃんを見つけられたのも譲渡会で起きた事件、犬の使い魔誘拐事件を少しだけ妨害できたのも彼あってのおかげだ。
そんな彼に名前がないなら新しく決めるのは飼い主である俺だ。
「ヨウ、貴方に決めて欲しいです」
「……ごめん、俺ネーミングセンス無いと思う」
「ヨウの決めた名前ならなんでも構いませんよ!」
見えないしっぽがパタパタと振られている様だ。
とはいえ犬っぽい名前で思いつくのは某柴犬が看板犬のクイズ番組や某都会の待ち合わせ場所だ。腕を組んで考え込む。
「太郎、とか一郎とか二郎とか、はなんだか合わないし」
「どれでも!ヨウが呼びやすい名前なら」
「うーん、一号…二号……」
「数字がいいのか?」
「いや全然。それくらいしか思いつかないだけ」
「なら丁度いいのがある」
「僕は今まで友達と何度か譲渡会を過ごしてきましたが担当の衛兵はあまり変わることはなくほとんどが同じ面子なんです。ですが行われる場所からやそこに詳しい人なども手配されるため変わる面子も居ます」
座る場所を俺の隣に移動した青年、その名前をアインという。さっき決まった。
アインはベッドの縁に腰掛けて両手を軽く合わせて悔しそうに表情を歪めている。どこかに行ってしまった二台のトラックにはきっとその友達が乗っているのだろう。
「初めから聞きたい、普段お前たちはタウラスの保護施設に居るんだな?」
「はい、今日の早朝に準備をしてアセンドラまで」
「……今日の早朝?」
「あれ。ここまで三日かかるんじゃないの?タウラス?からアセンドラにくると近いとか?」
「いや、そんなはずは」
「ここからタウラスまでなら一日で行けますよ?僕だってそこから来ましたし」
「なん…だと…」
曰く十年前からタウラスから各観光地やちょっとした田舎にまで広く道が拓いていったそうだ。人の多い場所では鉄道や、飛行船や箒が飛ぶ空の道が敷かれているらしいが地脈というものや空に住む生き物に配慮するとやはりアクセスの不便な場所は多く存在していた。
魔法があっても道を拓くのは難しいらしい。しかし最適解もまた道であった。
更新空いちゃってごめんなさい。文字書き楽しいので隙を見つけて頑張ります。




