第17話 出立前日 (1)
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―――今回の襲来は複数の魔物を従えている『従襲型』だ。
襲来では一番多く、前回の時もそうだった『独襲型』とは違い難易度、危険度共に非常に高い。
現在、そいつはリンゲルス樹海に住む魔物を手下として縄張りを広げている。
高ランクの冒険者が過去の例を参考に目標の捜索を繰り返しているが未だ発見には至っていない。かなり奥地を住処にしているためと考えられる。
しかしだ。目標が従えていると思しき魔物が部隊を組んでいる事が分かった。
このまま放っておくといずれ、街にまで来る可能性がある。
それは何としても阻止しなければならない。
だが、万が一の事も加味し備えもしておく必要がある。
そこで皆には街近辺の樹海で防衛強化、異変の兆候の有無、そして備えの助けとなる依頼を受けてもらいたい。勿論、樹海での討伐依頼もしてもらう。
目標の捜索はこれまで通り高ランクの者に任せ、その過程で目標が従えている部隊があればその討伐も任せる。ただ、いつもより樹海奥地にまで行ってもらうため危険な依頼だ。だからこそ高ランクの者にしか任せることが出来ない。
端的に言えば、樹海奥地に行くほど高ランクの冒険者が担当する事になる。
樹海での討伐は基本、複数のパーティで行う事を推奨する。それは魔物が部隊を組み統率が取れている場合があるからだ。
調査をしていた冒険者の報告ではそれなりの規模をした部隊もあったそうだ。
見慣れた場所だから、と油断の無いように気を引き締めろ。
奥地に行く高ランクの冒険者には最終目標である『従襲型の魔物』の捜索を優先してもらう。敵部隊の討伐も場合によっては報告だけで無視してもらっても構わない。
それと万が一のため街で待機をするパーティも必要になる。そのため捜索に行くパーティとローテーションを組んで捜索に当たってもらう。
これらに関しては後で、任せる冒険者に詳しい事をそれぞれ指示する。
今回は久しぶりの『従襲型』だ。
中には初めて遭遇する者もいるだろう。それに前回の『独襲型』は早期に発見、討伐と事が進んだため知らぬ間に終わった者も多い。
だが、今の状況で言えばそれとは真逆だ。
早ければ数日以内に街にまで押し寄せてくるかもしれない。
12年前のような、過去最大の襲来の二の舞にしないためにも、全力で事に当たれ―――!
◇ ◇ ◇
冒険者全体に『襲来』が訪れたと通達がされた。
その情報は直ぐに街全体へと広がり、どこに居ても空気が張り詰めている状態だ。
ヴォルス達がここ数日過ごした場所はどこも忙しなく、襲来に備え様々な人がバタバタと行きかっていた。
その中には12年前を思い出してなのか、聳え立つ塔の上、危機を知らせる鐘を心配そうにも苦しそうにも見える表情で眺める住民もいた。
襲来の対応は何度も経験し慣れてるのかもしれないが、気持ちでは中々慣れないという事なのだろう。
ギルドに来ていたヴォルス達は通達を受けた後ヴォルスだけ呼び出され、予め受けていた『緋刃舞踏』から要請についてギルドの一室で話を聞いていた。
部屋はギルドに来た初日に案内された部屋と同じ構造で、机や椅子など置いてある物も同じだった。
部屋には金ランクであるルビアをはじめ、試合相手だったアレクレート、ギルド側からはグレイと、同じように呼び出された高ランクの冒険者と思わしき人物達を含め多数集まっている。
ただ集まっているのはパーティのリーダーだけで、それはヴォルスも同じだ。
集まった冒険者に一通り目を通したが、首から下がっておる冒険者証は殆どが赤ランク以上だった。
唯一違ったのはヴォルスとアレクレートだ。
どうやらアレクレートのパーティもヴォルス達と同じく誰かから要請があったらしい。
その中でも金ランクなのは2人しかおらず、ルビアと名前だけイトリスから聞いたメルースと言う冒険者のみだ。
如何に彼女達が優れた実力を持っているかが分かる。
机には都市クランタ近辺の樹海を中心とした大き目の地図が広がっており、その上には筆記用具や敵味方を示す駒などが置かれていた。
椅子は邪魔なのか部屋の端に寄せた状態で皆が机を囲み、グレイが中心となって綿密に議論がされていた。
地図には今分かっている情報や、調査したエリア、討伐した魔物の部隊が居た場所などが印してある。それだけではなく、過去あった襲来の進行ルートや魔物の位置などを印した別の地図も複数あった。
敵はどのルートで来るのか、捜索メンバーをどう配置すれば穴が出来ないか、何処まで捜索範囲を広げるかなど様々な意見が飛び交っていた。
とは言え悠長にしている暇は無く、それが分かっているためそこまで長引く事も無かった。
話が終わると殆どの冒険者が息つく間もなく、即解散した。
早速今から捜索に向かう冒険者は飛び出すように部屋から出て行き、急ぎ行動を始めている。
しかしその中にヴォルス達の姿は無い。
ヴォルス達が担当するのは明日で、今日は待機する事になっていた。
だが待機組だからと言って気は抜けない。万が一の時のため、いつでも駆け付けれるようにはしておく必要がある。
部屋を出たヴォルスは、設置されているテーブルに着いて談笑している他の3人を見つけた。
流石に通達のあった今日は4人揃ってギルドに来ていた。だがギルド着いた途端、ヴォルスが話に呼ばれたと言うわけだった。
ギルド内は今の状況もあってか人がバタバタと動き回っていたり、あちこちから騒ついた声がしている。
ヴォルスはそこに居るだけで、ピリピリとした肌を刺すような緊張感を感じていた。
「あ、おかえりー。……それでどうだった?」
ヴォルスが戻って来たのに気付いたリンシーが声を掛けた。座ったまま顔だけをこちらに向けている。
「結論から言うと明日、樹海の奥地に行く事になった」
ヴォルスは席に着きながらそう答えた。
態々立って出迎えていたアスロンは、ヴォルスが座ったのを確認して自分も席に着く。
傍から見れば、仲間にしてはやけに大袈裟と思われるがアスロンにとってはこれが普通だ。
「それがルビアの言ってた『要請』ね」
「大事になる前に元凶を叩くという事ですね……とは言え既に大事ではありますが」
アスロンが周囲を見渡しながらそう付け加える。
「ああ、それで捜索を担当する日と場所を聞いていた。俺達が発つのが明日で、場所も地図を貰って来た。それから主に目標を発見した時に使う、連絡用の魔道具だな。これも参加した全員に支給された」
そう言ってヴォルスは渡された支給品を出した。
地図やいつくかの魔道具が机に置かれ、特にリンシーが真っ先に魔道具を手に取り興味深そうに見ている。
一方、セツは折り畳んであった地図を広げた。アスロンもそれを横から確認する。
樹海が描かれた地図には様々な印が付けてあるのだが、セツはその内の一つを指差す。
「この囲まれたエリアがわたし達の担当? これだけじゃどれくらいか分かりにくい……」
「端に描いてあるこの街と比較すればある程度把握は出来ますよ」
「あー、確かに……でも樹海と街中じゃ感覚も全然違うし結局じゃない?」
「私はそうでもないですよ」
「……あんたそういうとこ、ホント器用よね……」
ニコニコとしたまま、さも当たり前の様に言うアスロンに、セツは半分投げ遣りに答えた。
そこで会話が途切れ一瞬沈黙が訪れる。
だが、いつまでも魔道具を触り続けるリンシーを見てセツが口を開いた。
「―――って言うか樹海ならリンシーの専門でしょ! ちょっとは話に入りなさいよ!」
「ん~? まあそれがボクの本質、というか性質だしねー。基本ボクが誘導するし大丈夫だよ」
我関せずとしていたリンシーも声を掛けられれば答える。しかし話しながらも一切セツの方を見る事は無く、興味は全て魔道具に寄せられていた。
セツには受け応えしている風に見せかけて、実際は何も聞いていないようにしか見えなかった。
「ホントに大丈夫?……いや、大丈夫なんだろうけど……」
リンシーとは付き合いもそれなりに長く、信頼もしているため問題ない事は分かっている。
だがそれでも、セツは頭を抱えて項垂れるしかなかった。
リンシーの設定に関しては前からいくつか出て来てましたが、2話くらい先で大体回収出来ると思います
その時に1話で出て来たヴォルスの"館"についても回収予定です




