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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
16/56

第15話 もたらされた前兆

※6/15セツとネリアの会話部分に文章を少し追加。

※8/30リンシーの台詞と文章を少し追加。

 ギルドで依頼を受けたセツとリンシーは再び樹海を訪れていた。

 少し奥に進んだ所にある素材の採集が今回の依頼の内容で、その素材を探そうとしていた時だった。


「ハァ~イ、こんにちわ」


 軽く手を上げながら(にこ)やかな笑顔で『緋刃舞踏』の3人の内、1人が話しかけて来た。

 鬱蒼とした樹海には似つかわしくない鈴を転がすような綺麗な声が、草木の葉擦れる音に消えていく。


「……何の用?」


 しばらくの沈黙の後、セツがあからさまに警戒心を剥き出た態度で無愛想にそう答えた。

 しかしそんな態度を取られてもまるで気にしていないのか和やかなままだ。


「そんなに邪険にしないでよ。ちょっと仲良くしようと思っただけなのに」


 表情や佇まいを見ても真意は読めない。それは両隣に立つ2人からも同じだ。

 と言っても1人はフルフェイスの全身鎧のためそもそも見えないが。


「初めまして、私はルビア。あなた達と同じ冒険者よ。昨日の試合を見ててね、気になったから会いに来たの」

「へぇ……わざわざこんな所まで?」

「ええ、依頼を受けてるのよ。そのついでにね」


 そう言ってお茶目にウインクをしてみせる。

 行動自体は可愛らしいものだが、その麗しい見た目のせいでどこか美しくも感じてしまう。

 だがそれはあくまで客観的に見た時の話で、セツからしたら胡散臭さしか感じない。


 その時、ルビアの隣に居た女性――フルフェイスをしていない方――が、無言のまま腰に下げていた剣の柄で、ルビアの横腹を勢い良く突いた。


「い゛っ!」


 鈍い音と同時に唸るような声が漏れる。 

 気が入っていない上に不意の一撃。誰がどう見ても大丈夫なはずがなかった。


―――ああ、あれは入ったな……。思わぬ展開に毒気を抜かれ、そんな事を考えながら拍子抜けするセツ。先程までの警戒は何だったのか。何とも言えない感情になる。

 セツの隣で見ていたリンシーも気が抜けたように「わぁ……痛そー……」と呟いていた。


 ルビアは不意に突かれた部分を押さえ、苦し気に顔を歪ましながらゆっくりと膝をついた。静かに悶えながら呻く声が聞こえて来る。

 そんな状態のルビアを一瞥する事も無く、突きを入れた女性がセツ達に向かい謝罪をした。


「うちのリーダーがすまないね。……ただ、私達が純粋に君達と話してみたかったのは本当なんだ。」


 まるで何も無かったかのような良い笑顔だ。もしかしたらルビアは普段からぞんざいな扱いを受けているのかもしれない。

 そんな思考は一旦置いておくとして、彼女らの言う純粋に会って話してみたい、というのはどうやら嘘ではないようだ。声や立ち振る舞いからそう感じた。

 

「私はネリア。それから、そっちの顔の見えない無口なのがガネッタだ。」

「……初めまして」


 兜の中から少しくぐもった声が聞こえた。

 大き目に声を出してるのか聞き取れない、なんて事は無い。無口と言うよりかは余計な事は話さないが正解なのだろう。


 ここで改めて3人を見てみる。

 身長はガネッタが一番大きく、ネリアが一番小さい。3人が身長順で並んだ時、大体頭一つ分ずつ違っている。ある意味バランスが良い見た目だ。


 リーダーと呼ばれたルビアは鮮やかで燃えるような長い赤髪を揺らし、前髪隙間から覗くその目は宝石の様で淡い青色に輝いている。

 腰には『エストック』と呼ばれる細身の刀身で突き刺す事を主とした剣を下げていた。防具も比較的軽装で、動きやすさを重視しているのだろうと思われる。


 ネリアは若干の幼さを残しつつも凛々しい声をしており、本人の雰囲気もそれに近い。ルビアのエストック程ではないが、一般的な物よりかは細身の剣を両腰に1本ずつ差している。

 橙色の装飾が散りばめられた防具はルビアと同じく、いやルビアより軽装でさらに動きやすく、その小柄な体型を活かすためにそうしているのだろう。


 最後にガネッタ。

 体躯の良い体に加え顔まで覆う全身鎧を着ているせいか、そこに居るだけで威圧感を感じてしまう程だ。

 手には『ハルバード』と呼ばれる、持ち手の部分を長くした斧のような武器を携えている。全体的に重厚感があり、まるで騎士の様な出で立ちだ。


 そして全員、首から金色に輝く冒険者証が下げられていた。

 一目で分かる。それこそが頂点の証であり、彼女らの実力を表している物でもあった。



「はーい、初めまして! だけどその様子なら自己紹介はしなくてもボク達事は知ってそうだね」


 最初から警戒心は対して無く、どこか楽観的に成り行きを見ていたリンシーが人懐っこい笑顔で元気良く挨拶を返す。


「ああ、勿論。だからこそ会いに来たわけだしね」

「それで話したいってのは分かったけど、結局その内容は?」

「ああ、それは―――」



「―――勧誘よ!」


 今の今まで蹲っていたルビアがバッと起き上がり、ネリアの言葉を遮って声高らかにそう叫んだ。


「か、勧誘……?」


 突然起き上がったことに驚きつつも、訳が分からないといったセツの戸惑いが言葉の端々に感じられる。

 それはリンシーも同じで頭を捻っていた。


 ネリアは溜め息をつき、頭を抱えて項垂れた。

 頭を上げ、若干イラつきながらも呆れた顔でルビアに訴えようとしたがそんな隙は与えられなかった。

 ルビアが大げさな動作でまくし立てる様にセツに迫って来る。


「そう! 勧誘よ! 昨日の貴方達が戦ってる姿は本当に素晴らしかったわ!力強く、そして美しかった!それを見てもう是非とも誘わなきゃと思ったのよ!だからどうかしら良かったら私達のパーティに来―――」

「―――せいっっ!」


 気合の入った掛け声と共にネリアの回し蹴りが殺烈した。

 遠慮の無い一撃でルビアが勢いよく吹き飛び、ゴロゴロと転がりながら近くの樹に直撃する。

 周囲が揺れるような衝撃と音で木の葉が舞い、鳥が大空に羽ばたくのが聞こえて来た。


「―――ぐおぉ……!あ、頭が……!」


 樹の根元にはルビアが頭を抱えている姿があった。どうやら頭をぶつけた様で痛そうに悶えている。

 しかしそれを見ても誰も助けようとせず、ただただ傍観されていた。

 ここまで来ると流石にセツとリンシーもそろそろ目の前の3人がどういった人柄なのか分かって来る。

 一先ず成り行きを見守る事にした。


「君は本当に変わらないな! 一旦そこで黙っててくれ」 

 

 表情は笑顔のままだがこめかみには青筋が立ち、声には怒気が含まれている。誰が見ても苛ついているのが分かるだろう。

 セツとしてはいきなり始まったやり取りに困惑するしか無く、思わずリンシーに目線を向けた。だが、そのリンシーは今の状況を楽しんでいるらしく口元に笑みを浮かべており、何もせず傍観する気満々の様相だった。

 セツはああ……そう言えばこんな性格だったなぁ、と思い出したように落胆する。


 そんな状況を見兼ねたのかガネッタが口を開いた。


「……ネリア」


 その一言でハッとしてセツの方に向き直る。


「コホン……すまない、あれは忘れて欲しい」


 ルビアは抗議のつもりなのか、ひどーい……と呟くのが聞こえるが反応しない。完全に無視を決め込むようだ。

 呆れ果てたセツも一応目線だけルビアに向けるが気にしないのは同じだ。

 唯一リンシーだけは面白がって絡みたそうにしているが、流石に空気を読んで言葉を飲み込んだ。

 ……決してセツからの圧を感じ、同じ目に合うかもと思ったからでは無い。


「さて、それで本題なのだが……ちょっとしたお願いの様なものだ。実は昨日の試合を見ててね……正直な所、実力は相当なものだったよ」


 そう言ってネリアは小さく笑みを浮かべ、ここには居ない2人も含めて素直に称賛を送る。

 そこに一切の嘘偽りは無いと感じ取れた。

 だがすぐに真剣な顔になり続きを話し始める。


「もしかしたら既に聞いているかもしれないが、今この樹海で異変が起こっている……過去の例から見ても近々、()()が来るのはほぼ間違い無いだろう……。―――それも大規模なものが」


 『大規模』、その言葉にはより重みが乗っていた。

 異変については昨日イトリスに聞いていた事もあり驚きは無い。その可能性もあるだろうと……。

 だが、そこまで言い切れる程になっているとは思ってもいなかった。


「これはギルドも認めている事だ。そして、もうすぐ冒険者全体に向けても公表される予定になっている」

「へぇ~、だから今ボク達に話しても問題無い、と……」


「本来宜しくは無いんだけど……まあ数日の内に公表されるだろうし、正直他の冒険者達も薄々感付いて来てる。問題はないよ。……だからその時が来たら協力して欲しいんだ。」


「いやいや、協力しない訳ないでしょ―――わたし達が逃げるとでも?」


 それは勿論協力する。暫くこの街で冒険者として暮らすと決めた以上、知らぬ存ぜぬとはいかない。むしろ興味本位ではあるが調査しようと思っていたくらいだ。

 そのためネリアの言葉には不服だった。あからさまに不満を見せ、抗議する。

 しかしネリアは誤解だ、と否定した。


「言葉足らずですまない、そういう意味で言ったんじゃないんだ。単純に規則の問題だよ。君達のランクの関係上、出来る事には限りがある……でも私達、金ランクの冒険者が保証することでそれを取っ払うことが出来るんだ」


 自らの首に下げている金色の冒険者証を見せる様に持ちながらそう言った。

 だがそれだけではないらしく、申し訳なさそうな顔になる。


「それはより危険な仕事を任せる事にもなる。―――だから()()()に来たんだ」

「……なるほど。ごめんなさい、そういう事ね。」


 セツはそれならと納得し、逆に早とちりした事を詫びた。

 言われてみれば自分達はポッと出の4人。クランタには来たばかりで、冒険者にもなったばかりだ。「関係無い」と、突っぱねられると思われても仕方ない。

 だがそんなわけ無いとセツは知っている。ヴォルスが聞けば間違いなく、この件に協力するだろう。


 そんなヴォルスが好きで、皆旅についてきたのだ。



「でもそれなら問題ないよ。ね、セツ?」

「そうね。一応、ヴォルスとアスロンにも話してからになるけど……わたしだって出来る事を無視するつもりは無いし、他のメンバーだって同意する」

「もちろんボクもね。襲来の事はイトリスから聞いているし、街の人達を護りたい気持ちもよく分かるから」


 そう言ってセツとリンシーは快く承諾する。

 断る気配を微塵も感じさせない、されど軽いわけでもない。しっかりと意志の籠った快諾だった。


「ありがとう。勿論、相談の後で構わない。……実際に協力して貰う時にはギルドから話がいくと思う。その時はお願いするよ」

「了解。その時が来ない事を祈っておくわ」

「おっけー!」

「取り敢えず話はこれだけだ。次会えるのを楽しみにしてるよ。それじゃ、またね。…………ルビア行くぞ!」


 ネリアが別れを告げ、視界の隅で忘れ去られた様に佇んでいたルビアを引きずりながら去っていく。

 ガネッタも会釈をしてから2人の後を追っていった。



「変な人達だったねー」

「……そうね。まあ、わたし達も行きましょうか」

「うん、そうしよっか」


 3人の背中が見えなくなり辺りがやけに静かに感じられるようになった頃、何とも言えない感情のセツとリンシーは、何も無かったかの様に再び目的地を目指し歩く。のんびりとまでは言わないが、急ぐでもなく足を進めていた。

 『緋刃舞踏』の面々に多少の時間を取られたが依頼を達成するのに何か不都合が生じる程でも無い。

 それよりもネリアに聞いた襲来が気になる。少し調査するつもりだったが、がっつりと調査をした方が良さそうだ……そんな事を考えながら目的地に向かって行った。






◇ ◇ ◇



 セツらと別れた後、『緋刃舞踏』の3人が歩きながら話していた。


「はぁ……凄く可愛い娘達だったなぁ……。今度はデートにでも誘ってみようかな」

「……君も懲りないね、本当に……。その女性に目が無い性格は治せないまでもせめて、コントロールする努力はしてくれよ……」

「え、してるけど?」

「だったら尚更悪いわ……」


 いつもの事だからと、半分諦めたようにネリアが突っ込みを入れた。しかしルビアの方もいつもの事だと、何処吹く風でニコニコしている。



 何を隠そう、ルビアは女好きだった。


 セツらと話した時は会話が進まなくなるため無理矢理中断させたが、今は何を言っても無駄だと分かっているからかこれ以上は何も無い。ガネッタが無言を貫いているのもそれが分かっているからかもしれない。

 それでもパーティとして、仲間として一緒にいるのはやはり互いに信頼し合っているからだろう。



 そんなくだらない日常の会話をしていても目的を忘れたりはしない。

 会話が一段落ついた所でネリアが、懐から折り畳んである紙を取り出し広げた。


 それは地図だった。

 多少簡略化されてはいるが樹海が描いてあり、あちこちにメモや印が付けてある。


「今回の調査ポイントはこの先だね」


 赤い丸が付けられた場所を指しながらネリアが言う。

 地図には他にも似たような赤い丸の印が何ヶ所か付いている。だが、そのどれにも上からバツ印が描いてあった。バツ印が付いていないのは今ネリアが指した、これから向かおうとしている所だけだ。


「流石にそろそろ見つかって欲しいけど……。やっぱりもっと早く調査範囲を広げるべきだったわね」

「それを今更言っても仕方ない。……元々広めに調査してる上、既に拠点もいくつか潰してるだろう」

「そうなんだけど……結局、本命をやらなきゃ意味ないからね」


 難しい顔のルビアにガネッタが庇う言葉を掛けるが、それでも悔やむ気持ちは変わらないようだ。

 僅かに焦りも滲み出ているのが分かる。


 それを聞いていたネリアはやれやれといった雰囲気でルビアの正面に立ち塞がる。

 立ち止まったルビアが目の前のネリアを見据えると、優しく微笑を浮かべこちらを見つめていた。


「君の責任感が強い所は美点ではあるけどね……気負い過ぎも良くないよ」


「―――あ、ありがと」


 ルビアは不意な一言に目を丸くする。

 嬉しい気持ちと同時に、どこか恥ずかしい様な感情にも襲われ少し顔が赤くなる。頬がほころび、思わず口角が上がっていく。


「……ネリア好きぃっ!!」

「―――こらっ、やめろ抱き着くな!」

「ふっ……先行ってるぞ」

「あ、ちょっと待て! 助けてくれガネッタ!」

「んん~~~!」

「頬を摺り寄せるな! はーなーれーろー!」


 叫び声が森に響き渡った。



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