第9話 試合開始
05/04誤字修正しました。
2組は、少し距離を取った状態で対していた。
どちらもいつ試合開始の合図が来ても大丈夫な状態だ。
「みんな、取り敢えずいつも通りで良いよな」
「まあ向こうも4人だし、取り敢えず良いんじゃない?」
アレクレートが試合の立ち回り方をどうするか、3人と話していた。
「相手は前衛が2か、3人か……? 見た目じゃ分かりづらいな……」
「一人は……あれは銃?でしたっけ。かなり珍しい武器を持っているのも気になりますし、細かい対応は臨機応変に、ですね」
ドリドの言った様に見た目では少し判断しづらい。
セツが佩いているのは刀と短刀。
リンシーに関しては腰の横に短剣と、背中側に銃をそれぞれ2つずつ。
持っている武器から、2人は少なくとも前衛は出来るであろう事が分かる。しかし、ヴォルスとアスロンは武器をその手に持っていないのだ。
戦闘が始まれば分かるだろうが、事前に知っているかいないかではやはり違う。
勿論、見た目だけで思い込むのは危険だが、一瞬の油断が命取りになる場では心構えは大事だ。
今回は試合のため実際に命のやり取りはしないが、冒険者たるもの模擬戦だからと言って油断する様な事は無い。特にアレクレート達程の実力があるのであれば当然の考えだ。
審判の準備が整い指定の位置についた。試合の邪魔にならない様に少し離れているが問題にはならない距離だ。
「……では、冒険者階級の事前試験を始めます!」
よく聞こえる声量だ。
審判はヴォルス達の方を向き、声量はそのままに最終確認をする。
「この試験では皆さんの実力を測ります! その結果は試験官を務める私と、対戦相手である『仄火の契り』のメンバーで判断します! なお、多少であればギルド側ですぐに対応する準備はありますが、大事に至る行為は原則禁止、直前で止めるなどして対応して下さい! そして、本試験は勝敗を決める事が目的では無いのを覚えておくように!」
審判はヴォルス達に確認を取る様に見つめる。ヴォルスは軽く頷き、了承の旨を伝えた。
両パーティとも武器に手を掛けたり構えたりと、いつでも開始の合図が来ても大丈夫な体勢をとっている。
この時、周囲には試合の見物をしに多少の人が集まっていた。
その中にはいつの間にか、金ランク冒険者である『緋刃舞踏』のメンバーと、メルースもいた。
それに気付いた他の冒険者達が徐々に集まって来ているようだ。静かに見ていた冒険者達からもポツポツと話し声が聞こえ始める。声は多少抑えられてはいるが、やはり気になる様で少し騒ついていた。
そんな気が散りそうな状況だが、両パーティとも余所見はしない。互いに見据えたまま静かに審判の合図を待っていた。
そして――――
「試合開始!」
――――より大きく発せられた声が周囲に広がる。
その声が聞こえた瞬間、ドリドを先頭にアレクレートが切り込むべく動き出す。迷いの無い行動に端から全力で行くつもりだった事がうかがえる。
相手がどんな動きをしてくるのか見据えながら、アレクレートは一歩踏み出した。だが、踏み出したのと同時にヴォルスに起きた変化に気付く。
ヴォルスの右手にはいつの間にか一本の剣が握られていた。
「―――『武装』か!」
成程、と言う気持ちでアレクレートが思わず声を上げる。
(少し厄介かもなぁ……)
そう思いつつも走る勢いはそのままで、それはアレクレートの前を走っているドリドも同じだった。
『武装』――――。
それは異能の一つである。使える人は多くはないが、少ないわけでもない。異能の中では少し珍しいくらいの能力だ。
その名の通り、武器や防具などを顕現させる異能であり、それらを纏めてそう呼ばれている。
使う人によって顕現させるものが違うのは勿論だが、何より顕現した武器、防具によってそれぞれ固有の能力を有している事が特徴だ。
アレクレートとドリドは警戒しながらも突撃する。その突撃は疾く、あっという間に武器の届く距離にまで迫るほどだった。
正面には対峙するべく前に出たヴォルスとセツがおり、その後ろにリンシー、さらにその後ろにアスロンの順で構えていた。
盾を構え、先頭に立って突撃したドリドは勢いそのままに、その大盾を前に突き出し押し潰すような打撃をしかける。
全身鎧を着ているとは思えない速さの突撃から、その巨体に見合った力で繰り出される打撃。まともにくらえば吹き飛ばされる事が容易に想像出来る。
しかしその時、セツがドリドに一瞬で肉薄していた。
セツは鋭い目つきで大盾に向かい、まだ手を掛けただけで抜いていない刀の、柄の先を、思いっきり盾にぶつけた。
「―――ハァッ!」
ガァンッ!、という鈍い響きと共に、軽く浮くような感覚に襲われたドリドはその衝撃に思わず声を上げる。
「うおっっ!」
押し潰すつもりが、逆に押し返されてしまった事に驚き、その衝撃と腕の痺れから顔を歪めていた。
ドリドはその衝撃で勢いが殺されたどころか、少し仰け反り、一歩後ろに下げられてしまう。
体勢の崩れたその姿は誰の目から見ても、隙だらけだった。
その隙を見逃すはずもなく、セツは追撃を仕掛ける。
正面には大盾。しかし、隙を晒した今ならそれを掻い潜り、一刀入れる事など容易であった。
一気に回り込むため、体を低く構え地面を蹴ろうとした――――
――――瞬間、空を切る音と共にドリドの後ろから、鋭い勢いの矢がセツ目掛けて飛んで来た。
「チッ!」
飛んで来る矢に気付いたセツは、咄嗟に横に跳ぶ。直後、セツがいた場所を通過し地面に矢が刺さった。
セツが矢の軌道を目線で辿ると、そこには既に次の矢をつがえたエリーナがいた。
(そりゃ、あっさりとはいかないか……)
隙間を縫うような正確な狙いの矢。仲間がいるにもかかわらず、威力も申し分ない。自分の腕に相当の自信がなければできない芸当だ。
しかし、その自信に見合った腕をしているのは間違いなかった。
攻防はまだ終わらない。
ドリドに続いて駆けて来ていたアレクレートは、止まったドリドの後ろから飛び出す形で大剣を振るって来た。狙いはヴォルスだ。
ヴォルスは持っている剣で防ぐ構えを見せるが、勢いの乗った大剣の横薙ぎはそう簡単に止められるものではない。
だがそんなこと十分承知のヴォルスは、襲い来る大剣の勢いを逆に利用し、滑らすようにして剣で受け流した。
(上手い! 咄嗟の判断もだが扱いも一級品だな……)
アレクレートは素直に感心する。
受け流したヴォルスは顔を歪めることもなく、余裕そうだ。衝撃を綺麗に外に流したのが分かった。
リーチがあるとは言え、両手で持つ事を前提にした大剣はどうしても隙が生まれやすい。しかも、勢いに乗せて振るったうえに、綺麗に受け流されては反撃して下さい、と言っている様なものだ。
ヴォルスは受け流した姿勢から、流れるような動作でアレクレートを斬りつけに行く。
このまま行けばアレクレートは戦闘不能になるかもしれないが、そう簡単にはいかない。
剣を振り下ろす直前、またしても鋭い矢が飛んで来る。
矢に気付いたヴォルスは、アレクレートへの追撃を仕方なく諦め、矢に向かって剣を振り下ろした。
寸分の狂い無く飛んで来た矢を、難なく無く弾き返し、矢が宙を舞う。
今度はヴォルスがエリーナに動きを阻まれてしまった。
2度に渡る追撃の阻止。彼女がいる限り隙は無いと言っても過言ではなかった。
(まずは連携を崩すのが先か……)
そんな思考の中、ヴォルスの視界に入ったのは――――
――――こちらに迫りくる2本目の矢だった。
宙を舞う矢の後ろに、隠れる様に追従して飛んで来ていたらしい。
見えない所からの不意打ち。突然現れた矢に慌てても可笑しくない。
だが、ヴォルスが焦る事はなかった。
「―――させないよ!」
背後にいたリンシーが銃を構えている。銃口が矢の方を向いており、既に銃声は鳴り響いていた。
発射された弾丸は、吸い込まれる様に飛んでいき、矢とぶつかった。衝突による音が鳴り、弾と矢が明後日の方に飛んでいく。
エリーナの波状攻撃は失敗に終わった。
しかし、僅かながら時間が出来た事で、アレクレートは体勢を立て直すことが出来ていた。
次は攻撃か、様子見か、そう思っていたヴォルス。
だが考えとは裏腹に、まるで逃げる様にしてアレクレートとドリドは一緒に大きく後ろに跳んだ。
「炎よ!」
跳んだと同時に力強い声が聞こえる。声の出所には杖を上に掲げたミライラが、魔術で炎を創り出していた。
後ろに跳んだ2人と入れ替わる形で、炎が波の様にうねり、広がり、ヴォルス達に襲い来る。
轟々と燃え盛る炎が視界を埋めながら、どんどん近づいて来ていた。
「―――大地よ」
慌てる事もなく、落ち着いた声でアスロンが呟く。
その声に従うように周囲の大地が蠢き始めた。
炎が迫り吞み込まれんとする中、蠢く大地は盛り上がり――――。
4人が炎の波に呑まれ、辺りにも熱気が伝わる。
燃え盛る炎の中心を周囲の人々が見守る中、轟々と唸る炎の音だけが聞こえていた。
やがて炎が落ち着き、熱気が下がる。煙と焼けた匂いが辺りに立ち込めていた。
炎が完全に消えた頃、煙が薄れ、視界が晴れてくる。
そこ現れたのは、ドーム状に盛り上がった大地だった。
炎が消えたからか、盛り上がった大地が中身を晒すように割れ、元の形に戻っていく。
表面には焼けた跡があるが、内側は何とも無い。
残ったのは囲われた大地から出て来た4人だけだった。
「完全に防がれてしまいましたね」
「それよりも俺は腕が痺れちまったぜ。あの力、流石鬼人族だな……」
「2人とも油断し過ぎよ、カバーするこっちの身にもなりなさい!」
「ハハハ、それだけ信頼してるって事だよ」
「あんたねぇ……!」
「いや、だから後にしろって……」
流石に試合中の今、説教が始まることはなかった。
それはドリドが口を挟まずともそうだっただろう。
実際に2人は油断していたわけでは無い。それこそ、仕留めるくらいの勢いでいたのだが、上手くいかなかった。
「……やっぱ実力は申し分ないなぁ」
最初見た時から強いと感じていたアレクレートは参ったという表情で笑う。
「申し分ないどころじゃ無いけどね」
「フフッ、ならここでやめておきますか?」
「まさか! もうちょいやるさ!」
ミライラの提案を真っ向から否定するアレクレート。気合の入った返事は少し楽しそうにも見えた。
まだもう少し、試合は続きそうだ。
(ちゃんと大事に至らない様に、って言ったんだけどなぁ……。それともあのレベルだと別にあれくらい普通なのか? …………はぁ、まあもういいやー……)
審判は苦笑いを浮かべ諦めたような顔をしている。
その目は、どこか遠くを見ていた。
この世界での銃のカテゴリーは現代兵器ではなく、魔道具になってます




