カエルとマシンガンと女の子
カエルは、けいの肩に飛び乗った。
「っきゃああああああ!」
きれいに、今までで初めて、女の子が上げそうな悲鳴を、上げた。カエルは言った。
「おれだ。花男だ。変なキョンシー人魚だ。兎!」
「へ?」
自分の部屋の、窓にガシリともたれかかり、眼鏡をかけたけいは、声を漏らした。
「まじ!?、、、。柚宇け?」
「おれの名前、覚えてたのか、お前。今、しぬほど感動してるぜ、兄さん。」
しゃべる動物に、抵抗充分の兎瓦けいは、むくり、と立ち上がる。目の前の、いや、足元の、超ミニの、と言ってもアマガエルとしては普通だが、その両生類にいきり立った。
「恩返しけ!?」
「残念だが違う。」
第12話<カエルとマシンガンと女の子>
「、、、なんだ、違うんけ。」
「悪かったな。」
坂口浄介は困っていた。罪悪感に死にそうなのである。やっぱり、絶対違ったのではないか、あれは兎瓦けいでは、なか「わあああああああああああああああああ!」
「わかったって、ちょっとお前さ。真面目に言うわ。病院に行け。医者に行って下さい。」
奈良は、屋上で、坂口にあわれみの眼を向けた。頭を抱え込む坂口。言った。
「おれは本当にどうしようもない人間だ。けいちゃんは傷つけるし、野球部入れねえし。」
「そんぐらいで、おめえなあ。まあ、宗教入るっつんだったら、止めるけど、、、。」
「宗教じゃねえって言ってっぺよ!あのけいちゃんの恰好した奴は」
びゅ。
風が吹いた。
なぜか、奈良は、瞬時にあの不可思議な、キリン事件を思い出していた。あの事件の後、校舎裏の、ゴミ置き場で、大量のアフリカ産肥料がばらまかれていた、と言う。メーカー元は不明。本当に、植物に使えるかどうかも、不明。ただ、安かったから、と担当者は口を漏らしている。すぐに、生徒達にも噂になった。
兎瓦ん家は、シャチとキリンを飼っている。など、意味の解らない憶測は絶えなかった。
「いや、飼ってねえし、キリンなんて!あれは!、、、、、、あれは、、、。」
けいは、顔を真っ赤にさせて、否定していた。恥ずかしがっていた、というより、どの内容を言うべきか、言わざるべきか、悩んでいたのである。
クラスメイトが、じっとけいを見つめる。
「あの、、、シャチみたいの、あれから元気?」
「え?」
ははははっは、と誰かが、隣りの席で笑いだした。
「あああ!あれな、おれら全員で、兎瓦、幸せにしなきゃいけねえんだべ!?」
「や、そんなお姫様みたいな扱い受ける柄じゃ、ねえべ、これ。」
「うっっっせえし!まじうっせえし。」
今度は、本当に恥ずかしくて、赤くなっていた。
久しぶりの登校で、みんなから質問の集中砲火を受けていたのである。大ダメージだった。
<さとし~~~>
心の中で、彼氏に助けを求めた。
「でも」
誰かが加えた。
「あの、ぬいぐるみみたいなシャチ。なんか演説みたいのしてるときは、かっこよかったっぺよ。」
その意見を、周りは否定している様子では、なかった。けいは、恥ずかしいままだった。
「ぎゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは。」
桂は、笑い転げていた。転がる、チュッパチャプス。わさび味の、いろいろな種類のスナック菓子。かかりっぱなしのテレビ。窓際にぶら下がる、下着。意味不明の新聞の束。どこからくすねたのか、一番古いものは、なんと昭和2年というものまである。
眞弥の部屋で、女子三人が、談笑の時間を満喫していたのであった。眞弥はそんなに喋っていない様子だ。だが、口を開けた。
「ふ。」
つられて笑っているだけだった。
とりあえず、桂が新聞をサカナに笑い転げている。
木村優美は、テレビを見ている。真剣そのものだった。バラエティ番組なのに。定期的に、桂に相槌を打つ。
「ぎゃっはっはhっは、これこれここここここ!見て、ツチノコ発見!!ぎゃっは。」
「ふ。」
眞弥は、目はちっとも笑っていない。
優美は、一言言った。
「な~にが、そんなにおもしろい?桂。」
「めっちゃおもしろいじゃん!なんか、、、!いろいろおもしろいよ。いやあ、人間って素敵だねえ。ぐぅわっは!」
眞弥は、呟いた。
「居た? 神岡浄介様の、念悦持った男の子、、、?」
静かに言った。
恐ろしいほど桂には、聞きとれていた。桂は、返した。
「ああ、いたいた。ぎゃっはっはっはっはっはhこれ見てよほらァ!見ろよ、地球様ぁ!これほら、、、。、、、、。、、、、。ぎゃっっはっはげ、、、!ごほ、ごほ、ごほ。」
「ばか。」
優美は、笑いながら、桂の背中をさすった。
「好きになっちゃった。」
「え?」
眞弥は一瞬、どっちが言ったのかわからなかった。どちらにしても、普段の声とはかけ離れた、か細い音量だった。
テレビは、今、笑いの優勝者を決定した所である。
桂は、また笑い始めた。
「ちょっとこれ、見てよ。」
「なーーなんだんべかよ、これぃ。」
けいは、驚いた。
普通に驚いた。素直に、現実を否定しようと、壊れたドアを無理矢理開けようとするような、気分であった。さっきまで、話していたクラスメイト全員、死んだように、睡眠に入ってしまったのである。たった一人、けいだけを除いて。
「でも、わたっしゃ♪ こんなことじゃもう♪おどろかねえんだっつの、コラ花男!!!!」
リズムにツイストを絡ませ、けいは教壇を指差した。カエルがいた。カエルは、口を聞いた。
「わり。待てなかったわ、兎。今から、ちょっとまず、屋上行くぞ。お前に焼きたい節介がある。」
「あ?」
ばったばったと倒れた人間が、視界の至る所に連なる教室で、けいは、カエルと対峙していた。
休み時間が終わるベルが鳴り始めた。
教室に入る佐々木教師。驚きの声を上げる。
「集団催眠にあったのか!お前ら!?」
佐々木は、天然だった。
「なんで屋上?」
けいは歩きながら、肩の上のカエルに突っ込んだ。
「ふっふっふ。お前に男心ってものを、解らせてやるよ。」
「じゃなくて、誰が待ってんだい??」
「ふっふっふ。」
「っとに、うぜえ女装趣味だなよ。」
ぽこん、カエルの拳など、痛くも痒くもなかった。
屋上に出ると、よく知る顔が二つ並んでいる。確認するなり、逃げ始める坂口。奈良が叫ぶ。
「坂口!」
止まる、坂口。
「、、、坂口。」
奈良は、相手の名前しか呼ぼうとしない。がっしと、坂口は網に手を絡ませ、うなだれている。そこに手を置く、友人、奈良さとし。けいは、言った。
「何のドラマ?」
カエルがけいの肩から、離れ、今来た階段から、校舎の中へと戻って行ってしまった。しつつ、柚宇は、けいに<どこ行くの?カエルさん>を期待したが、けいは振り向きすらしなかった。柚宇は、ムカついた。
「ごめん!」
坂口は、けいの目がコブラの毒でもあるかのように、見ようとはしない。
けいは、だんだん悪いのを通り越して、ムカついてきた。
「もういいって。坂口くん。誰かとあたし勘違いしたんだべ?その子のが可愛かった?あはは。でも、よかったべや。その子、坂口くんのこと」
「いや、それはない。」
「まだ、何も言ってねえべよ。」
2人の問答を、牛乳を飲みながら観察する奈良は、またキリンを思い出していた。何か、関係があるかもしれないと思った。
「キリンと、、、坂口?」
やっぱ、ねえか、と思った。
「はーあ。」
もう何回目の言葉か、解らなかった。
「はーあ。」
眞弥は、困っていた。
-散らかされ尽くされた部屋の事では、ない。
-殺人事件のことでは、ない。
-自分の懐を心配そうに見る、木村優美のことでもない。
「はーあ。」
赤ん坊のように、丸まって、泣き腫らした眼で、「かみさま」と呟く桂に対してだった。
桂は、今、地球様の胸の中に居た。
木村優美は、テレビを消した。
兎瓦けいは、空を見た。青っ空。青空、というより、青っ空である。
「なんだそれ。」
奈良さとしに突っ込まれたけいは、真面目な顔をした。
「そういえば、あたしも変な感じがしたんだよ。スカートめっちゃめくれてた、、、。」
奈良は、聞き間違いだと思った。砂が目に、なんたら、と言ったんだろうと思った。
奈良は言った。
「ああ。おれもあるある。」
けいは、ぎょっとした。
「スカート!?」
「は?」
けいは、さっき聞いた男心の意味を、間違った意味で掴みかけていた。
「女装趣味が男心、、、。深いべ、これ。」
「何言ってんの、お前。ていうか、坂口お前いい加減しゃべれよ。」
「わかった。」
坂口は、怖い程、目を見開いていた。
「わかった。」
目の焦点が合ってない。
けいは、背筋にやなものが走るのを感じた
「宿りしは、無念の束。焼き尽くす動機も、一瞬の不覚悟も、深く見定めた上、この剣を、汝の胸へと刺す。」
カエルが念仏らしきものを、たれていた。
マシンガンの姿をした、一番、影の薄い惑星巫天は、今、渋谷に居た。光る目は、獲物を探す野生のシャチ(想像の域を出るものではない)の様である。噴気は、弱々しくも、主張を怠らない。わずか30cmとは、思えない貫禄を、このシャチは、雰囲気として外界へと炙り出していた。
声を上げた と同時にMETALLICAの曲のイントロが、奥で流れた。
「我ノ名ハ反蛇求喰全テノ」
シャチの足元(腹元?)が裂けた。誰も気づかなかった。わずか、1mm以下の幅の裂傷であった。がしかし、長さは30m。深さは、3km。
「全テノオレンジヲトウカツ_。」
起こした裂傷と垂直の、線を新たに起こした。同じような規模である。だが、誰もやはり気付かない。今度は、深さ8km以上は在った。
「クジョ」
ぎゃりぎゃり。二つの垂直に交わる線が、4点_それぞれの先っちょにて、長さを違うベクトルにて増幅させた。今度は音がした。
ガ。
やはり、誰も気づかないが、今、コンクリートに巨大な、卍マークが掘られた。
「ハンショク」
誰か一人が気付いた。だが、気のせいだと先を急いだ。
「ホショクスルモノナリ。」
シャチは、どこかに消えた。




