1 あなたに笑ってほしいから。
月の満ち欠け
登場人物
雨宮つゆ 十二歳 小学校六年生 月を見ると猫になる少女。よく高いところから落ちる。あんまり笑わない。
谷葉子 十二歳 小学校六年生 悪い魔法使い。つゆに月を見ると猫になる魔法をかける。楽しそうによく笑う。
プロローグ
あなたに笑ってほしいから。
いつも笑っていたい。
あなたとどこかで偶然、再会したときも絶対に笑っていたいから。
あなたに私の笑顔を見てもらいたいから。
……心から安心して、欲しいから。
本編
あなたを助けに来たんだよ。
私がこうして心から笑えるようになったのは、(きっと)全部あなたのおかげだった。
私が知っていることなんて、この世界のほんの少しの真実だけに過ぎない。世界は真っ暗な闇の中にあって、そのほとんどの姿を私は目にすることができない。
それは真理であると思う。
世界には私の知らないことがたくさんあった。
私はあなたのことが大好きだった。(私は君のことが大好きだった)
私はあなたのことが大嫌いだった。(私は君のことが大嫌いだった)
その二つの気持ちはどちらも本当の私の気持ちだった。
どちらも本当の大切な私の気持ち。
さて、ここで問題。
私はどうすればいいだろう?
猫になった私は、これから猫として生きていくのか? (本物の猫になるのか)
それとも人間として生きていくのか? (やっぱり人間に戻るのか)
どっちが正解だろう?
私がそう問いかけると、あなたはいじわるそうな顔でにっこりと笑って、「あなたの人生なんだから、あなたの好きにすればいいよ」と私に言った。
そんなあなたのすごく楽しそうな笑顔を見て、優しい風の吹いている、月の明るい夜の中で、自分の家の赤い屋根の上にいる猫なった私は、やっぱりあなたのことが嫌いだと思った。