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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
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第25話 印象の違い

 未だに止まる様子の無い魔物の群れと戦っているヴォルス達4人。

 戦闘を続けながら先程の出来事について話していた。


「いやー、ビックリしたね~」

「ホントに嵐が通り過ぎたみたいだったな」

「だよねー」


 魔物の進軍で痕跡は消えつつはあったが、魔物らが激しく荒れた(あと)が確認出来る。

 この現場だけを見たとしても何かが魔物を蹴散らして行ったのは間違い無いと、そう判断するだろう。


()()()はお急ぎの様でしたし、現状を考えると本来はそうなって然るべき状況なのでしょう」 

「確かにこいつらの勢い見てるとそれも分かるけど……でも、わたし達じゃどれくらいマズイのか分かりづらくない?」

「……ギルド側の戦力を把握してないのもあるが、そもそも『襲来』というものに対する経験が少ないからな」


 4人がずっと余裕そうな雰囲気に見えるのは何も敵が弱いからではない。


 クランタに住む者からすれば、襲来と聞くと魔物の強さに係わらず焦りはどうしても出てしまう。

 それは過去起きた事例の経験や恐れから来るものだ。

 過去の事件を知らない幼い子供もその恐ろしさを経験した大人から話を聞き、余所から来た冒険者も襲来の元凶となる魔物の恐ろしさを身を持って実感している。


 しかしそういった実感を得ていないヴォルス達としては、警戒こそすれど焦りなどの感情は湧きづらい。 

 襲来というものの全貌を掴みかねる事により、判断が付かないといった様な困惑にも似た感情の方が大きくなっていた。



 とは言え周囲の反応や事前会議での情報もあり、大変な事態である事は十分に理解している。

 街を護りたいという気持ちは勿論ヴォルス達にもあり、そのために出来る事は尽くすつもりだった。



「でもその辺は司令塔やってるギルド側が考える事だし、取り敢えずは指示通り動けば大丈夫そうではあるよね」

「ええ、変に動く方が問題でしょうし――――それにさっきのも恐らく、本部の指示があって移動中だったでしょう」

「かもね。……一応こっちを気に掛けて一瞬止まったみたいだけど…………まあ必要無かったわね」


「――――――何にせよ、俺達も油断だけはせずに警戒していくぞ」



 ヴォルスの掛け声に3人はそれぞれ返事をし、魔物の方に向き直る。


 戦闘自体は軽く続けながらだったが、魔物を蹴散らしていった存在のおかげで一時的にかなり楽になっていたのだ。


 ただそれも終わりの様で、わらわらと魔物が集まって来ていた。

 奥の方を見てもそれらが途切れる様子は無く、その状況が続く事は想像に難くない。



 まだこの襲来は終わりそうになかった。





 ◆  ◆  ◆


 

――――――時は少し前に遡る。



 4人は最初と変わらず前衛と後衛に分かれて戦いを続けていた。


 後衛にいるアスロンの魔術を主戦力とし、他の3人がそれをサポートする形だ。

 シンプルで分かり易い構えだが、ただ突き進んで来るだけの相手にはそれで十分だった。




 そうして順調に魔物と戦っていた一行だったが、魔物の群れは絶え間無く続く。

 その様子にセツは、面倒臭そうに溜息を吐くと口を開いた。


「ねぇ、ヴォルス。作戦の方って今どんな感じ?」

「俺達のエリアは来る途中に見かけた川が最初の要所になる。開けた場所だしそこで暫くは迎え撃つ形になりそうだ」

「じゃあもうすぐではあるんだ…………はぁ〜、やっと動きやすくなるわ」

「まあねぇ……。流石にボクもそろそろこの量相手にちまちまやってるだけなのは、面倒になって来た所ではあるんだよねー」


 最初はセツに落ち着くよう(なだ)める側だったリンシーも、今は苦笑いしながら同意していた。


 ヴォルスとしてもその気持ちは分かる。


 だが、『襲来』という状況でそんな事を言っている場合ではないのも勿論理解していた。

 それにまだ襲来が起きてから数時間も経っていなく、簡単に終わるのであれば誰も苦労しないのは想像に容易い。


 (ゆえ)にこそ、襲来がこれだけだとはとても思えなかった。





 そんな様子で軽い愚痴を零していた時だった。


 4人はほぼ同時に()()に気付くと、ハッとして意識をそちらに向けた。


「――――――何か来る」


 誰とも無くポツリと、そう呟かれた言葉は溶ける様に消えて行く。

 だがしかし()()は、その言葉が消えきるよりも速かった。


 「3つの何かが遠くで赤く光っている」と、そんな思考が頭を(よぎ)ぎった次の瞬間――――――


 それは樹々の間を縫う様にジグザクと、(いかづち)の如くスピードで駆け迫って来ていた。




 その勢いに思わず身構えてしまうが、あっという間に距離を詰めたそれがヴォルス達に向かう事は無かった。

 向かった先は魔物の集団。眼前に群れる魔物の中を突き抜ける様に突撃した。


 魔物らはそれに気付いていないのか……いや、気付いたとしてもあの速さの前では意味をなさなかっただろう。

 実際に抵抗も出来ず、ただ悲鳴を上げて散るだけだった。 


 的確に魔物だけを攻撃していたため、その閃光が敵では無さそうな事は分かったが、あまりにも急な出来事にヴォルスは警戒と驚きを隠せない。

 それは他の3人も同様で、驚きを露わにしていた。



 3つの赤い閃光は魔物らを攻撃しながら、近くに見える魔物全てを一瞬で蹴散らしてしまう。

 ただそれでも閃光は止まる事は無く、勢いのままヴォルス達の前を通り過ぎてしまった。



 その動きに一瞬呆気にとられたヴォルスは、閃光がそのまま見えなくなるかとも思った。

 だが、どうやらそうはならないらしい。



 閃光は少し過ぎた辺りでUターンをすると、戻って来て目の前で停止したのだ。



 ピタリと目の前で止まったため「やはり敵と言う訳では無さそうだ」と改めて感じたヴォルスだったが、閃光が停止した事によりその正体をやっと、ハッキリと認識する事が出来た。


 するとそれを確認した4人は何処か納得した様子になり、セツは落ち着いてそれに話しかけた。



「……へぇ、あなた達だったのね――――――ルビア」

「ハァ~イ。数日ぶりね、セツちゃんにリンシーちゃん」


 そう初めて話した時と同じ様に、(にこ)やかな笑顔で陽気に手を振って来たのは『緋刃舞踏』のルビアだった。

 その隣には勿論、同じ『緋刃舞踏』のメンバーであるネリアとガネッタも居た。



 もう誰の目から見ても分かるだろう。

 3つの赤い閃光の正体は彼女らだったのだ。


 さらにそれを示すかの様に、彼女らの身体はまだ赤い光が覆っていた。

 それを見れば魔力によって身体を強化しているのは明白だ。 



―――なるほど、先の赤い閃光からも分かるが『緋刃舞踏』という名はここから来ているのだろう―――



 一同がその結論に至るのに時間は掛からなかった。




 声を掛けられたリンシーは、普段通りの元気な様子で挨拶をしていた。

 しかしそれとは反対に、セツは初見の時のやり取りを思い出してか、眉をしかめながら「そうね」と少しぶっきらぼうに返すだけだ。


 だがルビアはそんな事など意にも介さないのか、変わらずニコニコとしている。


 セツにはそれが、むしろ少し嬉しそうにも見え、余計に眉をしかめる原因にもなっていた。



「―――それから初めまして、お二人さん」

「こちらこそ初めまして」

「はい。よろしくお願いします、ルビアさん」


 再会の挨拶をしたルビアは、今度は初対面の2人に顔を向けた。

 ただ様子が少し変わっており、笑顔なのは変わらないが声色には少し真剣みが増していた。



 

(わたし達が初めて会った時とはあまりにも対応が違い過ぎる―――いや、常識的に考えてこれが普通だわ。あの時の対応が明らかに可笑しかっただけじゃない…………)



 先日の行動を思い返したセツはその違いに呆れていた。


 視界に入っていたネリアとも目が合うが、向こうも言いたい事を察したのか、疲れたような顔で首を振るだけだった。


 ならばあれが平常運転なのだろう。

 前回の時も思ったが、ルビアと一緒に行動をしているあの二人は普段から苦労していそうだ。



 しかし、初対面のヴォルスやアスロンにそれは分からない。

 セツの反応に何かしらは感じるが、その心情を知る(よし)もない。


「ごめんなさいね。本当はゆっくり話したいんだけど……今はそんな余裕なくてね」

「いや、状況は分かってる。そんな事は気にしなくていい」

「ありがとう。……一応、あなた達を推薦したのは私だし、気になって声掛けたんだけど―――必要無かったようね?」

「ああ、期待外れにならなくて安心してるよ」


 肩をすくめたヴォルスは、冗談めかしてそう言った。



 ルビア本人の様子からも心底心配していた……なんて事は無さげだが、気にしていたのは確かなようだ。襲来が予想を遥かに超える規模だった事も相俟(あいま)って、余計にそう感じていたのだろう。

 もしかしたら、悔いる感情もどこかにあったのかもしれない。


 しかし、それは杞憂だったようだ。

 ルビアの見立て通り、最前線を任せても問題の無い実力を発揮していた。


「ふふっ、そう……なら良かったわ」


 それを感じ取ったのかルビアは静かに笑うと、安心した様な表情を見せた。

 




―――律儀な人物だ、そうヴォルスは感じていた。


 要請を受けた時も自らの意志でそれを良しとしたし、我々はクランタの住民でも無ければ顔見知りとすら言えない間柄だ。

 確かに、急に予想外の事態になってしまったのは間違いないのだが、状況は"依頼を受けそれをこなす"という冒険者の仕事の流れと同じだ。

 それにそもそもの話、事前会議の時点で断ることも出来た。『緋刃舞踏』からの推薦だからこそ大きく揉める事も無かったが、ヴォルス達の実力に懐疑的で参加の選択を迫られる場面もあった。

 襲来についての知識が少ないのもそうだ。


 だがその上でこの場にいる。

―――ならばそれはもう自己責任だろう?



 少なくともヴォルスにはそうとしか思えなかった。

 だからルビアという人物をそう感じたのだ。


 ギルドでイトリスが自慢気に、そして厚い信頼を籠めて彼女らを語っていた理由が少し分かった様な気がした。




「―――それじゃ、私達はもう行くわね」


 手を上げてそう告げたルビアは既に踵を返しており、今にも発とうとしている。

 まだ一言二言会話しただけだが、のんびりしていられる状況でもないからだ。


「これが終わったらゆっくり話しましょ」


 返事をする暇も無く、去り際にそう言い残したルビアは纏った赤い光で再び軌跡を描きながら駆けて行く。


「……健闘を祈る」

「また後で。―――頼んだよ」


 それに続く様にガネッタとネリアも別れを告げると、同じく軌跡を描きルビアの後を追って行った。


 数度瞬きをした頃にはもう彼女らは見えない。

 微かに残る軌跡だけが、つい先程までそこに居た事を示していた。




―――ヴォルスはその消えて行く後姿を眺めていた。

 あまりにも短かったその交流に「結局あの二人とは挨拶も出来なかったな」と、状況は理解しつつもそう思わざるを得なかった。








 一方、セツとリンシーは―――


「…………一応、真面目な所もあるのね……」

「もしかして見直した?」

「……いやぁ……そこまでじゃないかな……」


 ヴォルスの背後でボソボソと、そんな会話を繰り広げていた。 


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