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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
鬼の国/セツの責任
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第47話 遠けきその者は

 澄み切った晴天の下、波打つ大海原を一隻の船が走る。

 海面を割き、張った帆に程よく潮風を受けながら、順調に航海をしていた。


 港を出てから船内で一泊。

 乗船するまでの旅路を思えば短い時間ではあったが、浮き立つ心を思えば、待ち遠しい一日でもあった。


 だがそれもあと僅か。

 カライ国はすぐそこまで来ていた。



「───ん、んぅーーー……はあ! 気持ちいいね。よく晴れてるし、空気も美味しい」


 ぐぐっと、大きな伸びで身体をほぐしたリンシーは、甲板でその時を待っていた。


「今の今まで閉じこもってたくせによく言う」

「まあまあ。それはそれ、これはこれ。それに、閉じこもってたからこそ、味わえる解放感があるんだよ?」


 セツもまた、その時を待っていた一人であり、リンシーを自室から連れ出した張本人だった。

 とは言っても正確には、セツが一言まもなく到着する旨を伝えただけだ。それでリンシーは部屋から飛び出して来た。


 楽しみなのは分かるが、現金と言うか何と言うか。

 閉じこもっていたとは思えない変わり身だった。


「リンシー、結局ここまでずっと魔道具いじってたからね」

「異世界の魔道具だぞー? 趣味と実益を兼ねてるんだぞー? そりゃあ研究しがいはあるよねえ。 ま、旅は旅で楽しんでたけど」

「あんたその辺……楽しむってことならホント全力ね」


 無論、その時を待っていたのは2人だけではない。

 ヴォルスもアスロンも一緒に外を眺めに出て来ていた。


「結構甲板に居るみたいだな」

「旅客船ですからね。もうすぐ到着すると聞いて出て来たのでしょう」

「俺たちと同じだな」


 潮風吹き抜ける甲板には他にも人々が見当たる。

 談笑する男女や子供、静かに景色を眺める者。あちこちで仕事する船員。他にも様々だ。

 各々が各々の時間を過ごしており、賑やかな船上のまま海を進んでいた。




「───ねえ! あのうっすら見えるの、もしかして港じゃない?」


 しばらく談笑をしていると、突然リンシーが甲板の手すりから身を乗り出して指を差した。

 

 船の進む方向、その先の先。

 リンシーの言った通り確かにそこに陸地、停泊船と港が見える。遠くからだと分かりづらいが、それなりに大きそうな港だった。


「本当だ。あれが……」

「遠目だけど栄えてそうな感じね。やっぱ島国だから?」

「そうかもしれませんね」


 やはりこうして明確に目にすると、それだけでわくわくする。

 何度味わったとしても、この新鮮な感覚はいつも同じだった。



 目には見えている港は近いようで遠い。ずっと眺めていると中々辿り着かない。

 待つ、というのはそういうものだ。


 それでも4人はその様子を眺めながら、到着する時を今か今かと待っていた。




 ―――そんな折だ。

 何やら船内がどことなく騒がしくなってきた。


 気になって様子を伺ってみれば、騒がしさの出所は船員からの様だ。しかし何が起きたのかは悟らせない様、通常通りを装って動いていた。

 そのため甲板から見る限りでは、気付いた乗客はまだ少ない。耳を澄ませば談笑の方がよく聞こえて来ていた。


「……何かあったらしいな」

「ここに来てトラブル?」

「現状、アナウンスなどもするつもりは無い様に見えます。乗客を不安にさせないためでもあるでしょうが、緊急性は無さそうですね」

「何ともないといいけどねー」


 一応すぐに動ける様にした方がいいか、なんて事も考えるが、未だ正式な告知があるわけでもない。


 こういった不穏な空気は伝播しやすいものだ。無駄に反応すればそれだけ気付く者も増え、不安からパニックになる可能性も否定出来ない。


 4人としては取り敢えず、警戒だけは怠らずに黙って静観するつもりだった。



 だが残念ながら、様子がおかしな事を悟る乗客は段々と増えていく。


 それもその筈。

 ずっと順調に航行していた船が、その速度を落とし始めたのだ。

 そうなると甲板に居る者は嫌でも気付く。聞こえる声も談笑から、ひそひそとした不安に変わりつつあった。



 そして間も無くして、順調だった筈の船は、完全にその動きを止めてしまった。



「ありゃ、これはいよいよダメそうだね?」

「こんな目前で止まるとは……。何でしょう? 入港出来ない理由でも?」


 既に港は薄らではなく、はっきりと視認出来る。

 近い、とまでは言えないが、目の良い者であれば港に居る人の動きも見えるくらいの距離ではあった。


「ここで止まるなら流石に沈むとかじゃないか」

「やめてよ、縁起でもない……」


 会話自体は呑気なものだがこの状況、やはり何が起きたのかは気になる。冗談を交えつつも船員の動きには注目していた。

 それに船内の雰囲気を見ても、このまま何もないとは思えなかった。




 その予想は当たっていた。

 不穏な空気の船内に突如、男の声が響き渡る。


『あー、あー……聞こえているだろうか? 俺はこの船の船長、アヅミだ。重要な連絡事項が出来たため、このような形で伝えさせて頂く』


 そういう魔道具なのだろう。どこからともなく声が聞こえて来る。

 恐らく船内のどこに居ても聞こえると思われる、乗員乗客全てに対してのアナウンスだった。

 誰も彼もが、静かにその声に耳を澄ませていた。



『既に異変に気付いた者もいるだろう。今し方、入港予定の港から連絡があった』


 落ち着いている様でもあり、緊張も感じさせる。

 どちらとも取れる淡々とした声だ。


『―――結論から言おう。入港は数日無理になった』



 船内がざわつく。

 確実に何かトラブルが起きたという知らせに、穏やかでいられない者も多かった。


『これは直近の出来事だそうだ。港に大型の魔物が住み着いた様で、安全のため今は港を封鎖しているらしい。現在、急ぎ対処中だそうで、それに数日かかるだろうとの事。以上が今回の顛末だ』


 ”魔物”という単語に船内のざわつきが大きくなる。

 ここは海上、船の上の逃げ場のない空間。それがより恐怖を駆り立るのだろう。

 一部では今にも騒ぎが狂乱に変わりそうになっていた。


 だが船長はすぐに、今度は力強い安心感のある声遣いで発した。


『不安がある者は安心してくれ。この船は魔物に対する準備は万端だ。そもそもこの航路では対魔物の用意が無ければ通れない。俺は過去何度も魔物に襲われたが、無事に航海を終わらせている。こういう時のための備蓄もある。数日、海上生活を強いることだけは申し訳ないが、自由にくつろいで待ってくれ』


 それは絶対的な自信に満ちたアナウンスだった。

 大きくなりそうだった騒ぎも落ち着いていく。


 その声には、この人になら任せても大丈夫と思わせるカリスマ性があった。




「さすが船長、って感じ? とりあえずは落ち着いたんじゃない?」


 リンシーはキョロキョロと周囲の様子を確認しながらそう言った。


「出航前にちらっと見たけど、船長さん確かに結構貫禄あったっけ。ベテランって感じだった」

「私も拝見しましたよ。わざと誇張してる部分もあるかもしれませんが、概ね事実、概ね本音でしょうね」


 正直言って4人的には、この距離なら仮に沈没しても何とかなる。万が一の時には手を貸すつもりでもあるし、あまり心配はしていなかった。


 それでも何事もない方が良いのは間違いない。

 そういう意味では安堵していた。



 むしろそれよりも、ここまで来て足止めされた事の方が残念でならない。

 ご馳走を目の前に置かれてるのに食べれない様なものだ。


「……仕方ない。部屋に戻るか」

「だねー……ちょっとガッカリ」


 ため息を吐くほどではないが、残念なのには変わりない。ここからまた次の知らせが来るまで待機する他ないだろう。

 消化不良感は拭えないが、こればかりは仕方ない。



 4人がちょっとした悲しみを抱え、部屋に戻ろうとした───その時だった。


「ん? あれ……?」


 気付いたのはリンシーだけではない。

 甲板に居た全ての者がそれに気付いた。



 船が、再び進み始めていた。

 それも旋回するでもなく、港へ向けて真っ直ぐにだ。



 聞いた話と違う。

 意味が分からず皆が頭に疑問符を浮かべる。


 これもまたトラブルかと、落ち着いたはずの不安が再熱しそうになった時だ。

 つい今しがた耳にしたのと同じ声が聞こえて来た。



『あー…………今の今で方針が変わって申し訳ない。だが、良い知らせだ』


 急な方針転換で気まずそうに話し始める船長だったが、 伝えて来たのは朗報だった。

 声色からも機嫌が良いとすぐに分かる。


『魔物はもう()()()()()()()()()みたいでな。港には無事入れそうだ。―――何なら、面白いものが見れるぞ』



 最初は皆、何事か分からなかった。

 一応、随分と機嫌の良い船長に疑問は残りながらも、ある程度の安心感だけは抱けていた。



 事情が不明なまま、船は徐々に速度を上げる。

 真っ直ぐと迷い無く、遠目に見える港に少しずつ近づきつつあった。



 そうとなれば必然、乗員乗客の目も港へ向かう。


 当たり前だろう。

 詳しい事情は何一つ分からないのだ。


 だが港に目を向けるのであれば、当然気付く。


―――港で誰か戦っている。



 まだどんな人物かは分からない。

 距離もあり、戦っているのだから当たり前に動き回っている。はっきりと認識するのは至難の業だ。



 ただ、それよりも目に入るのは大型の魔物。

 この船くらいはありそうな、巨大な蛸らしき魔物だった。




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