第3話 冒険者の集う街
クランタと呼ばれるこの都市は、国の端にあるにも関わらずかなり栄えた都市である。理由はすぐ隣に、未開の地である巨大な樹海が存在しているためだ。
クランタで暮らす人の多くは『冒険者』と呼ばれる、樹海に潜り未知の遺跡や素材の発見、強力な魔獣の討伐などをメインの仕事としている。それに伴い、都市内でも鍛冶屋や魔道具にポーションなどのアイテムを作る職人が多い。
様々な魔獣と日頃から戦う冒険者は実力がある者が多く、職人は様々な素材を使い、日々研究・開発をしていた。
樹海に潜る冒険者にはそれなりの危険が付きまとい、職人達は常に競い合い客を取り合っている。そしてそれに見合った地位や名誉、富などを手にする事が出来るため、夢を求めて冒険者になったり、職人に弟子入りする人が多くいる。
その関係で自国の他領だけでなく、他国からも多種多様な人が来る事も日常茶飯事だ。
そんな事情からか、4人は思っていたよりあっさりとクランタに入ることが出来た。
検査は薬物などの違法な物を持っていないかの最低限なものであった。珍しい種族の組み合わせに、武器を携えていたりと、4人の見た目も関係あったのかもしれない。
冒険者になりに来たと思われたようだ。
クランタ内に無事入ることの出来た4人は、目的地に向けて歩きながら先程の門番の言っていたことについて話していた。
「――――――冒険者、と言っていたな。俺達の見た目から勝手にそう判断したみたいだが、何とも好都合だったな」
「それだけここでは冒険者というのが一般的、ということなんでしょう」
セツは、少し自分の恰好を確認するように見ながらそう言った。
そんなセツとは反対にリンシーは辺りを興味深そうにキョロキョロ見ながら歩いている。
周囲は様々な格好や種族の行きかう人々で賑わっており、そういう場所なのか野菜、果物などの食料や料理を売っている屋台がたくさんある。
リンシーは屋台を見ているようで時々羨ましそうに眺めては、また別の物に視線を向けている。
だがそんな状態でも会話は聞いていたようだ。
「他国から冒険者になるために結構人来るって言ってたよね~。検査も待ってる人多いからか分かんないけどすぐ終わったし」
「情報もそこで容易に仕入れられそうですし、そうなると故意に転移させたとは思えないですね」
アスロンは歩きながらそう考え込んでおり、リンシーの様子はいつもの事なのか3人とも気にしていない。
「何か狙いがあったのか、あの場所にせざるを得なかったのか……。分からんな」
「今は情報が少な過ぎるのよ。やっぱりまずは冒険者ギルドって所に行ってみないとね」
「あ、あれおいしそう…」
そんな調子で歩いていた4人は何度か人に聞きつつではあるが、目的地である冒険者ギルドに無事到着した。
冒険者を中心に回っている都市なだけあり、ギルドはそれなりに大きな建物だ。様々なものを補完する倉庫や、訓練場なども併設されており、それらをたくさんの人が利用しているのが見える。
ギルド内部に入ると冒険者達に限らずあらゆる人の声があちこちから聞こえる。たくさんある受付ではほとんどが順番待ちになっているようで、入れ代わり立ち代わり人が来ていた。
周りには順番待ちの時間をしゃべりながら潰している者や、机を囲んでミーティングをしている者もいる。
そしてそれだけではなく、受付の奥を見れば制服を着たギルドの人間が忙しそうにあっちこっちに動いている、にもかかわらずまだ人はやって来ているようだ。
「うわ~! 外から見た時も思ったけど広いし、それに人も多いね!」
リンシーが驚いたように言った。
それは他の3人も同じようで足を止めて周囲を見渡している。
「まだ増えるみたいだし、門番の人が言ってた通りね」
初めての土地にもかかわらず、ここに来るまでに一切迷わなかったのは最初に出会った門番の助言があったからである。
―――この都市の冒険者はすごい量なんだ。特にこの時間帯は人が多くて大きな建物を目指す人が沢山いるから、その流れに乗れば迷わないさ―――。
街の冒険者に対し、自慢気にそう言った門番の言葉を思い出しながらセツは言った。
「なら余計に早く受付に行って色々聞かないとな」
「ええ、そうしましょう。……あそこに空いている受付がありますね」
それは全体的に見た時に中央辺りにあり、作りとしては比較的シンプルでいくつもある受付の中は人が少ない。他の受付は入れ代わり立ち代わりに訪れる人を捌いているが、そこにいるギルド職員は代わりに、受付の内側にある自分のデスクに積みあがった書類と睨めっこしながら捌いていた。
他の受付は忙しく空いてないのもあり、まずはその受付に行ってみることにした。
そこに座っていたのは男のギルド職員だった。
忙しそうではあるが慣れた手つきで書類を捌くその腕は、職員とは思えない程には隆々としていた。体は日に焼けて褐色に近くなっており、見た目だけでも武闘派であろう事が推測出来る。
そんな男がデスクワークをしていた。
男はヴォルス達が近づいて来るのに気付いたようで書類に向けていた視線がこちらを向く。
「らっしゃい。何用で?」
目の前まで来たヴォルス達に顔を向けた男は愛想よく言った。声のトーンや表情から人当たりの良さそうな印象を受ける。
「冒険者……になるにはここでいいのか?」
「―――おう、ここでいいぜ! ま、本来なら俺はただの案内役で…………ほら、あっちの子供3人の相手してる職員が色々説明するんだがな」
男は少し離れた所にある受付に視線を向け、豪快に笑う。
ヴォルス達もその方へ視線を向けると、確かに少年少女が職員からの話を若干青い顔をしながらも、真剣に聞いているようだ。
ギルド内が騒がしく所々聞こえないが、どうやらあっちも冒険者になりに来たようだった。
その様子を見て疑問に思ったアスロンが質問をする。
「では私達もあちらで話を聞けば良いのでは? 案内役とのことですし、それに書類の山で忙しそうですが……」
アスロンの言葉にリンシーは確かに、といった表情をする。それを聞いた男は軽く笑い、
「書類は既に大体片付いてるんで問題ねぇよ。そんであんたら――――――それなりに戦闘経験あるだろ?」
ニヤリとした顔で言った。
「それに比べてあっちの若いのは経験どころか戦ったことあるのかすら怪しい。冒険者は金、名声と夢がある……!、なんて言われてはいるが簡単じゃねえし、危険な事ばっかだ。あっちの受付に案内した時に感じたが、ああいう新人はすぐ死んじまうしな。今頃、現実をこれでもかってくらい教え込まれてるさ」
「ふーん、それでわたし達はこっちで良いってわけ」
「おうよ! あんたらはその辺大丈夫そうだし説明も省けるってことだ。それ以上の説明は冒険者になってからでいいしな」
「ならもう登録できるの?」
そうリンシーが少し身を乗り出して聞くが、どうやらそういうわけでもないようだ。
「新しく冒険者になる奴にはまず、現役の冒険者と試合をして実力を調べさせてもらう。そこで調べた実力によって、ある程度ランクが上がった状態で登録出来るってわけだ。来る奴が素人とは限んねぇからな。それに、元々実力のある奴を遊ばせてる余裕も無いしな」
「なるほど……"狩人"みたいなものか」
ヴォルスは男の言葉を聞き、元の世界――本人は異世界とは気付いてないが――の似たような仕事を思い出していた。それは魔獣を討伐する専門の機関であり、実力があるほど階級が上がり、より強力な魔獣を討伐していた。
ヴォルス達も一時期、所属していたことがあったりする。
因みに冒険者が魔獣を討伐している事は、周囲の会話やギルドに持ち込まれた魔獣の素材などを見て分かっていた。
「ただ最初から上げられるランクに上限があるのは当たり前だし、冒険者も仕事だ。依頼者からの信用も大事だし、ランクが高い奴が強いのは勿論だが、何よりランクはギルドからの信用の証でもある。どんなに強くても素行が悪けりゃランクは上げられん。 …………あまりに酷いと――――――除名、なんてことにもなったりする」
多くの人が冒険者になっているので、一定数素行の悪い冒険者も出てくる。それをそのまま放置すれば依頼者もギルドを使用し辛くなったり、冒険者とはそういうもの、と言った印象を持たれてしまう。
だからこそ、最低限のマナーは必要なのだ。
ただ、愛想が無いなどのちょっとしたようなものであれば全く問題は無い。
実はこの町の治安はそれなりに良いのだが、その理由は冒険者が活発と言うのもあるが、ギルド側のこういった対応のおかげでもあったりする。
男からランクについて軽く聞いた4人だったが、その事に対して興味は湧かなかった。
4人はこの地について色々知るために冒険者になろうとしているだけで、ランクを上げたい訳ではないからだ。
勿論、除名されるような行動を起こすつもりもないが。
そのためか少し素っ気ないような、興味なさげな返事になってしまう。
「そう。で、試合はいつなの?」
「……それは明日の昼頃また来てくれ。それまでに何組かに声かけてみる。どこかしらは受けてくれるはずだ」
興味なさげな返事をされ男は、やれやれといったような態度で少し笑いながら答えた。