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~幕間~ 第0話 回顧/一番近く、遠い記憶

プロローグとか前日譚みたいな話です。



「―――じゃあさ、見に行こうよ! 一緒に!」


 とある場所で、少女が立ち上がり声を大にして言う。


「見に行く……?」


 キラキラとした真っ直ぐな目で、元気の良い顔を座る少年に向けている。

 少年は少し困惑して聞き返すと、少女がまた話し出した。


「うん! 見に行くんだよ、世界を!」

「世界……」


 まだ要領を得ないのか少年は不思議そうに呟く。

 そんな少年へ向けて、少女は変わらぬ目で続けた。



「行ったことない国、会ったこと無い人……見たこと無い景色! 知らないことがいっっっぱい、あるんだよ! ―――()()()()()、一緒に!」


―――旅……旅か。


 少年はその言葉を口の中で転がした。

 情景を思い浮かべ、少し考える様な間が空く。


 2人の間に短い沈黙が訪れ、少女はワクワクとした面持ちで少年の返答を待っていた。



「―――うん、行く」


 やがて少年はそう答えた。



「やったぁ! じゃあじゃあ、早く行こうよ!」


 少女はその答えにパッと満開の花が咲いた様な笑みを見せると、早速バタバタと準備を始めた。



 ニコニコと嬉しそうに動く少女。

 少年は、その様子を座ったままマイペースに見守っていた。



―――正直に言うと、少年は旅には興味が無かった。

 ただ、少女と一緒にする『旅』ならば、それはとても楽しいに違いない―――そう思ったのだ。




「―――あれ? ……ねぇ、支度しないの?」


 動かない少年に気付いた少女が問い掛けた。


「ごめん。一緒にやるよ」

「良かった! それじゃ、こっちお願いね」

「うん、分かった」


 柔らかく微笑みを浮かべていた少年は、そのまま立ち上がると一緒に旅支度を始めた。

 2人であれやこれやと言いながら準備は整っていく。




 少年は、これから始まる『旅』が、この上なく楽しみだった―――











 ◇  ◇  ◇



 抱き上げた手が、真っ赤に染まる。

 ボロボロの体で、霞みかけた視界の中で、離さないようがむしゃらに抱きとめる。


 しかし無情にもそれはこぼれ落ちていく。


 どんなに強く抱きしめ願っても……腕から、指の間から、逃げるようにこぼれ落ちていく。


 血が―――命が。



 目の前の現実が信じられない。

 信じたくない。


 ただの一つの声も出せずに、失われていく様を見ていることしか出来ない。

 無力さの痛感。

 これまでの旅で様々なことを見て、聞いて、知った筈だったのに。数え切れないほど、色々なことを教えて貰った筈なのに。


 自分には何も出来なかった。



 彼女は「目指しているものがある」と言っていた。

 彼女は「やらなければならないことがある」と言っていた。

 彼女は旅をそのために始めたと言っていた。


 なのに……なのに……なぜ―――



―――彼女は笑っているんだろう。



 彼女の方が辛いはず。

 彼女の方が悔しいはず。


 彼女の心は、自分よりも苦しいはずなのに―――

 なぜ―――











―――分かってる。


 それでも、だからこそ―――彼女は笑うのだ。




本当は「一章の終わりに差し込もうかな?」と思ってたのですが色々考えた末、

「追加するなら6話の次かな……」となったので今更ですが追加しました。


一章が思ったより長くなってしまったのが主な原因ですね……計画性の無さよ

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