表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
鬼の国/セツの責任
51/56

第49話 目的と情勢(1)

 さて、何とかカライ国に到着し、一息つける様になったヴォルスら一行。

 途中、寄り道などもせずに、次の行き先を海を越えたカライにしたのにはとある理由があった。


 それは、時をクランタでの祝勝会まで戻す。




――

――――

――――――――

――――――――――――



「―――次の旅先ぃ~?」


 口を付けかけた杯を机に置いて、ルビアはそう言った。


「そ。次どこ行こうかって、今みんなで話してるとこでさ」

「そんなの聞いてないんだけど!? お、お母さんは許しませんよ!?」


 椅子を弾き飛ばす勢いで立ったルビアは、叫びながらセツの両肩を掴んで揺らす。

 取り乱しているらしく、言動もはちゃめちゃだ。

 酔ってはいない筈だが、まるで絡み酒のような面倒くささを彷彿とさせていた。


 しかしまあ、これまでのルビアを思えばこうなる気はしていた。

 セツは揺られながらも妄言にジト目を返す。


「……いや、お前は母ではない」

「だめだめっ! 2人はずっと一緒に暮らすの!! 私が責任もって最後まで育てるからぁっ!!」

「ハハ、ボクらペットだと思われてる?」


 今度は涙目で駄々をこね始めるルビア。

 それだけ気に入られている、ということでもあるわけだが、だからと言って別になびいたりはしない。それに少しでも隙を見せれば、調子に乗るだろう事は想像に難くない。

 ルビア(変人)の相手は塩対応で十分だ。


 ……こういう賑やかさも嫌いではないが。



「―――はいはい。黙って座ってようねー」


 ただセツはそれで済んでも、ネリアはそうはいかない。

 身内が晒すあまりの醜態に耐えきれなくなっていた。


 乱雑にルビアの後ろ首を掴んだかと思えば、無理矢理に引き剥がした。抵抗しようとも、有無を言わせぬ勢いで引きずって椅子に叩き戻していた。



「それで? 察するに、次どこに行くかの相談ってとこかな」


 一仕事終えたネリアは一息つくと、突っ伏してすすり泣くルビアを尻目に話を進める。

 

「正解。知っての通り、わたし達は事情が事情でね。特に世情には疎いのよ」

「ああ……確かに。それはそうだろうね」


 何せ異世界からの来訪者だ。『渡り世人』である4人が世情に疎いのは当然だろう。

 根付いた知識は本などから得ることが出来ても、生きた知識に関してはそうもいかない。

 そこは誰かに聞くのが一番だ。


「だからまずはこっちの事情を知ってるネリア達に聞こうと思って」

「なるほどねえ……。うん、もちろん知ってる事なら教えるよ」

「やった! ありがとう、助かるぅー」


 快い返答にリンシーは喜びを見せる。

 断られるとは思っていなかったが、それでもそう言ってもらえると頼もしい。

 これなら安心出来るというものだ。



「でもそれならウェーラーは? クランタに最初来た時、会ったと思うんだけど。彼、商人だし適任じゃないか?」


 ただ本題の前にネリアからもっともな疑問が出る。

 

 それはその通りだ。

 確かに金ランク冒険者ならば色々なところから情報は入ってくるだろう。だが常日頃からあちこち赴く商人相手に、情報という面で敵うわけがない。向こうは情報の扱いも本職のようなもの。

 それは百も承知だ。


 無論、ウェーラーに聞けるならばそうしている。


「ダメ。あの人忙し過ぎて捕まんないのよ」

「あー……そうか。悪い、失念していた。それはそうだった」


 だが今の時期、襲来で受けた被害回復のため奔走している。

 ただでさえ会うのも大変なのに、これからクランタを去る者が時間を貰うのは流石に申し訳ない。

 だから遠慮してこっちに聞きに来たのだ。



「なら、私達が全面的に協力するよ───って言いたいところなんだけどね」


 疑問も解消し、やっと話が進むと思ったところだったのだが、再び待ったが掛かる。

 今度は何だと言いそうになるが、その前に困った顔で申し訳なさげに答えてくれた。


「私はクランタ出身なんだけど、一度も外に行ったことがなくて……正直詳しくないんだ。ついでにルビアも似たような感じで……」

「ちょっと離れたとこにある小さい村の出ね、私は。それに、これまでクランタの事ばっかりだったから……ごめんだけど」


 皆に無視されていたルビアも、しれっと混ざって謝った。

 本当に知っている事は少なそうだ。



 これは当てが外れた。

 仕方ないで済ませられる範囲ではあるものの、手掛かりくらいはあると思っていた。

 だが、思えばクランタは国の最西にある辺境。

 そもそもが情報の集まり難い場所ではある。知らなくても何の不思議もない。


 少し残念ではあるが、ここはそれが普通と割り切るべきだろう。



 セツもリンシーも諦めを受け入れかけた……その時だった。


「―――ってことで、あとはガネッタに任せるよ」

「……え?」

 

 茶目っ気のある笑みを浮かべてネリアがそう言った。


 思わずガネッタに目を向ければ、少し申し訳なさげに微笑んでいた。

 どうやら分かっていて黙っていたらしい。


「すまない。口を挟むべきかとも思ったのだが、うちの2人が何やら企んでる雰囲気だったのでな」



 これまで真面目な優等生、みたいなイメージがあっただけに意外な一面を見せられた気分だ。


 ガネッタにもそういう面があったとは知らなかった。

 何やら親近感が湧いてくる。


「なーんだ。もう、びっくりした〜」

「新鮮というかなんというか、変な感じね。……でもま、リンシーに比べたら可愛いもんよ」

「ふふん。そりゃあそうだよ」

「……」


 皮肉のつもりだったがリンシーは何故か得意げだ。

 分かっていないのか、分かった上でそう言っているのか。


 相変わらず一筋縄では行かないやつだ。

 


「はあ……まあいいや。―――じゃ、話し戻すけど。ここからはガネッタに聞けばいいわけね?」

「ああ、私の知る範囲で良ければ答えよう。ただ私とて、2人よりかは知識がある程度。期待に沿えるかは分からんが」

「あ! だったら先に1個聞いていい?」

「聞こう」


 リンシーは生徒の様に手を上げて質問する。



「なんでガネッタは2人より知ってるの?」


 それはもっともな疑問だった。 


 セツだって疑問に思わなかったわけではない。

 ただ、知っているのならそれでよし。本題と関係ないならわざわざ聞かなくてもいいだろう。


 そう思ってのことだった。


 しかし疑問に思ったのも事実であり、答えが聞けるのなら聞きたい。

 リンシーがした問いの答えに、セツも耳を傾けていた。

 

「単純な話だ。私が末席に連なる者とは言え、国境に領地を持つ貴族の子だからだ」

「―――!」


 そう言ったガネッタの言葉に傲慢さなんかは微塵も感じない。

 元々そういった感じではあったが、今回も決して驕らず、かと言って謙虚過ぎない清廉さで言っていた。

 それは貴族であるということに、誇りと責務を持っているからこそだった。


 だがガネッタはそれだけに固執しているわけではない。


「へぇ……驚いた。確かに、凛としてるというか、どことなく浮世離れしてる感じはしてたけど……」

「ってことはガネッタ、お嬢様? ……うーん、そう思って見たら確かにしっくり来るかも」

「出来れば畏まらないでくれると助かる。貴族と言っても父の代からの新参だ。それに、偉大なのは父であって私ではないのだからな」


 次にそう言った時のガネッタの表情は打って変わって柔らかく、どこか庶民的でもあった。

 いや貴族らしくない、が正しい表現なのだろう。


 ともあれ理由は分かった。

 ……なるほど、親近感が湧いたばかりだがそれがより強まる。普段兜で見えない顔が見えてるおかげかもしれないが、パーソナリティを知って印象が変わっていく。

 彼女は当初思っていたより馴染みやすく、親しみやすい人物らしい。


 これなら何も気にせず、より仲良くやれそうだ。



「おっけー、分かった。これまで通りだね! ボク的にはそっちの方がやりやすいし良かったよ」

「ああ、そのままで頼む」


 本人がいいと言っているからと、まるで許可が出たから気安く話しているみたいに言うリンシー。

 だが彼女をよく理解しているセツとしては突っ込みどころしかなかった。


「わたしも同意はするけど……リンシーは何言われてもそのままでしょうに」

「なんだとぉ? セツだってボクと─――って、セツお嬢様だったわ」

「…………昔の話でしょ。元よ、元」

 

 リンシーなら言ってくると思った。

 別に子供の頃そうだっただけで今は違う。当時だってやんちゃばかりで、らしくなかったし。


「―――え?んん? お嬢様? 元?」

「いや子供の頃だけの話。もう旅してる時間の方がずっと長い」


 ルビアも反応するが、これは大した話じゃない。

 話せない、話したくない様な内容ではないが、何があったかを説明すると長くなってしまう。


「機会があったら話すわ。それより話続けていい? こっちで話逸らしといて悪いけど、このままだといつまでも雑談してそうだし」

「ああっと、ごめんごめん。また今度聞かせて」


 そんなことより今は本題だ。



 やっと本筋に戻ると、ガネッタの方から尋ねてきてくれた。


「よし、では───2人は聞きたい事がある、と言ったな。つまりは旅と言えど目的があるのだろう? まずはそこを聞かせてくれんか?」

「ああ、そうね。その方が話早そう」

「お! それじゃ、ボクが説明するよ。今回はボクの理由が目的だしね」


 そう。

 異世界に転移したことで情報がリセットされた結果、目下の課題はリンシーの求める物にあった。



 リンシーは腰に下げていた銃を机の上に置く。

 

「これ、ボクが使ってる武器なんだけど……簡単に言うと複雑な魔道具みたいなものでさ、全部自作してるの」

「……銃使ってるの珍しいとは思ってたけど、自作だったんだそれ」


 その方面に明るくはないものの、凄さ自体は伝わったようで感嘆の声を漏らすルビア。

 『緋刃舞踏』の3人共、置かれた銃を興味深そうに見つめていた。


「他にもリンシーの作ったアイテムって結構あってね。わたしも普段使ってるのよ」

「戦闘以外でもねー。……ただ自作だから、一から百まで全部自分で用意がいる。修理にメンテナンスもあるし、あと使い切りの消耗品も。つまり―――」



「―――素材、か」

「せいかーい♪」


 合点がいった表情でガネッタが呟いた。


「さっき複雑だー、って言ったでしょ? 普通の魔道具ならそんなにこだわらなくても何とかなる。でもボクが作るやつだと素材が耐えられなくてね。だから出来れば上質な鉱石、もしくは魔物の素材なんかを探してるんだ」

「ふむ、なるほどな……」

「どうガネッタ? 何か心当たりある?」


 セツが尋ねてみると何やら思案している様子。

 良さげなものを選出しているのか、或いは何もないから記憶を探っているのか、それは判断がつかない。

 

 ただ沈黙していた時間はそんなに長くはなかった。


「正直、これと言って提示出来るものはない。だが消去法なら提案出来るかもしれん」

「消去法?」

「ああ。国境の貴族と言っただろう? 他国の情勢には多少詳しい。選択肢を絞るくらいは出来る」


 ない、と言われ一瞬気落ちしかけたが、情勢が聞けるとなればそれも吹き飛ぶというものだ。

 むしろより価値の高い情報かもしれない。


「十分助かる提案……どころじゃないわね。変に場所だけ聞くより、よっぽど嬉しいかも」

「それならば良かった」


 リンシーも何が聞けるのかと、ワクワクとした面持ちで耳を傾けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ