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~ミライラ先生の魔術講座 その1~

この世界における魔術の設定の話です。

なので物語にはあまり関係ない部分になります。

 ここは、コルピテ王国の最西端にある都市『クランタ』。


 特殊な環境に置かれている関係で、数多の冒険者が暮らしている。

 冒険者が所属する組織、ギルドには拠点となる建物があり、そこには冒険者をサポートするための様々な設備がある。


 そのギルド建物内のとある一室。

 そこでは、3人の新人のために講義が開かれていた。




 ◇


「―――はい。それでは魔術の基礎について、簡単にですが授業を始めますね」

「ええ〜? オレ魔術なんて使わないし、ここにいる意味ある?」


 そう不満げに言ったのは、最近冒険者になったばかりの少年ロイド。その顔は外に遊びに行きたいがそれを許されない、そんな活発な子供のようだった。


「ちょっと! だめだよそんなこと言ったら! せっかく教えてくれるのに……」

「だってさあ……魔術の勉強より剣術の鍛錬の方がやりたいし」


 それを止めたのはセシルという少年だ。彼をまた新人の冒険者であり、ロイドと同じパーティの一員だった。


「セシル? こいつにはもっとキ・ツ・く、言わないと駄目―――」



 パァン―――と部屋中に鳴る音。


「―――ってぇ! 何すんだよクラリー!」



 それは、クラリーと呼ばれた少女がロイドの頭を叩く音だった。


「あんたねぇ……いくら何でも失礼でしょうが! わざわざ赤ランクの方に来て貰ったのよ!」

「にしたって叩くことねぇだろ!」

 叩かれた頭をさすりながらロイドはそう言う。しかしクラリーはそんな様子を鼻で笑った。


「ふん。普段から鍛えてる割に軟弱なのが悪い」

「何だと!」

「何よ!」


 顔を突き合わせ2人はいがみ合う。

 今にも大喧嘩に発展しそうだがセシルが慌て、何とか落ち着けようと仲裁している。やり方が手慣れているのを見ると、普段からいがみ合っているのが分かる。

 そこにやたらと焦りが見えるのは、目の前に赤ランクの冒険者がいるからだろう。それもこれから先生となる相手の―――。




 ミライラは、そんな状況に既視感を感じていた。


(これは……ふふっ、アレクとエリーナを思い出しますね。こういうのはどこにでもいるみたいですねえ……)


 2人の言い争いを止めるでもなく、ただ微笑ましそうにその光景を眺めていた。

 


 そこへ、場を鎮める者が1人。


「―――はいはい、そこまで。時間には限りがあるんだぞ? 知らなかったか?」


 パンパンと、2度手を叩き気を引いたドリドは、揶揄い混じりに皮肉を言った。



「「ご、ごめんなさい!」」



 ハッと状況を思い出した2人は慌てて謝る。


「まあいいさ。……それより、講師のミライラが止めなくてどうする」

「あら、ドリドだって教える側じゃないですか」

「俺はあくまで補佐だよ。暇してたから来ただけで、今日は魔術の話なんだろ?」


 時間があるからとミライラに付いて来たドリドだったが、休日にわざわざ新人の教育にやってくる辺り、面倒見が良いのが伺える。

 それを分かっているミライラは、ニコニコとドリド見るだけで何も言わない。


「……はぁ、分かったよ。――――――ロイド。まあいいから聞いておけ。損はない」


 ロイドの顔を見ながらドリドはそう語り出す。


「魔術の仕組みを知ってりゃ分かる事もある。他にも仲間の魔術士と何が出来て、何が出来ないかを共有し易いし、知らないが故の変なすれ違いも無くなる。他にも、夜中パーティの魔術士とはぐれたら灯りはどうする?怪我で魔術が使える状況じゃ無かったら? 考えられる事態は色々あるぞ。―――実際、俺たちのパーティは皆んな、最低限の魔術は使える」


 今度はロイドも静かに耳を傾けている。

 

「こういうのに限らず、色んな知識をどんどん頭に入れてけ―――常に不測の事態が付きまとう、死と隣り合わせの冒険者なら特にな……」


 自他共にそういった経験があるのだろう。

 ドリドからは幾つもの混ざった感情が見える。ただその中でも、真剣に目の前に居る新人の事を想う感情だけは、間違いなくハッキリと読み取れた。



 ドリドの真剣な語りに少しの間部屋が静まり返る。

 ミライラは、その空気を(やわ)らげるように明るく話し始めた。


「それじゃあ、講義を始めましょうか」


 そう言ったミライラに、ロイドはもう必要無いとは言わない。

 講義を受ける3人はミライラの言葉に返事をすると、席に着いた。




 ◇


 3人が話を聞く体勢に入ったのを確認したミライラは、改めて魔術の講義を開始した。


「まず最初に、皆さんは魔術とはどういったものだと思いますか?」

「どうって……火とか、水とかを出す……もの……かなぁ……?」


 悩みながら曖昧な答えを返すロイド。今まで如何に魔術に触れて来なかったかがそれだけで分かる。


「もう、それだと異能と区別がつかないでしょうが……。魔術っていうのは、"()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"の事!」


 クラリーは呆れると、代わりに説明した。


「正解です。私が欲しかった回答がそれです。ふわっとした質問だったのに素晴らしいですね」

「えへへ、ありがとうございます。まだまだ簡単なのしか使えないけど私だって魔術士だし……何より、魔術を教えてくれたシスターのおかげです!」


(この子達は孤児院の子……そっか。そこで色々教えてもらったのね……)


 嬉しそうに話すクラリーにミライラはなるほど、と納得した。


「"異能"…………そうですね。先天的なものや後天的なものと、異能は様々ではありますが、ここは最も馴染み深い『武技』にしましょう。―――ロイドくんとセシルくんは武技を習得する時、何をしましたか?」

「何、って。そう言われてもなぁ…………んー、修行……?」

「うん……。武技を出すために何度も練習した……かな」


 顔を見合わせた2人は曖昧にそう答えた。


「そうですね。習得するのに何度も修練を重ね、時間も掛けたと思います。ロイドくんなら剣術、セシルくんなら槍術……。もしかしたら、参考にした人や流派なんかもあるでしょう。基本的に武技とは、そういった修練を重ねて習得した魔力を消費する『武術』なのです」


 ミライラは、ロイドとセシルの顔をそれぞれ見ながら、そう説明を続ける。

 2人は自分達が実践しているのもあり、そこは理解しているようだ。相槌を打ちながら静かに聞いている。


「……では、魔術は―――それは『学術』と言えます」

「―――が、学術ぅ!?」


 学術と聞き、あからさまに嫌な顔をするロイド。

 ここまでの本人の言動からも分かる通り、勉強はどうやら苦手らしい。

 一方で魔術を使うクラリーは勿論、セシルに関してもそうでもないようだ。


「あんた勉強嫌いだもんねー」


 揶揄うような口調でクラリーはそう言い放つ。

 ロイドはそう言われて不満顔ではあるが、事実であるためか口を噤んでいる。


「まあまあ。今回は実際に勉強するってわけじゃないから……ですよね、先生」

「ええ、セシル君の言う通り。今日はあくまで概要を知ってもらうだけですからね。そんなに構えなくても大丈夫ですよ」

「そ、そっか……」


 ロイドに不安げな感じはまだ残るが、それでも頑張って聞く気にはなったようだった。



「では、改めて説明しましょう。―――皆さん、算術は出来ますか?」

「算術、って言うと……足し算とか引き算のことか……?」

「一応わたし達はシスターに「将来役に立つから~」とか、「冒険者になるなら色々買うしお金の管理くらい出来るように~」って、教えて貰ったので簡単なものなら出来ます」

「なら大丈夫。ほんとに簡単なので」


 ミライラはそう言ってニコリと微笑むと、手元の紙とペンを手に取った。

 そうしてペンを走らせた後、その紙を3人に見せた。


「皆さん、これを見て下さい」


 その紙には『〇 + △ = □』と書かれていた。

 思っていたのと違い、3人は各々不思議そうな顔で見ている。


「これは、魔術の起動から発動までの流れと思って下さい。式の部分は詠唱や魔術の構築、魔力を消費する工程ですね」


 そう言いながら、掌サイズの小さな杖を持ったミライラは魔術を起動する。

 一瞬で構築された魔術はつつがなく発動に向かい、そして―――


「―――《火よ》」


 杖の先から、蝋燭に灯る様な小さな火が出現した。



「これが答えの部分―――発動した魔術になります」


 おお、と言う声を上げ3人は拍手する。

 ロイドとセシルは魔術の行使への、クラリーは発動の速さや綺麗さに対して。

 感じたものは違ったが同じ様に賞賛を贈っていた。


「ふふっ、ありがとございます。―――と、この様に魔術は、算術に例えると分かりやすいです。今の様な『小さな火』だと2+3=5ですが、これが『火の球を複数発射』などと複雑になると、数字が数十、数百と増えたり、式が長くなったり……みたいなイメージですね」


 そう説明を終えるとミライラは杖先の火を消した。


 火が消えるまで眺めていたロイドとセシルは、この説明で何となく理解したようだった。クラリーの方は流石に理解している内容ではあったが、それでも一語一句聞き逃さないようにしていた。



「皆さん、ここまでで何か質問はありますか?」


 ミライラが3人へ向けて聞くと、失礼かもしれないが意外な事にロイドが真っ先に手を挙げた。


「はいはい! じゃあさ、聞きたいことあるんだけど」

「はいロイドさん。何でしょう?」

「クラリーがさ、いつも1人で魔術のこと勉強してて思ったんだけど。何で魔術教える人ってあんまいないの?」


 ロイドには疑問だった。

 クラリーにも聞いた事だったが、”魔術士は皆んな自分で研究してそれを他人に教えたりはしない”、というのをずっと不思議に思っていたのだ。

 それを思い出したロイドは、良い機会と質問してみたのだった。


「アンタねぇ……わざわざそんなこと―――」

「でもクラリー、それでいつも頭唸らせてるじゃん? ……自分で考えるのも大事だと思うけど、誰かを頼るのも大事だぞ」

「―――」


 黙ってしまったクラリーは少し照れているようにも見える。頬が若干赤く染まっていた。



「ふふっ。ではその話もしましょうか」


 微笑ましくて思わず頰が緩んでしまったミライラ。

 ただあまりそこに突っ込むのも良くないと思い、出来るだけ間を置かずに話を始めた。


「『魔術の適正』についてはご存じですか?」


 ロイドとセシルは何も言わず、同時にクラリーに顔を向ける。

 つまりは知らないのだろう。

 クラリーはがっくりとため息を吐いた。


「はあ、しょうがないか……。生まれつきの向き不向きよ。わたしは火が向いてる。いつも使ってるから分かるでしょ?」

「言われてみれば……確かに魔術師って同じ属性ばっかり使うイメージあるかも」

「じゃあ他の属性は使えないのか?」

「そんなことないわよ。あくまで向き不向きの話。……ようは使えはするけど、適性のある属性に比べたら効率、出力が段違いなの!」

「「はえ~……」」


 クラリーの説明に感心する2人。

 その様子をミライラは笑顔で見守っていた。


「今クラリーさんが言った通りです。……そうですね。さっきの例えを使って説明しましょうか」


 ミライラは再び紙を持って話し始めた。


「適正が火の人が2人居るとします。ですが同じであったとしても微妙に違うのです。2+3=5が最適の人もいれば、1+4=5が最適な人もいるのですよ。そして適性の無い人の場合もっと遠回り、1+2+2=5のようになってしまいます」

「それがクラリーの言っていた出力、効率が段違い……という事なんですね」

「はい。その通りです」

「―――でもさあ、それが魔術を教えない人が多いのとどう関係あんの?」


 ロイドが疑問を呈す。

 既に答えは言った様なものだが、それでも答えるべくミライラは視線を合わせる。


「つまり最適な魔術式は人それぞれのもの。基本を教えることが出来てもその先は別。どんな魔術師であっても―――自分の力で研究、探求しなければならないのですよ」


 真っ直ぐに、目の前の少年へ現実を伝えた。






「……そっかあ。じゃあ魔術師ってずっと、自分の魔術を極めるために1人で頑張ってんだ。クラリーもそうなのか?」

「まあ……そうね」

「お前、やっぱすげぇよ」

「―――っ」


 吹き出しそうになるクラリーだったが何とか抑える。


「あれ? おーい、なんでそっぽ向くんだよ」

「―――うるさいっ!!」

「わあっ! ど、どうしたんだよ……」


 後ろを向いてしまったせいで顔は見えなくなったが、耳が赤いのだけは隠せていなかった。




設定の話なので、もし説明が分かりにくかったら修正します。

本編中の何処かの時間であったことと思っていただければ。


あと「その1」となっているように続きはあって、そのうち出します。内容については詠唱や杖など、魔術や異能あたりの説明を入れようと考えてます。

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