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第7話 最高ランク

 翌日、ヴォルス達4人は約束した通り、昼頃になってから冒険者ギルドに来ていた。

 ギルド内は相変わらず賑やかで人が多い。しかし、辺りを見渡してみても昨日来た時ほど多くはなかった。


 一番人が多くなるのはやはり依頼を受けに来る朝と、その報告に来ることが多い夕方になる。

 しかし当たり前ではあるが、依頼を受けに来たり報告に来るのは朝や夕方だけでは勿論ない。1日では達成出来ない依頼で帰って来るのが数日後になったり、複数のパーティーで依頼に挑むため、出発する前にギルド内で話をしたりすることもある。

 何か起きても大丈夫なように真夜中も職員は常駐しているが、日中と比べるとやはり少なく、出来る事も減るため冒険者はあまり来ない。夜だから、という理由が一番大きくはあるが。

 つまりは比較的朝と夕方に人が多いというだけで、自由を体現したような冒険者達それぞれが、己の思うままに行動した結果そうなっているだけなのだ。



 昨日お世話になったグレイは今日も同じ受付にいた。今日もグレイの横には書類が積み上がっており忙しそうだ。

 ヴォルス達が近づくとペンを持った手が止まる。


「よし、約束通り来たな」

「試合を受けてくれる冒険者は居たか?」

「もちろんだ!……ただ、その案内は俺は出来ねぇんだ。昨日言った事もあるが、今は見ての通り忙しいしな。って事であっちの受付に行ってくれ、そこで案内してくれる」


 グレイはそう言って持っていたペンで違う受付を差した。

 そこは昨日グレイと、この受付で話していた時に見かけた若い男女……少年少女と言った方が正しい子供がいた受付だった。

 その受付には内側に職員が座っているだけで、今は誰も利用していなかった。


「了解した。行ってくるよ」

「おう、じゃあな。結果楽しみにしてるぜ」



 目的の受付にいたのは女性の職員だった。グレイと同じくギルド職員共通の制服を着て仕事をしていた。

 その女性はグレイ程の量は流石に無いが、何枚かの書類を見ていた。ペンを持ち何かを記入しているようだ。


 受付の目の前まで来たヴォルス達にその女性は気付き顔を上げ、話を聞く為ペンを置いた。


「何の御用でしょうか?」

「グレイから聞いて来たんだが、冒険者になるための試合の案内を頼みたいんだ」

「……ああ、それでしたら確かにグレイさんから聞いてます。分かりました、では案内の前に少しだけ説明を……」


 そこまで言った後コホンッ、と一息置いてから話を始めた。


「まず今回の試合ですが、皆さんの実力を大まかに調べる事が目的です。ただし、これは皆さんが冒険者として登録する時に、冒険者ランク……つまり一定の地位を与えられた状態で登録出来る、というだけですので拒否する事も出来ます……。とは言っても、拒否される方はまずいませんが」


 そこまで言って言葉を止めた女性職員は、ヴォルス達の顔色を窺った。

 それを聞いてもヴォルス達は試合を拒否するつもりは無かった。


 ランクを自ら進んで上げる事にあまり興味は無いが、簡単に上がるのであれば挑戦する価値はある。

 グレイがランクはギルドからの信頼の証とも言っていた。それが何かに使える可能性もある、なのであれば近道をするのは合理的な判断だろう。

 それに冒険者と一戦交えてみたいとも思っていた。今回戦う事になる冒険者がどれほどのレベルなのかは分からないが、一つの指標になることは間違いない。

 この世界で今、自分達の実力がどれほどなのか、ヴォルスはザックリとでも知る必要があると考えていた。


「拒否はしない。試合はするつもりだ」

「それは良かったです。我々ギルド側としても、実力があるならそれ相応の仕事を任せたいですからね。」


 言葉通り試合を受けて欲しかったらしく、ヴォルスの返答に安心したようでニコリと笑った。


「その試合によって上がる上限は『青』ランクになります。ランクは全部で6段階あり、下から『白』『黄』『緑』『青』『赤』『金』の順で高くなっていきます。皆さんの試合相手は『青』ランクの冒険者ですね」

「へぇー、思ったよりランク上げてくれるんだね~」

「ランクだけ見たらそうかも知れませんが、実際は青ランクと赤ランクの間に壁があるんですよ。それこそ今日の試合相手の冒険者さんもなのですが、最近やっと赤ランクに上がるんじゃないか……!、って言われて来た方なんですよ」

「なら実力は赤ランク位って認識しておけばいいのね」


 女性職員がその冒険者の事を話す時、少し興奮して声が高くなっており、信頼と期待が寄せられているのが分かった。


「青ランク以上になるには実力だけではなく、信頼と実績も必要になって来ますので、そこは覚えておいて下さいね」

「それならグレイからも少し聞いてる、問題ない」


 女性職員の話を聞く限り、その青ランク冒険者はそれなりに優秀そうだ。ランクの壁が越えれそうという事は、実力も冒険者の中でも上から数えた方が速い。

 4人はこの後の試合が少し楽しみになっていた。


「では、これから試合場に案内します」


 そう言って立ち上がり、ギルドの奥へ案内される。

 昨日行った会議室とは別の方向で、人も多い。途中で何人か同じ方向に行くのも見かけた。


 ヴォルス達の前を歩き案内している時、その女性職員が話しかけてきた。


「今、別の方が試合をされていまして……もうすぐ終わると思うのですが、もしかしたら少し待って貰う事になるかもしれません」

「それって結構若い……っていうかほとんど子供の3人組だよね~?」

「あ、知ってるんですか?」

「昨日来た時に見かけたの」


 どうやら昨日見た子供が先に試合をしているらしい。昨日、少し青くなっていたが、それでも冒険者になる気は変わらなかったようだ。


「話してみて気合と覚悟は一人前でしたので是非、頑張って欲しいですね」


 前を向いているせいで顔は良く見えないが、将来を楽しみにしているのが、声から分かった。

 会話が一段落したのを見計らって、アスロンが女性職員に話しかけた。


「少し聞きたいのですが、先程の受付で話していた時、後ろの方に座っていた4人組の女性は冒険者ですか?」

「え? ……あ、ああ! はいそうです!」


 急なアスロンの質問に女性職員は一瞬言葉に詰まったが、そこにいた冒険者は直ぐに頭に浮かんだ。

 それは冒険者に係わる仕事をしてれば、忘れようがない人物だった。


「あの方々は『金』ランクの冒険者なんですよ! 正確に言うと、3人組と1人の冒険者になるんですが、どちらも金ランクで凄い方達なんです!」


―――金ランク、あれが……


 ヴォルスは目を見開き驚く。

 そこに人が居た事はアスロンだけでは無く、ヴォルス達皆が気付いていた。気付いたのは4人にとって当然の事で、ギルドに入ってから時々、こちらに向けられる視線を感じていた。

 アスロンはその視線が気になり聞いてみたのだった。


「あの方々が金ランクの冒険者ですか……。我々は初めて見ましたね」

「そうなんですか? そう言えば、グレイさんも最近こちらに来た方々って言ってましたね……。でも、『緋刃舞踏』って名前聞いたことないですか? 有名だと思うんですが……!」


 冒険者の話で徐々にテンションが上がって来た女性職員が、急に食い気味に聞いて来た。


「わたし達、言ってしまえば成り行きで冒険者になろうと思っただけで……。だから、ごめんなさい。知らないのよね」

「そ、そうですか……」


 セツは女性職員に少し気圧されて、その勢いに戸惑いつつ返事をした。

 4人が知らないと分かると女性職員は悲しそうな顔をした。テンションが急降下したのか、肩を落とし少し落ち込んでいた。

 ただ、それも一瞬でに元に戻り、早口で話の続きをし始める。

 どうやら彼女は感情の起伏が激しく、表情や話し方からも分かりやすい性格の様だ。


「あの方々は『緋刃舞踏』と言う女性3人組で構成されたパーティで、このギルドのエースなんです。最近も大きな依頼を達成されてまして、数日前に帰ってこられたばかりなんですよ。……そう言えば、今日はいつもより長くギルドにいらっしゃいますね……」

「普段はすぐ帰られるのですか?」

「今は依頼達成直後なので、休息も兼ねて装備品の調達などの準備期間だと思います。なので、いつもは朝に一度顔を出してから帰られるんですが……。今日は珍しいですね」

「よく知らないが、話してたもう一人が理由じゃないのか?」


 ヴォルスは気になっていた、もう一人の金ランク冒険者について聞きたかったため話を振ってみた。


「あ、メルちゃん……いえ、メルースさんの事ですね。彼女は『緋刃舞踏』の方々と仲が良くて、会われた時は逆に、街に行ったり自宅に招かれたりで直ぐ帰られるんですよね……。あ、いえ! 居られて困る事は無いです! むしろありがたいですし、私が気にする事でもないんですが……」


 途中まで言って、慌てて身振り手振りで否定した。

 これまでの言動からもこの女性職員は特に、高ランク冒険者に対してかなり尊敬の念を抱いている事が分かる。言ってしまえば一種のファンの様なもので、憧れや称賛のなどの感情も読み取れた。


「なら、そのメルースさんって人の事聞いてもいい?」 

「はい、勿論です! メルースさんは―――って着いちゃいましたね……。ここです」


 リンシーが尋ねてみた丁度そのタイミングで試合場に到着した。

 どうやら話はここで一旦中断らしい。





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