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第2話 未知の場所

 5体いるオオカミの魔獣はしばらく前からそこにいたのか既に周囲を囲みつつあり、一定の距離を保ち、低く唸りながら様子を伺っている。鋭い牙をむき出しにし、ポタポタと涎を流して今にも飛び掛かってきそうだ。

 痩せこけた体や頬からみて、しばらく何も食べてないようで、その目からは理性の欠片も感じられない。

 しかし、4人が慌てる様子はなくオオカミがそこにいたことを最初から知っていたようだった。


「いつ襲ってくるかと思ってたけど、やっとなのね」


 腰に下げた太刀に手を掛けながらセツはオオカミの方を向く。それと同時にヴォルスはどこから取り出したのか、いつの間にかその手にはシンプルなデザインの長剣を持っていた。

 4人とも余裕があり、戦闘態勢に入った2人も「いつでも掛かってこい」と言わんばかりである。


「俺が正面の3体、セツは後ろの2体だな」

「2人ともかんばれー!」

「そうですね。……ただこの程度でしたら、頑張るほどでもないでしょう」


 戦うつもりが無いリンシーとアスロンは邪魔にならない様に一歩下がり、呑気に構えている。


 オオカミはジリジリと互いに距離を取りつつ、ヴォルス達の周囲をさらに囲むように動いている。腹を空かせ理性の無い目をしているにしては、獲物を逃がさない様にしっかりと連携をして狩りをしている。

 しかし実際は、相当じれったいのか今にも飛び掛かり、肉を貪り喰いたそうに感じる。そうしないのは、ここで逃がせば本当に食べる物が無くなるからだろう。

 このオオカミ達に残った僅かな知性がそうさせているのだ。


「腹空かせてそうな割に狩りはしっかりとしてるな」


 敵意丸出しで周囲を囲い込んでいるオオカミに対して淡々とヴォルスが話す。


「別に狩りが下手ってわけじゃなさそうね……。なんでこんなにお腹空かせてるのかしら?」

「気になるなら調べてみよっか?」


 セツが言った疑問は皆が感じていた事のようで、リンシーが調べてみるかどうか提案をした。

 そんなリンシーを横目で見ながらヴォルスが話す。


「いや、今はいいだろう。それより―――」


 ヴォルスが目を逸らした瞬間、好機と見たのかオオカミ達が一斉に飛び掛かってきた。同時に、それも5体全てが違う場所を狙い、噛みつこうとしている。

 飛び掛かったオオカミ達の鋭い牙がヴォルス達の身に喰らいつく―――






―――その瞬間、全てのオオカミは一太刀のもとに切り伏せられていた。

 全てのオオカミが急所を的確に斬られており、地に伏せたオオカミは既に事切れているようだ。

 ヴォルスは振るった剣を下げ、セツからはいつ抜いたかも分からない太刀のカチンッ、とした納刀音だけが響いた。

 そして何も無かったかのようにまた話し始める。


「この森を抜けることを優先しよう。街に行けばそれも分かるかもしれないしな」

「おっけー! なら早く行こっ!」

「ふむ……、では向こうに隠れているゴブリンはどうなされますか?」


 そう言ってアスロンが向けた視線の先には、離れた木陰から恐る恐る除くゴブリンと呼ばれた魔獣がいた。

 ゴブリンは緑色の肌をしており、ボロボロで所々に穴の開いた、継ぎ接ぎの毛皮の服を着ていた。手には小さなナイフが握られているが、汚れていて切れ味は悪そうだ。

 ゴブリンはアスロンが視線を向けると、焦ったように木の裏に隠れた。だがヴォルス達の攻撃が無いと分かると恐る恐る顔だけを覗かせ、怯えながらもこちらを観察し警戒しているようだ。


「さっきからずっとあの様子だしな、襲う気が無いなら無視でいいさ」

「じゃ、こんな用も無い森さっさと出ましょ」


 ゴブリンの存在には全員が気付いていたようで、その上で先程のオオカミと同じく無視していたようだった。

 実は元々オオカミの後をつけていた。バレない様に植物で臭いを消していたりと、似たような事を何度もしたことがあるのだろう。オオカミ達の狩りを見て漁夫の利か、もしくはおこぼれを貰う気だったようだ。

 しかし、ヴォルス達の一方的な戦闘――と言ってもゴブリンには何が起きたか分かっていないが――を見て完全に戦意喪失し、遠くからこっそりと見ることにしたようだった。

 もっとも気付かれてしまったが。




 一先ずの行き先を決めたヴォルス達は、ゴブリンが居た場所の正反対、森の出口に向かって歩き出した。街に行くという本来の目的を果たすために。

 幸いここは森の中でも浅い場所、少し歩けばすぐにでも森を抜けることが出来るだろう。


 4人は傍から見れば呑気にも見える、そんな他愛のないことを話しながら森の外へ進んでいった――――――





◇ ◇ ◇



 ゴブリンは怯えながら過ぎ去る背中じっと見つめていた。

――――――いや、目が離せなかったのだ。


 オオカミ達は完璧な狩りをしていたはずだった。なのに気付けばオオカミの方が狩られている。自分とあいつらとは埋められない差があると直に肌で感じた。絶対に敵意を見せてはいけないと本能が訴えていた。

 それでも逃げ出さなかったのは、オオカミと同じく食料に困っていたからだ。そしてその結果は大正解であった。奴らは獲物を放置し、しかも反対方向に進んでいった。

 しばらくは警戒したまま木の裏からじっと見ていたが、その内奴らの背中が見えなくなった。そうしてからやっと動き始め、目の前の獲物であるオオカミを急いで回収しだした。

 折角の獲物を誰かに盗られる前に運びたかったのもあるが、それよりもこの場から急いで離れたかったのだ。運べるだけ回収し、急いで現場から離れた。そこでようやく安心し自分の事を考える余裕が出来た。

 コレがあれば自分の群れが飢えずに済む。またしばらくは凌ぐことが出来るだろう。今回は色々と運が良かった。たまにああいう恐ろしい奴らはいるが、出会った者の結末は基本皆同じだ。今回はたまたま無事だったが、自分ももっと気を付けねばならない。

 運の良いゴブリンは回収した獲物を引きずりながらも急いで仲間の下に、森の奥へと消えていくのだった。





◇ ◇ ◇


 森を抜けるとそこには平原が広がっており、起伏で少し見えにくいが、馬車や人が通るためにある程度整備された道が続いていた。獣道と言うほどではないが、雑草が生えていたり、踏まれ倒れていたりと、一部地面の土が雑草で見えないような道である。

 そんな道が続いた先には都市があった。




「あそこに見えるのがそうみたいだな」



 呟いた視線の先には街と言うには少し大きく、都と言うには少し小さい、城壁に囲まれた都市があった。

城壁は10数m程の高さがあり、一定の間隔で城壁の一部に監視塔のような物が作られている。監視塔にはそれぞれ数人の兵士が常備して、周囲の状況を確認しているようだ。

 日が沈む時間が近くなってきたからだろうか。門の前には検問を受けるための人だかりが出来始めていた。

 門の周囲には、大きめの馬車に荷物を積んだ商人や、馬車で移動してきた者、また武器を持った戦闘経験の豊富そうな人間や、しばしば見える獣人など様々だ。

 見えている獣人はリンシーよりもさらに人間の要素が少なく、全身が毛皮で覆われて、まるで2本足で立った動物の様である。

 そんな人々を、門番である複数の兵士達が手分けして検問している。中にはよく通るのためなのか、あまり待たずに入っていく人もチラホラ見える。

 しかし、その間にも検問待ちの人が少しづつ増えていっている。





「これはのんびりしてると町に入るころには日が暮れてるかもな……」

「なら、いっそ朝まで森で待つ?」


 リンシーの提案にヴォルスは考えを巡らせる。


 それもありかもしれない。

 ただ、日が完全に沈み切るにはまだもう少し時間が掛かる。夜が近づけば、来る人も、待つ人も減るだろう……。

 しかし、遅くなりすぎると宿が取れない可能性もあるな。

 ……まあ、宿がなくとも夜に行動すれば良い。最悪、"館"を目立たない場所に出せばいいだろう。

  

「いや、いつもの様に旅してるようなもんだ。これも旅の醍醐味だと思って行くさ」


 その言葉にリンシーはなるほどと言った顔をする。確かにそうかもしれないと。

 アスロンはヴォルスの言葉を受け、少し楽しそうにしている。

 

「それでは、街に向かいましょうか。ここで話してるだけでは本当にそうなりそうですからね」

「最近は一箇所に留まってたしちょっと久しぶりの旅になるわね」

「美味しい物とかいっぱいあるといいね!」

「……ああ、楽しみだ」




1話でも出て来た"館"についてはその内登場します。

詳しくはその時に……。

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