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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
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第23話 されど千波万波

「下がれ! ちんたらしてっと押し流されるぞ!」

「魔物はどんどんやれ! ここで減らせる分は減すぞ!」

「ここの成果が後々響いてくるからね! 気合入れてくよ!」



 樹海の奥地であるこの場所は、普段は樹木しかない様な静かな場所だ。

 しかし今は、大量の魔物が雪崩の様に迫り、突き進んで来ていた。



 様々な武器を持ったゴブリンや、狗の様な頭部を持つコボルト、獲物を執拗に追いかけるチェイスボアに、その見た目通り『涎を垂らす』という意味を持つドロルウルフ。

 こういった樹海でよく見かける様な魔物を中心に、様々な魔物が視界の奥の奥まで埋め尽くすほどに存在していた。

 

 その中でも一部のゴブリンやコボルトは魔物を飼い馴らす立場にあるようで、ドロルウルフやチェイスボアなどに乗っていたり、躾をしているのか指示を出しているのも見える。

 これは元々よく見かける光景で、普段から移動手段や狩りのために群れで飼っている姿が確認出来ていた。


 とは言え、かなり無秩序な状態で進んで来ているため、本当に指示が行き届いているかどうかは不明だ。

 だがこれだけの物量となるとそうなっても仕方ないと言えるし、そこは別に問題にもならないだろう。

 


 この襲来の場に直面している各地の冒険者達は、迫り来る魔物に対して各々出来る方法で攻撃を仕掛けながら後退をしていた。

 予め決められた作戦通り、魔物の注意を引きながら目的地に誘導していくつもりだ。


 しかし過去起きた襲来と比べても魔物の数は多い。

 確実に漏れが出る事は想像に容易く、ある程度は許容しなければならない状況だった。



「本部には連絡したか! こりゃ確実に街まで流れるぞ!」

「もうやったわ! 既に他からも連絡来てたみたいで、すぐに細かい作戦指示出すから待ってくれってさ!」

「よし! なら取り敢えず良いなっ――――――っっと!」


 魔物への攻撃を続けながら会話をしている途中、突然視界の外から牙をむき出しにしたドロルウルフ数匹が、不意を突いて飛び掛かって来た。

 男は一瞬気付くのに遅れ、僅かに驚いた様子を見せたが、ただそれだけで何の問題にもならなかった。


 即座に体を捻り回転させると、その勢いのまま剣による一閃を繰り出す。

 その鋭い一撃は、同時に飛び掛かって来ていたドロルウルフを的確に捉えていた。


 飛び掛かって来たドロルウルフがそれを躱せるはずも無く、次の瞬間にはその勢いで軽く吹き飛び、あっさりと倒れてしまった。


「ちょっと大丈夫!? ホント気を付けてよ!」

「大丈夫だ! こんな奴らにやられっかよ!」


 目前に広がる魔物の数は多いが、最前線にいる冒険者にとって大した事は無い。今まで何度も相手して来た魔物でもあり、実力を比べても差が大きくまるで相手にならない。

 それはこの冒険者の男にとっても同じで、現に危なげなくドロルウルフを倒した。


 だが数が多いというのは、ただそれだけで厄介なものだ。

 常にあらゆる所に注意を向ける必要があり、闇雲に攻撃を仕掛けるだけでは、その後の動きに対応しきれない場合もあったりなどと、兎に角考える事が多い。

 依頼で何度も相手にした事がある"魔物の群れ"とは、遥かに違う代物になっていた。




 従襲型の襲来は、毎回このように危険が伴うものではある。


 しかし今回違うのはその数だ。

 倒しても倒しても目に見えて減らないのは同じなのだが、一言で言えば横に広い。


 襲来を知らせる狼煙が複数上がった事からも分かるが、かなりの広範囲に渡って起きている。

 本来であれば、他のエリアを捜索していた冒険者が応援に駆け付けるのだが、襲来の範囲が広い事で全体的に人不足にならざるを得ない状況になっていた。

 結果的に一人当たりが対応しなければならない質が増え、より危険な事態に陥ってしまっていたのだ。



(これはさっきの連絡の話的にも、他の所も似たようなもんか…………最悪の事態だけは避けねぇと……!)



 現在、各地で目の前に迫る魔物と戦っている冒険者達は、それぞれが自分なりのやり方で攻撃を続けている。

 誰もが危なげなく事を進れてはいるが、魔物の勢いが減る様子はまだ無い。


 だが、そのための作戦を成功させるため、最前線にいる冒険者は尽力していた。



 そしてそれは、同じく最前線で捜索をしていたヴォルス達も同じだった。






◇ ◇ ◇



 何体もの魔物が、無造作に投げ捨てられた様に宙を舞う。

 意思も無いそれは、その勢いに抵抗する事無く、ただ後方に広がる大群の中に消えて行く。


 樹海の奥地。襲来による魔物が押し寄せて来ているまさにその場所で、ヴォルス達4人は戦っていた。




「ホントに多いって、これ……面倒くさいなあもう……!」

「えいっ!――――っと、ふぅ…………割とキリないし結構大変だねー」

「たまにタフな奴が混じってるくらいで、強い奴は居ないが…………何せこの数だからな……」

「―――もう適当に薙ぎ払いたいわ!」

「ダメだよー、セツ。ギルドで言われたでしょ?」

「分かってる……! ちょっと言ってみただけだって」


 樹海での戦闘の中、セツは思い通り動けないもどかしさで苛立ちを露わにする。

 本来なら何の苦労も無くどんどん討伐出来る程度の相手なのだが、今はそう簡単にはいかない理由があった。



 セツの言う"薙ぎ払う"とは、周囲に聳え立つ樹ごとの話だ。 

 そこら中に樹が立っている状態でここまで魔物が多いとなると、そうしたくなるのも理解出来る。

 しかしそういった行為は極力避ける様、ギルドに指示されていた。


 なぜそう指示されているか端的に言うと、樹海が荒れる事により、襲来の様な魔物の被害が増加するからだ。

 特に奥地に関しては、よりその傾向が強い。


 これは過去の事例や樹海の生態系からも分かっている事であり、何度も起きる襲来の解決を第一の目標としているギルドからすれば、守らなければならないルールの様なものだった。

 所々樹が倒れるくらいならば問題無い。それくらいであれば影響もほぼ無い上、樹海に住む生物の行動で自然に起こる事もある。

 しかし広範囲に及ぶ攻撃や規模の大きな魔術などは、その影響の大きさから使用を躊躇われていた。



 奥地にいる冒険者が苦労する原因の一つもそれだ。

 だが全てがそうという訳ではなく、それはヴォルス達一行にも言える事だった。





 相変わらずひたすら突き進む魔物の群れ。その中でも突出して来た魔物をセツ、リンシー、ヴォルスが討伐していた。

 やはり足の速い一部の魔物などは先へ先へと進んで来るため、3人はそういった魔物を主に相手取っていた。


 そしてアスロン。

 彼だけは別で、3人の後方で構えていた。


「―――《トキシック・ヘイズ》」


 それは合図すら無い程息ぴったりな連携で、前に出ていた3人が大きく後ろに下がると同時だった。


 アスロンが静かにそう唱える。

 すると正面―――魔物の群れの方に、霧の様なものが発生した。

 僅かに視界を曇らすそれは魔物の群れに向かって徐々に流れ、飲み込むように広がって行った。


 魔物達は視界が悪くなっただけと思ったのか、それとも背後から大量に来る魔物に止まれないだけなのかは分からないが、霧を前にしても怯む様子は無く、そのままどんどん突き進んで来ていた。



 変化が訪れたのはそのすぐ後だ。


 霧に包まれた魔物は数歩進んだところで急に、足取りがおぼつかなくなると同時に苦しみだした。 

 その症状は今霧に触れた魔物に例外無く起き、苦し気に全身をぶるぶると震わせたり、自らを抱く様にして蹲ったりしていた。


「―――グァ…………ギィ……ァァァ……」

「ッガガ―――アギャ…………ギィ―――ィィィ――――」 


 魔物達はそう呻き声を上げると、順にバタバタと倒れていった。




 アスロンが使用したのはその名の通り、"毒"に関する魔術だ。

 魔力で出来た霧状の毒を周囲に発生させる事で攻撃をする。込めた魔力や、魔術の範囲などで毒の強さが変わり、その時々で必要に応じて使い分けている。


 自然の毒とは違い、魔術による毒のため相手によっては抵抗され効かない事も珍しくないが、目の前の相手なら気にならない。


 樹海を荒らさずに魔物を倒す。

 これは、それを実行するに当たってぴったりと言っても良い魔術だった。



「いやー、アスロンが居て良かったねー。これボクら他と比べても随分楽なんじゃない?」


 何もせずとも倒れていく魔物を呑気そうに眺めながら、リンシーは率直に感じた疑問を口にした。

 実際それはその通りで、全体で見ても負担はかなり軽減されている方だった。


 それを抜いてもリンシーは気楽過ぎではあるが……。



「それは確かにそうかも知れないな」

「でも、他の所だって何も出来ないって訳じゃないでしょ、やり方なんていくらでもあるし。そもそも"出来るだけ荒らすな"ってだけだしね」

「まあそうなんだけどさぁ……でも、相性良いのは間違い無いでしょ?」


 リンシーが相性、と言ったの聞くとアスロンはおやおやといった表情を向けた。


「相性で言うのでしたら、それこそリンシーが適任だと思―――」

「―――はいこの話は無し、これで終わり終わり」


 アスロンが言い終わる前に早口で遮ると、何も聞こえませんといった様子でリンシーは話を強引に終わらせにかかった。

 だがそれが通るはずも無く、セツが食い気味に突っ込んだ。


「いや、なんでよ! そんな「何も無かった」みたいな顔しても通らないからね」

「ええ~? だって身体動かしてる方が好きだし? 現状アスロン一人でも問題無いんだしいいじゃん」

「あんたねぇ……」

「まあまあ。作戦の事もありますし、私の魔術での対処が大変になってからでも良いでしょう」


 アスロンにそう(なだ)められ、セツは渋々とだが一応は納得した様子だ。

 アスロンとしても別に協力をして欲しかった訳では無く、ただふと思った事を口にしただけのため現状維持でも問題は無かったのだが。



 しかしこうして話している間にも魔物達の進軍は止まる事無く、《トキシック・ヘイズ》の霧などお構い無しだ。そのまま霧に突っ込み倒れる仲間を見ても怯む様子は無い。


 やがて霧も薄くなり《トキシック・ヘイズ》の効果が切れ始めると、魔物は徐々に前に出て来た。

 死体がそこら中に転がっているため進軍速度はまだ少し遅いが、踏みつけながら進んでいるのを見るとそれも時間の問題だろう。


「そろそろ次が来そうだな」

「はあ……ホントきり無いわこいつら」


 一息つける僅かな時も終わりの様だ。

 4人は再び魔物と対するため、構え直した。

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