第13話 見聞きした情報
「じゃあ魔物達が群れを成して、普段からは考えられないくらいの数で襲って来たんだ」
「そうです。当時は私もまだ幼くて……後から聞いたり、この仕事についてから資料を見ての話がほとんどになりますが……」
「他に例が無い程の規模ですか……」
「そもそも群れを成すこと自体が毎回ある訳ではないですし、群れで来るとしてもあの時程多かった事例は、現在まで含めても無いんですよ」
「そうか……それほどまでの……」
少しだがしんみりとした空気の中、沈黙が訪れた。
だがハッと我に返ったのか、すぐにイトリスが空気を変えようとする。
「……あっ、すみません! 登録されたばかりなのにいきなりこんな話で!」
「いいさ、むしろ聞いとかなきゃいけないだろう? 詳しく聞けて良かったよ」
「そうだよー。ここで働くなら必要なんだもんね!」
「ありがとうございます…………私が、さっきの子達の事を気にかけていたのはその大襲来が原因の孤児かもしれない、というのが理由の一つなんですよね。見た目的にもそれくらいの年齢ですし、装備の状況なども踏まえてそうじゃないかなと」
「なるほどね……」
「それにやる気があるのは良い事なのですが、新人という事もありどうしても心配で……この仕事をしていると朝見送った冒険者の方が、それ以降帰って来ない……なんて事も珍しくないですからね」
そう言ったイトリスが辛そうな、悲しそうな感情を顔に出さない様に無理しているのだけは分かった。そんな経験を何度もしているのだろう。ヴォルスは何と声を掛ければよいか分からず、黙ることしか出来なかった。
一瞬また沈黙が訪れるが、イトリスは直ぐに同じ事の繰り返しだと気付き、慌てていつも通りにする。
「―――ってまたですね! すみません! えーっと、なので冒険者としてこの街にいるなら、もし魔物の襲来が来た時には協力して頂くことになります」
「それは勿論……なんだが一つだけいいか? 俺達がこの街に着く前に少し森に居たんだが、出会ったオオカミが随分と痩せこけててな。一応報告しておく」
「えっ! 大丈夫でしたか!? ……あ、いえ報告ありがとうございます。そうですね、実はそのような報告が最近いくつかありまして、現在まだ調査中なんです」
「ではまだ原因は分からないと言う事ですか?」
「はい、なので近々襲来が起こる可能性もあります……可能性ですが。単純に食糧不足かもしれませんし現状何とも。とは言え助かります、もう少し詳しい状況を聞いても?」
そんなに時間は取られなかったが、何処で何があったかなどを詳しく説明した。
その時に気付いたのだがイトリスはどうやら、ヴォルス達が別世界から来た事は知らないらしい。
流石に人の情報を勝手に話したりはしない様だ。相手からすれば当たり前なのかもしれないが、好感が持てるのは間違いない。それにヴォルスもその方が助かる。別に渡り世人である事を活かしたい訳では無いからだ。なのであれば知られていない方が面倒事に巻き込まれにくいだろう。
「……情報ありがとうございました。何か分かりましたら報告させて頂きます」
「分かった。その時は頼むよ」
「じゃあこれで話は終わりかな?」
「そうですね、少し長くなりましたが終わりです。皆さんも今日はゆっくり休まれてください」
「ええ、そうするわ」
イトリスはヴォルス達にも少年らと同じように促す。話も終わり締めの様な雰囲気になるがヴォルスにはまだ聞きたいことがあった。
「最後に一つだけいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「少し調べたい事があるんだが、図書館はこの街にあったりするか?」
まだまだ知りたい事は多い。あるなら行きたいとずっと思っていたヴォルスは問いかける。ああそれなら、とイトリスが答えようとした時、横から他の3人も質問をした。
「あ、だったらわたしも市場とか鍛冶屋とかどこにあるか聞きたい」
「ボクもー!」
「では、私も教会がある場所を聞いても宜しいですか?」
イトリスは急な質問攻めにされた事で一瞬目を丸くするが、可笑しかったのかクスクスと笑った後、
「では折角なのでこの街のある施設、色々教えますね」
そう言ってどこか楽し気に話し出した。
◇ ◇ ◇
ヴォルス達が冒険者ギルドを後にした時は、昼にしては遅く夕方にしては早い、そんな微妙な時間になっていた。宿に戻っても良かったのだが、もう戻って一日を終えてしまうのは流石に勿体無い。そう判断した4人はそれぞれ別れて行動することにした。
ヴォルスは図書館、アスロンは教会に、リンシーとセツは市場などの施設と、つい先程イトリスから聞いた場所に行った。夜には宿で合流する約束をし、4人がそれぞれの時間をその場所で過ごしていた。
夜になり約束の時間も過ぎた頃、全員が宿に戻って来ていた。
最後に戻って来たのはヴォルスだったらしく、ドアを開けると既に他の3人は既に部屋に居た。
「お帰りなさいませ」
「すまない、遅れた。俺が最後だったか」
「いえいえ、お気になさらないでください」
ヴォルスが部屋に入って来るとアスロンが既に立っており、綺麗な一礼で出迎えた。過度な行動だがいつもの事なので誰もそこに突っ込みはしない。
他の2人も寛ぎながらだが顔はヴォルスの方を向いていた。
「おかえりー! 図書館どうだった?」
「ああ、取り敢えず大まかな事は調べれたよ。色々共有しようか」
ベットに寝転び、手を振りながら出向かえたリンシーにそう返事しながら椅子に腰かける。
ヴォルスが椅子に座ったのを確認して、セツが口を開いた。
「じゃ、早速だけどわたし達が最初ね。……一般的なお店とか中心にその辺見て来たわ。見た感じ特に元の世界と変わった所は無かったわね」
「そうだねぇ、文化レベルとかも特に変には思わなかったし、今まで通りの感覚で良さそうだったねー」
「ホントにただ外国に来ただけだなって印象を受けたわ」
「ハハッ、なら今まで通りだな」
元の世界で旅して過ごした日々を思い出したヴォルスは穏やかに笑った。
セツは言われて気付いたのかそれもそうかと呟き、思わず笑う。リンシーとアスロンもそれぞれ楽し気で和やかな雰囲気だ。
異世界に来たとは言え旅をしていた頃と変わらない―――そう頭では分かっていても、やはり皆どこかに緊張感の様なものがあり、気が抜けていなかった。しかし実際に己の目で確認し、信頼できる仲間からそれを聞けた事で改めて気付く。今までと何も変わってない事に。
それはちょっとした安心感を抱かせてくれた。
「……では、次は私が」
少し落ち着いた所で続きをアスロンが話し始める。
「しかし、私も報告出来る事はあまり無いですね。……教会では『サルファー教』を信仰しているようでした。これに関しては恐らく、此方の世界にしか無いものでしょう」
「ああ。少なくとも聞いた事は無いし、余程マイナーでない限りはそうだろうな」
「やっぱり宗教ってのはどこの国、どこの世界でもあるのね」
「一応ではありますが、サルファー教を軸とした国家もあるようですよ。」
「へぇ、そうなんだ。……って事はこっちじゃそれなりに有名なのかな?」
「らしいな。国に関しては俺も図書館で存在を確認したよ」
そう言った国家がある事はヴォルスも調べていた。だがアスロンはそこに補足してヴォルスが知らなかった情報も話した。
「その国家なのですが……どうやら現在、2分化しているようなのです」
「2分化って……なんでそんな事に」
「普通は国が割れるー、なんて事そうそうないもんねぇ」
「どうやら少し前に教典の内容で揉めたらしく、しかもその内容が根本にも関わって来る話、との事でした」
「ああ……なるほど、それで上層部の意見が割れたと……」
「その結果が2分化のようです。……ですので現在は国内部が不安定のため、行くのは止めた方が良いそうです」
国が2分化するという事は、確実に国の上層も関わっている。それに2分化して不安定ながらも保っているなら、上層部もほとんど偏り無く割れたんだと想像出来た。
ヴォルスとしては2分化していようとそれ事態には興味無い。何を信じるかはその人次第で、他人が口を出すようなことでは無いからだ。だが、旅をするなら別だ。面倒ごとを避けれるならそれに越したことはない。
「まあそれは仕方ないさ。旅なら落ち着いてからでも問題無いだろう」
「なんなら何も知らずに行かなくて良かったぁ、って感じだよねー」
「後回しにすれば良いだけだし、どうしても行かなきゃいけない訳でもないしね」
こういった事も慣れているのか、それぞれが特に気にせず割と呑気に話していた。ただ、そんな国の現状に若干呆れ気味だったのは皆同じだった。
若干なのは自分達が興味ないとしても、それを信じる者達からすれば非常に重要だろうという事は理解できるからだ。
「―――後、私が出せる情報としては、そのサルファー教で『神』とされているのが、白く輝く翼を持つ端麗な男神、という事でしょうか」
アスロンの言葉に聞いていた全員が反応する。
「……翼人種だな、その特徴は……」
少し溜めてからヴォルスが困惑したように言う。
その容姿には心当たりが……いや知っていた。前の世界でも翼人とは何度も出会った事がある。
そして何よりも―――
―――アスロンは翼人種だ。




