八分の三
エッセイ初挑戦となります。虫嫌いの方はお気を付けください。
アシダカグモをご存知だろうか? 家で見かける蜘蛛の中で最大級の大きさで、夜中トイレに行く時に会ったら眠気が吹っ飛ぶ程驚く経験をした方も居るかも知れない。だが、ゴキブリやゲジゲジなどの害虫を食べてくれる益虫である。ちなみにゲジゲジは別に害虫では無い。単にその造形がお父さんが苦手なので、ウチの家では害虫扱いされている可哀想な虫である。
うちの家は田舎にあるので、田舎のお婆ちゃん家なんかがある人はそちらを想像してみて欲しい。だだっ広い。無駄に広い。夜になると怖い。もう1人で寝れる気がしない。お隣さんとは遠く、夏は蝉がうるさく、秋は鹿が鳴き喚き、冬は…どうだったかな。ちょっと忘れた。
まあ、田舎である。目の保養にいい。緑ばっかだなーみたいな。私、眼鏡だけど。
話を戻そう。お父さんはゲジゲジやゴキブリを食べてくれるアシダカグモを気に入っている。
私はこの話を書く為にアシナガグモだと思って検索したのだが、説明を見るにアシダカグモらしかった。お父さんはアシナガグモと言ってるので、コイツ間違ってんなー、と思った。
話を戻そう。さっきからこればっか言ってんな。そんなお父さんからの株が高いアシダカグモ。お父さんはよく、今に出没するアシダカグモに、あいつは太郎だ、なんて名前をつけている。お父さんのネーミングセンスはない方だと思う。大抵、ゴンザレスとつけようとしてくる。まあ多分ギャグだ。そうであってくれ。
人生で10回くらい人は蜘蛛を食べると聞いたことがある。寝ている間に誤食するらしい。それを聞いてから、自室に来るアシナガグモは全部追っ払ってる。冗談じゃない。あんなデカいもの食えるか。
まあ、流石に分かるだろう。私は自分の生存本能を信じる! …何言ってんだ私。
ある日の居間。朝早くに起き、だらだら勉強していた。するとアシダカグモがゆっくりと壁を這っていた。よく見れば右側が一番後ろの足を除いて全て無かった。四対の足が、四:一になっていて、とても歩きづらそうだった。
私は戦慄した。自然は恐ろしい。勉強で足を無くすことは無い。人間ってイイナーと。だって冷蔵庫に行くまでに足失わないもん。スーパーは事故に遭ったら億が一でなるかもしれないけど。
私はコイツ死ぬんじゃねえかなあと思った。だって八分の三足がないんだよ?人間で言うところの右足と右腕の肘から先が無いみたいな。それに足が無いってそういう環境下にいるってことでしょ。あと右足一本無くしたら歩けなくなるし。なむあみだぶつー。
まあ、もう会うこともなく、会うとしたら死体の時かなあなんて思っていた時もありました。ある夜のことです。寝起きにトイレに行って扉を開けたときのこと。
あ の 子 が い る !!
流石にそうそう足を無くすわけでもねえし、あの子でしょう。トイレに出没するようになった。トイレ行く度に、お、生きてんだなあって思った。
そうなってくると愛着がわくのですよ。左側に体重をかけてそろりそろり歩く姿だとかね。壁の隅でうずくまってる姿とか。
一番かわいいのは歩く最中に私が見てるのに気づいてピタッと止まるところ。こう、え、見えてます? なんで見てるの? みたいな、そんな見てもいいことないよ? 美味しくないよ? みたいな感じで動きが止まってこちらを窺うような様子が堪らなく可愛いのです。
なので殺さないで上げてください。かわいいとは思えずとも役に立つ蜘蛛を、お仕事ご苦労様とは思えなくてもまあ役に立ってるしなと見逃してあげてくれれば嬉しいのです。
だってこんなにも頑張って生きてるから。
読んでくださりありがとうございました。