部下を育てるぞ
私たちが所属する黒の方舟には掟がある。
一、主に仕えることを矜恃とせよ
〜主は絶対であり、それに仕える己もまた偉大である
二、平等を持って正義を制す
〜平等と正義は相反するものである
三、個のプライドを捨て、組織の一員としての誇りを持て
〜その命は主の前にて平等であり、等しく価値のないものと知れ
四、たとえ死ぬことがあっても負けてはならない
〜組織である以上個の責任は全員の責任となる事を自覚しろ
五、主のために生きよ
〜主の喜びが己の喜びである
六、隣人のために死ね
〜その命は友のために散らすことこそが美しい
七、主の許可なしに死ぬことを禁ず
〜1人でも欠ければそれは主の求めた組織に在らず。己の勝手で組織を壊すことは決して許されない
八、敵は殺せ
〜罪に大小はなく、お前の手は既に穢れている
九、裏切り者を歓迎せよ
〜主の意に背く者に祝福を
十、隣人を愛せ
〜その手は家族と繋ぐために
十一、主を愛せ
〜我らの人生も命運も全ては主に委ねられた
十二、世界は我らの手に
〜世界は我らの手に
十三、以上の掟に従うものを同胞として迎え入れる
〜我らは黒の方舟。世界を覆う罪人の衆である
以上の掟に従い、私達は各々が好き勝手やる。
それが黒の方舟という組織だ。
構成員は今のところリーダーの男一人と、メンバーの女が60人越え。
森の中にひっそりと佇む教会で暮らしている。
リーダーの翔太は、女の子にチヤホヤされる生活を初めこそ楽しんでいたが、今では完全に尻に敷かれ、良いように使われている。
「今日は新人研修も兼ねて、お金を稼ぎにいくから直ぐに準備して」
「「「承知」」」
私が声を掛けると、3人の少女が黒い外套を纏い、整列する。
彼女達は右から順に、
メグ(人)、マリモ(エルフ)、ロンロン(クマ耳獣人)だ。
この組織には最近入ったばかりの新人で、戦闘経験はほとんどない。
今回、組織としての仕事は初となる。
初陣というやつだ。
「行くよ!」
私は転移魔法を発動し、3人と共に山へと転移する。
「今回の任務は山賊の討伐よ!」
山賊、盗賊。いわゆる罪人である。
彼らの討伐は黒の方舟に入ったばかりの人間が狩るには、非常に都合が良いと言える。
何故かと言えば、それは単純な話だ。
まず、殺してもあまり罪悪感を感じないという事。
罪のない人間を襲うより、よっぽど心的負荷が少ない。
次に、ドロップアイテムが良い。
山賊や盗賊は組織が大きくなればなるほど、よく貯えている。リーダー格の人間を倒せば意外と金も持っているし、どこからか盗んだり奪ってきたレアなアイテムを持っている場合もある。
人身売買に手を染めていれば、女性を連れている可能性もあるので、その場合はメンバーの補充もできる。
一石二鳥。いや、一石三鳥といえるのではないだろうか。
さぁ、今日は何が手に入るのかしら。
「リシアさん、元勇者とは思えない顔してません?」
メグとマリモがコソコソと話している。
残念ながら私は耳が良いので全部聞こえている。
覚えておきなよ! 後で怒るんだから!
──まぁ、任務が終わった頃には、私の方が忘れてしまっているのだけれど。
私はムスッとしながらも、索敵魔法を展開する。
「【索敵】」
いた。
間違いない。
そこそこの規模。これは報酬に期待できるはずね。
「メグ、マリモ、ロンロン。索敵に引っかかったわ。人数は30人ほど。ここから東に2キロ程進んだところよ」
私は3人に告げて、先陣を切って走る。
「待ってくださいネ。リシアさん! そっちは西ネ!」
ロンロンから指摘が飛んできた。
他の2人もロンロンの言葉に頷いている。
あれ、私が間違えたの?
「お箸を持つ方が東なんじゃなかったっけ?」
「それは自分が北を向いているときですね。今、私たちは南を向いているので、東は左になります」
メグが説明してくれるがいまいちピンとこない。
「それは、あれ? この星は丸いのだからひたすら右を突き詰めれば、それはやがて左になるとかそういう話?」
「全然違うですね」
マリモから否定が入る。
ダメだ、全然わからない。
「まぁ、とりあえず、東でも西でも下でも南でもいいけどさ」
「下ではなく北ネ」
「……。伝わればいいでしょう」
私、あまり頭は良くないのだ。
それは自覚している。なので、難しい話は振らないで欲しい。私は彼女達にかっこつけたいのだ。先輩として、組織の幹部として、元勇者として。
私への信仰が薄れるイベントとか、正直やめて欲しい。
「コホン。で? なんだっけ? 西? 良くわかんないけど、私に着いてくれば山賊のアジトには着けるから。そしたら、始末してきて! ちゃんとドロップアイテムも回収するように」
私は咳払いひとつで全てを有耶無耶にすると、3人のこれからの行動を説明した。
「あの、ドロップアイテムってなんですか?」
……気安く質問しないで欲しい。
翔太が言ってた言葉だから、私も詳しくは知らないのだけれど……。
「要するにあれよ。戦利品みたいなものよ。金目のものは全部回収してきて」
私は自分が本当に勇者なのか疑わしくなってしまうけれど、これも自分で決めた道だ。
後悔は……して、な、い?
半々かな……
「とりあえず、私は草葉の陰から見守ってるから」
「えええ、死ぬんですか……?」
訳の分からないこと言ってないで、早く戦ってこい。
──〇〇〇〇──
三人は山の斜面を疾走し下っていく。
どうやらロンロンを中心として、メグとマリモでサポートしながら敵を倒していく戦法らしい。
「悪くないわ」
その光景を監視しながら、リシアが呟く。
10倍もの相手に立ち向かうのなら、決して悪くない陣形だ。
ロンロンはアジトに着くと、メイスで躊躇いなく見張りの男を殴り飛ばした。
「人殺しー」
男はそれだけ言うと、目の光を失う。
ロンロンは白と黒の斑模様の髪の毛が特徴の少女だ。
ローブを目深に被り、再び闇へと潜り込む。
彼女はたった今、生まれて初めて人を殺した。
しかし、彼女はそれに対して、何かを思うことはない。
葛藤も負い目もなく、その碧眼は美しく澄んでいる。
食物連鎖で上に立てなければ、搾取されるのは自分の方だ。彼女はそれをよく分かっている。
マリモは見張りが倒れたのを確認すると、速やかに移動を開始して、弓矢を構える。
その矢の先は赤く燃えている。
「火を放つつもりなの?」
リシアは一瞬焦り、止めるか迷った。
ここは山だ。もし、炎が燃え広がったりでもしたら……。
「まあ、いいか。私なら直ぐに消火できるし」
そんなことを考えているうちに、マリモが矢を放った。
炎に照らされていたマリモの深緑色の長髪は再び夜闇に溶ける。
「うきゃきゃきゃきゃきゃ。燃えてるネ」
気味の悪い笑い声を上げたロンロンは顔を引き攣らせたメグと共に山賊へと襲いかかる。
「有り金全部寄越しやがるネ。罪人共!」
果たしてどちらが罪人なのかはわからないけれど、ロンロンはそう言った。
しかし、彼女の話を聞いている山賊は誰もいない。
まさか深夜にいきなり火を放たれるなど、誰が考えていようか。
「いいぞ! もっとやれ!」
リシアは木陰から彼女達を応援する。
三人はそれぞれ、メイス、弓、棍棒を上手く使いこなして敵を倒していく。
──やがてその場に残ったのは、山賊のボスらしき男。
「盗賊のうわまえをはねるたぁ なんてヤツらだ・・・ お前たちゃ人間じゃねえ!」
その男は震えていた。
まだ10代の少女3人を相手にした30人の山賊達は残り1人にまで追い詰められているのだから。
「来世では全うに生きるといいです」
マリモは矢を握った右手を勢い良く振り下ろした。
「これがドロップアイテムです?」
「違うネ。ただの失禁ネ」
次話もお願いします。
ブックマーク、評価してくれると嬉しいです!
励みになります!




