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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

現実世界百合小説[短編集]

幸せ感じる紅茶味のキス。社会人×学生百合物語

作者: 彩音

 (ゆめ)(うつつ)か。意識がはっきりしているようでしていない微睡の時間。

 外からは小鳥たちの楽しそうな囀りが聴こえている。

 世界は薄っすらと白。お布団の優しい温もりに幸せを感じる。

 この時間帯は「生」という時間の中で一番贅沢な時間だと思う。

 毎日あるけど長くは続かない時間。それがいい。それでいい。


 そんなことを考えながら今日もぼやぼやしていると、私の鼻孔にふわっとこの時間の終わりを告げる香りが漂ってきた。

 紅茶の香り。私は専門家じゃないから銘柄とか当てるのは無理だけど、言えるのはとりあえず好きな香りだということ。


 少しして薄暗い寝室に光が差し込んでくる。

 リビングからの光。その場所と寝室とを繋ぐドアが開かれて可愛い女の子が私の傍に歩いてくる。


「千歳さん、朝ですよ」


 メゾソプラノなボイス。可愛い女の子が私の体を優しく揺する。眠気眼を擦って「おはよう」と告げるとその可愛い女の子は笑顔で「おはようございます」と返してくれる。

 可愛い女の子。大好きな私の彼女。現在高校一年生の彼女はある日突然私の家にやってきた。

.

.

.

 始まりは私の姉である藤堂 千草が勤めている会社から海外の支社へ転向するようにとの辞令を受けたからだった。

 それは栄転の話で出世のコースに乗ったと喜ぶべきこと。

 ……なのだけど、ただ一つだけ問題があった。

 それは姉の一人娘のこと。姉は数年前に元夫に不倫されて離婚したことからシングルマザー。

 姉が海外に行くとなると娘が日本で一人きりになってしまう。

 かと言って連れて行くとなると娘は日本での友達を失うことになる。

 言葉が全然通じない海外で果たして娘が上手くやっていけるかどうか。

 姉は苦悩し、その末に娘と話し合うことを決めて二人だけの家族会議を開催。

 結果、姉は単身赴任するということになった。

 ただ、その際に最初娘は日本に残って一人暮らしすると言っていたようだったけど、心配性な姉はそれを許さなかった。

 まぁ娘はまだ当時中学生。姉の気持ちも分からないでもない。


 私たちの実家に行くか、それとも私の家に行くかで娘と再び協議。

 私はこの頃に姉から相談を受けてはいたんだけど、姉の娘()が私の家を選ぶことはないだろうなぁってそう思っていた。

 だって、会ったことはそんなにないのだ。それに私とは八つも歳が離れている。

 顔を合わせるのは正月とかの行事の時とたまに姉から頼まれて一緒に遊びに行ったりした時だけ。

 だから私の中の姉の娘の印象は可愛くてしっかりした子っていう誰でも抱きそうな印象しかなくて、そんな人と二人きりの生活空間なんてあり得ないと感じるだろうって思ってた。


「お世話になります」

「千歳に迷惑掛けないようにするのよ、ひより。………ひよりのことを頼むわね、千歳」


 それが、蓋を開けてみたら姉の娘・ひよりが選んだのは私との生活。

 姉からひよりの選択を聞いた時は本当にびっくりしてしまった。

 慌てて家を片付けていつでもひよりを迎えられるようにして訪れたその当日。

 姉と共に大きなスーツケースを引きながら私の家に来たひよりは姉と一緒に私に頭を下げ、その後姉を一緒に空港まで送った後、わたしとの生活を開始した。


「どうして私との生活を選んだの?」


 空港から家について開口一番に聞いたこの質問は曖昧にはぐらかされた。


「私にも分かりません」


 って。だからあまり言いたくないことなのかなって思って私はそれ以上のことを聞くのをやめた。

 それからひよりの部屋を決めて、スーツケースから一緒に荷物を取り出してクローゼットなどに収納。

 そうこうしているうちに夕食にするのにいい時間になって、「外食しようか?」って提案したんだけど、ひよりは「良かったら何か作りますよ」ってキッチンに向かっていった。

 でも、結局この日は外食になった。

 何故なら私、料理なんてしなくて、なので冷蔵庫には食材なんてものは無かったからだ。

 ついでに食材が無いので調味料も無い。キッチン用品も無くてあるのは精々果物包丁くらい。

 それを見たひよりは私に聞いてきた。


「普段何食べてるんですか?」


 あの時のひよりの若干引き攣った顔は忘れもしない。

 素直に外食かコンビニ弁当かスーパーのお惣菜って応えたら、ひよりは大きなため息を吐いて何やら思案顔を見せた後、私に笑顔で告げてきた。


「そんなものばかりじゃ栄養が偏ります! なので明日からは千歳さんのご飯は私が作りますね。なので明日、キッチン用品を買いに連れて行ってください」


 それは魅力的な提案だったけど、ひよりに負担が掛かるのはちょっとって思って断った。

 断ったけど、ひよりはどうしても自分がやると言って頑として聞かず、最終的に私が折れた。


 翌日に私の運転する軽自動車でホームセンターにキッチン用品を買いに行って、その足でスーパーにも行って食材や調味料を購入。

 朝と昼は兼用でまた外食になってしまったけど、その日の夜は買ったばかりのキッチン用品や食材を使って早速ひよりが夕食を作ってくれた。


 焼き鮭と肉じゃがとホウレンソウの胡麻和えとみそ汁と白いご飯。

 その品数と出来栄えにもびっくりなのに、食べてみたら余りの美味しさに目が飛び出そうになった。

 ひよりの顔を見て「プロが作ったみたい」って言ったら、ひよりは照れながら「お口に合って良かったです」って笑顔の返事。

 私の胃袋はその段階でひよりに完全に掴まれて、私はひよりが作ってくれる料理の味の虜になった。


 翌日の朝ご飯も会社で食べたひよりの手作りのお弁当も美味しかった。

 美味しかったけど、玉子焼きがハートの形になってたり、「お仕事頑張ってください」って手紙が添えられてたのはちょっと恥ずかしかったかな。

 同僚に見つかって質問責めにされてしまったりもしたり……。


 帰宅してどうしてそうしたのか聞いたら、「えっと、その方が可愛いかなって思ったので」って少し照れながら言われたときはお弁当もだけど、ひよりも可愛いよって思った。


 そんな日々が続いてのことだった。

 その日は台風によって停電してしまって、問い合わせると電気の復旧は早くても翌日になると言われてしまった。

 よりにもよって夜の停電。仕方なく懐中電灯とアロマと蝋燭を灯しての生活。

 幸いにもお風呂のお湯は溜めてあったから、ひよりに入ってくるよう促したら暗いのが怖いから一緒に入って欲しいと乞われて私はひよりと共にお風呂に入ることになった。


 子供だと思ってたのにちゃんと女性。暗闇が意図せずひよりの体つきを想像させるのに一役買ってのぼせてしまいそうになったことはまだ記憶に新しい。

 しかもひよりが一緒に湯船に入って来たからもう大変だった。

 私の太腿の上にひよりのお尻。怖いからって私に抱き着いて来たものだからひよりの膨らみが私の体に当たって鼻血が出るかと思った。


 そんなハプニング? だらけのお風呂から上がって寝る時間。

 普段は別々の部屋で寝てるけど、この日はひよりは枕を持って私のところにやってきた。


「その……、一緒に寝てもいいですか?」


 って。もじもじしながら言うのすっごい可愛い。

 お風呂では成長してるんだなーって思ったものだけど、こうしてみるとまだ子供なんだなーって思って私は微笑みながらひよりを手招きしながら自分のベッドへと誘った。


「いいよ。おいで」

「ありがとうございます!」


 喜んで私のところに来たひより。

 ベッドに入って来て、私の腰に手を回して抱き着いてきたから私もひよりのことを抱き締め返す。


「大きくなったのね。ひより」

「千歳さん、何言ってるんですか? 私、もうすぐ高校生ですよ?」

「そっか。そうよね。いつまでも子供って思っちゃってた」

「……だからアピールしても気付いてくれなかったんですね」

「え?」

「千歳さん、私……」


 二人一緒のベッドの中。寝転がりながら私を見上げるひよりの瞳は潤んでいて……。

 

「千歳さんが好きです」


 そう言うとひよりは私の唇に自分の唇を重ねてきた。

 突然のこと。動揺しなかったと言えば嘘になる。

 でも私はひよりの唇の柔らかさを脳の片隅で堪能していた。


 重なり合っていたのはそんなに長くない時間。

 ひよりの唇が離れていく。


「いつから?」


 尋ねるとひよりは泣きそうになりながら中学生になった頃からと教えてくれた。

 二年弱。私はひよりが私のことをそんな風に思ってるだなんて知らなかった。

 けど、これでひよりの不可解な行動の理由が判明した。


 ひよりは私のことが好きだから私と共に暮らすことを決めてここに来たのだ。

 

「もしかしてこのこと私の姉も知ってたりする?」


 気になって聞いてみるとひよりは予想通りそれを肯定した。


「うん。私、千歳さんのことお母さんに相談してたから。だから今回のことも千歳さんの所に行きたいって言ったら苦笑いしながら了承してくれたよ。それで、千歳は鈍いから大変だと思うけど頑張りなさいって背中押してもらった」


 それを聞いて恥ずかしくなる。ひよりは最初からその気だったんだ。

 でも姉の言う通りに鈍い私は今日この時までひよりの気持ちに気付かなかった。


「そっか。知らなかったなぁ……」

「……ごめんなさい。気持ち悪い……ですよね? ……私」


 フラれたかもしれない。そんな不安に頑張って耐えようとしていたのだろう。

 それが耐えきれずにひよりの瞳から涙が零れ始める。


「ごめんなさい、ごめんなさい……。千歳さん。好きになってしまってごめんなさい。キスしちゃってごめんなさい……」

「ひより」


 ひよりの涙を手で拭う。それによって期待した目となるひよりに私はその期待を返す。

 ちょっとだけ体を起こしてひよりの顔の上に自分の顔を持ってきて笑み。


「泣かないで、ひより」


 頭を軽く何度か撫でて、それからさっきひよりが私にしてくれたように私もひよりにキスをする。

 ひよりは唇を重ねた直後は驚いた様子だったけど、すぐに目を閉じて私を受け入れ、私が離れていくまでそのままだった。


「ひより……」


 呼びかけるとひよりは不安と期待が入り混じった顔をして私を見て来る。


「千歳さん……。あの……」


 そんなひよりの声を聴きながら、私がひよりに返すのはついさっき芽生えたばかり、でもこの先変わることはないだろうって第六感で確信できる私の気持ち。


「うん、私もひよりのこと好きみたい」

「千歳さん!!」

「……でも私たち八つも差があるけどいいの?」

「関係ないです」


 泣きながら笑うひよりが可愛い。

 可愛いから「可愛いよ」って言うとひよりは赤くなってますます可愛くなる。


「ひより、本当に可愛い」

「あまり言わないでください。恥ずかしいです」

「どうして? 恋人に可愛いって言われるのは嫌?」

「こい!!?」

「ん? そうでしょう? 私たち恋人だよね?」

「えっと、あの……。その……」


 完全にテンパってる。あたふたして取り乱しまくってるの可愛い。


「好きよ、ひより」


 可愛いからキス。ひよりの顔は熟れた林檎みたいに真っ赤。


「千歳さん、ずるいです。自覚した途端に別人じゃないですか!」

「私も自分で自分にびっくりしてる。私って恋人できるとこんな感じになるのね。ねぇ、ひより?」

「なんですか!? む~っ」

「なんで怒ってるの? ねぇ、ひよりの首にキスマークつけていい?」

「え!! じゃあ私も……」

「いいよ」


 お互いの首に吸い付いて残すキスマーク。

 ひよりのことが可愛くて可愛くて可愛くて仕方ない。独占したい。私だけのものにしたい。これはそんな気持ちの表れ。


「はぁ……。ずっとイチャイチャしてたい」

「明日、平日ですよ?」

「ねー。ずる休みする?」

「それはちょっと……」

「冗談よ。でもあと一時間だけイチャイチャさせて」

「はい」


 ひよりのことを改めて抱き締める。ひよりも私を抱き締めて来てその状態で頬ずりなどしたりする。

 私とひよりはその後、「もう寝ないとだよね」「でももう少しだけ」を何度も何度も繰り返してイチャイチャし、漸く二人共が触れ合いに満足して眠りについたのは間もなく丑の刻(※)が終わりを告げようとする頃だった。

 睡眠不足。その日のあれこれはダメダメだったことは言うまでもない。

.

.

.

 大好きなひよりに起こしてもらって洗顔してから席について食卓を見る。

 並んでいるのは紅茶とクロワッサンと野菜サラダとスクランブルエッグ。

 二人向かい合って「いただきます」と手を合わせて食べ始める。

 恋人同士になってから大体一年。それだけの時間が過ぎているのに私のひよりを好きという気持ちはあの頃から変わることがない。ううん、ますます大きくなっている。

 食べながらちらちらとひよりを見ると、その視線に気付いたらしいひよりの頬はほんのりと赤くなる。

 可愛い。私の恋人可愛すぎる。


「ひより」

「はい」


 呼ぶとはにかみながら返事するひより。

 うん、可愛い。とっても可愛い。物凄く可愛い。


「可愛い、ひより。大好きよ」

「私も大好きです。千歳さん」


 甘くて幸福な時間が流れる。

 二人微笑みあい、食事を終えてそれぞれ出社・登校の準備をして玄関前。


「じゃあ行ってきます、千歳さん」

「行ってらっしゃい。私も行ってきます、ひより」

「行ってらっしゃい、千歳さん」


 言い合い、その後玄関ドアを開けようとするひよりの手を掴んで待機させる。

 不思議そうな顔でこちらに振り向いた時にその唇にキス。

 ひよりの唇はほんのりと紅茶の味がした。



 ひょんなことから始まった私たち。

 それはきっと偶然でもなんでもなく必然のことだった。

 

 ひよりが私に笑顔をくれる。私もひよりに笑顔をあげる。

 満たされる気持ち。


 私たちは今度こそドアを開けて青空の中へと歩いていく。

「出て来たばかりだけどもう帰りたい。イチャイチャしたい」

 そんな冗談を言い合いながら―――。

※深夜1時~3時

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