第六話 精霊都市と精霊騎士
この世界に来て一週間ほど経過して居る。念の為にとレベルを上げつつガルーダに様々な知識を教えて貰っている。ガルーダに騎乗し東へ直行すれば一瞬なのだが、念には念を入れて鈍行で移動中だ。
そりゃ、戦闘経験の無い一般人だからな。モンスター相手に経験を積む事は間違って居ないと思う。そんな感じでモンスターを倒し素材を回収しつつ目的地へと向かう。
今まで詳細を聞かなかったが、少なくとも今向かっている所は、俺に対してあの王国の様な扱いはしないとの事。それもその筈、風の女神セラフィーナ様を祭る大神殿を要する、大規模な都市となって居るそうだ。
規模的には俺が召喚されたあの国の数分の一、と言った所であり、王制などは敷かれておらず、所謂共和制の自由国家都市群となっている。その為か政治形態は議院内閣制に近いらしい。
公には議員や権力者と、教会や神殿が対等の立場にあり、お互い不干渉となっている。人々に信仰と加護、治癒と言った分野で教会、神殿が。労働、生産、商売と言った分野で議員や権力者が、絶妙な具合で回っている都市国家なのだ。
尚、同様の都市国家群が東西南北に存在し、それぞれ各種女神を祭る、神聖な都市国家群として成り立っている。その全容から、人々は敬意を込めて、都市国家群の事を『精霊都市』と呼称している。
余談でもあるが、各都市国家間でも各種取り決めが存在するが、決して対立する事無く、決して自ら争わず。を貫いている。勿論外敵からの侵攻に対しては毅然と立ち向かう。
これはガルーダから内密にとの事だが、この都市国家間には、神々の協定により定められた、転移門が存在する。
万一有事の際には、東西南北の都市国家が、連合軍を組んで迎え撃つと言う、強固な防衛網さえ築かれているそうだ。
それだけではない、各都市には必ず一人、女神の神託を受け、聖獣の加護を有する精霊騎士が存在する。
この都市国家群にも、風の女神セラフィーナ様によって選ばれた精霊騎士が存在し、その戦闘力だけで言えば勇者級戦力と同等とされるが、局地的な能力で言えば一部で勇者級戦力をも凌駕すると言う、国家群の絶対的守護者なのだ。
また、精霊騎士にもランク付けがされており、上位が女神から神託を受けた、火、風、土、水の計四名。下位が各種精霊と契約した者。
属性に関しては精霊の特性により変わって来るので、これと決まっている訳では無く、人数の上限も無い。
「精霊騎士、ね。しかし若干不安でもある、大丈夫だとは思うが万一勇者が攻めてきた場合、俺のせいでって事だろう?」
勇者の目的は知らないが、あれだけ俺を目の敵にしている以上、万が一俺の存在が知られれば、この都市を含めた各国家群に迷惑を掛ける事になるだろう。
『あり得んよ。幾ら勇者と言え我々四大聖獣、少数とは言え精鋭の精霊騎士と戦った所で生き残れるとは思えん。文字通り戦略級の戦力が連合を組むのだ。幾ら強力とは言え勇者が勝てる道理は存在しない』
自信満々のガルーダ。女神セラフィーナ様直々に俺を守ると公言しているだけに、何があっても負ける事は無いと言う表明でもあるのだろう。
本当に、ありがたい事だ……思わず目頭に涙が浮かぶ。しかし逆に疑問にも思う所だ。確かに俺は不遇の人生を送っていた。
だが本当にそれだけで俺が守られる対象になりえているのだろうか?
『案ずるな、主よ。セラフィーナ様を信じよ……何せ風の精霊騎士は――む、主よ。あれは商人の隊列か? モンスターの襲撃に遭っているようだが、どうするか?』
何かを隠しているガルーダだが、今はそれ所ではない。恐らく風の精霊都市へ向かう商人だろう。俺は即座に判断を下す。
「助けるに決まっている、行くぞガルーダ! 重機召喚、コールPC200! 重機外装、展開!!」
ユニークスキル重機外装にて武装した俺が全速で商人の元へ向かう。ガルーダも俺の直掩に回る感じで援護の態勢に入る。
敵モンスター群まであと少し! 俺は拳に力を込めて全速で突っ込む。そんな俺の上空に、とても暖かい魔力の波動の様な物を感じた。
俺は即座に方向転換をし、後方のモンスターへと標的を変えて突撃。片っ端から千切っては投げ、千切っては投げ捨てる。
ガルーダも風魔法を行使し、広い範囲のモンスターを討伐していく。俺達が後方のモンスターに割って入った為、前方のモンスターは商人へと追い付いたが、その牙が商人へ届く事は無かった。
眩い光に、商人を襲っていたモンスターが包まれる。直後、モンスターのみを狙い撃ちにした光の刃が無数に降り注ぎ、刃に触れたモンスターは欠片の一遍も残さず消滅して行ったのだ。
「……凄いな、ガルーダ。あれが、そうなんだろう?」
『ああ』
そう言って視線を商人隊列の上空に向ければ、そこには若草色を基調とした、銀色のドレスアーマーを纏った女性が存在した。
その神々しさはあの女神セラフィーナ様に通ずるものがある。あれが、都市国家の護り手にして切り札。
「精霊騎士……おいおい、本当にこれは現実か? 女神様は俺に一体何を望む……?」
正直に言えば、俺にそこまでの価値は無い。確かに様々な面で俺のスキルは有用だし、世界の在り方を一変させるだけの力も発揮出来るだろう。
だが足りない。俺は本当に神々に護られるだけの価値があるのか、そんな疑問を胸に秘め精霊騎士に視線を送る。
俺の視線に気付いた精霊騎士が、こちらの存在を確認した直後、何かを堪えるかのように、俺とガルーダの元へゆっくりと舞い降りる。
「……私は、風の精霊騎士。名をレオナと言います。この度は、我が都市への客人の守護に協力頂き、誠に感謝致します」
何故、彼女はこんなにも声が震えている? そして何故、俺はこんなに涙が込み上げてくる?
とにかく、とても懐かしい、懐かしくて暖かくて……彼女が傍に居るだけで、俺の心の闇が晴れて行く。
「いや、礼を言われる程ではないさ。俺は当然の事をしたまでだ……名乗り遅れた、俺の名は、サクラユウキと言う。サクラが姓でユウキが名だ。ぐ、済まない、最近涙脆くてな……」
「っ……大丈夫、ですよ」
レオナの名乗りに、俺も名を名乗る、なんとか堪えよう、堪えようと思ってもダメだった。男が涙を流すなど、クソザコと言われそうだが、これは悲しみから生じた物ではない。
一筋の涙が頬を伝う。そんな俺の頬を真っ白なハンカチでそっと拭うレオナ。思い出すのはあの時、不良から助けた後の事だ……。
「……ご迷惑、でしたか……?」
情けない姿を見せてしまっている。心配を掛けさせたく無いのに……そんな事を思っていると、レオナは俺の手をそっと取り、何かを確かめる様にしっかりと、そして強く握って来る。
「……懐かしいな、こうして誰かに手を握られたのは――妹を不良から助けた後以来、か」
「っ!?」
思わず零したその一言に、レオナがビクリと体を震わせる。もしかして、彼女は……なんて、正直俺自身がその答えを出してしまっている。
勘違いであればそれで済む話だが、これは間違える事は無い、許されない。そう思う。
その手から伝わる温かさ、レオナが視線を落とす。震えがまだ収まって居ないが、恐らくこれは俺と同じ、いや……彼女も確信を持って俺に接している。俺の容姿は五年前から大きく変わって居ない。
二度と会えないと思っていた。レオナに重なるその面影……彼女は、俺だから分かる。悲運の死を遂げた俺の、ただ一人の――。
「もし、俺の勘違いでなければ――君に伝えたい事がある……ただいま。遅くなって、ごめん」
「…………ごめんなさい、もう無理です……遅い、遅過ぎよ! だって、わたし……なんねんも……ずっと、まっていて……」
俺の言葉に泣き出すレオナ。女神セラフィーナ様の言った言葉、アレがこの出会いを指すものだとすれば、それこそ身命を賭してでもこの恩義に報いなければならない。そう思う。
「……おいガルーダ、こんなの……反則過ぎだろ?」
『我はそうは思わん。全てはセラフィーナ様の御心のままに。それともお主は、不服なのか?』
不服などある訳が無い。勘違いでもない、間違いない、例え精霊騎士に対する不敬だとしても、俺は……彼女を強く抱き締めた。もう二度と彼女を失いたくないから。
「ただいま、安芸」
「……お帰りなさい、兄さん」
レオナではなく、安芸と呼ぶと……一呼吸を置いた後に、とても嬉しそうに返事をしてくれた。二度とそう呼ばれる事は無いと思っていた。
あの時から止まっていた時間が再び動き出す。この出会いに心からの感謝を。
義妹は良いものだと思います。




