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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
44/56

第43話 直感と光明


―――夜。

 気温も落ち、肌寒くなった頃。

 既に都市の殆どが眠りについていた。


 その中のとある一軒家。

 その一室には、未だ明かりが灯っていた。




「はぁ……やっと落ち着いたわね」


 そう呟いたのはルビアだった。

 椅子に身を任せてどさっと腰掛けると、疲れた様子で背もたれに体を預けた。

 部屋内には『緋刃舞踏』のネリアとガネッタも集っており、各々がリラックスできる形でくつろいでいた。


「流石に今日は疲れた」

「ああ、早く休んだ方が良いだろう。今日ほどではないにせよ、明日からもまた暫く忙しくなる」


 それもそのはず。 

 ディノグライアを討伐し、此度の襲来が終わったのは今日だ。

 朝から樹海を駆け回り、死力を尽くして戦った。それが終わった後だってやれる事を率先して取り組んだのだ。ベッドに転び疲労感に身を任せれば、すぐにでも夢の世界に旅立てるだろう。


「……でも、そういうわけにはいかない」

「分かっている。このままでは休まるものも休まらない」

「うん……」


 本来ならば、疲労感は満ち足りたものであった筈だ。何せ過去最大級の襲来を解決したのだから。

 しかし―――



「消息不明になった、エニュオタウロスとその先遣隊……だね」



―――しかし、今ここにあるのはそんな明るいものとは反対に、どんよりと暗く憂鬱なものだった。


 だがそれも仕方がないだろう。

 上げて落とされたのだ。あんな事があれば、意気消沈するのも無理からぬことだった。


「まさか、まだ大物がいたなんて……」

「襲来中にそれらしき目撃も無し、さっきの調査中にも痕跡は無し……結局正体は分からず仕舞いで今日は切り上げ……。はぁ……全く、もどかしいね」


 苦い顔で頭を抱えるネリアは、溜息とともに愚痴を吐く。

 ネリアがこうあからさまに落ち込むことはあまりないが、今回ばかりはそれも納得だった。

 何せ、小さくない被害が出ただけでなく、情報すら殆ど手に入らなかったのだ。


 心身ともに疲れ果てていた。



「取り敢えず、エニュオタウロスが倒れた場所にそいつが居たのは間違いないのよね?」

「ああ。現場に新しい戦闘痕、血痕が残っていた。そこで何かあったと断定していいだろう」

「護衛についてた2人の実力は決して低くない。むしろ高い部類だよ。なのに、時系列的に現場に居た時間は短い……」

「……」


 昏い沈黙も、沈んだ声も、夜の暗闇に吸い込まれ消えた。

 信じたくはないがこの事実が示すことは一つ。


 急襲したその敵は、最低でも襲来の元凶に匹敵する力を持っているということだった。


「せめてもっと痕跡が残ってれば、話は違っていたのかもしれないのに……」

「たらればを言っても仕方ないわよ……気持ちは分かるけどね。―――まさか、エニュオタウロスまで消えてるとは思わなかったけど……」


 ネリアの嘆きは当然だ。

 実際、現場には何も残っていなかった。あったのは激しい戦闘痕だけで、何故かエニュオタウロスの姿は全く見当たらなかったのだ。


「やはりそれも件の敵の仕業と考えるのが自然か」

「恐らくね」


 もしエニュオタウロスを連れ去った存在と、先遣隊を襲った存在が別の場合、エニュオタウロスほどのサイズの魔物を綺麗に運べる存在が今の樹海に居ることになる。今はあれだけの襲来で相当の魔物が減っており、それが出来そうな存在も今回の襲来では確認出来ていない。

 ならばそれは同一の存在ではないかと、そう考えていた。

 或いは疲弊した今、そうであって欲しいという願望もあったのかもしれない。



 だがいずれにせよ、その考えは間違いなどではなかった。むしろ至るべき真実へと向かっていたのだ。

 それが、認めたくないものだとしても―――



「ああもう、ホントに……タイミングの悪い! なんでこんな時にっ……!」

「落ち着け、ネリア。誰にも予期出来なかった事態だ。こればかりは致し方あるまい」

「分かってるけどさ……!」

「我々がそう悲観しては()()()()()()()()。今は皆、英気を養う時だ」


 今回起きてしまった事件は、話し合いの結果ひとまず秘される運びとなっていた。


 今はクランタ全体が希望で満たされている。そんな中で「実は襲来はまだ解決しておらず被害も出たが、詳細の一切は不明」だなんて報告がされればどうなるか?

 そんなもの目に見えている。

 いつまでも隠し通せはしないものの、だからと言って不用意に混乱を撒き散らすべきではない、というのが会議で出た結論だった。



―――とはいえだ。

 真実を知っている者からすれば、やはり堪えるというものだ。


 それこそ今のネリアの様に。


 だがしかし、こんな時でもガネッタは冷静だった。いやこんな時だからこそ冷静に務めているのだろう。

 実に頼もしく、この凛とした精神性にはとてもじゃないが敵わない。

 どっしりと構えた落ち着きようは、見ているだけでネリアに安心感を与えるものだった。



「……そうだね、その通りだ。ふぅ……ガネッタの冷静さには助けられるよ。大丈夫、情けない姿を見せるのはここだけだ」

「それは良かった」


 やっと笑顔を見せたネリアに、ガネッタもつられて微笑む。


 ずっと気にかけてくれていたのだろう。

 思っているより自分は気を病んでいたのだと、ネリアはようやく気付けた。



 ただ頬が緩んだのはその一瞬だけだった。


 背筋を伸ばし、改めて気持ちを入れ替える。

 着飾っていない素のネリアから、『緋刃舞踏』のネリアとして、真っ直ぐな目つきになっていた。


「取り敢えず、明日もまた現場周辺の調査から始めることになるのかな。……痕跡が残ってるかは分からないけど」

「そうだな。タイミングが悪いのは正にその懸念通りだ。今日は調査を行うにも襲来直後で皆が疲労困憊で、日もほぼ暮れた時間帯だったからな。無理に決行しても2次被害が広がるだけだった」

「だから途中で切り上げることになったわけだけどね……。一応、現場は最低限《結界》で守ってあるけど、やっぱり早いに越したことはないから」



 《結界》魔術は主に「外敵から護る」といった用途で使われている。

 よくある例としては、要人が使用する建物や部屋にといったものだ。


 一方、ここで言われている《結界》については「魔物が寄り付きにくい」といったもので、正直に言うと効果は微々たるものだ。

 ただそれも仕方がなく、即席で展開し持ち運び可能な魔道具の《結界》魔術となると効果は限られてしまう。普段見かける魔物程度ならともかく、強大な力を持った魔物が相手となると効き目が薄いのだ。

 それこそ先遣隊を襲った様な相手だと、《結界》など無いのと同じだろう。


 憂いが消えないのも当然だった。




「先遣隊も《結界》を置いて襲われてるみたいだし、そいつが戻って来て現場が荒らされる可能性も――――――って、ルビア……? どうかした?」


 そこまで話してふと、様子が気になったネリアは声を掛けた。


 あれこれと話しているが、どうしてか先程からルビアは黙りっぱなしだったのだ。

 様子を見るに一点を見つめたまま固まっており、何か考え事をしているのは分かる。


 ただ、その様子は何処か緊張感を覚えるものだった。



 波一つない水面に、一滴の雫が落ちた様な不安と心配。

 問い掛けたネリアの心には何故か、禁断の扉を開いたと思わせる奇妙な感覚があった。



「―――ねぇ。『勘』の話、覚えてる?」


 突然、そう呟くように問い返すルビア。

 一点を見つめる視線はそのままにただそれだけを言った。


 いまいち概要が掴めなない。

 しかしネリアとガネッタは顔を見合わせると、不思議そうにしながらも頷き合っていた。


「まあ、覚えてるけど」

「何か分かったのか?」


 『勘』の話はもちろん覚えていた。

 今それを言われて「そう言えば」と思い出した程度ではあったが、その話を忘れてはいない。


――違和感を感じる―――


 そう言ってルビアはその時も今と同じ様に考え込んでいた。

 当時は何が引っ掛かっているのかルビア自身も分からず、ただ勘が訴えて来ていると答えるしかなかった。


 だが今のルビアの言動には、どこか確信めいたものがあった。



「もし、もしもの話だよ? まだ仮定でしかない話なんだけど―――」


 その先を言いたくない様な、自分の考えを否定する様な、そんな溜め方で前置きをするルビア。

 感情では信じられないと思う部分があるのだろう。


 しかし現状を俯瞰する理性が、結論は決して間違っていないと告げていた。



()()()()()()()()()()()()―――って言ったら信じる?」



「「―――!?」」



 "人為的"。

 心臓を鷲掴みにされた様な衝撃だった。


 そんな事、これまで考えたこともない。

 大小あれど襲来は強力な魔物を伴う災害だ。そんなものを誰かが用意し、クランタを襲わせている。

 予想だにしない仮定だった。



 落ち着こうにも混乱する頭が理性を妨げる。

 ネリアにはその結論に至った理由が分からなかった。


「―――ち、ちょっと待ってくれ!! 本当に言ってるのかそれは!?」

「っ……」

 

 気持ちはガネッタも同様だった。

 難しい顔で眉をひそめ、何か言いたげに口が動こうとしている。ひとまず黙してはいるが、今すぐにも問い詰めたい様子がありありとしていた。



「……」


 肌を刺すような緊張感。

 返答はなく、沈黙が一時この場を支配する。


 その考えに混乱しているのは2人だけではなかったからだ。



「あくまで仮定だってば! 私だって信じ難いと思ってる……」


 呆然としてしまう。


 仮定だとは前置いたが、間違っているとは思っていない口調をしていた。

 それが真実ならば大変なことだ。

 これまでして来た調査の前提が覆る。


 しかし、真実ならば――――――



「……よし、聞こう」


 ガネッタは真っ直ぐと向き合うように座り直す。

 その仮定が語られるのを、正面から構えて待っていた。


 ネリアも、ルビアと視線が合うと神妙な面持ちで頷く。

 2人とも、心は決まった様だ。



 ルビアは大きく深呼吸をすると、自分の行き着いた仮定を順番に語り出した。




 ◇


「『タイミング』……その言葉でハッとしてね」


 それが出たことで、ルビアは勘でしかなかった違和感の正体に気付くことができた。


「今思えば事前の調査―――大々的に襲来発生の公示が出る前。私達が樹海を走り回って探したってのに全然見つからなかった。疑いはあっても確信を持てる痕跡は無かった。そして全貌が分かった今だから言えるけど……その次に調査をする予定だったエリアにこそ、件のディノグライアが陣取ってた」


「つまり、もうすぐバレるから襲来を起こしたと?」

「うん、だと思う」



 当時の段階では知る由もなかった事だが、あと少し襲来の発生が遅ければ、先んじて群れを叩くことも出来ただろう。

 確かにそんなタイミングで起きた襲来だった。


 ただそれだけでは偶然で十分片付けられる範囲に過ぎない。

 人為的と言うには早計だ。


 それはルビアだって百も承知なこと。

 他にもまだ理由はある。


「それから魔物の群れもそう。あんな大規模だったのに、その大部分が見つからなかったのも結局そこに居たからだし。いくらディノグライアが戦えなくて自分を守るためだとしても、それは過剰だと思わない?」

「まあ、確かに。群れの規模自体はいいとしても、それをそこまで一箇所に集める必要があるかと言えば、ねぇ?」

「それだけ護りに徹していたとも捉えられはするが、襲来の全容がバレないよう隠れていたとも取れるな」

「ええ。それにそんなに自分を護りたいくらい慎重なら、あんな一斉に群れを突撃させるような真似は考えにくい」


 これでは攻めるために、身を潜めていたように見える。

 最低限オークの護衛は残していたが、あのエリアで安全に陣取るなら正直に言ってもっと戦力が欲しいところだ。

 魅了の力も万能ではない。それこそ『緋刃舞踏』に効かなかった様に、耐性のある魔物もいるだろう。

 慎重さがあるのなら、ティタンプレドかエニュオタウロスを護衛に加えるのが自然に思えてしまう。


 だからこそ感じた疑念、不自然さだった。



「なるほどね。確かにそれなら襲来がこちら側にバレないようにしていたと考えれる……」


 顎に手を当てたネリアは頷く。

 まだ確定とは言えないが、これは可能性として十分に納得の出来る理由だ。

 新たにその線で調査し直す価値はあるのだろう……。



 だが、だがしかし。

 そうであるのなら、これだけは言わなければならなかった。



「でも分かってるのかルビア? それはつまり―――()()()()()()()って事だぞ?」



―――空気が張り詰める。


 それは慎重に探るような問い掛け。

 ある種の確認のようにも思える投げ掛けだった。



 ルビアの仮定は、こちら側に見つからないようにしていたというもの。自分達を含めた冒険者ギルドがいつどう動くのか、それを知っていなければ出来ない芸当だ。

 それが出来たということは、内情を知る者―――それも高ランク冒険者の行動を知れる程の者だということだった。




 そんなこと、当然分かっている。

 きちんと理解しているからこそ、ルビアは苦虫を噛み潰したような顔をしているのだ。



 誰も彼もがクランタのためと尽くしている者ばかりだ。そんな仲間を疑いたくはない。

 だがギルドの内情に詳しいとなると、十中八九見知った人物が犯人だ。


 信じたくはないが、それは目を背けられない真実。

 ルビアは無理矢理にでも己を納得させるしかなかった。




 そうしたルビアからの返答こそなかったが、ネリアにとっては目に映ったその表情だけで察するには十分だった。



「ああ……やっと繋がったよ。つまりはエニュオタウロスの件も、悪意を持って実行した犯人がいる。そういうわけだね?」


 そしてここまでくれば、そう推測が出るのは自然だった。


 方法こそ不明だが、意図的に襲来を起こせるということは、魔物を操れるのだ。その人為的な痕跡が残っているのだとすれば、確かに一発でバレる。


 つまり、エニュオタウロスには見られたくない何かがあり、これを調査をさせないために襲ったのだろう。内部に犯人がいるのなら、証拠隠滅が出来るタイミングを見計らう事も出来る。


 それを防ぐためと考えれば、このタイミングで事件が起きた事は納得だった。



「うん。放置してる遺体もあるから、バレても良い魔物と駄目な魔物がいるってのはあるけど……。少なくとも今はそうだと思ってる」

「そうか……。ふぅぅ」



 深く息を吐き、天を仰ぐネリア。


 怒りはあるが、憤慨まではいかない。

 まだ推測の段階の今、信じ難い、信じたくないという感情が防波堤となって押し留めてくれていた。




「一つ、ルビアの考えを聞きたい」

「……何かしら?」


 ネリアが押し黙る中、今度はガネッタが問い掛ける。

 意味深にも、返事には少し間があった。



 それは長年の付き合いからだろう。

 ルビアはその一言だけで、ガネッタが言わんとする内容を何となく察していたのだ。


 聡いガネッタなら行き着くだろう考えを。

 恐らく同意されるであろうその考えを。

 言いたくはないが、言わなければならないその考えを―――

 


「―――過去の襲来も、人為的に起こされていたと思うか?」




「なっ―――!?」


 思わず立ち上がって驚くネリア。

 ただでさえ感情が整理しきれていないというのに、追い討ちで殴られた様な気分だった。

 ぐるぐるとまとまらない思考が脳内を駆け巡る。


 まさかその可能性があるとは思いもよらなかった。心が掻き乱されるのも今日何度目か分からない。



 だが、それも落ち着いてよくよく考えればあり得ない話ではない。

 

 多発する襲来、長年の調査。

 そして判明しない原因。


 どれを取っても、内部の誰かが犯人で意図的に起こしたのなら、それは納得がいく。

 過去に逃したことのある魔物も、もしかすると同じ理由で行方をくらませた可能性が考えられた。


―――無論、納得がいくだけで到底許せるものではないが。




「クソッ……犯人からすれば、私たちは随分とマヌケに見えてただろうね」

「悔しいが否定は出来んさ。襲来の頻度が上がった時期から数えればもう十数年にもなる」

「今思えば、クランタは随分と長い間戦って来たのね……これが日常になってしまうくらいに」


 そうなってしまったというのはとても悲しい事だ。

 死傷者の絶えない非日常だったはずが、今では当たり前になってしまったのだから。



 しかしそれも変わる時―――いや、元に戻る時が来たのかもしれない。

 怒りや悔しさの中、僅かだがそんな希望も見えてくる。


 ルビアの推測は、長らく先の見えなかった暗き道行にやっと差し込んだ、一筋の光だった。





「でもなんにせよ、やっと尻尾を出したわけか……」


 複雑な心境の中、ネリアはため息混じりに呟きを零す。

 色々思うところはあるが、一先ずは喜ぶべきなのかもしれないと思って出た言葉だった。


 その気持ちは大いに理解出来る。


 ただルビアにはまだ、もう一つ推測があった。



「……多分"出てしまった"が正しいんだろうけどね」

「ん? 出てしまった?」


 ネリアはつい聞き返してしまったが、すぐに思い直す。

 今度はネリアにもその考えが分かったのだ。


「いや、待てよ? そうだ。不測の事態……イレギュラーがあったじゃないか!」



 今回、襲来を起こそうとした者にとって一つ、予想外の事態があった。

 予想できる者など存在しない事態が。


 突発的に訪れ、状況を変えていった存在。

 それが―――





「――――――『渡り世』で現れたあの4人!」



 ヴォルス、セツ、アスロン、リンシー。

 その一行だった。



 『渡り世』は突発的に発生するものだ。

 4人の存在は誰にとっても間違いなく、唐突に現れたイレギュラーだった。



「あの4人の実力は知っての通り。今回の襲来でもその手腕を存分に発揮してくれた」

「そう。犯人からすれば、厄介な戦力が増えたと思ったでしょうね」

「もちろん、協力してくれない可能性もあったわけで……犯人は迷ったんじゃないかな? すぐに事を起こすか、4人がいなくなるのを待つか。2択を迫られた」

「だが、そこで我々の調査の手が迫った。これ以上待つと発覚するところまでな」


 本来ならもう少し早くに襲来を起こす手筈だったのだろう。

 しかし突然現れた4人の存在がそれを迷い遅らせ、もう延期の出来ない時期にまで入ってしまった。


「だから4人が協力しない方に賭けて、襲来を発生させた……か」

「事実、あの4人の有無が与えた影響は大きい」



 その結果はご存じの通りだ。


 4人はクランタの誰もが認める英雄になってしまった。

 『緋刃舞踏』に協力を申し出られるほどに認められた実力で、思い入れなど無いもかかわらず襲来収束の一助を担うほどに命懸けで戦った。


 彼ら無くしての勝利はもっと悲惨なものになっていただろう。

 それは誰の目から見てもそう言えた。



「逆に考えれば……もし、イレギュラーな4人の存在が無かったらどうなってたか?」

「被害は言わずもがなだけど、ティタンプレドの方は―――」



 もしも4人が居なかったら?

 彼らが戦ったティタンプレドは?



 襲来時、配置されていた周辺の冒険者らを思い出す。


 別にその冒険者全てが低ランクというわけではない。

 ただ今回起きた襲来は範囲が範囲なだけに、戦力はそれなりに分散してしまった。そして報告で聞いたティタンプレドが持つおおよその能力、それを考えれば対応出来る冒険者も限られる。


 そのままでは戦力が足りず、討伐には新たに高ランク冒険者を派遣する必要があっただろう。



 そうなった時、ティタンプレドの対処を任せることの出来る冒険者は一人だけ。



「―――メルースが討伐してた、でしょうね」



 彼女以外、適任はいないだろう。



 『金』というランク。頂点を超越した限られた者にのみ与えられる輝かしき証。

 最強ですら収まりきらないその座にいるのは、現在『緋刃舞踏』とメルースだけだ。

 過去に遡ったとしても、そこまで辿り着いた者は数えるほどしかいない。

 

 それほどまでに高い壁が『金』という最高ランクであり、メルースの持つ実力だった。



 そんな彼女に対処が任されていたとしたら、ティタンプレドがどんなに万全の状態だったとしても、問題なく討伐しただろう。

 それは確信を持って言えることだった。



 だが、残念ながらそれで安心とはなり得ない。


 ティタンプレドに関してはそれで良いのだろう。

 しかしメルースがそっちに行くということは、本来向かった方が放っておかれるということ。



 それは、エニュオタウロスと戦った『仄火の誓い』の結末が、全滅であることを意味していた。




「その場合、別の所で被害が出てしまう。―――エニュオタウロス。そっちがどうなるかは……言うまでもないか」

「仮にそうなってた時、エニュオタウロスには逃げられてた可能性があるわ。というか、犯人が当初立ててた計画通りなら、まんまと逃げられてたでしょうね」

「逃げられるという事はエニュオタウロスの遺体も存在しない。存在しないのなら犯人が回収する事も無く、今回の行方不明事件も起きない……か」


「でも討伐されてしまったからこそ、わざわざ動かざるを得なかった」



 ルビアの言う、意図せず出てしまった尻尾とは、この事だった。

 そしてこの尻尾から考えれば、エニュオタウロスがとっていた行動にも説明が付く。


「『仄火の誓い』によると、エニュオタウロスは群れから離れて単独行動したらしいけど……なるほど。そういう習性があるのかと思ってたけど、それも違うわけだ」

「それもただ単に見つからないよう、討伐されないように逃げてただけでしょうね」




 『渡り世』という、偶然のイレギュラーから転がり出た尻尾。

 当人達の知らぬ、裏で起きていたそれが及ぼした影響は相当に大きかった。



「あの4人には悪いけど、『渡り世』で来てくれて良かったわ」

「想定外かつ、優れた戦力だったからね。恐らくだけど犯人の立てた計画を崩し、自らが動かなきゃダメな状況にした。おかげで事件の真相が見えてきた」

「お門違いかもしれないが、せめて感謝だけはしっかりと伝えよう」


「そうね。まあ流石に詳しくは話せないけど」



 そう言って、3人は静かに笑い合うのだった。




 仮定と言いながらも、途中から皆ほぼ確信を持って話していた。

 正直に言うとまだ不明な点はある。

 しかしそれでも今回の出来事から得た可能性としては、間違いないと思わせるだけのものがあった。


 その道を3人は突き進む。


 今は誰が敵か分からない。周りの人に頼ることは出来ないだろう。

 これに気付いた3人だけが、秘密を抱えたまま奔走する。

 犯人が引き起こして来た事から考えれば、3人で立ち向かうには規模が大き過ぎるかもしれない。



―――だが、3人は『緋刃舞踏』だ。

 自他共に認める最高戦力であり、人一倍「護りたい」という気持ちを持った傑物(ヒーロー)だ。


 相手がどんなに強大でも必ずや、その宝石の様に美しく輝く緋色の信念で、人々の心を照らしてくれることだろう。






「……だが、流石にもう我々も休むべきだ」

「そうね。話したいことはまだまだあるけど、今日はもう寝ましょうか」

「やるべき事が出来たんだ。達成するまで倒れるわけにもいかないしね」


 ガネッタの言葉を皮切りに、3人とも立ち上がる。

 寝室ではベットが主人の到着を今か今かと待っていることだろう。


 もう完全に夜も更けてしまっている。

 明日も早くから招集がかかっているのだ。目を擦りながら皆の前に立つわけにもいかない。


「一応、横になりながらもう一度だけ、状況整理してみるわ。犯人の目的とか手段とか、ハッキリしてない部分もあるから」

「おいおい、流石に寝てくれよ。リーダーが遅刻は示しがつかないぞ」

「大丈夫だって。多分、疲労で寝ちゃうし」

「いやそう思うなら最初から―――」



「ああ、その事なら心当たりがなくもない」




「―――ホントか!?」

「―――ホントに!?」


 あまりにも唐突に放たれたガネッタの発言。

 一瞬あっけにとられ反応が遅れたが、驚きで声を荒げてしまっていた。


 ルビアにもネリアにも、その理由には見当がついていない。


 そんな事を言われては瞼の重さも吹き飛ぶと言うものだ。

 これを問い詰めずにはいられなかった。


「そ、それで! その心当たりってのは!?」

「何が分かったの!?」


「それは明日話す。今日はもう寝るんだろ?」



「「――――――寝れるかあっ!!」」



 鋭いツッコミが同時に入る。

 つい声を揃えて叫んでしまったが、そうならないわけがない。そんな事を言われては気になって寝れないだろう。

 なんとも随分なおあずけだった。


「ハハハ」


 だがガネッタが説明する様子はない。

 ただ愉快そうに笑いながら「おやすみ」と一言残すと、1人先に寝室へ向かい始めていた。


「ちょっと待てって! ―――ああもう、ホントに寝に行ったぞ!? ガネッタの奴……!」

「全く! たまにこういう事するんだから!」

「こうなったら頭空っぽにして、何も考えないようにしよう! 寝れる筈だ! …………多分」

「いっそガネッタのベットに潜り込んでやろうかしら……!」

「いや、それはやめとけ?」



「―――と・に・か・く! 明日になったらその話、詳しく喋ってもらうからねーー!!!」



 都市中に響きそうな大声で、ルビアは叫んでいた。






 騒がしくしつつも、それぞれ自分の部屋へ帰っていく。

 まもなく明かりも消えると、この家もまた静寂に包まれた。


 クランタで孤独に主張していた一軒家は、他と同じく夜の闇に溶けて消えた。見渡せば未だぽつぽつと光はあれど、それも徐々に消えていくことだろう。

 次にそれらが姿を現すのは陽が昇ってからになる。

 それまでは休息の時間だ。




―――次に瞼を開けば訪れる暖かな日差しが、自分達の未来を導く光明となるように―――



 密かにそう祈りながら、ルビアは眠りについていった。


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