表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
29/56

第28話 それぞれの戦い

「グオオォォォッ――――――!!」


 巨猿の咆哮と共に、拘束していた樹がバキバキと壊れていく。そして、元々隆々だった筋肉がさらに一回り大きく盛り上がると、巨猿は拘束を引き千切るように暴れだした。

 そうなってしまってはボロボロの樹などではその力に耐えられるはずも無い。

 拘束していた樹はそのまま大きく音を立てながら割れ砕け散った。


「っ!! ―――ふう……ダメか……。もっと樹の方に集中しないと拘束続かないね、これ……」

「……リンシーは樹と魔物だけに集中して下さい。2人のサポートは私が務めます」


 巨猿の馬鹿げた筋力にアスロンは内心驚きつつも、落ち着いてそう言った。

 あれだけの力を持っているなら無理もない。リンシーには魔物を捕らえる事だけに集中してもらった方がいいだろう。


「うん、頼んだよ!」


 リンシーはアスロンに返事をすると、その場から跳び後退した。

 自分に邪魔の入らない距離で魔物を狙うためだ。

 そして目を閉じ、大きく一息つくと、再びパッと目を開き真剣な眼差しで魔物を見据えた。





 リンシーは樹を操る能力を持つ。

 これはかなり特異な力で、魔術や異能に属するものではない。もちろん、他の3人はこのような特異な能力は持っていなく、また修練などでも身に付けれるものではない。

 今と練度は違えど、リンシーが生まれ付き持っていた能力だった。


 特筆すべきは使用に魔力を用いない点だ。だからこそ相手によっては特異さがばれ、別の危険が伴う可能性がある。実際に過去、リンシーにはそんな経験があった。

 リンシーが使用を少し躊躇っていたのは、実はそういう意味も含んでいた。




 だがこの場にいる冒険者らを観察した感じ、それがばれる事は無いと言える上、誤魔化す方法も持ち合わせている。

 だから使用しても問題無いと判断したのだ。



「―――行けっ!」


 リンシーが前に突き出した腕を動かすと、それに合わせて樹が暴れ出す。大地から飛び出たその樹々は巨猿を再び捕えようと、貫く勢いで迫った。


 しかし、巨猿がそう簡単には行かせてくれない。

 先程とは打って変わった雰囲気を纏う巨猿は、迫る樹を遅いと言わんばかりに躱す。襲い来る樹すらも利用して、上下左右と立体的にだ。

 それでもリンシーは立て続けに狙うが、その全てを避けられる。見た目通り、両手足で猿のように樹を跳び回りなかなか捕まらない。

 何度か惜しい場面はあったものの、流石は常に樹を利用して生きてきただけはある。

 一筋縄では行かなかった。



「こんのっ……! ちょこまかと!」


 巨猿の急な変わりように驚きつつ、苛立たし気に愚痴を吐く。だがそれでも手は緩めず、畳みかけるように攻め続けた。

 それは、この攻防が無駄ではないと分かっているからだ。




 巨猿は樹に襲われながらも、その樹を操っているのがリンシーだと察していた。言葉は分からずとも敵の行動や状況、己の経験がそれを気付かせてくれていた。

 このしつこく纏わり付く樹を一刻も早く止めさせてやると、その機をうかがっていた。


 しかし―――


「――――――!」


 巨猿の視界の端、そこに映る樹の影からセツが斬り込んで来た。


 機をうかがっていたのはセツも同じで、リンシーの操る樹を躱す最中、体勢の整っていない―――つまりは避けようがないタイミングで仕掛けた。

 樹を躱せば刀に斬られ、刀を躱せば樹に捕まる。セツはそんな状況を巨猿に強いていた。



 ただ巨猿が選んだのは防ぐ、だった。


 斬られた横腹を再び狙っているのに気付いた巨猿は、これ以上傷を深くするわけにはいかないと、強靭さに自信のある太い腕でガードする。

 これならばこの後も樹に捕まらず回避出来るだろうと判断してのことだった。


 だが、その目論見も失敗に終わる。

 刀に手を掛けたセツの背後から突然、毒球が飛び出した。


 それはセツに追従していたらしく、ガードした巨猿の前腕に直撃し弾けた。




 毒は、横腹にヒットさせたのと同じアスロンの魔術、対象を溶かしながら脆くする。限度はあれど、巨猿に明確な傷を残せるくらいには効果がある。

 それが防ぐはずだった箇所に直撃したのだ。結果は見るまでも無い。




―――抜刀したセツの刀が、巨猿の前腕を切り裂いた。


「―――グゥッ!」


 呻き声は漏らすが、やはり丈夫なのか横腹よりは傷が浅い。怯むことはなく即座に身を引き、樹には捕まらなかった。



 しかし巨猿からすれば焦る状況だ。

 まずは樹を何とかしたいが、これではその隙も無い。

 ()()()()のだが、それよりも先にその為の隙を作らなければどうにもならなかった。




 セツに続き、ヴォルスも同じく巨猿に切り込んで行く。

 樹の包囲から何とか逃れようとあがく巨猿は想像以上に素早い。気を付けねば回避に動いただけの巨猿に跳ね飛ばされる可能性もある。

 何せあの肉体だ。ぶつかればただでは済まないだろう。


 それに巨猿も僅かな隙を見て攻撃を仕掛けて来る。

 回避した勢いを使い拳を振り下ろしたり、樹の裏に隠れた所を樹ごと砕きながら殴って来たりなど、油断は全く出来ない。


(傷はつけれるが深手にならないよう、上手く躱される……それに、常に反撃も警戒しなきゃこっちがやられそうだ―――だが、もうやれる……!)


 ヴォルスはセツと共に警戒しつつ攻めながらも、着実にチャンスを狙っていた。



 一方で、絶え間なく攻められている巨猿は回避が主体になり、素速い身のこなしで縦横無尽に跳び回っていた。時々隙を狙い反撃もするが、上手く行かない。

 むしろ4人からの攻撃全てを躱すのは流石に厳しい様で、戦いの中徐々にだが傷が増えて来ていた。



◆ ◆ ◆




 待ち構えていた冒険者らのまとめ役、カーク隊長は巨猿と戦う4人を手助けしたい気持ちを抑え、様子を見守っていた。


 (出来るなら俺も参加したい―――が、俺らじゃ魔物の相手にならないのは分かる。行ってもあの4人の邪魔になるだけだ。……全く、もどかしいな―――)


 カークはそんな力の足りない自分に、悔しい思いをしていた。

 そこへ、部下と思わしき人物が声を掛ける。


「―――隊長! 本部へ連絡済みました!」

「―――よし! これで応援も来るか……!襲来の元凶はあの魔物で間違い無い……あとは―――」


―――あとは、元凶となる魔物が従えている魔物が残っている。

 元々はその魔物を相手するのが目的なのだ。

 不測の事態にはなってしまったが、ヴォルス達4人が戦っている今、周りの魔物は自分達で相手する必要がある。

 まだまだ油断は出来ない。




「――――――いえ!そ、それが……()()()()()()()()()()()()()()が―――!」

「―――なんだって!?」



 しかし、不測の事態は続く。


 カークは過去の例、巨猿の強さ、そして未確認の魔物である事から、こいつが樹海奥地から来た元凶と判断した。

 それはあっている。


 巨猿は元々、樹海奥地に住んでいた。だがそこを追われた後、結果的にここまでやって来た。此処では他の魔物とは比べ物にならないくらい強いため、周りの魔物を従えていたのも事実。


 ただ、不運な事に今回が例外だったのだ。


(奥地の魔物が複数体だと……!? こんな事初めてだぞ……。―――いや、それよりも…………応援があまり期待出来なくなった事が不味い……! ただでさえ規模がデカくて戦力が分散し―――っそうか!)


 カークは気付いた。

 今回、過去にない規模の襲来になったのは奥地の魔物が複数居たためだったと。

 それならばその分従える魔物の数も増えるため、この現状も理解出来た。


(そう言う事だったのか! ……だが、ならなぜ―――いや……! そんな事考えてる暇は無い! 今はここの連中でやれるだけやるしかない……後は、あの4人があの魔物相手にどれだけやってくれるか―――)


 焦った表情のカークは巨猿と戦っている4人を見据える。

 追い詰めている様にも見えるが、巨猿が深手を上手く回避をし続けている様にも見える。

 その戦いについていけないカークには優勢かなどは分からないが、状況を伝えるためにも声を張り上げた。


「―――そいつ相手にどのくらい掛かる!! 状況が変わったんだ! 此処でやり合うのはそう長く持たないぞ!!!」


 

 カークの必死な叫びは巨猿の相手をしている4人にハッキリと届いた。


 ヴォルスはその声からかなりの焦りを感じ取った。

 どうやら良くない方に状況が進んでいるらしい。

 急ぐ必要がありそうだ。


(こいつの硬さは大体分かったが、やはり魔力の消費は激しくなるな……。だが、確実なタイミングで決める……!)


「ヴォルス! どんな感じ? もういけそう?」


 カークの声を聞いたセツは戦いの中、巨猿から目を離す事無くヴォルスにそう尋ねた。

 いけるかどうか……その意図はヴォルスの「硬さは大体分かった」という内心と同じだ。

 ()()()()のためヴォルスは巨猿の硬さを見極めていた。


「ああ、問題無い! いつでもいける!」


 そして見極めが終わったなら後は、その狙いを実行に移すだけだ。

 ヴォルスのその返答にセツだけでなくリンシーとアスロンも目つきを変えた。






 だがしかし、実行に移すよりも先にそれは訪れた。


 巨猿の時とは違い、細かいのが幾つも重なった事で結果的に大きくなった地響きが、ドドドドと地面を揺らしながら近づいて来た。

 その音は樹海の奥から響いて来ており、それが何かは言われるまでも無く明白だった。



―――来た。

 誰ともなく呟かれたその言葉は、すぐに息を吞む緊張感にかき消された。



 樹々の生い茂る樹海の奥から、大量の魔物がその恐ろしい姿を現したのだ。


 

 ゴブリンやオーク、他にも様々な種類の魔物が群れてそこに居た。

 冒険者として普段から相手にする事も珍しくない魔物ばかりだが、数というのは恐ろしい。

 見ているだけで押し潰されそうな威圧感が、そこにはあった。


 だが初めからそれを相手するため此処にいる。


「―――怯むなっ!! 後ろにいるのは俺達が護るべきもの達だ! 俺達の街を! クランタを! 護るぞ――――――!!!」



 カークがそう鼓舞すると、冒険者達は雄叫びを上げた。


 それは威圧感に負けないためでもあり、自分達を奮い立たせるためでもあり……魂に、火を()べた様な勇気を与えてくれた。


 冒険者達は雄叫びの勢いそのままで、魔物の群れに立ち向かって行った―――




 ◇



 どうやら魔物の群れは、巨猿を避ける傾向にあるらしい。

 巻き込まれるのを嫌ったか、巨猿を恐れているのか、それは分からない。


 ただ少なくともヴォルスとセツの戦う邪魔になる事は無さそうだ。

 しかし、支援に徹するため距離を取ったリンシーとアスロンはそうはいかないだろう。巨猿と戦い始めた時から想定はしていたが、周りの魔物が邪魔になるのは確実だ。


「……こうなるのは分かってたことだ。―――決めに行くぞ!」



 ヴォルスはここが正念場と言わんばかりに、仲間に向けて気合の入った声を上げた。



リンシーの力が何なのかや魔術関連についてはどこかで閑話休題として説明を入れようかなと思ってます。

ただリンシーのネタバレもしそうな内容なので、先にはなりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ