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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
鬼の国/セツの責任
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第46話 セツの修行

「―――はあーー、ダメだあっ!」


 その叫び声と共に、草地に身が委ねられた。


 

 小川の流れが耳に届き、草木を揺らすそよ風が頬を撫で、小鳥が空高く羽ばたく姿を視線が捉える。


 心洗われる様な気持ちの良い自然の中、セツは天を見上げて寝転んでいた。


「……」



 現在は旅の途中。

 目的としていた場所も近づき、皆で最後の休憩を取っているところだった。


 そんな最中にセツ一人で何をしているかというと―――修行だった。



「……もうちょっとな気はするんだけどなあ」


 独り言を呟いた先には愛用の刀があった。


 チリチリと熱の篭った魔力の残滓が、刀身を儚く煌かせながら霧散していく。

 天に掲げてみるが、すぐにいつも通りに戻ってしまい、もう変化は無い。


 ただ陽を反射し、その眩しさに目を細めるしか出来なかった。


―――認めてくれてないの?

―――それとも未熟なわたしを守るため?


 考えても、問い掛けても、答えは出てこない。




 セツはため息と共に、クランタでのことを思い出す。


 後に『ティタンプレド』と名付けられた巨猿。

 4人で力を合わせて倒したあの魔物。


 あの時、あの戦いに於いて―――()()()()()()()()()()()()()



 無論、戦力という面で見れば間違いなく役に立っている。

 しかし必要だったかと自分に問えば、居なくても問題なかった、が的確な結論だろう。


 4人の内で比べた時、自分だけが頭一つ下がって弱い。いつも他3人の後ろを歩いている自覚があった。

 それは自分を卑下しているわけではなく、客観的に見ての判断だ。

 自分が一番歳若く、戦闘経験が一番少ない。明確にその差であると。


 そこは誤魔化しようのない事実なのだ。

 しかし―――



「―――そんなの、わたし自身が嫌だ」



 事実だからと、それに甘えたくはない。

 諦めて、そこで立ち止まりたくはない。



 あの日、祝勝会でリンシーに言われた事は、セツの認識を変えた。


 『仲間』ではなく『家族』。


 セツ自身は無意識にそう思わない様にしていたのだろう。

 多分恐かったのだ。また失うのが。


 だから一線を引いて、自分では『仲間』と思い込んでいた。


 でもリンシーに真っ直ぐ目を見て言われてしまった。

 そして心では既にそう思っていたと、はっきりと認識してしまった。



 あの3人は自分にとって最も大切なもの―――『家族』なのだと。



 であるのならば、肩を並べて、隣に立って、一緒に戦えるようになりたい。


 今までも間違いなくそう思ってはいた。

 だが自分の気持ちを正しく認識したからこそ、より強くそう思うようになった。それは当然の帰結だろう。


 だからこその修行だった。



 ◇


「とは言え……気持ちだけで何とかなるなら、こうはなってないんだけど」


 それはそれとして、とセツの口から再びため息が出る。


 確かにより強く思う様にはなった。しかしその反面、早く結果を伴わせなければならないという、焦燥感もセツの中で燻り始めていた。



 セツは上半身を起こすと、刃文(はもん)――刀身の模様――を撫でる様に指を這わせる。

 

 それは何を思ってのものだったのだろうか。

 意味ありげにジッと刀を見つめ、静寂を貫いていた。




―――セツは、2本の刀を所持している。


 1本は脇差と呼ばれる短刀、その名を『地嶽(チガク)』。

 そしてもう1本が今握っている打刀、その名を『天嶽(テンガク)』。


 これは昔、セツが依頼して打ってもらった業物であり、二刀一対のものとして鍛えられた刀だった。

 当初、普通に購入しようと鍛治師を訪ねたものの、紆余曲折あり特注となった経緯がある。そのためこの二振りはセツ専用の刀であり、他の者では真価を発揮出来ない唯一無二の代物だった。


 そしてそれは逆に言えば、セツならば真価を発揮出来る―――




 その筈なのだが、現状は見ての通り。

 未だに上手くいかずにいた。


 セツにはそれが心底悔しかった。



「まだ、実力不足ってことか……」


 この刀を手にした時、セツは真っ先にこれを試してはいた。

 しかしその時は明らかに自分の実力が届かず、出力不足で終わったのだ。


 それからは基礎的なものを含めた様々な鍛錬を欠かさずに過ごして来た。

 時折、試してみては失敗し、試してみては失敗する。それを繰り返しながら、絶えず自分を鍛え続けていた。


 そして最近になってようやく、刀の持つ真価、その片鱗が出せる様になって来ていたのだ。

 


「―――よし、もう一回!」


 セツは気持ちを入れ替えて、自分に活を入れる。

 バッと立ち上がると刀を構えた。


 両手でしっかりと握りしめ、刃を正面に向ける。

 真っ直ぐな刀身に一切のブレは無い。



 目を閉じる。

 数度、深い、深い呼吸をじっくりと繰り返す。

 心を落ち着け、波一つない水面の様な精神を保つ。


 意識は内側だけに向き、世界から音も消える。

 外と内で切り離され、時間の感覚も曖昧になっていた。



―――瞬間。


「ふっ―――!」


 目を見開いたセツの魔力が爆発的に跳ね上がる。


 余波は魔力圧となって周囲に伝わり、近くに居た生き物は慌ててへ逃げていく。

 その場に残ったのはセツだけ。

 足元の草もセツから逃げる様に倒れて揺れている。


 その余波の中心にて、全てが注ぎ込まれる勢いでセツの構えた刀が魔力に覆われていた。



 魔力も、意識も、目の前の刀にだけ。

 今持てる全てをそこへ向けて一点集中する。

 

「―――ぅくっ!」


 膨大な魔力はどんどん収束していく。

 まるで刀身をコーティングするかの様に、これでもかと圧縮され馴染んでいく。

 その様子は順調にも見えるが、制御が難しいのかセツの顔は険しい。

 ブレの無かった刀身もカタカタと震えていた。


 周りのことなど気にする余裕はなく、雑念が介入する余地もない。一心不乱の境地と言っても良いだろう。

 そんな状態を必死に維持している。


 いや、維持出来なければ、未だにこれを保てない。


(―――)


 白銀に輝いていた刀身は今、炉で熱された玉鋼の様に赤く発光している。確かな熱を宿し、辺りを溶かす様な熱さを放っていた。


 決して激しく燃え盛る猛火ではない。

 だがその有様は、滾る衝動を薄皮1枚で隠した寡黙な灼熱だった。

 

 

 汗が頬を伝って落ちる。肌が焼けるように熱い。

 足元の雑草にポツポツと火が着き始める。


 それは、己が制御しきれていない証左だった。

 そして制御が出来てない以上、必ず限界は訪れる。


「―――ぅわあっっ!!」



 ボンッッ―――!!


 収束していた魔力が勢いよく爆ぜた。



「……っつう! またダメ―――じゃなくて!! やっば、どうしよコレ……!」


 熱さに顔をしかめるがそれどころではない。

 慌てて辺りを見渡すと、映るのは所々で燃える雑草だった。

 まだまだ小さい火種だがこのままだと確実に火事になる。



 近くに小川があった筈。水を汲んで来ないとまずい。

 けど入れ物なんて持ってないし、どうすれば!?

 何か、何か消す方法―――



 キョロキョロと解決策を探すが見つからない。こうしている間にも火は徐々に広がっていく。


 今なら服でも濡らせば消化出来そうなものだが、焦ったセツには何も思いつかない。それは魔力を大量に消耗した事による疲労も影響していたのだろう。


 その結果、思考が変な方へ行ってしまっていた。



「―――斬るか?」




「いや、落ち着きなさい貴方」


 そう言って背後から突然、混乱するセツに呆れた突っ込みが入る。

 更にはそれと同時に水が降って来ていた。


 水は意志を持った動きで宙を舞うと、セツだけを綺麗に避け全ての火を消していく。

 振って来た水は跳ねることはなく、足元にも火があったにもかかわらずセツには一滴も掛かっていない。

 見事に火種だけを狙い撃ちにしていた。



「お怪我はありませんか?」

「ア、アスロン……!」


 ハッとしたセツが声の方を向くと、そこには見知った顔。

 助けに現れたものの正体はアスロンとその魔術だった。


 これには流石にセツも落ち着きを取り戻した。

 無事に鎮火し、アスロンの顔も見れた事で胸をなでおろす。己の準備の悪さに反省はあるが、取り敢えずは安堵していた。


「はあぁー……。ありがとう、助かったよ。……いやホントにマジで」

「ご無事なようでなによりです。しかし、気を付けて下さいね? 私としても応援はしていますが、それで怪我をされては悲しくなりますので」

「ごめんごめん。正直、自分がここまで出来るようになってるとは思わなくてさ……」


 あはは、と笑って誤魔化すが、視線は気まずそうに逸れていた。


 やらかした自覚はある。アスロンがこのタイミングで現れなかったらどうなっていたことか。

 ただそれと同時に、自分の成長具合が嬉しいのもまた事実。

 それゆえ、喜ぶに喜べず何とも言えなかった。


「い、いやぁ……魔術も真面目に勉強しとけば良かったわ」

「貴方、昔から剣術ばかりでしたからね。ですが物事は適材適所です。セツはそのままで良いと思いますよ」


 思いがけない一言で、セツは一瞬言葉に詰まる。

 アスロンなりの気遣いなのだろう。

 色々自覚した今のセツには、それが何だか少し照れ臭かった。


「……ありがたく受け取っとく。───まあでも、今後は対策してからやるよ」

「はい。そうして下さい」


 セツの気持ちを知ってか知らずか、或いはいつも通りか。

 アスロンらしくニコニコとしていた。






「それで? 何か用でもあった?」


 話題を変える……わけではないが、セツはそう言えばと問い掛ける。

 セツ一人で居た所にわざわざ来たのだ。

 何か用事でもあったのだろう。


「っと、そうでした。そろそろ時間ですので呼びに来ました」

「───えっ!? もうそんな時間!?」

「はい。時間を忘れるほど集中していた様ですね。自室に籠ったリンシーの方も今、ヴォルス様が呼びに行かれている所です」

「分かった。なら待たせる前に行かなきゃね」


 そう言いながら刀を鞘に収めると、急足でアスロンについて帰る。

 普段あれだけ時間にうるさく言っているのだ。

 これで自分が遅刻するわけにはいかない。




「……いよいよ、だね」

「やはり、鬼の国と言うのは思うところありますか?」

「そりゃあまあ気にはなるでしょ。何せ同族らしいし?」

「それもそうですね」


 次の旅先は鬼の国『カライ』。

 セツと同じ鬼人種が住む島国だ。


「港に着けば、後は船に乗るだけなんだっけ?」

「出航のタイミングが合えば今日にでも、と聞いています」

「そこはのんびりでもいいんじゃない? 多分ヴォルスもリンシーもそんな感じだろうし」

「私はヴォルス様に合わせます」

「……あんたはそうでしょうね」



 4人が辿り着く時は、もうすぐそこまで来ていた。




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