一話 ドスッと❤恋に落ちる!?
「やべえ、ちこくだ!」転校初日の朝、僕は通学路を走る。
あと五分後には職員室に到着しなけりゃいけない。流石に初日から遅刻したらまずい。
でもその曲がり角をすぎればあとは直線。ぎりぎりで間に合うはず。前を歩いているスーツの人をぎりぎりでかわし、僕は飛び出す。
しかし―
〜その少し前〜
「いけないっ、ちこくちこく」口にはしょくぱんを加えながら少女は走っていた。少し危ないけれど背に腹は替えられない。
ホームルームまではあと十分。駆け足で行けば余裕で間に合う。でもその前にヤラなきゃいけないことがある、そのために走っていた。
曲がり角が見えてきた。よし、間に合う間に合う。落とさないようにしょくぱんを手に取り、加速する。
〜そして今(俺視点)〜
「うわ!」俺は驚き。
「えいっ! え?」少女も驚いた。
どすんっ★ 鈍い音を立てて二人は衝突した。
「いてて……」
俺は後ろに尻餅をついて転ぶ。
「あっ……! 間違えた……」と向かいから声がする。
そちらを向くと少女の姿をした人影が立っていた。口に手をやって驚いているようだ。ただ、ちょうど太陽の逆光で顔や服装がよく見えない。
「ごっ、ごめんなさい」と大きく頭を下げ、少女は謝ってくる。
「いや、こちらこそごめん……」と返事をし終わらないうちに、たたたっと少女は僕の脇を駆け抜け、走り去ってしまった。
「にいちゃん、大丈夫か?」すっ、と別の渋い声がして横から手が差し出される。ゴツくてたくましい。
「あ、ありがとうございます」と手を取り立ち上がる。それはさっきかわしたスーツの人だった。右目あたりには✖の傷跡、顎には無精ひげ、そして顔はイケメンだが強面で、暴力的な印象をうかがわせる。さらにはスーツの色が赤色だった。多分普段道ですれ違ったら目を合わさないようにする。
でも今回は、見た目によらず優しいんだなと思った。
「うわっ、それ、まじで大丈夫か……?」強面は俺のお腹の方を見て、ぎょっとした表情をする。
「いえ、別に痛いところはないです……は?」俺も自分の体を見下ろした途端、固まる。
俺の脇腹には、それはもう立派でたくましいドスがものの見事にぶっ刺さっていた。二十センチ程もある刃はギラギラと朝日を受けて美しく輝いていた。
つ づ く
注記★
ドスとは……短刀・合口などの小型の刀。
ドスの語源……人を脅すために懐に隠し持つことから、「おどす(脅す)」の「お」が省略された語