表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
鬼の国/セツの責任
47/56

第45話 暗躍する者達



 暗がりなその部屋は、重い空気に満ちていた。


 窓は一つも無く、灯りは机に置かれた小さなランタンのみ。ユラユラと怪しく揺れる小火だけが、部屋を仄かに照らしていた。


 部屋は広さの割に殺風景であり、灯りが見せるものは数少ない。

 幾つかの椅子と中央に置かれた机。それから3つの―――いや、2つと1つの影であり、些細までは闇に隠れ見えづらい状況だった。


 分かることと言えば、2つの影は似た姿の子供であり、もう1つは成人した男という事くらいだろう。

 重い空気はその両者が原因だった。

 



「ほんとに情けない」

「ほんとに使えない」



 互いに膠着する中、あまり抑揚のない声が続けて2度放たれた。

 冷徹であり、見下した声。遠慮がなく攻撃的な物言いは、敵意すら感じる。


 それは男に対して掛けられた、吐き捨てる様な蔑みだった。



「っ……申し訳、ありません」


「あれだけのものがあって失敗するなんて」

「あれだけのものを授かって負けるなんて」



 もし男の顔が見えていれば酷い冷や汗だっただろう。逆に、2人の方はゴミを見るような目をしていたに違いない。

 男は真正面からぶつけられる明確な失望を前に、ただ膝をつき、こうべを垂れていた。


 一触即発で今にも爆発しそうだ。

 呼吸するのも苦しいくらい、空気が張り詰めていた。


 だがそれほどの状態でも一線が保たれているのは、男にもチャンスがあるからだった。



「でも、救いは与えられた」

「でも、施しは与えられた」


「はっ……恩情、ありがたく……!」



 男はさらに深々と、地面に頭を擦り付ける勢いで礼を言う。


 だが一方で2人は、救い、施しとは言ったが、その言葉に何の期待も感じない。不本意ながら仕方なく言った、そうとしか読み取れない。


 だからこそ2人の言葉は、身体が底冷えするほどに冷たかった。



「「―――次は無い」」




 結局最後の最後まで、男の頭が上がることは無かった。





 ◇



 静かに扉が閉められる。


 部屋から出てきた男はすぐさま立ち去っていく。

 足音は立てずに、それでいて速やかに。一刻も早くその場から離れたいという気が強いのか、まるで逃げる様な早歩きだった。



 だが、それも最初だけ。

 部屋から離れるにつれ、足音は徐々に大きくなっていく。十分な距離になった時にはもう、足音は遠慮のないものに変わっていた。

 それはまるで、我慢していた何かを発散するかの様で、すでに最初の静けさとは真反対のものになっていた。


 今聞こえるのは、粗雑で乱暴な、苛立ちの音だった。




「―――ソッ! クソ!クソ!クソ!クソがぁっ!!」


―――ドンッと、辺りに鈍い音が響く。

 力任せに振るわれた拳が壁に打ちつけられ、少しばかり空気が震えた。


 ついさっきまで何を言われても粛々と受け入れていた男とは思えない乱れっぷりだ。

 まさしく豹変、と言っていいだろう。


(このオレがっ! なんであんなガキ共の下につかなきゃいけねぇんだっっ!!!)


 息を切らすほどに叫び、抑制していた激情を吐き出してなお、男の怒りは収まらずにいた。

 時が経てば怒りは収まる、とは言うが今の男にそれは当てはまらない。


 どんな落ち着こうとしても、湧き続ける怒りが心をかき乱してやまなかった。



 しかしだ。

 いくら離れたとは言ってもあまり騒がしくするのはよろしくない。それであの2人に聞かれないとは限らないし、それに何よりこんなこと聞かれるわけにもいかない。

 そのくらい判断する理性は残っている。


 今はただでさえ失態によって信頼を大きく失っている状態だ。あの2人だってそれをカバーするために送られて来た人員。

 あれでも、あっちの方が立場は上なのだ。


 業腹だが、ひとまずは従うしかない。



(……今だけだ、今だけ我慢してやる……! あんなポッと出のガキ共がいい気になってられるのも今だけだ!)


 ギリリ、と歯を食いしばって耐える。

 そして怒りを滲ませながらも何か思い出したのか、今度は不敵に笑った。

 

「ハッ、今に見てろ。計画は順調に進んでんだ。助けなんかいらねぇ!」


 男は静かに吠える。



「―――オレの方が優秀だって、思い知らせてやる!」





 ◇



 男が一人感情を爆発させていた頃。

 出て行った部屋には未だにあの2人が居た。


 灯りはそのまま、影も移動していない。

 男が出て行った以外は何も変わっていなかった。


 そんな部屋の中で2人―――()()は会話を続けていた。



「はぁ……なんでわたし達がこんなこと」


 そう溢したのは女の子だった。

 男へ向けていた攻撃的なものはないが、ただひたすらに面倒、つまらない、そういった煩わしさがため息に混じっていた。あまり抑揚のない無機質な口調は相変わらずではあるものの、嫌々であることはよく伝わる呟きだった。

 雰囲気は先程までと変わらない。


 しかしもう一人、男の子の方は打って変わって柔らかい雰囲気に変わっていた。



「しょうがないよ。これも任務、我慢しなきゃ。そう思う気持ちは一緒だけどね」

「お兄ちゃんは甘い。……それに上も上。前の時は『虚殻(きょかく)』があって失敗した。じゃあ何させてもムダ。なのに、こんな遠いとこまで来させられて」

「はは、かもね」



 その柔らかさに絆されたのか女の子からも刺々しさが少し和らぐ。それでもまだ言葉尻は強いが、マシにはなっていた。

 そんな様子を見た男の子は、優しく微笑み返すと続けて言った。



「なら旅行に来たと思おう。そのために遠出して、ついでにちょっとお仕事するだけ。そうでしょ? だってこんなこと、昔は思いもしなかった」

「…………うん」



 男の子はその頷きにもう一度微笑みを向けると、女の子の頭を撫でた。

 唐突ではあったが特に嫌がることもない。

 大人しく受け入れているのを見るに、満更でもないようだった。




「でも、やらなきゃいけないお仕事も忘れないようにね」

「大丈夫、わたし達は失敗しない。鬼の国『カライ』。例え初めてのところでだって―――」

「―――ぼく達、2人一緒なら怖いものなんてない。なんだって出来る」


「「うん」」



 そうして互いに頷き合うと、暗がりの部屋から出て行く。

 手を繋ぎ、仲良さげに。



 双子もまた、目的のため密かに動き始めるのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ