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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
19/56

第18話 出立前日 (2)

5/11誤字修正+イトリスの台詞を少し追加

「そう言えばさっき、俺が居ない間何を話してたんだ?」


 ヴォルスが明日の捜索について会議で見聞きした事を共有した後の事だった。

 部屋を出て合流する前、3人が談笑していたのを見ていたヴォルスが尋ねた。


「メルース様、という方について少し……。話題している冒険者の声がたまたま聞こえまして」

「ああ、金ランク冒険者の……。会議にも参加してたな」

「今日来てたの見た人が話してたみたいでね。前の時は聞きそびれちゃったし」

「そうそう。イトリスが話そうとしてくれたけど、途中で終わっちゃったからねー」


 試合のため訓練所に案内された時に聞きそびれたのを覚えている。

 メルースと言う名で、同じく金ランク冒険者である『緋刃舞踏』と仲が良いとは聞いた。

 実際、ヴォルス達もその日に彼女らが一緒に居るのを見ていた。


 そしてヴォルスは今日もつい先程、同じく会議に呼ばれていたメルースを見ている。


 机を挟んだ先に居たメルースはリンシーと似たような背丈で、隣に居た『緋刃舞踏』のネリアよりも低かった。彼女の外見だけで言えばまだまだ幼く子供で、場違いに思える。

 だが胸に下げられた金に輝く証や、佇まいだけでも百戦錬磨だと一目で分かるだろう。

 しかしそんなものより、誰が見ても、どんな人が見ても一目瞭然で、彼女を彼女たらしめる特徴があった。



 それはメルースの扱う得物――――――『大剣』だ。


 背丈を遥かに超え、彼女の倍はありそうな程の巨大さがある。また刃の幅も本人の体がすっぽり隠れるくらいには広い。

 形状も独特な造りで、剣身は菜切り包丁の様な四角い形をしている。そして刃が付いている反対側、つまり背の部分の途中から柄が伸びており、剣身と柄が一体化しているような見た目が特徴的だ。

 さらには大剣を構成する素材も相当特殊なのか、鱗を連想させるような模様や装飾も剣身に見受けられた。

 

 常人では持ち上げる事すら敵わないその大剣を、メルースは軽々と片手で持ち上げていた。

 一体何処にそんな力があるのか理解出来ない。

 彼女と大剣にはそれほどのギャップがあった。


 しかしだからこそ、金ランク冒険者というのも納得な話ではある。



「何でもメルースって元々ここの冒険者じゃないらしいわよ。『冒険者都市』って所から来たみたい」

「冒険者都市、か……」


 ヴォルスはその名に聞き覚えがあった。 

 図書館で国について調べていた時だ。帝国や王国、サルファー教を軸とした宗教国家、様々な国がある中に連なってそれは書かれていた。

 中でもこの冒険者都市はかなり特殊な成り立ちをしており、それもあってかヴォルスはよく覚えていた。


「ここから北に進んだ先にある国だな。……いや、国と言っていいのか怪しいが……」

「え、国じゃないの? 都市って言うくらいだし何処かの国の街かと思ってたんだけど……」

「定義で言えば国ではあるんだろうが、かなり特殊な場所でな……。冒険家都市と言うのは―――」


「―――私が説明しましょう!」


 ヴォルスのセリフを遮ってそう元気な声で言ったのは、ギルド職員であるイトリスだった。


「……数日ぶりね、イトリス」

「久しぶり~。これまた急だねー」

「はい、数日ぶりです!」


 何やら興奮した様子のイトリス。

 4人共、急な大声に何事かと戸惑う。

 イトリスは何か用事でもあったのか、こちらに向かって来ていた事には気付いていた。だが『冒険家都市』と言う単語が出た途端、早足で近寄り今の状態だ。

 初対面時にも感じた、冒険者というものに対して持っている憧れの様な感情がここでも溢れていた。


「まあイトリスの方が詳しいだろうし話してくれるなら聞きたいな」

「では、僭越ながら……」


 ヴォルス達の視線を集める中、コホンと一拍置いてから話し始めた。



「冒険家都市について説明するにはまず、冒険者とは何なのか、そこから話す必要があります。―――冒険者、一言で言えばそれは『未知を既知にする開拓者』です」

「開拓者?」


 冒険をする者ではなく開拓をする者。

 そう聞き、関心を持ったセツは繰り返すように問い返した。


「そもそも冒険者という職業は、その冒険家都市が始まりなんですよ。そして過去にクランタの領主がそれを真似した事でこの街にも冒険者という職業が出来たんです。現在周辺国家の中でも冒険者という職業があるのは、この街と冒険家都市だけなんですよ。……まあ提携とかをしてるわけでは無いので、名前だけ同じの別組織なんですけどね」

「へぇ~、そうなんだ。……じゃあ他の所はどうしてるの? 魔物がいないわけじゃないでしょ?」

「勿論、冒険者の様に魔物を討伐する事を仕事としている方はいます。ですがそういった方は『傭兵』と呼ばれていますね。……後は、帝国などでは兵士が対処してると聞いています」

「ふむ、なるほど。あくまでその『開拓者』、というのが重要なのですね」


 一同が納得したところで本題に入る。


「―――昔、各地を旅し続ける5人組が居ました。彼らはあらゆる土地を渡り歩き、旅をしつくしたのです。しかしそれでも尚、旅したりなかった……。ならばと思い付いたのが未知の土地。"誰も知らないものを自分達で見つける冒険をしよう"。その言葉の元、5人の意志は一つになったそうです。―――それが全ての始まりです」


 自分達も似た様に各地を旅して来た。だからその5人に親近感を感じたのだろう。

 話を聞き入り、誰も口を開かなかった。


「……その後はとんとん拍子に進みました。最初は1つのパーティ……ですが5人の噂を聞いた者が徐々に集まりだし、やがて一団に。そこからも人が増え続けた結果、村になり、町になり、最終的には都市と呼べるまでに大きくなりました。―――それが『冒険者』という職業の始まりであり、冒険者都市の起源なんです!」


 ヴォルスはこれを調べた時に知った。

 しかし他の3人はこれまで自分達がイメージしていたのは冒険者では無く、傭兵の方が近かった事に気付いた。

 この地では、『冒険者』という名には本懐とも呼べる定義があったのだ。


「って事はさ、その都市じゃ冒険者たちが開拓してるんだよね……それってもしかしてリンゲルス樹海?」


 リンシーがそう思い至り聞いた。


「はい。今では防衛がメインになってしまっているクランタも本来はそうなのですが、冒険者都市に居る冒険者の目的はリンゲルス樹海の開拓です。……そしてそういった方々が集まって出来ている場所なので実は名前も無いんですよね。だから『冒険者都市』と呼んでいるんです」

「でもイトリス前に奥地は危険とか言ってなかった?」

「確かにクランタより遥かに危険なのは確かですが……それを開拓していくのが冒険者なんですよ!」


 それが本懐だとしても、やはり現状どうなのか疑問ではある。

 ヴォルスは率直に尋ねた。


「それは上手くいってるのか? 相当危険そうだが」

「―――実は成功してるんです! 少しずつではありますが拠点となる都市は奥地、奥地へと進んでいるんです!」


 身を乗り出すような仕草で、冒険者が如何に凄い人々かとイトリスが熱く語った。

 あまりの熱量に押されてしまいそうだ。だがそれだけ尊重し、憧憬しているのであれば冒険者の職員としては天職なのかもしれない。


 しかしヴォルスにとってはいくら凄かろうが奥地がどれ程危険なのか知らないため分からない―――そう思ったが基準となりそうな存在を思い出す。

 それはこの会話のきっかけにもなったメルースだ。


「……今日も見たが、メルースは冒険者都市出身なんだってな」

「はい、そうです!……ん? そう言えば前に話そうとして結局話してなかったですね」


 どうやらイトリスが4人の会話を聞いたのは冒険者都市というワードが出て来てからだったらしい。

 会話の始まりであるメルースの話は聞いていない事が分かった。


 ヴォルスに言われ、メルースの話が途中のままの事を今思い出した様だ。

 少し申し訳なさそうにしているのは、話が途中のまま忘れてしまっていたからだろう。


「彼女はよくうちに来てくれていますが、普段は冒険者都市で暮らしてるんです」

「なるほどね……。確かにここじゃ金ランクだし、その冒険者都市が本拠地って言われても想像に難しくないわね」

「単独で金ランクな事も加味すると、実際に相当なやり手なのでしょう」


 セツもアスロンも素直に称賛を口にした。

 その気持ちは皆が同じだ。メルースの実力に疑問を持つ者は誰もいない。

 目の前で彼女を見たヴォルスは特にそうだ。


 『緋刃舞踏』が3人のパーティで金ランクなのに対し、メルースはパーティを組んでいない。にも関わらず金ランクなのは、やはり並々ならぬ実力の持ち主だからだろう。

 とは言え『緋刃舞踏』もそれぞれがかなりの実力を持っているのも事実。


 単純にメルースの実力がずば抜けて異常なのだ。



「……冒険者都市ってそんな凄い人で溢れてるのかな~?」


 リンシーが上を向いて考えるような仕草をしながら呟く。

 それにはヴォルスも同意だ。あのレベルの者が当たり前の様に居るのだとしたら驚愕する他ない。

 どうなのかと問いかける様な視線をイトリス向ける。

 だが、首をぶんぶんと振ってそれを否定した。


「いえいえ、そんな事無いです! 私も行った事が無いので詳しい訳ではありませんが……知っている方の話を聞くに彼女は、冒険者都市の中でもトップクラスのずば抜けた実力だそうです」

「流石にそうなのね」

「ええ、それはもう。……正直メルースさんクラスの冒険者が沢山いれば、私達もここまで困らないでしょうし……」


 イトリスが少し自虐的にそう言う。

 だがそれはその一瞬だけですぐに笑顔が戻った。


「ですが……! 今回はそのメルースさんが助けて下さっていますし、凄く頼もしいんですよね!」

「確かに間違いないだろうな、見ただけでもそれは分かった」


 目の前で直接見たヴォルスは大いに同意した。

 

「―――ただそれはそれとして俺はあの大剣をどう扱うのか気になるな」


 目の前で見たからこそ、ヴォルスとしてはそこが気になった。


 しかし他の3人はそもそもメルースをしっかりと確認していない。初めて見た時は遠目な上、人の陰に隠れて見えづらかった。


 実はその時もメルースは大剣を持っていたのだが、隣に居たガネッタと被ってハッキリと見えていなかったのだ。


 因みにメルースが樹海の捜索に向かうのは今日だ。

 しかし今いる場所からは死角になっておりギルドの入り口は見えないため、会議が終わった後すぐに出て行ったメルースを誰も視認出来ていなかったりする。


 だからこの場でハッキリとメルースの姿を見た事をあるのは、ヴォルスとイトリスだけしかいなかった。


「わたし達は遠目でチラッとしか見た事ないけど、ヴォルスはさっき会ったのよね?」

「ああ……、正直あれをどう扱ってるのか想像しづらい」

「―――大剣ってそんな変わった見た目してるの?」

「いや、見た目というよりはサイズだな。本人の倍はある異常な大きさで、文字通りの大剣……最初は目を疑ったよ……」

「……確か、リンシーの身長と彼女とでは然程変わりなかっと記憶しているのですが……」


 アスロンはメルースを見た時を思い出しながら、記憶と目の前に居るリンシーを比べた。

 近くで見たわけではないため断言は出来ないがそこまで違いはなかったと言えるだろう。


 それを考えるとその大剣がどれ程の大きさかイメージは出来る…………出来るが、それだけだ。

 自分が直接見たとしても抱く感情は同じに違いない。



「その認識で合ってると思いますよ。メルースさんを見て驚くのは誰もが通る道、と言ってもいいくらいですから。……ただ、どう扱ってるのかに関してはメルースさんを知る方の殆どが思ってる事ですからねぇ……。基本彼女はソロですし、知ってるのはそれこそ仲の良い『緋刃舞踏』の方々だけでしょう」


 イトリスは上を見て不思議そうにしながらそう語る。

 普段から単独で行動しているだけあって謎が多いようだ。


 そこまで言った後イトリスはヴォルス達に会いに来た目的を思い出したのか、そうだと手を叩いた。

 

「あ! 私皆さんに声を掛けに来たんでした。まだ冒険者になられたばかりなのに大変な依頼を任せてしまって……実力があるんだとしても、やはり色々急でしたから……ありがとうございます」


 そう言って綺麗な礼をした。


 思うところがあったのだろう。 

 イトリスは先程までとは打って変わって申し訳なさそうにしている。 

 

「別に気にする必要無いわよ。それを良しとしたのはわたし達なんだし」

「……そう言っていただけると我々も助かります」


 冒険者である以上これも仕事だ。新人だからと自分達に出来る事を無視するのは違うだろう。


 セツの言葉にイトリスの顔が少し和らいだ。

 完全では無いものの、何か引っかかっていたものが取れたのかもしれない。



 ここでリンシーがふと思った事をイトリスに尋ねた。


「ねえ、やっぱりボク達みたいに特例で要請があるのって珍しいの?」

「えっと……そもそも要請が必要な事例そのものが珍しいので、そうなりますね。……ただ今までを遡っても皆さん程新人の方に依頼するのは初めてだと思います。……うーん……今までの最短は多分イヅチさんじゃないかなぁ……」


 考え込み記憶を掘り出しながら、たどたどしい口調でイトリスはそう言う。

 記録や経験を遡ってみても他に思い当たる人物はいなかったらしい。


 イトリスが考えながら呟ていると、聞いた事の無い名前にアスロンが反応した。


「イヅチ様、という方が居るのですか?」

「いえ、今は居ないんですが……でも昔に活躍されていた方で。……イヅチさんも最初から、しかもソロで高い実力を持っていましたね」


 これまで聞いた話からも分かるように、元々実力のある人物が冒険者になるのはさして珍しいわけでは無いようだ。

 それを考えると冒険者になってすぐの新人であるヴォルス達に要請が来たのは単純にタイミングの問題で、イトリスが気にするような事では全くないのが分かる。


 それでも気にしているの部分があるのは、イトリスの優しさ故だろう。




 そんなイトリスが懐かしむように過去を思い出している時であっても、周囲の様子は相変わらず騒がしい。

 ずっと気になって、言おうと思っていた事があったセツはこのタイミングで聞いてみた。


「……って言うかイトリス、ここでずっと話してて大丈夫なの? 他の職員さん結構忙しそうにしてるけど……」

「―――そうでした! すみません、私仕事があるのでこれで!」


 ハッとした後そう言い残し、イトリスは慌てて去っていく。


 焦った様子で急いで駆けていくのだが、途中イトリスを呼ぶ声が聞こえて来る。どうやら他の職員が探していた様だ。

 その声を聞いたイトリスは謝りながら声の方へ向かって行った。


「……明日からは我々も忙しくなりそうですね」

「ああ、そうだな……」


 今日は都市全体が慌ただしい。

 それはギルド内も例外では無く―――いやギルド内こそより慌ただしい。


 ヴォルス達も万全に備えていなければいけないため暇と言うわけではないが、比較的自由ではある。

 だがそれも嵐の前の静けさでしかない。明日からは本格的に動かなければならず、油断ならない日常に変わるだろう。

 


「俺達も気は抜けないな……」


 ヴォルスの呟きが、張り詰めた空間に溶けるように消えていった。




お待たせしました

次話でやっと色々主人公達の情報が増えます

彼らの能力なども出ますので、宜しかったら次回もお願いします



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