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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
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第22話 知らせ(2)


 都市クランタを囲む城壁の上。

 普段は一定間隔毎に建っている監視塔に兵士がいるくらいだ。

 しかし、今はそんな普段の光景とは違っていた。


 城壁のあちこちにいるのは冒険者だ。

 いつでも戦いに出れるように監視の仕事や、万が一にも魔物が街にまで来てしまった時に備えて様々な道具の準備をしていた。

 ただ、道具の準備も冒険者達が昨日から行っているため、もう殆どやる事は無いくらいにはなっていた。


「ジェイさーん! 荷物、運び終わりました!」

「ん? おー、終わったか。お疲れさん」


 新米冒険者であるロイド、クラリー、セシルの3人は城壁の上で荷運びの仕事をこなしていた。


 流石に冒険者になったばかりのような新米に対して森の捜索は任せられない。だからそういった冒険者は街に残ってこのような仕事をしていた。

 他に残っているのは、その日が捜索の担当ではない冒険者だけだった。


 ギルドでは中堅と言える青ランク冒険者のジェイもその一人だ。

 顎には無精髭が生え、やや目尻の下がった優し気な顔で、一見冒険者だとは分からない様な雰囲気をしている。


 3人は、そのジェイの指示の下にいた。


「これで全部でしたっけ?」

「そうだな、荷運びはこれで終わりだ。他の場所もほぼ終わった様子だし、もう自由にしてていいぞ」


 離れた場所には休憩している冒険者がいるのが見える。

 座り込んでいたり、会話をしていたり、樹海の方を見ていたりと、各々が自由に過ごしてる様だ。


 今しがた終わった荷運びの仕事は、襲来の防衛を万全にするための準備だった。

 普段から城壁内部に蓄えてある備えに加え、追加で様々な道具をギルドなどから運んで来ていた。



 3人はかなり疲れていたのか、倒れる様に座り込んだ。

 ただそれは朝から仕事で行ったり来たりと、あちこち走り回っていたため無理もない。

 冒険者として体力が少ないのは否めないが、まだ若く新人である事を考えると仕方がないとも言える。


 だが、自分達より多くの仕事をこなしたジェイに目を向けると、疲れている様には見えず、実際にまだまだ余裕があるのは一目瞭然だ。

 涼しい顔で樹海の方を見ているジェイに比べて、如何に自分達が未熟であるか、ロイドはそれをしみじみと感じていた。



「……はぁ、はぁ…………ふぅ。……ジェイさん……聞いても良いですか?」

「おういいぞ。どうした?」


 座り込んで休むセシルは、息を整えるとジェイに向かって話しかけた。

 隣に居るロイドとクラリーも息を整えながら、何だろうと耳を傾けている。


「今回の襲来って大規模って聞いたんですけど……そもそも大規模ってどれくらいなんですか?」

「ん……? ああ―――」


―――そうか、この子ら……12年前の大襲来を知らないのか。

 当時、まだ幼過ぎて覚えてないんだ……


 ……まあそれも当たり前か……あん時は、まだ俺も冒険者ですら無かったしな……




 セシルの質問にジェイは思い出す様に気付いた。


 確かに12年前を最後に、都市にまで魔物が来た事はない。冒険者ならば襲来の対応に追われ、嫌でも関わる事となるが、この子達はそうでは無い。

 この都市で育っていたとしても、知らなくて不思議は無いのだ。



 だがそれは同時に、襲来の対応に成功しているという事でもある。


 今回が大規模だとしても、これまでに得た経験から対処や備えは出来ている。

 たった今終わった荷運びや、樹海にいる冒険者の存在も、それを基にして立てられた作戦だった。



「今回の襲来が群れで動いてる従襲型ってのは聞いてるよな?」


 3人共それくらいは、といった感じに頷く。


「そもそもの話、基本的には従襲型の時点で大規模って言われるんだよ」

「―――え? そうなんですか?」

「ああ、実はな。従襲型が来る事があんま無いからこそ、そう言われてるんだろうな。―――ま、そんなに不安にならんでも大丈夫さ」


 ジェイは3人を安心させるように笑いながら、最後にそう付け加えた。

 そんなジェイの様子に、ロイドとクラリーは少し安心したような表情になる。


 しかし、セシルはまだ不安が残るのか表情が優れない。

 その不安が溢れるかの如く、口が開かれた。


「―――ただ、群れで来る事は間違いないんですよね?」

「……そんな心配すんな。これまでだって、群れがデカくなる前に討伐に成功したり、都市に向かって来た群れを樹海内で捌ききってるんだ」

「でも今回の襲来、調査の段階で停滞してて上手く行ってないんじゃ……」



 なるほど……よく調べてるな、とジェイは思う。


 確かに今までの襲来と比べると、現在の状況は芳しくないのは事実だ。

 だがそれがそのまま広まってしまうと、余計な混乱を招く可能性がある。


 だから、情報統制がある程度されてるはずなのだが……。

 それが分かっているという事は、自ら動いて調べたのだろう。 


 こういった情報を集め、整理する力は、冒険者として大事な要素の一つだ。情報の有無で依頼の難易度が大きく違って来る事も珍しくない。


 新米には中々出来ない事だ。

 ジェイはそう素直に感心すると、セシルに説明を始めた。



「そのための作戦を今やってるんだよ」


 ジェイは樹海の方を指差し、なぞる様に動かしながら話す。


「まず樹海を奥から手前に向かって、A、B、Cって感じでエリア分けされてる。そこに、左から右に向かって一定間隔で1、2、3……って感じでさらに分けられてるんだ。―――つまり捜索してるパーティにはそれぞれエリア番号……A-1とか、C-5、みたいな感じに振り分けられてる、って事だな」

「それって、その方が指揮が取り易いからですよね」

「そうだ。……何かあった時に情報伝達がしやすいし、駆け付けやすい。あとは一定間隔で展開する事で、魔物の群れがこの都市に来る前に、確実に発見もしくは街にまで攻めて来るのを防いでんだ」


 エリアの捜索を複数のパーティで当たらせているのもこれが関わっている。


 群れで攻めて来たのを発見した時、パーティ1つでは対処が間に合わずにどうにもならない場面が殆どだ。そのままではただ逃げるしかなく、全滅も十分にあり得てしまう。

 そのため複数のパーティを一緒に行動させる事で、対応力と殲滅力を上げ対処しやすくしていた。


 ただ、例外として『緋刃舞踏』らの様な、より奥地に行く冒険者は別だ。


 奥地が危険というのもあるが、単純に人材不足の問題が大きな理由になっている。

 それも踏まえて、魔物が攻めて来た時は対処しながら後退する事で、手前で捜索をしている冒険者と合流し叩く。

 逆に発見した時は殲滅しつつ手前に引き付け、これまた冒険者と合流し同時に叩く。



 それが今回立てられた作戦の基本的な概要だった。



「―――だから樹海に潜ってる奴らは発煙筒だったりとか、通信機が渡されて情報を少しでも早く伝えれるようにしてるしな。……ああ、でもそう言えば、奥の方に行ってる高ランク冒険者なんかは、距離が遠すぎるせいで通信する時に中継がいるって話だったな」

「樹海の中に中継機でもあるんですか?」

「いや、管理大変だし置いては無いよ。頻繁に使うわけでもないし……じゃ、どうするかって話だけど、実は通信機がそのまま中継機にもなれんだ」

「へぇ、なるほど……でもそれって、発煙筒必要あるんですか?」

「通信機の会話だけより、一目で分かる煙もあったほうが良いだろ? 通信って口だけで説明しなきゃなんないし、同時に複数通信あると情報整理しながらで、その分時間も取られるしな。それに何かあって通信出来ない状況でも、取り敢えず発煙筒が焚ければそれだけで伝わるし便利なんだよ」

「確かに……言われてみればそうですね」


 合間合間に質問などをしていたセシルは、ジェイの話に納得した様子で頷いている。

 横に居るロイドとクラリーも、2人の会話を聞いていただけではあったが、それは同じだった。



 ジェイは、会話をしている時から特に色々と思考するセシルに対して、改めて感心していた。



―――冒険者は闘いさえ出来ればそれで良い―――

 

 そう思い込んだ新人もいる。

 だが、この3人はそうじゃなかった。


 今日一日様子を見ていたが、戦闘面を除いても良い組み合わせのパーティじゃないか……

 まだ危なっかしい所もあって、微笑ましくなってしまう場面が無かったとは言えないが、それよりも将来が楽しみだ―――



 そう思わせてくれる3人だった。




「―――まあ話戻すが、ギルドもバカじゃない……。俺が今話したことが全部じゃないし、色々な事を想定して動いてる」

「はい……」

「心配な気持ちも分かるが、まずはもっと自分達の事を考えてけ。……お前らはまだ始まったばかりなんだ。出来る事をどんどん増やして、それからだ。……そんで、一人前になったらそん時は―――沢山頼らせてくれ」


 ジェイの急な一言に3人は面食らう。

 驚きで一瞬反応が遅れたが、すぐに嬉しそうな顔で返事をした。


「「はい!!」」


 3つ重なった元気の良い声が、夕暮れ前の空に響き渡っていった―――






◇ ◇ ◇



 少し離れた位置で楽しそうに会話する3人を眺めながら、らしくない事したかな、などとジェイは思う。


 普段は新人の育成に関わる事など殆ど無く、むしろ自分もまだまだと思っている。

 偉そうにあれこれと言ったが、自分がまだそんな事言える様な立場では無いのは、自分が一番よく分かっている。


―――それでも、あんな顔しながら話す3人を見れば悪くないな、と思える。

 


 将来、若い芽を伸ばす手伝いをするのもありかもしれない。


 ジェイはそんなふとした、夢とまでも言えない様な想像をしてみながら、涼しい風にそよがれていた。









 だが、それも長くは続かなかった。


 ジェイが不意に目を逸らし、視線を城壁の外へ向けた時だった。


 目に映った樹海の奥地、恐らく一番遠くであろう捜索エリアから、怪しく赤色に染まった―――発煙筒の狼煙が上がっていた。




 先程、自分が説明した通りだ。


 あまりにも分かり易く、危険を知らせてくれている。

 左から右へ、並ぶようにして上がる5本もの狼煙。


 遠くから見ればこそよく分かった……いや、分かってしまった。





 視界に広がるそれは、あまりにも広範囲に及ぶ襲来を分かり易く告げる―――樹海からの知らせだった。


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