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ひなた  作者: ひまじん
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マシンガンと女の子

 マシンガンと女の子


 眞弥は、一人になった部屋で、片付け終わったことを、自分で褒めてやった。

「しかし困ったもんだな、あの月、、、。ほんとに。」

 目は優しかったが、本気で困っている様子でもあった。

「、、、コンビニいこ。」

 地球様は、コンビニがお気に召された様子である。牛乳の歌を完成させようとした。外は、しかし夜中の2時であった。

 まったく懲りていない。


 惑星守護色期巫天のカエルを、肩に乗せて、兎瓦けいは、今、電車に乗っていた。電車の表示には、「房総半島安房鴨川駅行き」と、あった。

 けいは、珍しく眼鏡をかけ、耳には、イヤホン、片手にアイポッドである。いくらでも時間なら、潰せるぜ、という意気込みが感じられた。カエルは、過ぎ去る景色に、とめどなく突っ込んだ。

「おい、あれ!あんなん危ないだろう!子供落ちたら、どうすんだ!」

 しかし、中には、けいにとっても、はっとさせられる意見もあった。めんどうくさいので、反応はしないが。

「兎!見ろよ、あの看板!あの色じゃダメだな!」 

 けいは、うっとおしくなってきた。

「なあ、柚宇。寝るからさ、あたし。黙れ。」

「もっと、控えめに言えねえのか、お前。」

「(ぐぅう)」

「はや!」

 カエルはヒマになり、ぴょんとけいの胸の中に入った。のちに、この世で最も苦しい拷問処刑に会うことになる。しかし、同情をする者は誰もいなかった。


 坂口は病院に搬送された。

「わかった。」と言ったきり、前のめりに倒れてしまったのである。奈良が、付き添った。この二人は、付き合えばいいのだと思う。医者は、疲れがたまっていたのでしょう、と言った。

「2,3日休めば良くなりますよ。」

 その医者、頭のてっぺんから二本のピアノ線のようなものが、見え隠れしていた。

 ばたん、と閉められたドアを見て、その医者は、大声で、看護婦を呼んだ。

「もう、いったよ、レノン!」

「ふっふっふ。」

 出てきたのは、ガチャピンである。看護婦には、どう多角的視点で見ても、見るのは難しかった。それができたら、ある意味哲学に到達している。

「なんか安っぽい悪者みたいに、なってるけど、うちら、、、。」

 かやは、本気で心配そうだった。

「まあ。」

 レノンは、腕を組んだ。丸いお腹が、邪魔そうだ。

「うまくいく。」

「丸いお腹が、邪魔そうだよ?」

「うっせ。かや。」

 診察室には、この2人以外の影は、見当たらない。


 暗い病室で、奈良が心配そうに見る。

「もうすぐお母さん、来てくれるってよ。」

「そっか、ありがと。」

 奈良は、深く息を吐いて、背もたれなしのイスに座った。

「お前さ。」

 言いかけて、やめた。病人を責めても、しょうがない。奈良は、カレンダーを見た。

「夏だねえ。」

 べつに、したかった話ではなかった。


 仁美は、考え過ぎた挙句、寝てしまった。

 スティーブは、それを見て、茶を飲む為の、お湯を今、沸かした。

「ねくた。」

「がってんでい。」

「お前、オス?メス?」

「桃!わたしらの間では、葡萄が男、桃が女なのであります。」

「、、、あっそ。」

 スティーブは、歯磨きしようとしてしまい、あ、今から茶飲むんだった、とこぼした。ふう、と息を吐く。

「女って難しいな。」

「、、、スティーブ。いつか、あんたにもわかるさ。」

「シャチに言われちまったな。」

 スティーブは、悪そうな、笑顔を浮かべた。

「しっかしよ。」

 どっか、と座布団に、座るスティーブ。そ、とタオルケットを、仁美に被せた。

「いつ終わるんだ?これ まあ、悪くはねえけどさ。思ったより。すげえヒマだわ。」

「だから、ヒマ潰ししてもらうんだって。なんか言ってよ。」

「いや、何もいらねえわ。そういうことじゃない気がしてきた。わかんねえけど。」

「モノなんていらない、と?」

「モノっつうか、なんだろ。触りたいもんとか、感じたいもんて、世の中あふれてたんだなあ、と思う。今になるとな。ま、実際帰ったら、当たり前になっちまうんだろうけど。」

「合格。」

 言ったねくたの声が、背後に移動した気がした。

 殺気がした。

「?」

 瞬時に、仁美のそばで構える。なかなかに男を見せてくれる。

 太陽が光った。さっきまで、いや、生まれた時から、あったものである。だが、スティーブは感じた。今、初めて、太陽は光った。声がした。

「惑星守護色期巫天_鉄の神_」

 スティーブは、防御を解いた。

 感じたのは、殺気じゃない、と気付いた。むしろ、抱擁のようなものだった。ただ、スケールのでかすぎるモノによって、の。

 ねくたが消えていた。

 仁美が眩しさに目を覚ました。

「おっとぅ」

 親父みたいな台詞だった。寝ぼけていた。スティーブは、ただ黙った。

 暗くなった_。瞬きをすると、2人の前に、一人の女性が立っていた。 彼女が、全ての惑星巫天の総指揮官_。

「よろしく。スティーブ。仁美ちゃん。」

 名を、神岡浄介といった。


 特に、特筆すべきポイントはない、電車の中の風景で、ふと、その中に在るものから、連想させられるものが、あった。

 兎瓦けいは、言った。 

「、、、。今、初めて聞く気になったんだけど、、、。お前ら、何者なん?」

 エアコンディショナーを、見て呟いたのだった。アマガエルは、けいのスカートの中から出てきた。のちに、この世で最も苦しい拷問処刑に会うことになる。しかし、同情をする者は誰もいなかった。


 張り紙は一つ、増えていた。<殺人禁止>の隣りである。<買い過ぎ禁止>と、あった。テーブルの上には、大量のシュークリームである。

「だって、いろんな味があったし。」

 眞弥は、誰もいない部屋で、誰かに対して、許しを乞いた。

「地球様、おてんば買い過ぎ事件、と名付けよう。」

 ポジティブ思考、と呼べるものかは、怪しかった。


 病室で、坂口浄介はうなされていた。隣りには、付き添いが、いた。奈良は、もう帰っている。母親も、大事には至らない、と聞くと、リンゴジュース、それからバナナの束をおいて、病院をあとに、している。

 非常に、変わった頭をした、一人の女の子だった。浄介の顔をじっと、見ている。にじみ出る、優しさに、加えて、浄介の指を握りしめる、その行動から、看護婦は、彼女さんなんだな、と思った。

 女の名を、桂と言った。この世に住む、すべての植物、炭素を中心に組まれた背骨を持つ脊椎動物達の命を、管理及び統括する存在である。

 目は、彼女の視界は、浄介の顔を収めたまま、ぶれる様子はない。


 別に疲れていた、わけではなく、わけではないが、

「う~ん。」

 声を上げた。意味のあった発声ではない上に他者に対して、何らかの応答を求める態度、または意思表示ではなかった。なのに、けいは、出したあとで、猛烈に返事を求めてしまった。カエルは、さっきから静かなままだった。けいは、あのミニシャチに会いたくなっていた。


 東京は、便利な街だ。

 煩わしさを、相殺するほどの、魅力が、それに溢れた街だと、認識する人は多くいる。しかし、ここにこの天下の大都市に、何の魅力も感じない、者がいた。電車を待ちながら、花束おそらくカーネーションを持った、惑星巫天、木村優美である。

<石神井公園、石神井公園>

 アナウンスがかかると、優美は、耳を大袈裟にふさいだ。しかし、表情は不快そうではない。手に、持つ花を見つめるのみだ。


「月だ。」

 カエルは、一度聞いた答えを口にした。けいは、怒った。

「その意味聞いてんだってぇ!あのお月様じゃねえべよ!あんた。」

「あの月だ。」

 カエルは、冗談を言っているトーンでは、なかった。ガタン、ガタンゴトン。


 ちなつも、病室に来ていた。

 坂口は、幾分、健康を取り戻した顔で、高い声を上げた。ちなつの顔を確認するなり、「お前、そんなキャラだっけ!」と言った。

 ちなつは、義務的な顔で言った。

「なんだろ。古くからの付き合い、的な。馴れ初め的な。」

「いいから、その手に持ってんの頂戴。」

 ちなつは、はい、とスニッカーズを手渡した。

「心得てるな。おれの好物を。」

 むしゃむしゃと食べ始める、浄介はもうだいぶ、いい様だった。

 ちなつは、ぼそり、と告げた。

「誰?」

 窓際では、一生懸命リンゴの皮をむく一人の女の子である。服装は、真っ黒で異質だし、花の生殖器のようなものが、頭のてっぺんから生えている。

「うん?今、誰って聞いたんですけど?」

 ちなつは、質問を繰り返した。風に弄ばれるカーテンが、気持ち良さそうだった。今日は、快晴だった。こんな日は、水族館でも行ったら、さぞかし楽しいだろう、と思った浄介だった。

「ねえ、誰って。」

 ちなつは、もう3度同じことを呟いた。


 けいは、ぱしん、とカエルを叩いた。

「いて!」

「はっは。」

 また、パシンと叩いた。

「こらァっ!調子に乗るなよ、イシアガンっ。」

「はっは。」

 傷だらけのマシンガンを思い出して、兎瓦けいは、また泣いていた。


「彼女です。」

 と言った。坂口浄介は、真面目な顔で、否定している様子はない。

 ちなつは、そうですか、という顔をするが、何も言わない。何か、何を言っても拒否されそうな拒むような声色で言われた為である。

「、、、。」

 ちなつは、とりあえず、笑顔を向けた。窓際の、たった今、「彼女です、」と言った女の子に、である。坂口浄介は、<世界の神々>の、アリのページを思い出していた。言った。

「、、、そうだ。」

 ちなつは、答えた。

「じゃあ、、、、、、、邪魔?あたし。」

「いや、いてくれ。」

 寝返りを打って、坂口は、野球漫画を手に取った。もらした。

「くっそ、三巻からしか、ねえよ。」

 本当には、思ってない、言ってるだけの中身のない発言に聞こえた。窓際の女の子は、今、りんごを剥き直った。芸術品のように、綺麗な一品であった。


 柚宇は、窓の向こうに広がる太平洋に、声を出した。

「っかあ!海は、変わらねえなあ、けい!まあ、おれらは<大磯>って呼んでんだが。あ、ちなみに陸は、<牧野>な。」

「聞いてねえし。」

 けいは、赤くなった目で、持ってきた小説を読み始めた。

 いきなり笑い始める、柚宇。

「くっくっく。」

「気でもふれたんけ?あ、ここで女装始めんのは、勘弁して下さいね?」

 柚宇は、無視した。

「聞こえるぜえ、JETTOESどもの声がっ。こっから、74km沖に、今、4頭のイワシクジラがいるぜ。ひゃっは。」

「ほんとかよ。」

 ぱら、とめくろうとした本のページを戻して、けいはカエルに質問した。

JETTOESジェトーズって、、、マシンガンか小山ちゃんが言ってたけど、重力のことなんだべ?あと、心。」

「そうだ。」

 カエルは、偉そうに答えた。

「音がお前ら、人類で、重力が奴ら、鯨類だ。」

「もう一個の反発は?」

 カエルは偉そうなポーズを取ったまま、答えた。

「おれら、惑星守護色期巫天様だ。ちなみにおれの担当は「もう、いいや。」

「小娘ぇ。」

 けいは、満足すると、小説を読みなおし始めた。実は30分前から、1ページも進んでないのであるが。


 リンゴをむしゃむしゃと食べる浄介は、二人っきりになった病室で、居心地が悪そうだった。自分の膝に、肘で居座る女の子に対してである。

「そんな見られたら、食いづらいんすけど。」

「うふふ。」

 桂は、視線を固定したまま、なくなっていくリンゴを見ていた。

 少女は、無くなっていくものを見るのが、たまらなく好きだった。

 昨日、わずか20cmほどしか、なかったゆりの花は、窓際の花瓶で、今、2mほどに成長していた。もはや、「種類」を超えていた。


 シャチと落ち合う約束を、していた木村優美は、池袋のマルイビルに来ていた。エスカレーターで、最上階のスタバへ向かう。品の良さそうだが、きつそうな目をした20代後半に見える女性と同じ、テーブルを囲んだ。

「お待たせ致しました。反発担当、反蛇求喰様。」 

「久しぶり。 優美ちゃん。」

 マシンガンの見かけは消え去り、その人物は、飲み物を優美に差し出した。オレンジジュースだった。 「飲んじゃいなよ。」


「な~んだがな~。」

 けいは、間の抜けた声を、出した。いろいろ、思い出していた。

「柚宇。」

 カエルは返事をする。

「なんだ?」

 質問が、押し寄せて来る。

「う~ん、あんさ。」

「なんだ?」

 唸ったまま動かなくなる、けい。はっと顔を上げ、言った。

「、、、。笑うなよ?幽霊っているん?あ、やっぱいいや。忘れて、花男。」

 カエルは応えた。

「今、そこの最後、花男入れる必要あったカ?」

 間を置いて、カエルは男になった。

「わ!!!もうぅ!!!相変わらず、殺す気かよ!あたしお前らと居ると、まじでびっくりしすぎて、白髪になりそうだっぺよっっ。」

 真顔の柚宇は、高そうな浴衣をわし、と掴み胸元を開け、中から何かを取りだした。

「?なんなん?」

 突然、隣りの席を陣取る、青年に疑いの目を向ける、けい。

「質問なら、流してくれて構わねえよ?」

「いや、幽霊だろ?いるぜ?丁度借りてきてたんだよな、これ。」

 出したものは、貝である。

「?」

 貝を覗きこもうと、すり、ともたれかかる恰好になったけいの、胸を触る柚宇。当然の如く、破裂音がそのあとを追った。柚宇の頬は、腫れあがった。 

「なにすんだべ!女装趣味!」

「肩当たっただけだろ、自意識過剰。あ、これな、おれのほほ。いわば、こりゃホオアカだな、くっく。赤いから。」

「?は?馬鹿なん?何言ってんの?」

 窓際へ、避難したけいは、柚宇に思いつく限りの罵声を放とうとした。が、その時_。柚宇は一言、付け加えた。

「これがホオジロだ。」

 ホオジロザメが、けいの隣りにいた。

「っギャアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、、、、!!!!!」

 辺りが騒然となる。

 そこまで混んでなかったのが、不幸中の幸いである。立ち上がって、けいの席を覗く人が、後ろの方で、後を絶えない。なんだ、何が起こった。

「うるっせえよお前!襲うぞ。」

「っきゃあああぎゃあああああサメが、窓に窓がああああああ」

 発狂していた。むしろ、お前が怖いわ、柚宇は舌打ちをした。

 今、体長6mはあろうかというホオジロザメが、肘を窓にかけるような恰好で、この電車に、もたれかかったままの状態で、けいの30cm先にその凶暴な歯を、光らせていたのだ。感情のうかがえない真っ黒い、機能だけを備えたような、瞳。大きな口。美しい流線。深海の恐ろしさそのものを体現したような、古代からの捕食の化身、ホオジロザメがそこに「居た」のである。

「よう、けい。そいつ。そのサメ。それ<居る>わけじゃねえぞ。今そこにな。」

「ぎゃああ「聞け馬鹿!!!!」

 ハンカチをけいの口に、当て耳の後ろで縛り、柚宇は、けいを背中から抱え込む形になった。無理矢理でこを掴み、サメに焦点を合わせさせる。

「くそ馬鹿野郎!騒ぎにすんじゃねえ。」

 ばたばた、と手足を動かす、兎瓦けい。今回は本格的に、失神寸前まで意識を遠のかせてしまった。

 サメは「元気か? 惑星巫天。」と、言った。

 けいは、もれる、と思った。


 反蛇求喰と木村優美は、そろってレストランにいた。食事をしていた。食事をするような悠長な雰囲気じゃなかったのは、気のせいだったろうか。

 優美は、言った。

「はい。はい。」

 なんと、相手の反蛇は、一言もしゃべっていないのに、こくこくと彼女の前で、頷いている。それを見て、笑っている反蛇。よく見ると、反蛇の唇は動いていた。とても、ヒトの聴き取れるレベルではない音量で、この女は、優美に語りかけていた、というのは推測の域を出ないであろうか。


「あーーーーほんとにびっくりしたな、もうっ。」

 けいは、さっきまで恐れていたホオジロザメの電車の窓に入り込んだ、ヒレの先端をつまみながら、眉間にしわを寄せていた。

 柚宇は、貝をじろじろ見ながら、独り言を言っている。

「、、、もう一匹いんだけどな。おーい、、、。トラジっ。」

 ぼん、とクラシックな煙を吹きだし、その中から現れたのは、今度はアザラシである。

「わあ!」

 即座に、ホオジロの目にガンをつける、けい。

「サメ!食っちゃだめだぞっ。」

 サメは答えた。甲高い声である。マシンガンが嫌いそうな、音色である。

「おみゃーよ」

 サメは、けいの肩を叩いた。

「おりゃ、アザラシは食わねえんだよ!死んでるし。」

 ちょこん。それはそれは。

「うっきゃあ。」

 けいは、目を輝かせた。サメの話を半ば、無視し、アザラシに向かって、お姫様のような声を上げた。お姫様のような声とは、何の事だか、わからないが_。

「かっわいいいいいいいっ!こういうのだっぺよ、柚宇!やっぱ動物がしゃべるっつったらこういう素直にかわいいものが出てくるのが、普通だっぺよ!あんな、<やってきたのだよ、けい>(マシンガンの声真似)みたいなんじゃなくてよお!!」

 体長すんでのところで、2mに及ばないくらいの、けいより大きなアザラシは、ちょこんとけいの目の前の席に人間の恰好よろしく、座っていた。額には、虎のようなしま模様が走っている。十字傷のようだ。 

「、、、。」

 見つめる、けい。

 柚宇は、何かに満足して、けいの表情を観察し、説明させてもらうのを、待っている。

 アザラシは、特に何もしゃべらなかった。特徴は、かわいい、以外見当たりそうにない。表皮は黄色に近い白であった。

「かわいいいな、おめえ。ちゅっしていいか。ちゅ。」

 アザラシのでこにキスをする、けい。サメと同じく、触れてしまう。

「なあ、柚宇。幽霊ちゅうんか、これ。幽霊って見えるけど、触れないもんじゃねんけ?」

 柚宇は、あきれて答えた。

「てめえらの定義なんて知るかよ。こっちの常識で、お前らが幽霊だと思ってるものを、それに近いものを呼んだだけだ。いろんなもの、混同してるだろうが、お前ら。さて。」

 待ってましたとばかりの、柚宇。

「説明料は、高くつくぜ?けいちゃん。」

 けいちゃんと呼ばれて、なんか恥ずかしくなったのは初めてだった。


 けい達の目的地では、ある異変が起こっていた。

 けい達の目的地とは、房総半島南にある水族館である。

 なんと_。

 騒がしい係員の声がする。

「あれだけ水の管理は、注意しとけっつったろうが、お前、、、!クビだ!」

 どうしたのだろう。誰かが、猛烈に叱られ、その前の水槽ではある動物が、水面で死んでいる。絶命しているとしか思えない。動いて、いなかった。

「バンドウイルカは、お前なあ!老若男女、水族館のシンボルなんだよ、おい!聞いてんのかよ!!それだけじゃねえぞっ!?ここまで芸を覚えさせるのに、一体どれだけの、、、!もう、いいよ!お前、もうくんな。」

「一言だけいいっすか。」

「なんだよ!?」

「おれ一週間来てなかったんすけど、休みとってて。」

「、、、!?そ」

 怒りは止んだ。水槽の水面では、3頭のバンドウイルカ、1頭のオキゴンドウが絶命している。原因は定かではない。


 柚宇は、得意気だ。

「いいか。小山の話思い出せよ。世界の、定理は、

反発×重力×音=時間

だ。だがな、この式とは、別に便利な公式が存在するんだよ。要するにこの三つそれぞれが、どうやって作られるかだ。はい、公式一個目!」

 ばん、とけいの眠そうなふとももを叩いた。

「っちゃあ。」

 意味の解らない声を上げるけい。

「小山が説明したろ?まず、心つまり姿の作り方だっ。これは。

魂×体=心

だ、そうだったな?けい。これはそのまま

反発×音=重力

だ。この場合×は、音を必要とするということだ。リズム。小山が言ったな?リズムとは、三つあるタイプの音の中で、重力を司るものだ。意味はわからくて、いい。リズム=重力と思ってくれていいんだ。さて、いよいよだ。いわば、これは生物の作り方だな。いや、違う生物の姿の作り方だな。次、、!生物の意識の作り方、小山が言った魂だ、、、!おい、寝るな、兎瓦!お前のかわいい、と言ったアザラシの正体に近付いているぞ!」

 ぱんぱん、と頬を叩く柚宇。

「起きてっから、つううかおめえ、さっきからあたしんこと触り過ぎだっぺ!セクハラ女装花男!」

「説明を続けるぞ。ちなみに、今のは微妙に傷ついたぞ?「知るか。」_んとだな、そうそう。魂だ。反発だ。反発の作り方はこうだ。

重力×音=反発

こうだ。いいか?お前らの意識、思考はこうやって作られてるんだ。いくぞ?思い出せよ?小山が言ってくれたな。重力を司る物質は、うん?やっぱ言ってねえかもしれねえな。重力を司る物質は、水、水素、カルシウムだ。これのどれかを使って、音を司る以下3つ<塩素、鉄、マグネシウム>のうち一つと結合させるっと。この時、使われる音、それがメロディだ。反発=メロディだ。覚えとけ?戻るぞ?リズム=重力だ。そうだったな?」

「はい!」

「よし、最後だ、兎。最後の音は、ゲインだ。音量それから伴う音圧だ。式だ。

反発×反発=音

音は体だ。最後は、体の作り方ってわけだ。ここで使われるのが、ゲインってわけだ。反発=酸素、炭素、プロテインこのうち、どれかを二つ組み合わせることで、体<音>が生まれるんだ。まだ、終わらねえぞ?聞けよ?幽霊の正体だぞ?」

「はいはい!ひぃ」

「反発だ。意識を司る物質だけの、存在なんだ。心も体もねえ。魂だけって言ったら、すんなりくるだろ?」

「でも、じゃあなんで触れるん?」

「あ!?酸素も炭素もプロテインも触れるだろうが!」

「あ、間違えた。なんで、見れるん?心が姿なんだべ?」

「この中で、お前しか見えてないだろうが、兎瓦けい。」

「え?」 

「周りの客は、ホオジロザメを見て、元の睡眠や読書にもどれる、と思うか?そんなわけねえだろ。兎瓦けい。」

「は、はい!」

「いい返事だ。いいか。お前は、すでに惑星守護色期巫天になりつつある。」

「!?いや。」

「いやって言うな。それが、これから会いにいくシャチの、お前への恩返しだったんだよ。はい、570円。」

「、、、!ええ!」

 がたんごとん。

 電車は、家族連れや、サラリーマン、多くの人間を連れて山と海の間を駆け抜ける。ごく普通の、日常が流れていたはずである。乗客の一人、兎瓦けいの頭の中以外では。


 目的地に着いた。

 柚宇とけいは、「絶対カップル的な空気は出させねえからな」というけいの、要求の元、ある程度離れて行動することになった。

「いやおかしいだろ!てめえに興味ねえよ!おれはロリコンじゃねえっ。」

「あらま、あれだけ大胆にヒトの至る所を、触ってといて、男っつうのは、汚ねえ上にちっちぇえなあ~っ。」

「お前!大声で言うんじゃねえ!しかも、おれが好きコノんでお前に触るか、ばか。」

「う、ひどい!遊びだったのね!」

「そうだよ、メガネ!」

「うっせえし!今回、初メガネだっつうのにっ。」「だからどうしたよ、おい、着いたぞ。意味が解らない間にな。」

 けいは、ため息をついた。

「わあ、懐かしいって、、、。おい、柚宇。あれ。」

「うん?」

 なんということだろう。

<本日閉館>

「なにいい!ちゃんとネットで調べて今日は、ちゃんとオープンだって、あれ!」

「、、、。」

 けいは、道路わきで、まさに無能の部下を見るような、目で柚宇を見た。抗う柚宇。 


 反蛇あさりは、今、浜辺にいた。坂口と桂が、いっしょに時間を過ごした、あの大洗の海岸である。そばに、木村優美は居なかった。反蛇は、声を上げた。 

「出てきなさい。さとざくら。」

 一瞬あとに、静かな波間から、ワカメが現れた。しばらく波に弄ばれた後、しぱん、と黒い影に取って代わった。オスのシャチの頭部である。白い卵型の、アイパッチ(目の後ろの模様)は、かなり乱雑を極めた形状だ。おそらく、どの海域のシャチにも当てはまらない、異常な遺伝子を抱えている。口を太陽を、丸のみにするような、方向で、あんぐり開けた。

「、、、。」

 小さい音量で、反蛇は何かをしゃべりはじめた。

「GOD,, taste this scar allWHAT SUPPOSED TO break my whole meaning of living down...Just to stare, just to watch , just to observe how the world be collapsed and to put some sort of end to it... Come eat me alive, Orcinus orca, my CHILDREN....」

 最後に反蛇は、<子供たち>と、そこだけは日本語で言い放った。眞弥の声に比べると、本当に静かな声量だった。

 動かないシャチ。口に歯は一本も並んでおらず、マシンガンを傷つけたその術は、未だベールに包まれていた。


「腑に落ちねえな。なんで今日、休みなんだ。」

 空き缶を蹴り上げた、浴衣姿の青年は、ちらちらとけいの表情を観察する。ここは、水族館から、少し歩いた、カフェである。聞いたこともない、やたら安い飲料が並ぶ、手頃な場所であった。

「あーあ。何しに来たんだべ。サメに、小便ちびるくらい驚かされるわ、女装趣味に体触られるわ、、、。」

「うるっせえぞ。しつけえ、イシアガン。」

「なんだよ、カンスマーズ。」

「はは!慣れてきたじゃねえか、こっち側に!けい。」

「うっせえ、触んな。花男。」

 コンと、プラスチックのカップを、5m先のゴミ箱に入れた、セクハラ女装花男は、立ち上がった。 

「やっぱ、おかしいな。おれちょっと見て来るわ。」

「どうぞ。いってらっしゃい。あたしはもう、帰るから。」

「帰んねえよ!お前も来るんだよ。」

「入れねえじゃねえかよ。」

「、、、。」

 考える、柚宇。

「それもそうか。」


「、、、。」

 木村優美は、一人で絵を描いていた。場所は、眞弥の部屋である。ごじょごじょと、洗い物をする眞弥。なんで、いつも彼女は、食器を洗っているのだろうか。

 木村優美は、手に持ったスケッチブックを掲げた。絵の中には、神岡眞弥とワカメをぶら下げたおかしなシャチが戯れていた。とても、仲が良さそうである。木村はとなりに、タイトルを添えた。

<魔王と地球様>


「、、、なあ、、、なあって、花男。」 

 暗くて何も見えない。

「なあって。」

 心配の極みのような、弱音を上げるのは、認識しづらいが、けいの声である。柚宇が、やっとのことで反応する。

「あ?」

「なんでもない。」

「言われた通りにしろよ?」

「あい、、、。」

「お前ならできる。」

「あい、、、。」

「お前、なら、できる。」

「あい、、、。」

 2人のいる場所はというと、もう水族館の中である。係員の注意をかいくぐり、館内に侵入したのだ。ここは、特に暗い部分が、濃い、深海魚コーナーである。

「もう一度言うぞ、けい。侵入はできたが、この調子じゃいつかはバレる。あのシャチに辿り着く前に、な。」

「あい、、、。」

「そこでだ。お前が!言うんだよ!すいません、どうしても!どうしても今日、あのシャチ見たいんです、と!あたし、明日病気で死ぬんですと。だいじょうぶだ。お前の、白い肌なら、いける!その外で遊んでない感なら、きっと。」

「うっせえし!ハナオ!!!!!ってか、そんなん無理に決まってっぺ!嗚呼!と、言いつつこんなとこまで、来ちまったし、あたしも!」

「もう引き返せねえぞ。」

 だが、水族館は、こんな馬鹿っぽい侵入者達に構うヒマはないほど、混乱の渦の中にいた。

 破損だった。あらゆる展示用水槽の、ガラスが、割れて、ヒト型ほどの穴を開けていたのである。そのどれもが、屋外_。ベンチに座って、その水槽を眺めた時に、べこべこのガラス窓の塀が、横連なっている形なのだ。幸い、水かさより上の部分のため、亀裂は、もとい大きな破損_特大のもの_は、外に水を逃がし漏らす大惨事には、至っていない。しかし、こんな状態では、しばらくは、開館は無理、と言わざるを得ない。そんなことも知らない、柚宇とけいは、今走って、深海魚ドームを出た。

 曇り空になってきた、空を見つめたあと、そうした時間も惜しむように、ヒトがいないことをいいことに、談笑をしだした。

「、、、いねえじゃねえか。誰も。これ、見つからねえんちゃう?」

「それなら好都合だな。イシアガン。」

「、、、。」

「おい、Kansmarssって言えよ。」

「言わねえし!ほら、また距離があたしに近い!どっか行け離れろ!」

「てめえをメスとも思っちゃいねえんだよ!おれだって好きなヒトくらい、いる!!!!!!!!」

「ほう。」

 しまった、と柚宇は思った。けいの顔の口角が、遊園地の遊覧船のように、持ちあがる。

「、、、(ふふふ)。」

「何の笑いだよ!!」

「、、、。」

 べつに、という顔をして、けいは、柚宇を無視した。笑ったままである。


 坂口浄介は、一人家路についていた。さっきから、一つのことで、頭がいっぱいだ。玄関から、中に上がる。ただいま、と母親に告げ、二階に上がる。自分の部屋に入る。カーテンを閉める。ステレオをONにし、ラジオを聴く。音量を好みに合わせる。取っておいた、スニッカーズを引き出しから、出す。小声で、そうだ、と言い、<世界の神々>を持つ。ゴミ箱に入れる。清々とした顔で、ラジオのチャンネルを変える。福山雅治の声を認識すると、そこにチューニングを合わせる。雑誌を手に取る。ぺらぺらめくり、アクセサリーのところで、赤ペンによってチェックを入れる。電車の時刻表を見る。

「10時39分、10時39分。」

 電話を手に取る。ディスプレイに奈良っちょ、と出る。

「あ、もしもし!奈良?ありがとう、今日退院したから、うん、、、うんあはははっはそうそう!若い医者だったよな、けっこう可愛かったし、うん、、、うん、まじで!おれじゃあ、今度行ってみるわ!ああ、たぶん、たこ焼き好きだと思う。ああ、奈良!?」

 間_。

「おれ、彼女できたから!うん、はははは、おう、じゃあ今度けいちゃんと4人で、うん!あ!?ああ、もうおれピンピン、この通りって見えねえか?ははは、あん?ああーラジオラジオ。うん、今家。うん。」

 目の下のクマは、消えていた。


「なんだべか、これ、、、。」

「なんだろな。」

 バキバキであった。バキバキである。

「バキバキだな。」

 ドルフィンスタジアムにて、2人は、恐ろしいものを目撃していた。水槽の破損、崩壊である。けいは、柚宇を見た。

「なあ。いくらなんでもおかしいべ。これも、そうだけど。誰も本当に誰も飼育員も、売店もいないっつうのは、、、。」

 そのとき。

 キィ - ー - - -ン。

 甲高い声が近付いてくるのが解る。方向は、どうやら、「見て、花男!!」

「?」

 目の前の、イルカの水槽の中からである。と、発信源をその正体を割ろうと、体をのけ反ろうとした、その時。

 一頭のイルカが浮んだ。フレンドリーな、画だった。けいは、息を吐いた。

「イルカけ。」

 0.5秒後、けいの腰を掴んだ、浴衣の青年は、5mは横に飛び退いた。と、同時に例のキョンシー人魚になっていた。背丈は、けいほどである。けいは、驚いた。

 _。べつに、イルカが浮いてきただけだべ? 「、、、。」

 現在、女の姿の柚宇は、やはり女の声で呟いた。けいは、目を丸くしている。

 _。

 徐々に、

 _。

 徐々に。

 _。

 さっき立っていた場所が、無くなり始める。無くなり始める、この形容は、つまり階段だった場所が、平坦になるという意味である。コンクリートが、空気に還って行っていた。

 声がする。

「惑星巫天<水素>に間違いはないか?」

 イルカが発した声かは、わからなかった。

 けいは、ついさっき聴き取れなかった柚宇の言葉を聞き返す。柚宇は答えた。

「狙いはお前だ、兎瓦。」

「へ!?なんであたし??」

 声が重圧を増した。 

「惑星巫天<水素>三人の月の神の内の一人、アサリユウに間違いはないか?」

「、、、。そうだっつったら?」

 キョンシーは、帽子を深く折った。中に入っていたのは、3枚のお札である。

「質問に答えろ。お前は、惑星巫天<水素>三人の月の神の内の一人、阿修羅アサリユミトでも、あるか?」

 でも、あるとはどういうことか、とけいは思った。柚宇は、答えた。満足の様子だった。自分に対して、正しい定義を待っていたらしい。

「そうだ。イルカ。久しぶりだな。」

 今、音とともに、完全に水槽が崩壊した。

 その海豚<イルカ>、意識に備えし、知性の限界を習得した、無慈悲の悪魔、名を求喰柚宇と同じ音、Yuと、いう。

 キョンシーは、けいをおぶり、尾びれを中空で回転させ、叫んだ。

「ジェットコースターは好きか!!!!イシアガン!!!」

 けいは、答えた。

「はい、す、す!」

 言えず終まいだった。

 今、黒煙のようなものが、イルカの背びれから、立っている。

 この世の終わりのように、愛らしい口からは、飼育員の頭皮らしきものが、赤黒い血とともに、見えていた。

 キョンシーは、けいの目を手でふさいだ。


 反蛇求喰は、呟いた。

「いいこ。」

 喋り口調で、独り言を繰り返す。

「地球様。さとざくらは元の時代<アシュラゴロシ>に帰られました。ええ。相変わらず、ちゃんと言えば、わかってくれたわ。ええ。ふふ。ええ。そう、抹茶味のシュークリームが一番。ええ。」

 反蛇求喰は、遠い地にいる誰かと交信しているようだった。


 水族館では、異変が起こっていた。今、異変の正体をお知らせする。 完全に崩壊した水槽の中、イルカは浮いたままである。次第に減っていく水かさ。このイルカは自分が死ぬのを待っているようにも見える。

 柚宇は、空がやたら暗くなってきたのに気付いた。

「来たか。ち。やっぱちびるほど、怖えな。こいつら、相手にすんの、、、。」

 もう一言加えた。

「この時代じゃあ。」

「あ!?」

 おぶられたけいは、上空の雲を指差した。信じられなかった。信じられなかったが、信じるしか、なかった。

 ぺ、とイルカは、かわいらしい瞳で、口にあったものを吐いた。約一名の頭皮、別の人間の足親指、もう一つは、心臓に見えた。

 ばさ さ。

 けいは、吐き気がした。イルカの口の中身ではなく、上空の正体についてである。

 おそらく、万。

 何万羽もの、鳥類が巨大な雲のように、ドルフィンスタジアム真上を陣取っている。

 ばさ、さ。

 けいは呟いた。

「だめだ、すごく、うぷ、きもち、、、。」

 げ え。

 キョンシーの背中で、けいは嘔吐してしまった。もろに被ったのに、キョンシー柚宇は、気にも留めず、上空ではなく、イルカを見ている。

「きゅう う うん」

 かわいらしい声を上げたイルカは、水の中に入った。

 その時である。

 合計何トンも、あろうかという鳥の群れが、キョンシーとけいに、落ちるように向かってきたのである。

「ひゃっはあ!」

 跳ねるように、けいをおぶった柚宇は、器用に、スタジアムの階段を駆け下りた。

 鳥の正体が明らかになった。すべて同じ種類であった。わずか、数十センチの、コミミズクと言われる種類である。

 けいは、泣きじゃくっている。赤ん坊のように、なす術がないといった感じだ。対する柚宇は、アドレナリンが止まらない様子である。


 かやはレノンに聞いた。

「ねえ、レノン、さとざくらが来てるってことは、さ。」

「おう。」

 少年は今、自分の着ぐるみを縫い直していた。相当、痛んでいたのだろうか。

「イルカたちも追ってくるかな?」

 レノンは答えた。

「ああ、、、ああ。」

「ねえ、ちょっと聞いてる?」

 レノンは、興味なさ気だった。少年にとって恐れるに足る、対象ではなかったらしい。


 柚宇は、最高に張り切っていた。

「いやあ!男としては、ハンデっつうのは!これほど、燃えるものはねえぜっ!」

 だが、自身は今、女のルックスだった。

 一声も発しない、不気味な塊はハンマーを振り下ろすように、逃げまどう柚宇とおぶられたけいを2秒後ずつ、圧死させるためのように、空から押し寄せた。

 ぐぁん。

 ぐぁん。

 振り返ると、一回に、何十羽ものミミズクが、骨をばきばきに折り、コンクリートへの衝撃で一回ずつ死んでいっている。狂っている。

 柚宇は叫んだ。

「こら、イルカぁ!!!!!!こいつらは、関係ねえだろうが、てめえ向かってこいよォ!」

 イルカは、ゆっくりと、大音量で答えた。

「くっは。人間と同じことをしてるマデダ。」

 けいは、む、とした。

 深海魚ドームの前に来ると、柚宇は、札を一枚手から放し、言葉を発した。

「がすとぅ!!!!」

 この前、けいに言わせた言葉である。その直前に、柚宇は時代跨ぎだと、説明した。覆いかぶさる、黒い影を拒む、巨大な、葉っぱが2枚出現した。二枚は、大群を飲み込み、なんと喰ったように、手品のように、何万というコミミズクは、葉っぱの中に消えてしまった。

「まだだ。」

 柚宇は、空を見た。ドームの入り口のガラスに反射した映像を、けいも、また見た。もう一つの群れが近付いている。柚宇は、呟いた。

「ニシアメリカフクロウ、、、。ち、一体、いつから呼びよせてやがった。」

 柚宇ご名答の、そのフクロウの大群はやはり、何万という数をたたえている。

 間もなく、ドームに到着する。

「あーあ、あーあ。」

 柚宇は、ため息なのか、楽しんでいるのか、わからない声を連続で上げた。

「けい!」

「にゃん?」

「おい、甘えんじゃねえ、殺すぞ!人間。」

「うえんっ!いや、普通にふつうの女子高生なんすけど、わたし!」

「違うな、お前には力がある。ちょっと、おれだけじゃ、やっぱきついわ、この時代<チキュウガエシ>じゃ、惑星巫天はなあ。」

 ドーム内で、イスを壊す程に、蹴り倒し、室内に入って来た、数百羽のフクロウに破片を浴びせる。 

「力、出せねえんだよぅ!」

 札をもう一枚取りだした。がぱ、と開ける一つの葉。

「く、間に合わ」

 どん、とけいを投げ捨てた。

 ぐあん。

 みし。

 けいが倒れ込みながら、言った。

「あ!」

 キョンシーは、尾びれをあらぬ方向に曲げ、血まみれで横たわっていた。

「取り乱すなよ!?おれらは、死なねえ、ごっふ」

 吐血を前にして、取り乱すな、というのに、無理がある。

 けいは、泣き始めた。

「ああ、、、!あ、!」

 大群が近付いている。柚宇は、起き上がろうとするが、

「ち、なんだこのもろい念悦はっ!」

 自身の心<姿>の非力さを嘆いているようだった。辺りには、無残に転がる、フクロウの死体。何十匹。そして、新たに入ってくる、何百匹。柚宇は、弱音を吐いた。

「、、、けい、逃げろ!おれは死なねえが、お前は。」

「ひい、ひい。」

 失禁した上に、近付いてくる群れには焦点を合わせず、転がったフクロウに対して、嗚咽とも慟哭とも、取れぬ呻き声を上げる、けい。

「ぐ、ひい。ひい。」

 目がいってしまっている。キョンシーは叫んだ。

「けい!!!!!」

 けいは、振り返った。

「兎瓦けい!!マウヅの言った言葉を思い出せ!!奴はお前に力を託したはずだ。」

「ひい。」

 フクロウの死体を見ることをやめないけいの頭上で、狙いを定めた、フクロウの塊ハンマーが、ふりかぶった。あれをもらったら、脳髄が飛び出る。生身の人間である。

「あひ ひい。」

 そのとき、声がした。

 ピンチのときは

 けいは我に返った。

「S-2(えすにい)」

 黒い塊は、兎瓦けいまで、あと2m。速さ、およそ時速200km。

Suntwiceサントヮイス

 がァん。

 外からドームを見ていた、Yuは、次の準備に取りかかろうとしていた。

 というか、逃げた。フクロウたちに、自分の体を掴ませ、恐ろしい程潔く、太平洋に向かって、帰還したのである。


 木村優美は、眞弥に呟いた。

「ちょっと座って。」

 眞弥は、冷蔵庫から、体を元の体勢に返すと、不思議そうな顔をして、優美に近付いた。

 優美は笑っている。本当に、惚れ惚れするほどかわいい顔だな、と眞弥は思った。優美は、顔を変えずに、張り紙を指差した。

<殺人禁止>である。

 ぱん

 眞弥は、自分の頬を、そこに手を置いた。優美は、眞弥を殴った手を収めると、立った。

「反省してるなら、これから作るわたしの手料理食べていいから」

 と言った。それに対して、眞弥は意外にも泣かなかった。

「もう、しません。」

 と言った。


 ばらばらに横たわる、フクロウの何百羽もの死体に埋もれた、ドーム内。全員、死んでいる。引き裂かれ、喰い破られ、吐き捨てられた、まるで、獰猛なプレデターに大量に食い散らかされたようであった。

 サメが三匹宙に浮いていた。

 けいは、何も言わず、キョンシーの手を優しく握っている。脈を測った。確かに、脈は打っていた。ぽこん、と殴る柚宇。

「死なねえつってんだろが、けい!くそバカ!」

「あ、そっか、あはは、は。」

 疲れ切った、顔でサメを見る、けい。

「あれ、あたしが呼んだんけ?」

「そうだ。」

「まじで?このフクロウ全員それじゃあ、あたしがやっつけたんだな?はっは。」

「そうだ。よくやった。」

「なんか、騙されてる気がして、なんねえよ。」

「なんにしても、お前に死なれたら、おれがマウヅに喰い殺されるぜ、よかった、よかった。」

「マシンガンは、あたし死んでも気にしない、と思う。」

 ドームを出た、けいは、ばた、と倒れた。まったく散々な一日であった。

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