第24話 動き出す者達
最前線で冒険者が戦っている頃、ギルドで指揮を執っているグレイは慌ただしく動いていた。
「前線の奴らに連絡は済んだか!」
「はい、既に! あと待機してた冒険者にも連絡終わったのでもう出立してると思います」
「よし、だったらこっちを手伝ってくれ。要撃に向けて誘導やら罠の調整も急いでやんなきゃなんねぇ」
「分かりました!」
最前線の冒険者が後退しながら戦っている理由―――それがこの要撃のためだった。
まず進軍してくる大量の魔物達を隙間なく迎え撃つのは難しい。平野ならともかく、樹海の中という事や出来るだけ荒らさない様にとなると、どうしてもカバーしきれず漏れは出て来る。
それが今回の様に広範囲ともなると尚更だ。
だからといって樹海と都市の間にある僅かな平野で、全ての魔物を迎え撃つのは背水の陣であり望ましくない事態だ。そのため荒れたとしても後々に影響の出辛い樹海の浅場や、比較的開けた地をいくつも選び万全の準備をしていた。
そこで魔物を討伐しきれるなら良し、出来ずとも数が減れば僅かな平野でも問題無く対処しきれる。
やはり伏兵や罠を仕掛けるなら隠れる場所のある樹海の方が成功しやすい。
不意を突き、隙を晒しているところを叩く算段だった。
最前線の冒険者は、その要撃を行う場所に進路上向かわなそうな魔物の相手をしていた。
ただその場で堰き止めようと戦うだけでは意味がない場合がある。
流れてくる水を手の平で受け止めると、指の間から溢れた水はその後流れ広がっていくだろう。
まさにその水の様に魔物達も広がり分散する事で、要撃としての価値が下がる可能性があるのだ。
さらには最前線にいるような冒険者ならあまり問題にならないの話ではあるが、後ろに流れ広がるという事は囲まれるという事でもある。
確かに今のままであれば問題無いかもしれないが、弱い魔物ばかりが続くとも限らない。中には高ランク冒険者への依頼で会う様な魔物が来るかもしれないし、それこそ襲来の元凶に会うかもしれない。
囲まれた状態でそういった強い魔物を相手取るのはいくら何でも危険が過ぎる。
だから討伐しつつ退がるという事をしていた。
だが全員がそうしているわけでも無かった。
ごく一部例外もおり、その者達はグレイの指示で別行動をしていた。
(……上手く行けば、デカい不安要素が消える事になる―――頼んだぞ……!)
祈る様に思うグレイは、ただ切にそう願った。
◇ ◇ ◇
「凄かったね……」
「うん、飛んでった―――いや違うか……あれは跳んでたのかな」
「すぐ見えなくなったよね……」
クランタの城壁の上、襲来を知らせる狼煙が上がってから少し経った頃。
慌ただしくも皆が落ち着いて行動をし始めていた。
その場に居たロイド、クラリー、セシルの3人もそれまで話していたジェイに激励され、ようやく落ち着いて来ていた丁度その時だった。
城壁の上から物凄い勢いで、樹海に向かって何かが飛び出していったのが見えた。
何とか人型である事は分かったが何か大きな物を持っているらしく、影が見え隠れしてハッキリとその姿を確認する事は叶わなかった。
ただそれよりも、3人は跳ねる様に空中を移動していた事の方が不思議でならなかった。
そんな疑問を感じ取ったジェイは、その答えをあっさりと出してくれた。
「ああ……今のはメルースさんだよ、金ランク冒険者の」
「「―――え!?」」
3人の驚いた声が重なる。
「俺も別に接点無いし詳しい訳じゃないけど……何せ有名人だからなあ」
「―――そうなんだ、今の人が…………初めて見た」
「『緋刃舞踏』の人達なら遠目から何度も見た事あるけど……」
「うん……あれが、もう片方の最高ランクかぁ……」
クランタの頂点に位置する、金ランクの証を持つ冒険者は2組しか居ない。
一つは『緋刃舞踏』の3人。
そしてもう一つがメルースだ。
金ランクというのはかなり特別なランクで、突出した実力を持っていないと成れない。憧れられ英雄視される様な、唯一性のあるランクだ。
であれば当然有名であり、クランタに居るのなら当たり前に誰もが知っている。
なのだが、メルースが拠点としているのは此処クランタではない。
そのため来るのは不定期で、特に一般人が姿を確認する事はあまりない。さらにはその幼い見た目から金ランクとは思われず、気付かないまま過ごしている人も珍しくなかったりする。
そんな理由もありメルースの姿を知らない一般人は多いのだ。
新人の3人も最近まで一般人であった事からその例に洩れず、比較的目にしやすい『緋刃舞踏』とは違いその姿を確認した事が無かった。
だから余計に分からなかったのだろう。
3人共、始めてお目に掛かれた驚きと同時に、とても嬉しくもあった。
「メルースさんは拠点がこっちじゃないからな、見た事無いのも無理はない。俺だってあんまり見た事ないわけだし」
「なのに良く分かりましたね」
「チラッと見えた姿がそうだったのと……あんなデカい得物扱ってるのは、メルースさん以外知らないしな」
「あ、ならあのおっきな何かって武器だったんだ……」
「ああ、その内ギルドで見る事もあるかもな。……で空中を跳ねてたのも、その武器を足場にして空を駆けてたみたいだ」
「―――ええ!? 流石金ランクの冒険者ですね……。僕達の常識じゃ考えられないです」
「いやいや、それは俺も同じだよ。俺だって今のは凄すぎて意味が分からん……」
メルースが消えて行った方を見ながらそう話すが、それ以上はただただ感心し他に言葉が出なかった。
「…………ああいう風に扱うのか……あんな軽々と……いや、本人が持ってんだからそりゃそうなんだろうけど…………マジで凄いとしか言えないな……」
ジェイも実力の差をこれでもかと見せられ、小さく独り言が出るだけだった。
だがそれよりも、そんな人が味方にいるというのは実に頼もしいものだ。
自分達も負けてられないと、あの人に恥じない様にしなければと、改めて心を奮い立たせてくれる。
ジェイは現状の焦る気持ちを入れ替える様に気合を入れて話し出した。
「―――よし! 俺はこれから街の防衛の会議がある。もう行かなきゃならんが"大魔砲"の使い方は大丈夫だな?」
「はい! 大丈夫、覚えてます!」
「オッケー、いい子だ。……ならもう行く。この後はギルド職員が来て指示くれるだろうから、そっちに従ってくれ」
「分かりました!」
元気の良い返事を聞いたジェイは、もう言う事は無くなった様で何度か頷くと背を向けた。
「じゃ、また後でな!」
「はい、また!」
最後にそう言い残し去って行くジェイ。
短い間だったがお世話になったと思いながら、3人はその姿に手を振って見送った。
周囲を含め、メルースの行動によって止まっていた人達も再び動き出す。
皆どこか活気があり、先程までよりやる気に溢れているのが感じ取れた。
それはやはりメルースのおかげだろう。
ずば抜けた実力を持ち、他とは一線を画す『金ランク』という存在がいるだけで士気が上がるには十分だった。
「―――わたし達も頑張らないとね!」
「うん……! 出来る事は少ないけど……!」
「やれる事だってある! ――――――やるぞぉ!」
微力ながらもこの街に住む冒険者として、改めてクランタを護る為に気合を入れる。
顔を見合わせた3人が仮に、それを口に出さなかったとしても思った事は伝わっていただろう。
その表情がそれを物語っていた。
そんな存在自体が希望になり得る金ランク冒険者。
動き出していたのは当然、メルースだけでは無かった。




