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ひなた  作者: ひまじん
11/19

ニシンの大群とマシンガンと女の子

「ちなつはー。」

 カプチーノ、でよろしかったですかー?店員の声が、響いている。うん、とうなずくちなつ。眞弥は真剣な瞳で、言葉を発した。ちなつは、は、とした。雰囲気が、誰かに似てる、と思った。最近、連絡が来ない彼女の友人、その子と似た、静かなバイタリティーみたいなもの、を感じたのだった。眞弥はしゃべった。

「これから地球が失くなるかもしれないけど、それを謝ろうと思って。」

 クッキーだった。ちなつは、ショックを和らげるためにクッキーを即座に、ほおばった。なぜか、兎瓦けいに雰囲気が似てると思った瞬間から、この子の話を真面目に聞こうと決めてあったのだ。

「そうなんだ。どうして失くなってしまうの?」

 眞弥は、ちなつの後ろを見た。言葉を選んでいる様だった。15秒間はそのままだったので、ちなつは、目を開けたまま寝始めたのだろうか、と茶化した。頭の中で。


「ちょっと待てって奈良ァ!違うんだって。」

「ああ。ああ。」

 パアアン、とオートバイが2人の前を、過ぎて行った。坂口浄介と奈良さとしの前である。奈良は、振り返ると、しかし坂口には目を合わせず、こう言った。

「まあ。変なやつだけど、がんばれよ?」

 言い終わる前に、ぱ、と、そっぽを向いた。坂口は激怒した。

「違うって言ってんじゃん!話聞けよ!なあ!」

「ああ。」

 奈良の歩みは、余りに速く、坂口はいろいろ疲れていた為、がんばって追いつく気にもなれなかった。

「っていうか、あんな変な女、おれだって全然やだし!」

 坂口の声は、奈良の足は止めなかった。坂口は、ファミレスに戻った。けいを、殴りたい気持ちになったが、いや、自分のせいでもあるし、と血管を膨らませた。

「くそ!」

「おかえりー。」

 いつまで、一体どれだけ食うのだ、この女は。パンドラの箱、とか言う巨大パフェを一人で、その三分の一を終わらせていた。ちなみにその前は、スパゲティカルボナーラ一人前を二つ。

「けいちゃんもさー(ぼりぼり)お母さん心配するって!こんな時間までさーおれももういい加減帰らないと、、、! 」

 挙動不審な感じの坂口浄介は、本当に、、、本当に気が滅入っていた。桂に、怒鳴り散らさない自分が、大人だ、と思った。桂は言った。

「えーもうちょっと一緒に居ようよー、神様~。」

 何言ってんだ、こいつは。と思った。もういい、次トイレ行く時にでも、勝手に帰ってやる。もう知らねえ。だが、坂口は、話し続ける桂から、なかなか解放されることは、なかった。


「スティーブさん!ねえちょっと寝ないでよ。」 「そうだよ、寝てんなよ、ラッパー。」

「?」

 がばぁっと跳ね起きたスティーブは、でこを目の前に居た動物のヒレにぶつけた。詳しくは、胸ビレである。

「、、、。」

 痛みに、こらえるスティーブ。は、とした、

「あれ? 寝てたっけおれ。」

 ぐらぐらっと視界は一回揺れ、徐々になかなかのクオリティーで彼に、世界の映像を提供した。

 相変わらずの崖。相変わらずの仁美。相変わらずのキッチン。相変わらずの布団。相変わらずのミニバスルーム。相変わらずのシャチ。

、、、シャチ?

「ねくたです。」

「おおおわお!!!お前な!いつもおれを驚かし過ぎ!」 

「ごめんごめん。わたしが来るなりいきなり寝るから、何事かと思ったじゃん。」

 しゃべるシャチに何事かと思ったと言われても、お前の存在が一番の珍事だよ、と高速でスティーブは意識に、浮かべた。仁美は、心配そうに見た。

「ラップで疲れたんじゃない?」 

「あはは、あの、だから仕事でやってんだって!あんなくらいで疲れるわけが」

 ぐら、と視界が再び揺れた。なんだこれは。本当に単純に、体が、疲労している。

「、、、?」

 まさか、本当にさっきのワンヴァ-ス(一番)だけで?スティーブは、体がなまったのか、と怖くなった。ねくたは言った。

「音楽やってたの?」

 スティーブは、目を変えた。炎。目の中には、炎が渦巻いていた。

「そうだ、ねくた。おれの誇りだ。」

 にんまり、と笑うねくた。ねくたは、一言呟いた。

「疲れるから、あんまりやらない方がいいよ。ここでは。」


「なんなんだ、なんなんだこの状況は、、、!」 「うぅん、、、。」

 状況を説明すると、ここはファミレスから、わずか300mしか離れていない道路。歩道。時刻は午後8時半である。車は途絶えないが、待っているバスは、なかなか来てくれない。

「くそう。こんな変なとこにいるから、一回バスで、、、!東京駅まで行かないと、栃木まで帰れねえじゃねえか!この馬鹿女。」

「うぅん、、、。かみさま~。」

 おぶっていた。坂口に香る酒の匂い。桂は、自販機で買ったビール一缶を、飲んだのみ、である。あれだけ食う癖に、驚くほどアルコールに弱い体質だった。坂口は背中の、どうしようもない女に罵声を浴びせた。

「体で払ってもらうからな。」

 冗談でそれを言った直後、耳に、冷たいが瞬時に暖かくなる感触を、感じた。

 濡れた感触を感じた。桂は、坂口にキスをした。坂口は、やばい、と声を出さずに言った。

「いろいろ、やばい、」

 バスはまだ来ない。


 喋り終えた眞弥は、壁を見た。

 ちなつが、どのような顔をしているか、を知りたくなかった。軽率に取られ、笑われるのも、そのままに取られ、パニックを起こされるのを見るのもやだった。ちなつの表情は、そのどっちにも当てはまらなかった。

 ちなつは、眞弥の手を、優しく、しかし固く握りしめた。

「じゃあ、今すぐけいを連れ戻そう!」

 眞弥は、人間を認めた。


「、、、。」

 東京駅から近い、ネットカフェにて。時刻、ただいま12時半。自分がこの世の中で、一番下等、所謂ゲスに近い存在である、と。そんな存在である、と坂口は大袈裟に、悲観の中に居た。目の前には、自分というオスに、身を預ける、一人の女である。そう広くもない個室で、抗う術はなかったのか、と思ったが、もう偽善はいい、と自分に悪態をついた。 

「、、、、。」

 桂は、すやすやと酒臭い寝息を立てていた。


 けいは、なんなんだろうこれは、と思った。何があったんだろう、と思った。なんでこんなことになっているんだろう、と思った。なんでこんなに家に帰りたいんだろうと思った。もう、恩返しどうだらはどうでもいい、と思った。

「帰りたい。」

 自分をかばったマシンガンが、目の前で血まみれになり、呼吸を荒くしていた。

 けいは、失禁していた。

 閃光が辺りを包み、マシンガンは逃げ遅れたけいを、砂浜に乗り上げ、その身を犠牲に、かばったのである。突如として、大水しぶきから現れたオスのシャチは、ゆしにキスをした後、こっちに向かってきた。え、とけいが、状況判断に遅れていると、目の前から、小山、自治医大、鹿沼がバラバラに散った。しかし、ぐるりとけいを見定めた、マシンガンだけは、突然、陸まで駆け上がって来たのである。オスのシャチはもう居なくなっていた。マシンガンがいたので、向かってきたあのシャチがどのような、行為を実施したのか、見当もつかなかった。ただ、なにかが光り、マシンガンは大怪我をしている。波は、緊迫感を無視し、ゆるく押し寄せるのみだった。

 はあ、はあと頭の上の噴気孔から、血を噴き出すマシンガンは、とても痛々しく見えた。ずっと傍観者だった柚宇は、すぐ隣りに来ていた。

「あっちゃー、いいザマだな、マウヅ。」

 けいは、我に返った。どん、と柚宇を押した。思いのほか、軽くけいはほのかに、ち、と思った。   

「??」

 目を丸くする柚宇。

 小山達は消えてしまった。マシンガンは、目をつぶり、痛みに耐えている様子だ。

 けいは叫んだ。柚宇に対してだった。

「おめえら! 、、、う!うう!!!」

 血が出んばかりに、唇を噛んでいる。柚宇は、感情0のまま、目を見張った。

「今度、マシンガンを傷つけたら、、、!」

「わかったわかった!いや、見てなかったんかよ!?マウヅを攻めたのは、おれじゃなかっただろうが!」

 じゃり、とけいは、マシンガンの顔に寄り添った。さすり始める、けい。涙が、洪水のようだった。ぐ、と肩を掴んだのは、柚宇だった。

「待てよ、お前!死なねえよ!そいつらは不死身なんだ、動物じゃないと言ったろう!それより、お前が何やろうと、さっきも言ったけど悪化するだけだから、そいつに無闇に近付くな。」

 会ったころは、30cmのミニサイズだったマシンガンは、現在、体長おそらく8m超の立派な猛獣である。けいは、怖さなど微塵も感じてなかった。

 柚宇は、言った。

「ち。聞けよ。」

 けいは、マシンガンの耳をさがし、見つからず、あきらめ、マシンガンの目へとやさしく語りかけた。

「どこ住みたい?マシンガン。」

 マシンガンは傷だらけだった。言った。

「マンハッタンだな。」 

「あら、生意気だこと。」

 いきなりなんの話だろう、と柚宇は、もういいや、と言った。

「死なねえって言ってんのに。なんだ、このイシアガンは。うぜえ。」

 けいは、構わず、マシンガンに優しく告げた。

「マシンガン。帰ったらまた、デパート行こうね。約束。」


「随分遅い帰りだねえ、、、。」

 坂口浄介は、母親に申し訳ない気持ちになっていた。しかし、それを出すことはできなかった。  「ああ、うん。友達が。友達と盛り上がっちゃってさー。うん、泊まってけよ、って言われてさ。」

 目を合わさない浄介は、玄関で根っこが生えたように、言い訳を繰り返している。ぼりぼり、と頭を掻く。

「あ、あれだよ!?男の友達だよ!?言う必要ないけど。」

「ないねえ。あんた、彼女なんていたことないし。奈良君のとこ?」 

「、、、!そう、そう!」

「そうなら、そうで、ちゃんと連絡くれないと心配するでしょうがー。」

「ああ、ああ。」

 浄介は、上がった。二階の自分の部屋へ、行く。ふう、やはり自分の部屋は落ち

桂が居た。  

「、、、。」

 ばん、と浄介は、自分の部屋のドアを閉めた。鍵をゆっくりかける。正座している桂に、尋ねた。その姿は、ジェントルメン。

「ほわっと あー ゆー どぅーいん ひや、、、ぷりーず??」

「うふふ。」

「けにゅー すぴーく いんぐりっしゅ?じゃねえええええええわっ!あんたさ!!!ストーカー!?警察に通報するよ!?おれのすべてをぶち壊す気かよ!!もう奈良とも絶交されたよ」

 す、と息を吐いた。鬼の形相だった。

「お前のせいだよ!兎瓦!!!!!!」

 頭の中で、絶対別人であることは、わかっているのだが、これが兎瓦けいだと思わなければ、どこに怒りをぶつけていいか、わからなかったのだ。瞬きをしない、桂は、こう言った。

「好きに、なっちゃった。かみさま。」

 ハートマークでも付きそうな、とても男には出せない、高音域で繰り出された、告白だった。

 浄介は、ふと思った。

 そうだ、北海道に行こう。それがいい。カニを食うのだ。カニを食ったあと、ウニを食って、いろいろ食うのだ。

 ネジが飛んでいた。 


 上と全く同じ時間帯。

 午前9時半。

 日曜日。

 部屋で、眞弥はごろごろしていた。

「とーもーだーちっがっがっが!」

 が、の部分を相当、遊ばせた。トーンから言って、彼女の力作らしかった。

「が!」

 間を置いた。

「たかたかどんっ、」

 おそらくドラムスの擬似音である。

「できた~~~~~~~~~~~~~。」


 仁美は言った。

「こんにちは。」

 ねくたは応えた。

「どうも。」

 スティーブは、いぶかしげな表情を固定させた。 

「えらく、仲良いな、仁美、その魚と。」

「はい。」

 どん、と八千草仁美は、持っていた本を足元に叩きつけた。

「シャチを魚と言ったわね?さあ、これから私のレクチャー、始まるわよ?」

 あっけに取られるスティーブ。ラップを披露した自分の次は、どうやら目の前の可憐な一人の女性にスポットライトが、当て始められているようだった。スティーブは、鯨類研究所が、仁美の職場だということを、今更思い出した。

 仁美は口を開いた。曰く!


 小山は、言った。

「けいちゃん。」

 いつの間にか、陽は完璧に落ち、真っ暗の水面から、岩場で座る兎瓦けいに声をかけたのだった。

「帰った方がいい。」

 けいは、うなずいた。周りには、誰も居なかった。自治医大と鹿沼に支えられ、マシンガンは、沖の方へと、姿を消した。小山だけは、けいに話があるらしかったのだ。

「まあ、わたしも好きで来たわけでは。」

 そう言いながらも、あんな目に会っておきながら、ここを離れるのは寂しいな、と思う寸前で否定するのだが、やはり思っていた。

 しかし、どうやって帰るのだろう。どうやって、、、来たのだろう。

「そこのおじさんに帰り方は、聞いて。」

 小山まで、姿を消してしまった。

「おじさん?」

 振り返ると、亡霊のように、キョンシーが立っていた。

「はわあああっ!」

 けいは、叫んだ。かけずった。ホラー映画の主人公の気分だった。海から離れ、森の中で、暗闇に目を慣らそうと、しきりに目をぱちぱちと、させた。

「、、、、あいつか?」

 我に返ったけいは、すぐに怖くなくなった。

 けいは真後ろに、質問した。

「変なキョンシー人魚!出てこい。」

「出てくるも、何も、居るから。調子狂うな、人間ってこんなのばっかなのか?」

「、、、女の子が、そんな喋り方するもんじゃねえな。」

 柚宇は、けいを無視して、がさっと、枝についている葉をもぎ取った。

「例えば、、、。」

 音がする。けいは、柚宇を凝視した。と言っても、真っ暗でよくわからない。

「ちょっと、、、ここ暗過ぎっぺ。浜にもど「いや、ここでいい。例えば、この葉っぱ。」

 右手に持った大きさ、10cmほどの葉っぱを、柚宇は握りつぶした。みし。けいには、聞こえなかった。

「この葉っぱが、この宇宙全ての源だったら、どうする?イシアガン。」

 なんとか、イシアガン=人類らしい、という変換もスムースになってきた、けいは始めから真面目に話を聞く気は、なかった。

「小山ちゃんがさ、あの、、、多分言い方間違えたんだろうけど、あんたに聞けって。」

「言い方?」

「小山ちゃん、おめえのこと、おじさんって言ってたべよ。」

「合ってるぜ?まあ、お兄さんの方が、」

 後ろで、月が、雲に隠れた。じり、、。次の瞬間、けいの前に現れたのは、身長180cmはあるだろう、青年だった。けいは叫んだ。来た道を、浜を目指し何かにつまづき、転んだ。

「じょ、女装趣味ぃ!!!」

「もしそうだったとしても、お前はそれに悲鳴上げんのか、理不尽女。いいから立てよ。」

 その男_。髪の毛が変わっていた。頭まるごと、つぼみの付け根でもあるかのように、どでかい花びらが、てっぺんから、四方向に垂れ下っているのである。花男。けいは、頭の中で、また失礼なあだ名を作った。衣服は、和服に似ている。まるで、そう、日本で言う、伝統的な巻き付け布または、浴衣である。

 理解しがたかった。さっきまではキョンシーつまり、中華だったくせに。

「おめえには、ポリシーってもんがねえんけっ!」

「いきなり何の説教だよ。、、、ああ、確かに暗いな、嬢ちゃん。」

 素敵な笑顔を、けいに向けた。だが、けいには見えていない。

「ちょっと山の上行くか?お兄さんと。」


「今日は、何やってたっけな。」

 眞弥は、今部屋で、テレビ欄を見ている。新聞のテレビ欄である。

「最近は、もうBRだな、BR。地デジ化で忙しいし。」

 多分、言ってる意味を自分で、理解しているような、言い方ではなかった。だが、言いたい単語だった。

「やっぱりあれかな。、、、通販。の。」

 耳を澄ますと、パトカーの音が迫っている気がする。は、とし頭の岩石を、頭部その内部に押し込めた。絶命は、していない様子だった。再び大家さんの声である。

「カミオカさ~ん?なんか、警察の方また、見えててまたちょっとだけ話あんだってよ~?」 

「っせえな。」

 眞弥は、ぼそりと呟いた。


 柚宇はどこから出したのか、日本酒の瓶らしきものを取りだした。

「この酒なあ。さっきのマウヅに傷を負わせた奴、いたろ?ははは、あいつが作ったんだぜ?」

「何が可笑しいのか、わかんねえし、まったく意味がわかりません。すいません。」

「可愛くない極致だな、お前。ち。」

 だが、顔は笑っていた。

 けいは思った。

 イケメンだ、と。その理由で、警戒を解いてはいけないし、こいつは何かいけすかないから、好きか嫌いかと言えば、嫌いだが、素直にイケメンだと認めることにした。

 ここは、木の上である。ついでに言うと、山の上である。見渡すと、全方位、おそらく、大海。眩しい大量の星の下でも、ここからでは、お世辞にも眺めがいいとは言えない。視界の下に関しては。だが、空には近かった。キザな台詞でも、言ったらいいんじゃねえべか、男だったら、とか無理なことを思った。

 柚宇は言った。

「あー、うんこいきてえ。」

 けいは、自分の5秒前の思考を呪った。

「おい、兎!あのさあ。」

「名字なんですけど、ウサギガワラは、、、。半端で呼ばねえでくれっかな。」

「いや、知り合いにケイっているんだよ。なんかやじゃねえ?」

 知らねえし、とけいは思った。その時、暗黒に包まれる程、嫌な予感に襲われた。わたしは、道路でシャチに追いかけられた後、向こうでは、どうなっていることになっているのだろう。帰らないと、みんなすげえ心配するんじゃねえべか、と思った。

 事態は、もっとひどい方に転がっていた。


 警察は二人、大量の資料を持って、眞弥の一人部屋に上がり込んでいた。

 眞弥は、眉間のしわの暴走列車になっていた。

「わたし、、、。」

「うん、お嬢さんがやってないのはもうわかったから!多分、あれ女性の力では無理なんだわ。」

「じゃあ、、、、なんで、。」

「ちょ!泣かないで!いやね?目撃者がいて、あのとき近くに居た人らしんだけど、どうもそのときあなたに特徴の近い、人物を見たっていうもんだから、さ。」

 もう一人が反論した。

「違うべ?その女の子に殺されたって証言したんだべ!?」

 眞弥は、表情を変えない。相棒に対して、抗議するもう一人の警官。

「だから、女の子があんなヤり方できるわけねえっぺよ!馬鹿か、おめえ!あの証言者もだいぶ酔ってたっぺよ。」

 眞弥は、表情を変えない。

「、、、ははは。まあ、それもそうだな。っつうかあんなん」

 警官は、大袈裟に手をハンマーのように、振り下ろした。 

「シロナガスクジラに殴られでもしねえと、なんねえべよ。」

 がはは、と2人で笑っていた。

 眞弥は、少し笑った気がした。


「なんでよ?」

 ぎょっとしたのは、柚宇である。けいが目いっぱいに、涙をためている。

「マシンガン何もしてねえのによ?、、、う、あんな、」

「タンマタンマ!おいおい!思いだし泣き!?だから、あれくらいじゃ死なねえって!あいつはそんな弱くねえよ。」

「、、、(ぐす)めっちゃ痛そうだったじゃねえか(ぐす)。」

「まあ、そりゃ死ぬほど痛そうだったな。」

「あいつ、、、は(ぐす)よく見えなかったけど、、よ?」

「ああ。」

「あのゆしってシャチとよ?」

「ああ。」

 月が三つとも、こちらに近付いた気がした。

「仲良いんけ?だったら、ゆしもあたしの、、、。」

「敵、、、か?そうだな。そういう発想は自然だな。おい。」

「?」

 瓶を差し出す、柚宇。けいは、鼻水を拭くためのハンカチを期待した。

「飲めよ。頭冷やせ。そんなぎゃりぎゃりな、思考回路じゃ、いい答え出ねえぞ?」

 瓶を受け取ると、間を置いて、けいは笑った。

「、、、ぎゃりぎゃり?ぷ」

 ははは、と笑いだした。柚宇は、何はともあれ、よかったよかった、という顔をした。

「なんで、キョンシー人魚のコスプレしてたん?」

「コスプレじゃねえ。」

「なんで、女装に走ってたん?きっかけ聞いてやるから、ほら、傍おいで!」

「うるせえし!なんなんだ、とりあえずうるせえな、お前。」

「否定しなけりゃ、そうだったんだ、と思うぞ、わたしも。」

「、、、。」

 それでも、説明するのは、めんどくさそうだった。だが、口を開けた。

「おれはなあ。あの月なんだ。」 

 けいは、そのあとに続く文を期待した。待った。待っても、柚宇はそれで、言い終わった満足に浸ってしまった。

「、、、。」

 けいは、すねた。


「じゃあ何も知らないということで。」

「はい。」

 次第に、言葉数を少なくしていく眞弥に、もうこれ以上はしぼれないな、と思った。 

「おっけ。ご協力ありがとうございます。それでは。」

 2人は、出て行こうとした。眞弥は、2人の背中に刺すように、言った。

「シロナガスクジラでも、あんなことできません。」

 は、と思った。

 警察官は戸惑った。

「あんなこと?現場見たの?」

「あいやいや!!!違います、聞いた話から想像すると、です!」

 ドアが閉まった。眞弥は、ため息をついた。思い立ったように、きゅ、きゅ、と紙にサインペンで何か書き始めた。文字つきになったその紙を、壁に貼った。

「よし。」

 紙には、ハートマークに囲まれて、<殺人禁止>と書いてあった。

 眞弥は、ふんと軽く、鼻息を放った。


「なあ、、、。」

「はい。」

 柚宇は、話しかけようとして止めてしまった。

 けいは、叫んだ。

「ええええええ!何の<なあ>!?というか、おじさん、あなた、わたしをいつ帰してくれんだべ!?」 

「うるっせえなあ、ガキが!こっちは、ショックを与えないように言葉選んでやってんだよって!言ってるそばから泣きやがる!」

「、、、マシンガン、、、痛そうだった。」

「そうだな。だったな。」

 はあ、と柚宇は、飲み干した瓶を投げた。ああ!とけいは怒鳴った。

「ゴミのぽい捨てすんな、馬鹿キョンシー!」

「じゃねえよ、下見てみろっつっても、見えねえか。うーん。」

 びり、と枝から、また葉っぱを取った。

「見ろ。」

「?」

「ビッグバンだ。」

 けいは、柚宇を睨んだ。また、先に話を続けなかったら、ぶん殴ってやろうと思った。

 柚宇は、遠くを見て満足した様子だ。

 けいは、怒りに膝をかくかくさせた。


 眞弥は、携帯をいじっていた。いじり倒し過ぎて、もう手垢だった。携帯電話というか、手垢が正しい名称だった。ぷるうるるる、と鳴り始める、手垢。

「お。」

 ディスプレイには、<ちなつ>とかいてあった。


 坂口浄介は一人で、学校の図書館にいた。さっきから、念仏のように一つの単語を口にしている。繰り返している。

「カミオカジョウスケカミオカジョウスケカミオカジョウスケ、、、と。」

 惑星守護色期巫天、最後のメンバーの名であった。


「そうだったな、坂口!」

「!!!ぇ。」

 きょろきょろと、辺りを見回す浄介。授業中だった。しまった、と口で無音により、唱えた。睨みを利かせてくる、数学の教師。

「そうだったな!?」

「な、、、なにが、、ですか?」

 ちらほら、笑い声が後ろの方の席で、起こっている。

「集中力という言葉があるな。」

 教師は長い話を、始めようとしていた。

「あれは、長時間持続しないそうだ。我々人間も動物だ。限度がある、だがな坂口。」

「はい。」

「ある、限られた時間でなら、持てる能力を発揮できるのだ、えー若い頃は、よってだな、!おい」

「時間!」

 時間、と叫び、たたた、と授業中だというのに、クラスを出ていく、浄介。あっけに取られるクラスメイトと、教師。

「こら!坂口!お前、トイレならちゃんとそう!」

 まだ、近くにいた浄介から返事が、大声で在った。

「ありがとう!先生。」

 教師は、皆に笑われてしまった。


 今度は、時間という単語を連続に発しながら、3Fの図書室へと駆け上がった。係の人に、殴らんばかりに、質問を浴びせる。

「あの!時間に関しての本って置いてませんか??」

 え、と言う係の人は、返事を開始しようとするが、言う直前ではばかられる。

「なん!なんでもいいんで!!」

 困った、窓の向こうの、図書委員。

「、、、え、どういうことですか?時計の種類の本?」

「違います。」

 6秒後、彼は笑われることになる。

「例えば、、!タイムマシーンに関するものとか!!!!」


「兎。」

 柚宇は、けいに話しかけると、あることに気付いた。けいは寝ていた。木の上で、巨大な葉っぱに身を預けるように、それはもう気持ち良さそうであった。

「、、、。」

 柚宇は、難しい顔をした。

「どのくらい話せば、いいんかね、マウヅ~。」

 見えないマシンガンに、助けを求めるように、見えた。


「悪いけど、はい、この乗り物乗ってください、はい、乗りましたはーーーい、着きました元の、地球でーすおかえりなさいってわけには、いかねえからな?」

 昨日、マシンガン達と話し込んだ、浜辺に来ていた。もう、明るい。体の節々が痛い、と顔に書いてあるけいは、うーん、と言った。まだ、寝ぼけていた。

「兎瓦!お前には、やってもらうことがある。」 

「、、、う、はい。はい。」

 駄目だこりゃ、の結晶だった。兎瓦けいのことである。

「お前、やる気ねえんだったら、おれもう帰るぞ?」

「ああ、すいませんごめん、女装趣味の、きっかけ聞いてやるから、真面目にやるからよ!?」

「真顔で言うのが、腹に立つな。」

 がりっと、求喰柚宇は、手に持っていたりんごを、もう一方の手で、えぐった。

「はじめっぞ?DRUG。ETIAGXN!時代跨ぎを、な。」


 ぺらぺらと、もう20冊目に突入している坂口浄介は、テスト勉強でも、これほど集中力を持続させて、読書に励んだことは、なかった。

「ちがう。ちがう。」

 本は、主に、宗教関連、または哲学が主であった。心配になって、近くのクラスメイトが、浄介に声をかけた。

 「坂口ー。お前、目、血走ってっぞ、休めよ、少し。」

 浄介には、全く聞こえない。


 両腕に、何かの植物の、花びらを持たされたけいは、これから、踊りでもさせられるんだろうか、と思った。

「わかると思うけど、わたし、あんま色気とか、ねえよ?」

「、、、。言われたことをしろ。」

 無視をされた、けいは、とりあえず二枚を眼前で、発する声とともに、一つに重ねた。柚宇は、言った。

「おい、やる気ねえなら、おれは帰るって言ったよな?」

 だんだん、慣れない指導にイライラしている様子が、手に取るようにわかる花男のトーンだった。

「だってぇ!意味わかんねえもん、こんなことして何になるんだい?」

「、、、。言われたことをしろ。」

 怖い人がいる、と小声でけいは愚痴った。

 一瞬、吐き気がした。血だった。脳内に血の映像が、駆け巡った。ほぼ、無意識で、自身の両腕に導かれるように、けいは、言葉を発した。

 柚宇は、にやりと笑った。 

「、、、ガス」

 花びらは、二枚から、四枚に、増えた。

「、、、ト!」

 言われた言葉を、ゆっくり発音したけいは、豪快に後ろ向きに倒れた。頭からいった。柚宇は、しまったと思った。抱きとめるトコロだ、と思った。砂浜だったので、外傷はおそらくないだろう、と踏んだ。


 坂口浄介は、図書室を出て、帰ろうとしていた。まだ昼食が終わる手前、全く下校時刻はほど遠かったが、彼の中の危機感が、罪悪感を完璧に打ち消した。誰に、何も言わず、校舎を出て、校庭を抜ける。奈良がいた。坂口は、わたしたちは終わったのよ、と言わんばかりに露骨に無視をした。

 奈良は、坂口を呼びとめた。

「おい、、、!おれも悪かったよ、坂口!」

 それでもやはり待っていた言葉だったらしい_坂口は振り向いて、奈良に告げた。

「ちょっと、お前も学校サボるべ!話がある。」

「おう。」

 奈良は応えた。


 仁美は、黙ってしまった。

 シャチのことを、教えてやると、のろしを上げたものの、その知識の、一切は、この目の前の、宙に浮いて、言葉を話す<ねくた>と名乗るシャチの存在を肯定することには、ならない。

 スティーブは、バナナを食べ始めた。


 奈良は、真剣な眼差しで、坂口の話を聞いた。そして、真剣に感想を漏らした。

「お前。疲れてるよ。 坂口。」

 同情だった。それは、もう鋼の同情である。全然、坂口の話を、信じようとはしない。坂口は、イイ歳をして、テーブル真下に転がり落ち、手をバタバタさせ、ダッテホントウナンダモン、と叫び散らし気持ち、そんな自分を想像することで、忙しくなった。

「信じてくれよ、奈良。」

 奈良は、真剣に同情を、継続中だ。ある意味、一番、ひどい。

「仮に、、、。」

 奈良は、言葉を滑らせた。坂口は、狼のような目をしている。ので、一瞬、言葉を切って目を反らせた。

「仮に、けいじゃなかったと、、、。 、、してだな。本物は、じゃあ今どこにいんだ?」

 にやり、と笑って、坂口は奈良に本を出した。おそらく、学校の図書室から、持ちだしたものでは、なく元から家にあったものを持ってきたのだろう。

 奈良は、手に取って、すぐテーブルに置いた。この安いカフェでは、現在、周りの客層は主婦様方一色である。 

「疲れてるって、お前、頭冷やせ。っていうか、はっきり言って、けい、、、。おれの彼女に手出すのは、もう勘弁してくれ_。」

「本、いいから読んでくれ。そこのしおり取って。」

 勇気を出して言った言葉を、流された奈良は、イラっとしながら、本を開いた。本のタイトルは、<世界の神々>である。本当に、古そうだ。奈良は、が、目を見開いた。

「?」

 しおりが、挟んであったページ、視界の右端に飛び込んでくるその章のタイトルが、あった。<惑星守護色期巫天ワクセイシュゴシキゴミテン>奈良は、そのとなりに載ってある字に、驚いたのである。

<ケイ>_そしてイメージ画が、添えてある。兎瓦けいには、似ても似つかなかった。むしろ、ヒトの姿をしていない。庭などで見る、身近な昆虫。アリの、姿である。奈良は顔をしかめた。

「ある意味似てんな、けいに。無駄に、働くとことかよ!?」 

「ちゃんと、読んでくれたか?」

 奈良は目をページに戻した。短く説明が載ってある。どんな、神様なんだろう、と思った。

<炭素が巻き起こす、全ての超自然的現象の象徴または単に、炭素そのもの>

「おれ、化学苦手なんだよなあ。」

 坂口は、答えた。

「おれもだ。」

 しん、と静まり返る、両者の間に流れる空気。

 お互いが、相手の次の言葉を待った。


 眞弥は、ダイソーに居た。

 眞弥は、ダイソーを気に入った。いちいち感嘆しながら、店内を巡っている様子である。連れてきた甲斐があった、とちなつはまさに母親のような気分だった。年齢は近いはずだが、と自分に突っ込んだ。

「全部、安いから。ここは。そんなお金ないんだったら、いろいろ買い物、適当にここで済ませておくのありかもよ?」

 ちなつは、得意気に言った。

「うん!」

 気持ちいい程の返事を、眞弥は繰り出した。

 ちなつは足を止めた。知人の姿を目撃したのだ。それは、このダイソーとなりの<SHELL WORKS>というカフェである。やはり、そうだ、と思った。奈良さとしである。隣りも知っている。むしろ、坂口のことの方が、よく知っていた。

「ちーっす。何してんの?男2人で、デート?」

 おれらは、忙しいんだとばかりに、睨みを利かす坂口。奈良が応える。

「よう。なんか、こいつがヒトの彼女寝獲りやがってよ、その説教してんだって。」

「はぁああ!?最低、ちょっとあたしのけいに手出さないでよっ。」

 坂口は無視を、技として極めようとした。本を手に取る。


 眞弥は、消えていた。

「、、、?あれ。」

 そう話し込んでいたわけでは、なかったし、まだまだ、一人で、物色し続ける、と踏んでいたのに、である。ちなつは、慌てた。

「あれれ?すねちゃった?あの子。」

 どこを探しても、見当たらないのだ。


 激しく、あらゆる生物を拒むように、吹きつける風の中に、漁師の乗ったその船は、あった。なかなか進まないが、自分の経験に圧倒的な自信を持つ、その漁師は、屁とも思っていなかった。思い浮かべるのは、家族の顔である。自分のひげを、さすりながら、青い目をぎらつかせ、数時間おきの、これからの自分を想像する。問題ない、と自分でうなずく。漁師は船の上で、一人だった。その時である。波を割る、大群があった。ニシンである。

 はて、と漁師は思った。この海域で、ニシンが現れるのは、11月頃のはず。漁師はマイケルと言った。マイケルは、おかしいと思った。

 尾びれだった。そのニシンを空気中へと、一気に、何十匹も跳ね飛ばしたのは、一頭の鯨類の尾びれだったのである。

「おかしいな。」

 漁師は、疑問に思った。ニシンの群れを、単体のシャチが襲うわけは、ない。通常は、何頭もの群れで、ニシンを囲い、ボール状にしたそれらを一匹、または数匹ずつ尾びれで打って、気絶させながら、効率的に捕食するのだ。でないと、体重の5%もの質量のエサを、毎日捕食するシャチの食生活をまかなえない。

 声がした。甲板に出る漁師。ヒトなど、水面を歩いているわけはない。

 どこからしたのだ。目をぐるぐる、と注意の塊のようにしていると、もう一度声があった。

 再び水面が割れた。シャチの顔だった。シャチの耳から、一本のワカメが垂れ下っていた。漁師は、そんなシャチを初めてみた。こいつの声だ、と瞬時に思った。

『What a shit... bet my conscious’ pretty much stuck...」

 しかし、そんなことはあり得ない、と自分を説得した。そのとき、閃光とともに、船は大破した。

 マイケルは、自分の一生を思いだし、娘の顔を思い浮かべた。それが、彼の最後の記憶だった。

 シャチは、体をひるがえすと、近くの陸へと向かって行った。


「さとざくら?」

 ちなつは、電話越しに、眞弥へと説明を求めた。黙ったままの眞弥。

「まやちゃん?その君の友人が遊びに来てるの?だから、さっき帰っちゃったの?ねえ。」

「、、、、。そう。」

 ぷつ、と電話を切られてしまった。

 一体、なんなんだろう、とちなつは腑に落ちない様子だった。

「どうした?」

 奈良は聞いた。気付けば、3人で同じテーブルを囲み、ティータイムだった。

「いや。うん。ごめん、あたし帰る。」

「そう。」

「じゃあね。」

「おう。」

 ちなつは、嫌な予感がした。スタバにて、眞弥に聞いた話で、聞いた名だったのだ。<さとざくら>とは。すべては思い出せなかったが、けいのことが心配で心配で仕方なかった。 


 眞弥は、アパートの自分の一室にて、目をつぶり、叫んだ。

 轟音だった。奥には、The Rolling Stonesの曲のような旋律が聞こえた。 

<<3人の月に命ずる。この時代「チキュウガエシ」にさとざくらが現れた!至急、わたしのところへ来なさい! >>

 おそらくだが____。

 このアパートを出て、300m先にある公園で遊んでいた、子供にも聞きとれた。そんな音量である。

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