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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
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第26話 不穏な樹海

 『緋刃舞踏』との邂逅から暫く経った頃。

 ヴォルス達は要所の一つである目的の川に段々と近づいて来ていた所だった。

 何やら戦っている魔物達の様子に少し変化が起きていた。


「……うーん、魔物の感じ変わって来たね」


 全員が同じく感じていた事をリンシーが代弁する様に呟いた。


「段々と強い魔物の割合が増えてる。これまでの奴らは先兵兼雑兵、……所謂使い捨ての兵士みたいなものなのかもな……。――――とは言え、こいつらが実際にそこまで考えてるかは怪しいが……」

「可能性として聞いてた通りになった。……本来なら生息してる場所で数が減ったりしてたらしいし「そりゃそうかー」って話だけど」


 同意するヴォルスにセツは、楽観的な様子でそう言った。



 これは事前調査の段階で確認出来た樹海の変化の一つだ。

 何かしらが原因で魔物の生息域が変に乱れる事があるのだが、此処ではそれが襲来に関係している事が多い。その中でも従襲型の場合、従えた魔物が移動し集まる事もある。

 今回は襲来が従襲型と確定したタイミングで本部から通信があった。そこでの連絡でこの件にも触れていたのだ。



 ゴブリンを大きくし体格を良くした様な姿の『オーク』。

 長い口が木を圧し折る咬合力(こうごうりょく)を持つ大トカゲ、『リザーダイル』。

 身体は小さいが甲皮を纏った身をボール状に丸め、跳ね回りながら攻防をこなす『アルマンド』。


 増えて来たのもそういった、樹海でもある程度奥に潜らなければ見つからない魔物だが、それでもどこにでも見かける弱い魔物などが多くを占めている。

 そして「強い」とは言ってもここまでで多く見た魔物と比べてな上、事前に連絡で聞いたのもあってか慌てる様な事は無かった。




 セツの口調からも分かるが4人に緊張感は感じない。

 魔物の強さにせよ割合にせよ、現状ではヴォルス達の脅威になり得ない事には変わらなかった。


 しかし魔物の質が上がって来た事で、ヴォルス達の戦い方に少しづつ変化も生じていた。




「―――私の魔術が効き辛くなって来ましたね。一度の毒では倒しきれない魔物も増えて来ています」


 そう。

 アスロンの毒魔術による霧を通過してなお、歩みの止まらぬ魔物が増えて来ていた。


 それはやはりオークやリザーダイル、アルマンドの様なより強力な魔物が中心だ。

 しかし、ゴブリンなどでもそういった個体が一部いた。そいつらはオークなどと同じ地域に住む個体で、そこらのゴブリンよりかは強い。まだその数は少なく弱い個体の方が多いが、この調子で行けばそいつらも増えそうだった。



 そういった変化が起き始めた影響で、後衛を務めるアスロン以外の3人も徐々に、武器を振るう時間が長くなって来ていた。



「ふむ……魔術の出力を少し上げますか……」


 そんな状況を前にアスロンは顎に手を当て、ポツリとそう呟いた。


 だがそれが聞こえたセツは不満げな顔をする。

 そして間髪入れず、食い気味に止めに入った。


「―――いや、しなくていいって。 折っ角相手が増えて来て、やっと暇な時間が減って来たっていうのに」

「フフッ……セツならそう言うと思いましたよ」


 思わずフッと笑うアスロン。あまりにも想像通りの反応を示したセツが可笑しく、笑いが漏れてしまっていた。

 さらには、相変わらず分かり易い性格をしていますねと、口に出さずともその顔が物語っていた。


 セツはそんなアスロンをもの言いたげな目で見るが、そんな顔をしなくてもそれは自分が一番よく分かっている。出かけた言葉をグッと飲み込み、変わりに溜息を吐いた。

 ……横でうんうんと頷いているリンシーは見なかったことにして……。



 (はた)からみれば状況に合わない呑気なやり取りだ。この場に他の冒険者が居れば「そんな事話してる場合じゃない!」―――なんて言われてしまうだろう。

 しかし、セツが止めたのだって私情を抜いたとしても十分理解出来るものではあった。


 フォローする訳では無いが、ヴォルスもセツと同意見だった。


「けど実際、後の事も考えると今のままで良いだろう。魔力を無駄に消耗する必要は無い」

「だねー。最悪アスロンの魔術が無くても問題無いくらいだし、力は温存できる時にしとかないと」

「―――では、有り難くお言葉に甘えさせて頂きましょうか」


 確かに魔術が効き辛くはなったが「だから?」で済むレベルだ。

 魔術が使えないとして、それ以外にも方法はいくらでもある。


 アスロンとしても、しなくて良いならばそこに何の異論も無い。

 素直に受け入れた。



 だがそれはそれとして、アスロンは(にこ)やかだった顔をすっと真面目に戻すと、その目線をヴォルスに向けた。


「しかし―――」


 そう語りかけたアスロンと視線を交わしたヴォルスは、アスロンが何を言おうとしているか既に分かっていた。

 視線を正面に戻すと、ヴォルスも口を開いた。


「―――ああ、目標まで近い。」


 そう真剣な面持ちで、3人に知らせる様に言った。

 


 ヴォルスの言った通り、目的の要所への到着が近づいていた。

 それはつまり、間もなく集中して魔物と戦う時が来たという事である。そうとなれば力の温存などとは言ってられないだろう。


 4人は魔物達を迎え撃つため、要所に向かって樹海を駆け出した。





◇ ◇ ◇



「皆、到着した後は分かってるな?」


 ヴォルスの問いに3人共、勿論といった様子でそれぞれ頷いた。


 駆け出してから少し経った頃、ヴォルス達は再確認する様に会話をしていた。




 目的地となる要所では、予め準備をしていた冒険者達が罠を仕掛け、待機しているはずだ。


 そこは小川が流れており、周囲も開けているため比較的戦いやすい。さらには小川を間に挟む事で魔物の進行する勢いが弱くもなる。


 この小川は人間が歩いても軽く足を取られる程度には深さと水量があり、底には石が転がっているため足場も悪く、川幅も駆け抜けれる程短くは無い。

 そう簡単に通り過ぎれる場所ではなかった。


 しかしそれは、逆にこちらからすれば良い地形だ。

 身体力が高ければ小川を無視し攻撃出来るという例外は置いておいて、それよりも遠距離で先制して攻撃が出来る事が大きい。動きが鈍る為、攻撃が当て易く罠にも嵌め易い。

 防衛に重点を置いて迎え撃つには、丁度いい場所となっていた。




 そんな場所で戦う事になるわけだが、セツは既にやる気十分のようだ。

 溜まった鬱憤を晴らそうと、うずうずとしている。


「当たり前じゃない。好きにやらせて貰うわよ」

「……それはいいけど味方の邪魔しちゃダメだよー? 特に今回は罠もあるんだし」


 リンシーはまるで子供をあやす様な口調でそう揶揄った。


「流石にそんな間抜けはしないって! わたしを何だと思ってんの!?」

「いやぁ……セツならやりかねないし? 一応忠告をと思いまして……」

「あんたねぇ……!」


 セツは言い返したくなるが、いつもの事だと思い直す。

 別に怒っている訳では無いし気にする必要無いのだが、つい反応しそうになる。

 リンシーもそれが分かっているから揶揄(からか)って来るのだろうが……。


「…………はぁ、リンシーもサボんないでね?」


 まあいいか、とセツは自分を落ち着けると、今度は逆にリンシーに釘を刺すようにそう言った。

 だが当の本人は笑いながらあっけらかんとしている。


「大丈夫大丈夫! 真面目にやるって~」

「……ホントかなぁ……」


 リンシーの普段からの自由気ままな性格を見ていると、どうも不安が拭えない。いざという時に助けられた記憶はあるし、大丈夫なのは分かっているのだが……何せこの性格なのだ。

 真面目にやってくれる事を祈ろう……。



「二人とも、(じゃ)れ合うのはそこまでですよ。目的地はもうすぐそこです」


 2人がそんな冗談を言い合っていると、アスロンが横からそれを遮った。

 その言葉通り目的の要所には目と鼻の先まで迫っており、耳の良いリンシーなら川の流れる音がハッキリと聞こえるくらいには近かった。

 事実、リンシーは自身の兎耳を立てて、周囲の音を拾う為にピクピクと動かしていた。


「もちろん分かってるよー。ボクの耳にはちゃんと川の音が――――――」


 リンシーが急に言葉に詰まった様に黙る。


 何事かと思ったが、何かを聞き取ったらしく立てた耳が後ろを向いていた。

 それはどうやら後ろからの様で、集中しているためかリンシーは押し黙ったままで耳も微動だにしていない。


 急なその様子に何が聞こえたのか尋ねようと、ヴォルスが口を開きかけた時だった。

 それよりも先にリンシーが声を上げた。


「―――こっちに何か来てる!」

「来てるって……また!?」

「違う! 今度は人じゃなくて……明らかにもっとデカい奴の音だよ!」

「……巨大な魔物でしょうか?」

「多分そうだね―――ってほら! これ聞こえない?」


 リンシーにそう言われ3人も耳を澄ましてみる。


 すると段々と聞こえて来た。

 ドシンドシンと響く足音の様なものが。


 その音は止まる事無く、むしろどんどん大きくなり、徐々に地響きにまで変わって来ていた。


 かなりの巨体な上、凄い勢いで近づいているのは間違いない。


「これはさっきの奴らの比じゃないな」

「うん、相当大きいよ。こいつ」

「……この感じだと着くと同時にぶつかりそう」

「場所のあるそっちの方が戦いやすそうですが……さて、何が出るでしょうか……」


 背後から響く圧を感じながら4人は樹海を駆ける。

 僅かの間ではあるがそれは、この世界に来てからの中で一番の緊張と言っても過言では無かった。


「―――光だ。抜けるぞ」


 視界の先、樹々の先が白く光っていた。


 目的地であるそこは、開けた場所のため陽の光が良く通っている。さらには川の水に光が反射もしている事も相俟(あいま)って、今居る場所よりも数段明るい。

 樹冠に遮られた薄暗い今の場所と比べると、その差をより強く感じられた。


 

 4人は少し眩しくもあるその光に、飛び込む様に突っ込んだ。

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