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渡り世のストレンジャー  作者: 瓜橙 南
クランタ都市圏/はじまりの渡り世人
12/57

第11話 クランタという街

05/04会話に可笑しな所があったので修正しました。

 ギルド内に戻る時に知った事だが、今日お世話になっている女性職員はイトリスという名前らしい。

 少年らがイトリスの、冒険者についての説明を受けている間、ヴォルス達は隣でその話を聞いていた。


 ギルドでは彼らの様なまだ未熟な者に対して、指南出来る冒険者をギルドからの依頼として集め、サポートしているようだ。

 定期的に開催されるこの制度は、参加は自由で費用も必要無く、負担は指南する冒険者に依頼料を払うギルド側だけになる。

 冒険者という職業が中心の街なだけあり、ギルドが如何に冒険者に対して手厚くサポートしているかが察せられた。



「ではこれが、『冒険者階級認可証』―――通称、ギルドカードやギルドライセンスと呼ばれるものです」


 一通り説明を終えたイトリスはそう言って、少年らに掌サイズ程の四角い金属板を渡した。

 その金属板には文字が彫られている他、半分ほど白色になっており、その色が現在のランクを表している様だ。


「わあ……!」


 認可証を受け取った3人は余程嬉しいのか大事そうに両手で持っていた。近づけたり離したり、ひっくり返したりと、興奮した様子でまじまじと見ている。


 イトリスは3人の嬉しそうな様子を、同じく嬉しそうに眺めていた。声を掛けるわけでもなく、まるで親が子を見守るような優しい眼差しで。

 しかし、彼女の表情からはそれだけではなく、少し心配そうな感情も垣間見えていた。


 心配そうな感情が垣間見えたのは一瞬で、イトリスはすぐに真剣な顔になり話を続ける。


「……これからは、あなた達も冒険者の一員です。その事をしっかりと自覚した行動をして下さい。―――ですが、無茶をするのはダメですよ。時には、逃げるのも大事な事です」


 それぞれの目を見ながらゆっくり、はっきりと、言い聞かせる様に話す。

 今日見てきた、冒険者について楽しそうに話すイトリスからは考えられない程、真剣な面持ちだった。


 聞いていた3人もそれに応える様に、視線を真っ直ぐイトリスに向け、黙っていた。


「私達、ギルドも精一杯サポートします。いつでも頼って下さい」

「「はい!」」


 大きく頷き、元気の良い返事をした。

 真剣な表情だったイトリスは返事を聞くと、最初の明るく優しい顔に戻る。そして手を伸ばし、3人の頭を撫でた。


 子供扱いは不満だと言わんばかりを装っているが、内心嬉しいと思っている事が表情から漏れ出している。


 3人は見た目通り、いや、見た目以上に子供なのだとヴォルスは感じた。


「では、今日は試合の疲れもあるでしょうし、帰ってゆっくり休んで下さい。明日、またお待ちしていますよ」

「……うん、明日から頑張るよ!……2人共、帰ろ!」


 疲れているのはその通りで、本人達もそれは自覚していた。

 やる気は充分だが、時間的にも体力的にも、依頼をこなすのは現実的では無いため、素直に言うことを聞いた。

 3人はイトリスだけでなく、ヴォルス達にも別れを告げ、手を振りながらギルドから出ていく。

 最後まで元気で、出ていった後も大声で話している様で、少しの間声が聞こえていた。





 イトリスは、3人がギルドから出て行ったのを確認すると、ヴォルス達に向き直った。


「……さて、皆さんにはまだ追加で説明する事がありますのでもう少しお付き合い下さい」

「分かった、聞こう」

「はい、では依頼を受ける時についてなのですが―――」


 どうやら、青ランクからスタートする関係で知らなければならない事があった様だ。

 とは言え、基本的な事は少年らの説明の時にほぼ終わっていたらしく、殆ど時間は取られなかった。

 依頼を受ける際の決まりや、対応など、追加でいくつか話を聞いた。





「―――と、これで話は終わりですね。何か質問はありますか?」

「いや、無いな。説明も分かり易かった」

「そうそう!丁寧だったしねー」


 お世辞などではなく、イトリスの説明は本当に分かりやすかった。

 何度も説明をした事があるのも勿論だが、相手が理解し易い様に、簡潔かつ丁寧に考えられたものだと感じられた。


「そ、そうですか?ありがとうございます」


 イトリスは照れているようで、顔を赤くしながら目を逸らした。

 嬉しそうな恥ずかしそうな、そんな表情をしている。


「……さっきの子達の時もそう思ったんだけど、随分熱心と言うか、真剣な感じね。あの子達と知り合いだったりするの?」

「―――え? ……あー、そうですね……。そっか、これも話しておかないとダメでしたね……」


 急な質問に一瞬固まる。

 しかしすぐに、何とも言えない複雑な表情を浮かべた。色々な感情が混ざった、そんな顔だった。


「すみません、今思い出したのですが、皆さんは遠くから来られたんでしたよね。なら、この街の事も知らないのではないですか?」

「……ああ、確かに俺達は何も知らないな」

「やっぱりそうですか。『緋刃舞踏』もご存じないようでしたので、もしかしたらと……」


 見知らぬこの街には何かあるらしい。

 元々、自分達で調べる予定だったがここで聞けるなら聞かない手は無い。


 ただ、ヴォルスはイトリスの態度からも良い話では無いとすぐ分かった。


「冒険者になりに来る方は基本、他国の方でもこの街の事を知っているので失念しておりました。申し訳ないです」


 そう言って頭を下げるが、アスロンがそれを制した。


「いえ、気にしないで下さい。それよりこの街に何かあるのですか?」

「……はい。これは我々や冒険者の方にも関係ある事でして……」


 一息置き、伏せた目を真っ直ぐこちらに向けて話し出す。




「―――この街、クランタの近くには、『リンゲルス』と言う名の大きな樹海が広がっています。ここの冒険者達は日々、その森に潜り依頼をこなすことが多いです。勿論、それだけではないですが……」


 森がある事は当然知っている。

 自分達が最初に飛ばされた場所こそが、その森だったからだ。

 しかし、樹海と呼ばれるまで広いとは思ってもいなかった。飛ばされたのが奥地では無く、街に近い場所だったのは、不幸中の幸いだったのだろう。


「リンゲルス樹海の奥深くは、まだまだ未探索の状態です。派遣した探査隊が未知の素材や、魔物と出会う事もそこまで珍しくはありません」

「へぇ〜、そんなに広いんだ」

「はい、しかしそれだけでは無くて、奥に行けば行く程、魔物が強くなるんです」

「なるほど……それもあってまだまだ未探索、と言うわけですか」


 イトリスが無言で頷く。

 



「それで、その樹海奥地の話がどう関係してくるんだ?」


 冒険者がよく出向くため、無関係では無い。しかし、樹海奥地と街の関係が見えなかったヴォルスは質問をぶつけた。


「……冒険者の方々の調査で、リンゲルス樹海には無数の縄張りがある事が分かっています。そしてそれは、魔物同士の争いで頻繁に変わってもいます。……ここまでは珍しい話でもありません」

「うん、森だとよくある事だよねー」


 様々な生物が住んでいる以上、リンゲルス樹海で無くとも縄張り争いは当たり前に起きる。

 それは元の世界も同じだ。全員それは理解していた。




「時々やって来るんです……縄張りを追われた魔物が、この街に……」


 何かを思い出しながらハッキリとした口調でそう語るイトリス。

 その瞳には何かが映し出されている様な気がした。


「……なるほど、そういう事か……」

「ただの魔物なら問題も無いのですが、時折現れる強力な個体がとても厄介なのです。……その個体そのものも勿論ですが、樹海の入口近くの生態系が崩れ魔物が凶暴になったり、逆に従えて街に向かって来たり……今まで様々な例がありました」

「優秀な冒険者が居ても、規模が大きくなったりもあって対処に時間が掛かる、ってわけね……」


 そういった魔物は未知の個体が比較的多く、どんな能力を持っているかも分からない。討伐に失敗したり、逃げられたりするのも仕方のない事だったりする。

 ただ、そうなると余計に樹海が荒れ、被害が広がる事になる。かと言って碌に調査もせず討伐隊を派遣すると手痛い反撃に遭ってしまう。

 如何に丁寧かつ迅速に対応するのか、それはこのギルドが常に考えなければいけない課題なのだ。





「ふむ……しかし、それこそ話をした金ランク冒険者の方々も居ますし、赤ランクの方も強い冒険者なのでしょう……それでもですか?」


 遠目で見ただけではあるが、『緋刃舞踏』の面々がかなりの実力者なのは分かった。金ランク冒険者があのレベルなのであれば、余程の事が無い限り問題無いように思えた。



 相手の実力を把握する力というのは大事なものになってくる。

 ここでいう把握する力とは、"野生の勘"とも言うべき力で、相手の能力を数値として測れたりはしない。本能的に危険かどうか把握する、そんなものだ。

 そのため実力の底が見えるなんて事はまず無く、見えるとしてもそれは意味の無い格下に対してだけだ。

 とは言え、特に冒険者の様に魔物などと戦う者達にとっては是非とも身に付けておきたい力である。

 旅をしていたヴォルス達もそれは同じであり、既に身に付けている力でもある。


「いえ、基本的には問題ありません……ただ、依頼で街を離れる事もありますし、それこそ樹海の調査中で魔物と入れ違い、なんて事も。―――そして何より、十数年程前から魔物が頻繁に来るようになったのです」

「……なるほど」

「元々―――この都市が出来た当初から、襲来自体は存在していました。それは地形を考えれば仕方の無い事です。しかし、魔物の襲来は数年に1回ほどだったんです……でも今では、年に数回にまで増えました……」

「そいつはまた随分と増えたな……」

「原因は何なの?」


 セツがそう聞くが、イトリスは無言で首を横に振る。


「ずっと調査は続いてますが、未だに不明で……分かっているのは切っ掛けだけです」

「切っ掛け?」


 さらに神妙な面持ちになったイトリスは、瞼を閉じ一息置く。

 その神妙な面持ちが周囲の音を遠のかせる。


 ギルド内の様々な音が背景の様に感じられ、この場に一瞬の沈黙が流れた。







「―――12年前に現れた魔物による大襲来です」


 イトリスがゆっくりと瞼を開け、意を決したようにそう語り始めた。

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