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ホーリー・レディ



東日本大震災が発生した後、

東京から大阪に日本法人本社を移した外資系会社が


溜り場の居酒屋ライブハウスの近所に引っ越してきたらしく

今まで見た事の無い人々が店に迷い込んでくるようになった


たいがいは、先に来日している先輩らしき人が

日本語が良くわかってない後輩に嘘の日本語を教えて

とんでもない事を言わせて遊ぶというものだった。


その夜、見かけた人は


「そこの姉ちゃん 今夜、ワシと一発やらへんか?」


いかにも、カタコトといった感じで

たどたどしい日本語で店にいる御嬢様に話しかける


グッド・イブニングのような意味だとでも言われたのだろう


”何を言っているんだ? この外人?”


という反応をされて相手にされないのを見て

後ろの先輩らしき人々が、ニヤついている

その人々の中に昔、働いていた会社の人がいて話しかけてみる


「あれ? 何? 今、外資で働いてんの?」


「いや、昔、神戸データセンターってあったろ?

 アメリカドルが130円くらいだった2001年頃まで」


「ああ、そやったな、そやな データセンター

 何、クラウドとか流行してるから

 クラウド・サーバーでも運用する事にでもなったんか?

 外人部隊を雇って?」


「いや、今、アメリカドルが70円台な円高だからさ

 リーマンショックで傾いた会社の

 インドのデータセンターを安く買って

 なるべく移設しましょうって事になってね


”物価も人件費も日本の3分の1以下だから

 コストが安くすんで、いいだろう”


 とか言って、でも全部をすぐに移設できなくて

 一部分は日本国内で作業する事になってな


”でも品質管理や進捗管理や設計は

 日本国内でやりましょう少数精鋭で効率良く”


 というワケでインド子会社とか、色んな国から

 寄せ集め外人部隊が出来上がって

 そのリーダーをやれって事に、なってな。」


「自分がか?」


「そんな意外そうな顔をしなくても、いいじゃないですか

 吉田さんがいたの10年前くらいまでだから

 知らないだろうけど、少しは仕事できるようになったんですよ」


「大変やねー。で、コレって歓迎会なんか?」


「まあ、そうですね。今まで東京にある日本法人経由で

 仕事を依頼していた協力会社が大阪に日本法人を引っ越して

 阪急電車で行き来できる距離になったんで

 交流会を少しはしましょうかって管理職が言い出して

 コレは交流会の二次会。管理職がいない席で

 遊びましょーってワケですよ」


「ちゅー事は、その協力会社のあるのって、この近くなんか?」


「そういうワケです。」


「で? あそこらへんにいるのが同じ部署の人?」


「いや、中国人や韓国人の協力会社の人ですね

 黙っていると日本人と見分けつかないけれど

 少しでも話しをすると、あー外国人なんだって思いますよ。


 日韓ワールドカップ頃の韓流ブームとかあったでしょ?

 あの頃に韓国人の人が社内に増えて


 北京オリンピック頃に中国人が増えて


 日本人が減ったんですけどね

 今って中国だけが景気が良くて金があるから

 中国人も韓国人も減りましたねー。


 ほとんどの関係会社が日本から撤退して

 上海やら香港やらの金のある会社の近くに行ったんで」



「本社が中国や韓国にある会社の方が今は金があるんやろな」


「というより、東京の会社は昔から細かいクレームばかりが多くて

 金払いが悪いユーザーが多いって評判でしたからね

 金払いの良いユーザーさんが多い国際都市があったら

 そっちに乗り換えろってアメリカ本社に指示されたんでしょ


 アジア・パシフィック・ディヴィジョンにいる

 マネージャーと呼ばれる人々が」


そんな世間話をした後、さっき見かけた日本語が話せない人を見ると

店にいた御嬢様と英語で話していた。

御嬢様の内、英語が話せるのが

面白半分に関わってみるつもりに、なったようだった。


「昔、アップルの音楽関係の部署で働いていたんですよ」


と、その外人さんが言ったら、


御嬢様と仲間がMACでもDTM話を始めた


「MACトーン、デファクト・スタンダード」とか


英語というより、アップルMAC音楽ソフト語

といった感じの会話が延々と続く


日本にいる間、週末だけ一緒に遊ばない?

といような勧誘言葉に、会話内容は変わっていき


”御嬢様内輪の外人さん”と一緒に火遊びできるよ


というような、とんでもない言葉すら飛び交い出す

何故か誰も突っ込まない。

そして、そのオーストラリア人の兄ちゃんは

毎週、週末になると店に来るようになった。


”御嬢様内輪の外人さん”吉田ますみと週末を過ごすために




翌2012年から2013年にかけて中国系の人々が全員いなくなった。

親族が心配して中国に戻って来いと言ったからなようだった

最後まで残っていた人も2月の旧正月に帰国して

そのまま、日本には戻って来なかった


とは言っても、昔いた会社の内輪が、そうだったというだけで

日本国内の在日中国人が全員帰国するワケではなくて

他の会社とか中華街とかには、まだいるのだろう


入れ替わりに増えたのはインドネシアの人々


回教徒で酒は飲まないし、肉も食べないし、

夜と寝る前の祈りのために夜遊びは一切しないので

交流会に参加する人は皆無だった


ドイツ企業の下請け東欧企業にいた東欧の若い人が

唯一、交流会に参加していて飲んでグチを言う


”こんな雑用みたいな年棒の安い仕事より、

 もっと金になる仕事が できるようになりたい”


”もっと 年齢がいって、結婚して奥さん子供を抱えても

 この仕事を続けられるか? その時までに何ができようになるかな?”


”将来への漠然とした不安を、どうやったら無くせる?”


”実際の所、毎日、やらされるのは、

 好きなサッカークラブの熱狂的な応援をするだけのような仕事や

 長時間拘束されて、気合と根性って言いながら雑用するだけな仕事

 なんで、皆さん平気なんですか?”


だのを独特な表現で語る。


色んな焦りが積り積もって、口をついて出てくるのだろう


 ドイツ語なまりの英語っていうのは

 ずいぶん几帳面な感じがして堅苦しいなあ


などと言っている事以外の事にも注意がいってしまうが

声が大きいので言っているグチが聴こえてきていた。



数年後、オーストラリア人の兄ちゃんを

本当に義理の兄と呼ぶことになった

奴が連れてきた妹と結婚する事になったので

そういう事になったのだが


オーストラリア人の兄じゃなくて

ミスター・ジョーンズとかブラザーとか呼ぶようになって

ついでに年下の姉まで、できた

数年前に飛び入りセッションナイトで歌っていた

同じ吉田という苗字だった御嬢様だ


御嬢様だと思っていたが、


実際は爺様や両親の遺産生活者だったのが

投資で失敗して普通の労働者になってしまい

結婚したので旦那の稼ぎで生活する専業主婦になった


という良く聞いてみると落差の激しい生活をしてきたらしい


働くようになって仕事や会社優先で

一切、親戚づきあいをしてこなかったので

疎遠になっていた田舎で生活する両親とか

同じ地域に住む高校を卒業するまでは関わっていた親戚とか

結婚式に何十年ぶりかに会ったが

今更、疎遠になっていたのが心の距離が縮まるワケでもなく

今まで通りだったが


「働きもしないでブラブラしてないで

 結婚したんだから働きなさいよね

 みっともないし世間体が悪いじゃない


 最近、なんか雑誌とかで見かけるけど

 引きこもりニートとか情けないと思うでしょ?

 働かないと、私達は年金生活者だから

 仕事をしたくても雇ってくれる会社なんかないけど」


口を揃えて、同じような事を言う。


なので一応、仕事をしているという事にするために

金を使わないとならなくなった。


適当な休眠会社を安く買って、会社の社長という事にして

会社が所有するビルという事で安い雑居ビルを買って


実際には、新しく親戚になった同じような労働者階級じゃなくて

保守支配階級という人々とマネーゲームをして遊ぶ日常を作ってみた。


もちろん、こんなハリボテみたいな安っぽいシロモノが

金が金を呼ぶ打ち出の小槌になるワケは無いと思っていたのだが

結婚相手はマネーゲームが天才的に上手だった


アメリカ西海岸でベンチャーキャピタルをやっている親族と一緒に

金になる投資案件を見つけて楽しそうに毎日ゲームをやっている


銀行や不動産屋とのつきあいとか、役所手続きとか

日本国内なので日本人の男がやった方が良い事をやるだけで

自分がやっている事は、実際の所、できてもできなくてもいいような仕事だった


こうなると、日々、負い目が膨らんでくる

日本国内の普通の世間では、男が働いて女が子育てをするのが普通なのに

店で会った ますみにポロと言ってみる。


「んな事より、愛情表現の言葉を言ってないと

 あっという間に、”愛が消えたから離婚しよう”って事になるみたいだから

 どんな愛情表現の言葉を言うかでも考えた方が、いいんじゃないの?


 普通の日本人夫婦みたいに、子供を作って一緒に生活していれば

 その生活費を稼ぐために、子供の学費を稼ぐために共働きで働いていれば

 それで、なんとか結婚生活が続いていく


 って感覚じゃないみたいだから」



「そうだな、夫婦生活を継続させる技術って意味で

 会社での社交辞令じゃないけど

 結婚相手への社交辞令ってものが必要なんだろうな

 面倒になって、怠けると結婚生活が破綻するってのが大変だよな」



「日本人が会社とか仕事づきあいを何より優先するのと違って

 一番、優先するのが家族や親族づきあいってのは違うよねー


 結婚式とか、色んな国の人とかが来てたし

 よく集まったり交流したりする金があるよね


 ロンドンだの、ニューヨークだの、シドニーだの、香港だのと

 ずいぶんと色んな国に親族が散らばってるみたいだし」



「あー、そうだよなー、それより男同士で結婚できる国で結婚して

 サロゲイトマザーに依頼して子供を作ったっていう

 カリフォルニアに住む夫婦にゃ、ビックリしたけどな


 法律が違えば、日本じゃ考えられない家族関係が可能なんだな」



義理の妹というより、飲み友達のような感覚で話すようになって

遠慮とかいうものが互いに無くなってきているような感じすらする。



・・・・



2010年を超えて数年が経過した頃

週末、オーストラリア人と遊ぶようになった。

最初は外人さんと言っていたのだが

その言葉を口にすると嫌そうな顔をしていたので

オーストラリア人というようになって

ジョーンズと、ファミリーネームで呼ぶようになった

日本でいう鈴木とか田中みたいに良くある苗字らしい。


今まで関わった事の無い感覚なのかなと思ったが

日本人のオッサンでプロ野球の事を言っている人がいるが

それが野球じゃなくてクリケットやラグビーになっているだけで

チーム・スポーツ好きな感覚は同じなようだった


同じオーストラリア人の友人とかも連れてくるのだが

とにかくデカイ、横にもデカイ、身長もデカイ、声もデカイ

上着とかを、ふざけて来てみると子供が大人の服を着ているみたいだ


顔とか髪の色は、確かに欧米人って感じだ


口喧嘩になると、キンダカートン・イングリッシュと繰り返し言う


”幼稚園児が面白半分に覚えた単語を何度も言ってのと同じだ”


(馬鹿げたガキっぽい事しか言えないのか)


というような事を言っているのだろうか?

声が怒っている感じなので、怒っているのは理解できるが

英語圏の住人では無い人間には聞き取れない速さになっていって

何が言いたいんだか、何を言っているのだか、わからなくなって

聞いているフリをして黙るだけになってしまう。


そして奴は、言いたい事を言ってスッキリして

怒りが収まり口喧嘩が終わる


そして、しばらくすると

何事も無かったかのように話しかけてくる。


どんなに失敗して痛い目にあっても、何かのせいにして忘れて

何度でも挑戦できる性格らしい

それか、議論はするが、悪意を残すべきでは無い

とでも思っているのだろうか


そこらへんが聞き出せるほどの英会話能力は無い



しばらくして結婚すると親戚が一挙に増えた

結婚相手の兄弟、その配偶者とかの同年代な人々から

義理の親、義理の親の兄弟、その子供


オーストラリアは日本と季節が逆なので

冬にスキーをするためだけに北海道に別荘を親族で買ったらしく

冬になると数人で来日して、そのついでに関西地方にも寄っていく


その親族の内の一人が突飛な事を言い出した


「このライブハウスをオーナー店長から

 買い取ってオーナーになるから店の運営してみないか?


 専業主婦で住宅街に引き篭もっていても退屈だろ?


 ”居酒屋”部分の飲み食い商売部分が面倒だったら

 ライブハウス兼、練習用スタジオにでもして

 同じ学校の同窓生との人づきあいするにも

 少しは金になった方が、いいでしょうよ。」


なんの冗談かなと思っていたが

本当に買い取って、その御親戚がオーナーになった


年に数回しか日本に来ないけれど

オーナーは、そのオッサンなので

店の利益の何割かは家賃のように支払うワケだが

店の運営に関しては何も口出しをしてこなかった。


持ち主は変わったが、店員さんとか出入り業者さんとかは変えず

常連さんになっている人とか、演奏する人とかも入れ替えなかったので

特に日常が別に変わるわけでもなく



月曜から金曜までの昼間、電話番 兼 お茶くみをしていたのが

ライブハウス運営会社の諸雑務をする人になって


夜は居酒屋店員やっていたのが接客をするようになって


土日は可能な限りシフトを入れてもらってのコンビニ店員していたのが

可能な限りリハーサルとかに立ち会っての諸々をする


といった日々を送る事になった。


旦那の同僚とかとの内輪の飲み会を この店で開催するように仕向け


客が客を呼ぶための呼び水というかサクラとして

元同級生が運営する投資サークルの人々や”株屋”とかも巻き込んで

人が人を巻き込んでいくようにする内に客が増えていった


同じような店をやっている同業者が嫌がらせにきているのを見分けて

追い払うための番犬さんというか用心棒のような店員が採用されるほどだった



店に出ているバンドの中で人気があったのは

”神聖 御嬢様”というバンドだった。


元同級生というか同じ学校出身の内輪でスーパースター姫様になった女が

派手なエロカワギャル風ファッションと姫様服を組み合わせた衣装で唄う


”今までの人生、小学校、中学校、高校、大学と人生劇場で主役でした

 余計な苦労を一切、知らずに楽しく過ごしてきました

 男にチヤホヤされる綺麗でカワイイ女の人生を楽しめてますワタシ


 客として来てくれた みんなも 自分と周辺にいる数人のグループの中では

 人生劇場の主人公になれたような感覚で一緒に楽しめるよ きっと”


といった感覚を元にした よくありがちな恋愛世界な歌詞を書いて

と言われて、嫌々書かされた唄だが、”真性 御嬢様”が歌うと絵になるものだ。

他の人が唄ったら、客に笑われるコミック・ソングにしかならないだろう。


”真性 御嬢様”が、”神聖 御嬢様”に見える錯覚を起こし出した頃には

性格自体やキャラクターが才能となっているからか

10人いたら9人くらいの大勢に好かれる性格だからなのか

大勢の人々を物語の主人公になったような群像劇に引き込むのが上手からなのか

店内に客が定着して、とりあえず、しばらく閉店の心配が無いほどに繁盛した。



しばらくすると、”神聖 御嬢様(ホーリー・レディ)”の

ボーカルを家に持ち帰って

自分の子供の母親にしようとするボンボンが出現した

そのボンボンの目論みは成功し

御嬢様は結婚、住宅街の奥様になってしまう事になり

急遽、代わりの歌い手を探す事となったのだが

たまたま見つかった内輪の天才の代わりは中々みつからない



似たような女を、”冒険家”が連れてきて

御嬢様のMCやら歌い方やらを説明し

どんな人間で、どんな感じの愛想の良さだったかとか

礼儀とか態度が、こんな感じだったとか説明し

同じ感じで真似してもらっても

実際の天然の性格とかから、にじみでる感じと

自分で自分に言い聞かせるように作った感じでは全然違う



駄目なんじゃね? と内輪でも感じていたのだが

御嬢様と同じ学校出身の後輩に、初代御嬢様の物まねをしてもらうと

客も何か違うとは感じていたのかもしれないが、それなりに受けた


あーゆー天才は見つからないんじゃないかとは思ったが

同じような日常で同じような学校生活を送ったから

同じような感覚の女っているもんなんだと

関係者が納得すると、それなりに、なんとかなった。


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