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魔法使いは電気羊の夢を見る  作者: 明透(めい とおる)
序章 魔法使いは夢を見ない
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第十一話 犬避けの魔法

「ヨウ、お手柄だ」


リシアは石畳にぱしゃりと霧吹きを逆さまにする。撒かれた液体はシミを作ると同時に紫色の小さな肉球の足跡を四つ浮き上がらせていた。





「彼等にかかっていたのは犬避けの魔法だ」


残された情報は家族にかけられた犬避けの魔法と居なくなった場所に浮き上がった肉球。そして不可視の魔法。

それらが示すのは居なくなったデイジーさんは犬の姿をしている。かもしれないということ。


「それって声や音も聞こえなくなっちゃうの?」

「ああ、度合いは調節できるが手が凝った魔法なら互いを完全に遮断することも可能だ。まあ間接的な情報までは防げないが」


ブロックの文字が頭に過ぎる。俺はその機能を使ったことがないが、教室にいれば某トークアプリでしたのされたのそれは割と飛び交う話題であった。


居なくなったデイジーさんを探すため、母親であるメイスさんは洗濯やお風呂のために一度家に帰った。

魔法は洗えば落ちるものなのかと聞けば、今回は媒体がリシアの使っていたような薬品や霧吹きを用いたものらしく、専用の薬品や洗剤を使えば落ちるそうだ。


そして早速街にいる筈のデイジーさんを探している。上空から。


昼の景色へと変わった街は訪れた時と全く違う顔をしている。

とんがり屋根にぶつからない様にかなり上を飛んでいるが、それでも街並みは広く、美しかった。街の端はまるで城を囲むような壁があり、広い通りの先は街が途切れており石畳の続く更に向こうには門がある。朝俺たちが街から出るために向かおうとしていた場所だ。

建物の一階部分に並ぶどの店も自分はここに居ると主張するように色とりどりの看板を用いていたが、それは街の外観を損ねない穏やかで落ち着いたデザインをしている。


「リシア、なんでまだデイジーさんが街にいるって分かったの?」

「街を囲むように薬品を撒いたがそれは全て街の内側に向かっていた」


俺とメイスさんが情報をまとめていたあっという間にそんなことをしていたらしい。

思い返せば俺が乗っている時と違って彼女はとても素早く箒を飛ばしていた。

あの速さは少し憧れる。


「ねぇ、生き物の姿を変える魔法って確か」


リシアの話曰く元の姿に戻れない筈だ。


「禁忌だ。だが永久的に姿を変えさせるようなそんな高度な魔法を使えるものは早々居ない。大抵失敗する」

「そうだったんだ」

「使えるとすれば一時的であるか同意であるか、一部だけ変えるような簡易的なものだ」

「じゃあデイジーさんはもう戻ってる可能性も?」

「半々だな。地上は衛兵に任せてある。ここからは地道に探るのみだ」


地道とは言いつつもリシアはメイスさんにもらった髪と何かの植物を括り付けたものを箒の持ち手の先に垂らしていた。

その反対の穂先の根元には紫色の重厚な広いリボンが縛られている。街の上空を旋回して飛ぶための許可証だそうだ。


昨日山を昇った時のように空気を留めているらしい空間では、それは揺れることなく吊り下がっている。

俺もまたその時のようにリシアの後ろに掴まりながら箒に乗っていた。

目は多い方がいいらしい。


「衛兵が二人って言ってたけどそれって少なくないの?」

「……余程彼等が優秀でない限りは少ないな。治安を守るのはこの街の領主の勤めなのだが、それは領の豊かさや領主の手腕に依存する」

「包囲網とかが敷かれたりとかはしないのかな」

「本来はする。この街なら間違いないだろう」


吊り下がっている髪は全く反応しない。街を見れば閉まっていたシャッターや扉は開き始めている。リシアのように箒に跨って飛んでいく人もいた。皆一定の場所までいくと上昇し、そこから皆同じ位置で曲がって飛んでいく。まるで信号を曲がる車のようである。


「恐らく領のどこかで人手を割くようなことが起こっているのだろう。或いは領主自身が何処かへ向かっていて留守なのかもしれないな」

「なるほど…」


そうして虱潰しに街の上空を行ったり来たりした。遮蔽物が多いとあまり反応しないらしいそれはまるで電波だ。


それは街が完全に人で賑わう頃。

吊り下げられた髪が揺れた。


下を見れば噴水のある広場になっていて、高いところからでも人が集まっているのが見える。

リシアは宙から杖を取りだすと杖先を頭の上から足元へ時計の針のように振り下げた。


「不可視の魔法をかけた。周りから僕たちは見えない分、これからは小声でやり取りをする」

「分かった」


そうして降りたはいいのだが。


「……………これは…」

「……参ったな」


噴水の周りを囲む柵。そして内側にはたくさんの犬が居た。

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