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魔法使いは電気羊の夢を見る  作者: 明透(めい とおる)
序章 魔法使いは夢を見ない
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第十六話 貴方の犬になりたい

明透です。今まで散々感想が欲しいと喚いておきながら設定がログイン限定になっておりました。

とっぱらいました。

匿名様大歓迎。よければご感想頂けましたら非常に誠に幸いです。よろしくお願い致します。

「メイスさん達嬉しそうだったね」

「ああ、よかったな」


メイスさんの家へ向かえばデイジーちゃんを一目見たデイジーちゃんの父親と妹が咄嗟に駆け寄った。二人に抱き締められたデイジーちゃんは溢れるように涙と泣き声を上げていて、メイスさんも瞳に涙を浮かべていた。俺もつい目の奥がジンとした。


そうして事情聴取を済ませた俺たちはミューズへ向かう最中だ。

アセンドラに来てまだ二日目だというのに夜に染ったとんがり屋根と石畳にはなんだか慣れてきた。


リシアの靴がこつこつと踵を鳴らしている。それと石畳をかくような軽い足音。


「ミューズって犬泊まれるのかな」

「さあな」

「えっ」


隣を歩く白黒のボーダーコリーを見る。こちらの速さに合わせているのか少し余裕そうな足取りをしているが、お前は今緊急事態だ。


「最悪外にでも繋いでおけ」

「待ってリシア、雑すぎない?」


慰められて笑みを零してこの子を撫でていた時のリシアは一体どこに行ったのか。振り向きもせずミューズへ向かう背中に疑念を抱くが、その背中はぴたりと進むことをやめるとくるりと向こう側へ。

リシアはため息をつきながら振り向いた。


「ハァ…おい、いつまで猫を被っているつもりだ」

「リシア、この子、犬」

「そうだが違う」


リシアは右手拳をボーダーコリーに向けるとそこにはしゅるりと杖が握られる。ボーダーコリーの鼻先寸前に杖先はあった。


「何を考えているか知らないが、ヨウに何かあれば僕はお前など海底に落ちようが構わない」


一瞬、言葉が喉につかえた。しかしリシアの気迫のある声に犬は身じろぎもしない。


リシア、そう俺が呼びかけた時ボーダーコリーはおすわりをすると一つ遠吠えをした。

それは街よりもずっと深いところに響くような遠吠え。

その体は白く瞬くとすくすくと俺の身長を超えるほどの大きさになって光は弾けた。


白いローブの裾がひらりとはためく。そこには俺と服装を同じくした黒髪の青年が居た。闇夜に月光を受けるその髪が明るく見えるのかと思ったが、襟足の部分は白かった。

そして、はたと驚く。


「…え、兄貴」

「なんだ、獣人じゃないのか」

「いえ、俺はちゃんと犬です」

「……精霊に片足突っ込んでるな」

「魔法使い様が言うならそうなのでしょう」


知人とは違う様だ。


「ところでご主人様、お兄さんが居らっしゃるんですか?」


聞かれていた。


「…あの、ご主人様って俺?ですか」

「はい」

「ヨウでいい、ですよ。それより君はさっきの犬?ですか」

「分かりましたヨウ。もちろん僕は貴方の使い魔です。僕に敬語はおやめください」

「わ、わかった」


その姿は雰囲気が兄と、よりは性格が良さそうな。自分で言うのはなんだが、兄よりも俺に似た雰囲気をしている。

それでも頭ひとつは高い身長と、タレ目がちな目元や大人びた鼻筋や口元は俺とは違くて。


なんというか、顔がいい。

そいつはにこりと笑ってから柔らかく、それでも真剣な目をする。


「この姿はヨウ、貴方が僕の主だから取れる姿です。これならミューズも泊まれますし自分で自分の世話も出来ます」

「あ、うん……」


申し訳ないが慣れたのは景色だけで目の前で起こるファンタジーには頭が追いつききれない。あと二、三個詰め込まれたら爆発して脳天から煙が出てしまいそうだ。


「決して足手まといにはならず貴方を守護すると誓いましょう、ヨウ」

「……なんで?」

「なんで?!」


心外だとでも驚く青年をリシアは片手を腰に当てて、先程よりは柔らかいがそれでも胡乱な眼差しで見つめる。

俺も煙を出すには至らなかったが、正直全く理由が分からないので首を傾げる。

人の姿を俺だから取れるとか、誓うなんて行動が。いくら犬は忠誠心が高いと知っていても急だろう。


青年はうーんと軽く背を曲げて考え込むような姿勢でなんでってなんでと呟いている。なんでなんでってなんでなんだ。


「ヨウ、貴方は俺に名前を付けてくれたじゃないですか。すごく褒めてもくれましたし」

「後者は心当たりあるけど…」


名前なんて一度も。むしろずっと心の中で俺は白黒のボーダーコリーと丁寧に呼んでいたはずだ。


「すごいーぬって呼んでくれたじゃないですかあ!」

「それ名前じゃない…」

「そんなあ!」


俺は衛兵に事情聴取をされる前に彼と魔法の契りを交わした。それからずっとじんわりと熱が届くように彼の存在を感じ続けている。もう俺は彼を引き取ったのだ、俺の生活なんかよりも優先して彼の面倒を見よう。

飼い主たる責任故に俺はそうは思うが彼からそこまで誓われるのはなんだ、使い魔とはそういう仕事なのだろうか。接客業かしら。


「いいですかヨウ、僕は貴方の犬になりたいんです」


すっごい語弊。

いや語弊ではないのか。他に言い方ないのだろうか。


「僕はあの場で魔法使い様ではなく貴方を主人としたいと思ったのです」


彼の片手を胸に当てる王子様然とした動作に妙に居心地の悪さを感じる。どこかキラキラとしたその表情はなんだか直視しづらかった。

眩しい。今は夜なのだ、その車のハイビームみたいな眩しさは交通規制が敷かれていなきゃちょっとした迷惑だ。

目を細めながら頷く。


「えっと…じゃあ、これからよろしくね」

「はい!すごいーぬをよろしくお願いします!」

「それ名前じゃないんだって」

「ならもしかして可愛いの方ですか?」

「ペットは自分の名前勘違いしてるって本当だったんだ…」


青年はこてんと首を傾げている。犬の時みたいな仕草だ。確かあれは人の声をよく聞くために傾けていると聞いたことがある。だが残念ながら俺にもう言えることは無い。


「お前、前の主人は居ないのか」

「分かりません、魔法使い様。俺は気付けば友達と共に譲渡会を過ごしてきました。ただ俺はそれまでどこで何をしていたのか分かりません」

「…故に名前を持たないのか」

「はい、魔法使い様」

「リシアだ。はっきり言って僕はキミを怪しんでいる。ただお前は僕達の旅に必要だ。故に古の契約で縛ることにした。警戒は続ける、詫びとして君の食事は通常より豪華にする」

「はい、リシア様。ありがとうございます」

「礼など言うな」


話は終わりとでも言うように振り返ってミューズまでの道をまた進み出す。

確か似たような言い方をメイスさんにもしていた気がする。きっとリシアは嘘も隠し事もしないのだろう。

その理由はなんとなくもう分かる。そんな必要が無いほどにリシアが強いからだ。


というかいち早くリシアに金銭かそれに代わる様な貢献をしたい。俺はこいつを養わなければいけないのだ。


せめてもの返しにミューズの扉は先回って俺が開けた。ぱしゃりと泳いだ看板の文字を間近で見れたのはちょっとしたラッキーである。

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