第10話 冒険者達
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「へぇ……、グレイの見立て通り、中々良さげな新人ね」
「赤ランクでも通用しそうだし、もしかしたらその内何処かで、組む事もあるかもしれないね」
「イヅチ以来じゃないか? 最初からこれくらい期待出来そうなのは」
「……前居た鬼の人? ……会った事無いからよく知らない……」
「そっか、メルはイヅチに会った事無いんだっけ……。でもそう、その人だよ」
試合を見ながら『緋刃舞踏』のメンバーとメルースが話していた。
ヴォルスとセツが最前線で武器を振るう。フェイントを交えたり、互いの位置を入れ替え不意をついたりと、攻めの姿勢を崩さない。
一方、アレクレートとドリドも引きはしない。アレクレートが大剣で薙ぎ払い、ドリドがその大盾で隙や攻撃から護る。
リンシーとエリーナは牽制し合い、隙があれば前線への援護を欠かさず、それらを狙うアスロン、ミライラも魔術に魔術をぶつけて打ち消し合っている状態が続いていた。
武器が舞い、金属音が何度も響く。そして魔術による応酬。
一見、実力は拮抗している様にも見えていた。
しかし……
「アレクレートの方、負けてるわね」
「そうだね。相手は実力を測りながら余裕を持って攻めてる……。けど、アレクレート達はそうじゃ無いね」
「もっと連携して攻撃したいけど、個々の戦いにさせられてる感じだな」
その通りだった。
本来であれば、エリーナの射撃やミライラの魔術で援護を受けつつ、ドリドが盾になりアレクレートが攻撃するというのが基本的な立ち回りなのだが、それが完全に潰されていた。
(くそっ……! 出来れば一旦引いて体勢を立て直したいんだけど―――)
「――っ! あぶねぇっ!」
アレクレートの頭すれすれを剣閃が走る。
ギリギリで回避したがそんな事は関係なしに、ヴォルスは次から次へとただ淡々と攻撃を繰り出していた。
アレクレートも負けじと反撃するが効いている様子は無く、少しでも下手な動きをすると簡単に懐に潜り込まれるであろう事が、アレクレートは容易に想像出来た。
焦っているのはアレクレートだけでは無い。他のメンバーもそれは同じだった。
援護しようにも邪魔をされ、相手をしても隙が無く付きっ切りになってしまう。にもかかわらず、相手は当たり前の様に援護しつつ攻めて見せる。
体勢を立て直すべく一度下がりたかったが、その全てを邪魔されていた。
『仄火の契り』としてパーティで戦っているように見せかけて、実際はただの個人戦にさせられていた。
今までも連携が取れなくなる状況もあった。しかし、ここまで動けなくなるのは初めてだった。
しかも基本、冒険者が相手にするのは魔物だ。対人戦にそこまで慣れていないのも原因の一つだったのかもしれない。
「そこまでっ!」
しばらく後、審判が試合終了の声を上げる。
その声を合図に両者の動きがピタリと止まった。
本来であれば試験管であるアレクレートがその合図を出してもおかしくは無い。しかし本人が焦り、打開策を練る事に集中してしまい周りが見えなくなっていた。
試合終了の合図にハッとするアレクレート。
試験管としての役目を一時だが忘れてしまっていた。
周囲で見学していたほとんどの人らは、良い勝負だったと感じており、両者を称える様な野次を飛ばしてくる。
周りから見れば、実力が拮抗したまま膠着状態だったようにしか見えかったようだ。
しかし、実際に戦っていた本人は違う。自分達がずっと追い詰められていた事をよく分かっていた。
「……お疲れ様。いや~、あんたら強えな」
武器を降ろし、頭をかきながらヴォルスに近づいたアレクレートが話しかけた。
その顔は悔しそうでは無く、あっぱれといった感服の表情だった。
「ありがとう。こちらこそ楽しかったよ」
「そんだけ実力があれば、間違いなく青ランクからスタートだよ。…とは言え、すぐにもっと上がりそうだけどな」
純粋に誉めていることが伝わる。
ヴォルスはそんなに素直に誉められるとは思わず、少し破顔していた。
他の面々もそれぞれ話しており、アレクレートと同じ様に素直に誉めているようだった。
ヴォルスは訓練所まで案内をしてくれた職員が言っていた、信頼が厚い、と言う話を思い出す。
(……なるほど、信頼されている、と言うのも納得がいくな……)
負けた事は素直に認め、次に繋げる、そうやって今までも自らの弱点を克服して来たのだろう。若いながらも実力があるのも、そういった所から来ていると分かる。ギルドからの期待も頷けるものだ。
「……よし、オレ達は今日の試合の報告があるから少し待っててくれ。後はギルド側の仕事になる。……じゃあな。依頼で一緒になることがあれば、そん時は期待してるぜ!」
「ああ、よろしく頼むよ」
「……おーい、お前らー。報告行くぞー!」
アレクレートは話していた仲間に声をかけ、そのまま一緒に去っていく。
遠ざかる背中を見ているヴォルスにアスロンが話しかけた。
「とても人の良い方々でしたね」
「ああ、そうだな」
何か話しているようだが、内容は聞き取れない。しかし、時折見えるその横顔から察するに悪い話などでは無いのは間違いない。
最初に会った時と同じように、仲の良いやり取りをしているのが分かった。
「一緒に仕事するなら頼りになりそうだね~」
「あるかは分からないけど、確かにそうね。……で、しばらく待つんだっけ? どうする?」
「……ん~、ボクはここで適当に待ってようかなと思ってたんだけど……」
「別に他に行く場所も無いしな」
「はい、そうしましょうか」
特に体を動かす様な事はせずに時間を潰すつもりだった。
一応、試合の結果を伝えに来る職員が見つけやすい様にと、ヴォルス達は訓練所の入り口近くに移動する。
その移動中に何人かに声を掛けられた。
それは先程の試合を見ていた冒険者らで、「いい試合だった」などと、どうやら感想を伝えに来た様だった。
「……何か話しかけられたけど」
「元の世界の"狩人"の時も似たような経験があったな、そう言えば」
「制度も似てますからね。戦う事を生業にしている者は、より強い者に惹かれやすいのかもしれませんね」
「将来性を見越してコネ作り、って考えもありそうだけどねー」
4人は訓練所にいる冒険者達を自由に目で追っていた。
それぞれが壁にもたれかかったり、座ったりと、リラックスした状態でいる。
ただ、そんな状態でも訓練所全体をよく見ており、見学というよりは観察をしていた。
「向上心はあるが、実力が足りない……そんな感じだな」
「だからこそ訓練所で頑張ってるんだろうね~」
「さっきの試合の……『仄火の契り』だっけ? あれで全力ってわけじゃないと思うけど、なんとなく実力は分かった……ってなるとやっぱり気になるのは―――」
「―――あの金ランクの冒険者か」
ヴォルスは腕を組み、一瞬考え込む素振りを見せた。
例の金ランク冒険者が試合を見ていたのには気付いていた。見られていたとなると余計に気になる。
「確かに此処では頂点にいるわけだからな、気にもなる。……とは言えだ、関わる事もあまりないだろう。この街に長居するかも分からないしな」
「……まあ、それもそうね……」
「急に斬りかかったりしたらだめだよ?」
「―――なっ! そんな事しない! と言うか、今までもそんなことした事無いでしょ!」
リンシーがニヤニヤしながらセツを揶揄う。
「でも、セツってそっちの気あるでしょ~」
「無いって! …………あるけど」
セツは心外だと言わんばかりに否定するが、思い当たる節しかないのか、目を逸らしながら小さな声で呟いた。
そんなやり取りを聞いていたアスロンもそこに加わる。
「迷惑を掛けるのはいけませんね」
「ちょっと! アスロンまで!」
それはヴォルスにとっていつもの光景だった。
特に珍しいわけではなく、よくあるやり取りだ。
しかし、仲の良い楽しそうなやり取りに、ヴォルスは穏やかな気持ちになっていた。
(アレクレート達を愉快な人だと思ったが……これじゃ、俺達も変わらないな……)
急に飛ばされた異世界でも、何も変わらない。だからこそ、よりそう感じたのだろう。
ヴォルスはこの光景が好きだった。
「な、なぁ!」
現実に戻すかのように突然声を掛けられる。4人は会話を止め、声のした方を向いた。
そこには自分達の前に試合をしていた少年と、その仲間と思われるもう一人の少年と少女が居た。
声を掛けて来たのは、その試合をしていた少年の様だ。
3人とも若干緊張しているような表情をしている。
「ああ、さっきの……何か用か?」
「あんたらの試合見てたんだ……どうしたらそんなに強くなれるんだ?」
突拍子もない質問に一瞬固まり、ヴォルス達は顔を見合わせた。
正直そんなこと言われても、といった感じで少し困ってしまう。
「ちょっと……! いきなりそんなの! 順序ってものがあるでしょ!」
「そうだよ……初対面なのに……」
他の2人がコソコソと小さな声で少年に注意している。
注意された少年は言われて気付いたのか、申し訳なさそうな、気まずそうな顔でこちらを見ていた。
勿論、ヴォルス達はそんな事気にはしない。
しかし、どう返せばいいかと困っていた。
「どうしたら、と言われても……経験、としか言えないな」
「……そ、そうか……」
ヴォルスは少し申し訳なさそうにそう返す。
少年は随分あっさりとした予想外の返事に驚き、落ち込んでしまった。
自分達では全く歯が立たなかった『仄火の契り』を相手に、問題なく戦えていたのを少年らは見ていた。だから実力という意味で遠い存在に、急な質問をする事を躊躇い、緊張していた様だった。
とは言え、自分達の同期となる存在。話しかけてみたくなったのだろう。
そんな少年を見て、リンシーはヴォルスを指差しながら補足するように話す。
「うーん……言葉足らずのこの人に付け足すと、ボク達だってさ、最初っから強かったわけじゃないよ。皆それぞれ思うところあって「強くならなきゃ」って。それで努力したんだ」
「ええ、そうです。だからあなた達も、今のその気持ちを忘れなければ―――必ず、強くなれますよ」
続けてアスロンも少年に視線を合わせながら優しくそう声を掛ける。柔らかくも、確信を持って言っているのが分かった。
「もしその理由が無い、分からない、明言出来ない。そういう確固としたものが無いなら―――いや、あったとしてもなんだけど―――無いなら余計に、誰かに教えて貰うとか、弟子入りするのがオススメ。――――――強くなる目標が明確になるからね」
当たり前だけど、そんな雰囲気でセツが言う。
しかしそれは突き放す様ではなく、少年らを思った言い方だった。
「急にごめんなさい! そうですよね!」
隣に居た少女が、気を遣わせたと思い慌てて謝る。礼儀正しいのだろう。
気にしなくても良いのに、と4人共がそう思う。
「うーん……こんな広い訓練所もあるし、ギルドに聞いてみれば指南してくれる人もいるんじゃない?」
「勿論、居ますよ」
後ろから突然、聞いた事のある声がする。
振り向くとそこには、ここまで案内をしてくれた女性職員がいた。
「お待たせしました。試合の結果が出ましたので呼びに来ました。それと、そっちの子たちには今の話も含めて話す事がありますので、中までお願いします」




