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第1話 転移

 この世界には 【渡り世】 と呼ばれる存在がどこからともなく突然現れることがある。場所も特に決まったところはなく、森や平原に街中など様々だ。


 かつて川に現れ訳も分からぬまま流された者もいたらしい。いきなり川に現れたのは不運だが、海でなかっただけましだろう。


 この世界に渡って来るのは決まって違う世界の存在だ。人間や魔獣、さらには遺跡といった生物以外の存在も渡ることがある。


 渡ると言っても本人の意思は関係ないため「飛ばされる」と言った方が正しいだろう。

 そんな不運にも飛ばされてしまった存在がここにもいた。




 ◇


「……どこだ、ここは」


 たくさんの草木が生い茂り、木々の隙間から光が漏れ出している。様々な魔獣が住んでいる森の中、そんな場所に人の影があった。

 4人はそれぞれがキョロキョロしながら辺りを見渡している。その内の1人が怪訝そうに呟いた。


 その男は革のベストのような服の上に藍色と黒色を基調としたコートを羽織っており、下は革の藍色のズボンに黒のブーツを履いている。髪は闇を感じさせる程に黒く染まっており、少し目に掛かった長さの髪の奥には同じく、覗き込むと飲み込まれてしまいそうな黒目をしている。

 その顔からは表情があまり読み取れない。


「少なくとも私はこの景色を見た記憶はありませんね……」


 周りを見渡しながら少し申し訳なさそうにそう返したのは、長身のキラキラした雰囲気の男だ。その男は聖職者が着るような神父服の着ており、礼装用の白手袋や、太もも辺りまで続く刺繍が入った帯を首から掛けている。髪は金色に輝いており癖のない長髪がサラサラとそよ風に揺れている。

 とても美しい顔だちをしており、ニコニコしているためかとても優しそうな聖職者、といった印象を受ける。


「確かに、わたしもこの場所は知――」

「何ここ! ボクこの森初めてだ!」

「――ちょっと、わたしのセリフ遮らないでよ、リンシー」


 急に緊張感のない明るい声で話を遮られた女性は、溜め息交じりにそう言った。


 その女性は、つり目で鮮やかな赤色の瞳を持ち、通る人誰もが振り返るような綺麗な容姿で強気な雰囲気がある。

 彼女は黒を基調とした和服を着ており、裏側は赤の布が縫ってある。腰には帯を巻いて、その帯には2本の刀が差してある。綺麗な黒い長髪を後頭部でひとつ結んでおり、その額からは2本の角が生えていた。額に掛かる髪を分け突き出た2本の角は凹凸がなく少し反っており、暗い赤が角の先に向かう程に黒い色なっている。


 そして話を遮った方、リンシーと呼ばれたのは先ほどの女性とは真逆の印象を受ける。身長は小さく、保護欲をかき立てるような可愛らしい見た目をしており、喋り方からも明るく元気いっぱいな子供のような印象を受ける。そんなリンシーの頭には兎を思わせる垂れ耳が生えている。

 そのような兎の特徴は身体にもあり、上半身は人間と同じだが腰のあたりから下は、ふわふわした毛皮で覆わられており、2本足で立つ兎のようだ。

 履いているショートパンツには武器を付けるための装飾が施してあり、そこには腰の後ろにクロスさせる形で2本の短剣が装備されているだけでなく、横にはそれぞれ銃が1丁ずつ下げられていた。


「あ、ごめんねセツ!」

「まあ別に気にはしてないけど……。それよりヴォルス、ここは本当に何処なのかしら? 最後に"館"を置いたのはこんな森じゃなかったと思うけど……」


 セツと呼ばれた女は溜め息交じりに返した後、先ほどからあまり表情の変わらない、ヴォルスに聞いた。


「ああ、違う。 そもそもこの森は雰囲気から違う、拠点にしていた森はもっと殺伐としていた。となると……」

「やはり転移系の魔術による移動、それが一番あり得るかと思われます」


 金髪の優しそうな男がそう答え、さらに続ける。


「しかしいつ転移したかにもよりますが……仮に、魔術だとすると魔力の残滓が無いことも不自然ですし、そもそも魔術で転移したのならヴォルス様が気付くはずです」

「だが、元居た場所では無いことは間違いない」


 金髪の男はアスロンと言うのだろう。ヴォルスはアスロンに同意し、少し考え込む様子を見せた後、話し出す。


「ふむ…… 他にも疑問はあるが、ひとまず人気のある場所を探そう、話はそれからだ」


 ヴォルスがこの4人のリーダー的存在なのだろう。その言葉に従うようにヴォルスに対しセツ、リンシー、アスロンの3人が同意した。

 

「はいは~い! ここボクの出番だよっ!」


 そう言うとリンシーはキョロキョロと辺りを見渡し始める。 そして何かを見つけたかと思うと少し離れた所にある木に近づき、軽く木を蹴りながらスルスルっと天辺付近まで簡単に登って行った。

 そこに居たのはこの森に住んでいるのだろうと思われる鳥達だ。 木々の隙間から空をよく見れば、その鳥と同じ鳥が飛んでいるのが分かる。

 リンシーはその鳥に一言二言何か呟いた後、スルスルっと木から降りてきた。


「聞いてきたよ! 鳥さんに聞いた感じだと南の方に行くのが此処からだと一番近いみたい。ここも森の入り口らしくてすぐ出れそうだよ」


 その後リンシーに詳しく聞いてみると、北や東の方にも人間がいそうなことや、ここが森の中でも比較的浅い所であるということが分かった。

 このまま南に向かえばすぐにでも森を抜けることが出来るだろう。


「なら一度そっちに行くか」

「そうね。まずは近場に行きましょ」


 セツはヴォルスの提案に無表情ながら強く頷いた。その後セツは思いついたようにリンシーに話しかける。


「そうだ、 ねぇリンシー、そこにあるのが村なのか都市なのかとか、もうちょっと詳しい事とか分かったりしない?」

「う~ん、それは分かんないねぇ……。どの辺りに居るか聞いただけだし、それにそんなこと鳥には分かんないんじゃないかな?」

「……確かに、言われてみればそれもそうね」


 2人の会話が途切れたところでアスロンが話に入ってくる。


「村でも都市でも、我々の行動に変わりはないですからね、 取り敢えず南に向かいましょうか」

「ああ。だがその前に、―――こいつらを片付けないとな」



 ヴォルスのその言葉に合わせたかのように、周囲の木の陰から5体のオオカミの魔獣が出てきた。



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