第14話 活動開始
翼人種はヴォルス達の世界に居た種族の一つだ。
基本的な構造は人間と変わらない。何が違うかと言うと、皆が美しい外見を持ち、白銀の様に輝く大きな翼を背中から生やしている事だ。
顔はほぼ完璧なシンメトリーで一見、精巧な人形の様にも見える。そのため人によっては若干不気味に感じるかもしれない。
翼の大きさはそれぞれ多少の違いはあるが基本は二対一体だ。しかし極稀に四対、さらに稀に六対になっている者がいる。そういった者は種族の中でもより優れた力を持ち、尊敬や憧れの対象になる。
翼とは言うが実際は魔力器官であり、多少の訓練を積めば仕舞うことが出来る。アスロンの見た目が人間と変わらないのはこのためだ。
「なぜ翼人種が……いや、この世界には翼人種がいないのか?」
ヴォルスは困惑していた。
なぜ翼人種が神そのものとして扱われているのか。
考えられるのは可能性は翼人種が存在しないか、数が極端に少ないか……それは分からない。
確かに翼人という種族として優れていたのは間違いないが、それでも崇められる程では無かった。
そもそもだ。よく考えれば当たり前ではあるのだが、元の世界には居てもこっちには存在しない種族がいても何ら可笑しくはない。そんな当たり前の可能性を失念していた。
「私もまだ詳しく聞けていないので何とも言えないのですが、恐らくそうかと。……もしそうであるならば我々の様な『渡り世』が、話の元になっているのでしょう」
「……翼人を示唆する物か、翼人を知る者か―――或いは翼人種そのものか」
「なんにせよね。『渡り世人』である事を隠すなら何が嚙み合わないか分からないし、気を付けないとダメね」
「うーん……そう言えばだけど、セツは何ともなかったよね?」
「あ、確かにそうね」
昨日今日の事を思い出しながらリンシーが言う。
街で鬼人族を見かけていないにも関わらず、目線などもあまり気にならなかった。
セツはこの世界に何があって何が無いのか分からず、何とも言えない顔で確認するかのように自分の角をさすった。
その気持ちは皆同じだった。
ただ、ヴォルスだけはそれを知っていた。
「鬼人種に関してならそもそも国があったぞ。『カライ』という名らしい」
これもサルファー教の国と同じく、今日図書館で知り得た情報だった。
周辺国家について軽く調べており、その中で分かった事だ。
「へぇ、国になるくらい居るのね……その割にはこの街では見当たらなかったけど」
「カライはここからは離れている上に島国みたいだからな。それも仕方ないだろう。……その内行ってみたいな」
ヴォルスはまだ見ぬ地へ思いを馳せた。
なんだかんだ異世界を一番楽しんでいるのはヴォルスなのかもしれない。
「と、少し脱線しましたが私からは以上です。一応教会の繋がりで孤児院にも顔を出しましたが、特筆して話す事も無く……。それと治癒系統の魔術が使えれば教会で働けるそうなので、私は明日から暫くは主に教会へ、時間がある時などは孤児院にも赴こうと考えています。教会はたまに貴族も来ているそうですので。……まず会えるものではありませんからあわよくば、ですが。―――それにサルファー教に翼人種が関わっているとしても、私としては気にする事でもないですから」
「なるほど……分かったよ。ならそっちは頼んだ」
「それでヴォルスの方はどうだったの?」
リンシーがそう尋ねる。
「俺は一先ず国について調べたな。でも単純な情勢も分かってないし、もう少し調べてから共有するよ。あくまで書物だしどこまで知れるか分からないが……。明日は歴史とか今日聞いた種族関係とかも調べたいな」
今日調べた事を思い出しながら明日の予定を立てる。話を聞き情報を共有した事で調べたい物が増えていた。
この世界を知るにはまず常識を疑う事から始める必要がありそうだ、ヴォルスはそんな結論を出した。
「あ、ならついでに『魔工機士』の事調べるの手伝って欲しいなー。今日は見つけれなかったから」
「……あれは元の世界でも多少珍しい技術だしな。一緒に調べておくよ」
「ありがとー! やっぱり『魔工機士』であるボクとしては、素材を確保する手段が欲しいんだよね」
「……ふむ、素材なら貯蓄がありませんでしたか?」
「うん、あるよ。けどいつ無くなるか分からないし、こっちと向こうの素材じゃ扱い方が違うだろうからね。早めに見つけて触っときたいんだよ」
記憶をたどったアスロンが疑問を持つが、リンシーの説明に納得したようでなるほど、と頷いた。
リンシーはアスロンが理解したのを確認すると、セツに視線を向け話しかける。
「ボクとセツは明日からは冒険者の仕事かな」
「え? うーん、そうね。シンプルにお金稼ぎがメインの目的にはなりそうだけど。……まあ、イトリスが言ってた森の異変に首突っ込むのもいいかもしれないわね」
いつの間にか刀の手入れを始めていたセツは手を止めリンシーの方を向く。そして少し考え込むような仕草をしてそう答えた。
リンシーは異変について興味があった様で、セツの返答に嬉しそうにする。
「お、ボクは普通に気になってたんだよね。じゃあ一緒に首突っ込もー!」
「俺も一通り調べ終わったらそっちに合流するよ」
「おっけー! 待ってるね」
座っていたベットで足をバタバタとさせる上機嫌なリンシー。冒険者としての活動を楽しみにしている事が表情からも伺えた。
セツはその様子を横目に小さく笑いながら刀の手入れを続ける。
なんだかんだセツも楽しみにしていたようだ。
一通り予定が纏まった事で会話が途切れ、話が脱線していく。今日あった事やこれからの事、どうでもいい他愛ない事など……。
そんな会話が眠るまで続いていた。
◇ ◇ ◇
次の日4人は宿で朝食を済ませてから予定通りに分かれて行動していた。
ヴォルスは図書館へ、アスロンは教会、セツとリンシーは冒険者ギルドに。
街の中央からは少し外れた場所に、鮮やかな橙色のレンガで造られた図書館はあった。小さくはないが、大きいと言われれば首をかしげる人もいるかもしれない、そんなサイズだ。
近くには公共機関などもいくつかありそのおかげもあってなのか、かなりアクセスの良い場所に建っている様に思える。
人がそれなりに出入りしているのも確認出来、普段から利用者も多い。これは利用料が無いのも関係しているだろう。
図書館に入ったヴォルスは、昨日も会った司書に軽く声を掛けられた。また調べものですか。そう歓迎してくれた。
昨日今日な上、熱心に本を読んでいたヴォルスが印象に残っていたらしい。質問にも快く応じてくれた。
そのおかげもあり、比較的スムーズに知りたい事柄を調べられていた。
一方、アスロンも教会に到着していた。
教会、もしくは修道院などが病院としても機能しているというのは珍しい事ではない。むしろよくある事だ。
ただここは教会と銘打ってはいるが、病院や治療院といった側面の方が強い施設だ。信仰が無いわけではないがそれよりも『冒険者の街』という特性がそうさせていた。
その特性もあり実際怪我人は多い。冒険者達がよくお世話になる一方で、教会側は常に人不足に陥っている。それを少しでも解消するために治癒系統の魔術を使える冒険者を一時的に雇って対策をしていた。他にも治癒ポーションの素材を冒険者ギルドから買い取っていたりと、互いに持ちつ持たれつの関係でもあった。
アスロンは治癒魔術が使える。専門ではないが仲間の内では唯一彼だけが習得していた。
アスロンが相手にするのは主に、怪我をして足を運んできた人らだ。殆どが冒険者だが一般人も時折見受けられる。そんな人らに治療を施し費用を頂く、それの繰り返しだった。
施設内には入院している人も居たが、そっちは元々ここで働いている職員が対応しているらしく会う事も無かった。
因みに報酬はそれなりに良く、治癒魔術が使える冒険者がここでお金稼ぎをするのは割と常套手段だったりする。そもそも治癒魔術を使える者が少なく、それに加え治療を求め教会に来る人々が多いのが報酬が良い理由の一つだ。
中には冒険者業は危険でしかも割に合っていないと、冒険者を止めて教会で働く者も少数ながら居た。とは言えその分忙しく自由が少ないのも事実ではあるが。
そんな話を同じくそこで臨時として働く冒険者に聞きながらアスロンは仕事をしていた。
そして冒険者として依頼を受けたセツとリンシーは―――
「ハァ~イ、こんにちわ」
(……なんでコイツらがここに居るのよ……)
―――『緋刃舞踏』の3人に絡まれていた。




