第五十七話 栄光の人魔連合・後編
お待たせしました。前後編の後編です。
「ヴァル!」
「分かって居る。バモス、ジュリア。お前たちの命、俺が預かる。来い!」
『御意!!』
俺の指示と同時にヴァルは配下二人を両脇に呼び寄せると、その両手を巨大な爪に変化させ彼らを貫く。味方を減らして何をと思ったが、その瞬間に爆発的にヴァルの存在値が上昇した。
恐らく現在ヴァルの能力で言えば、半神半人となった俺と匹敵するだけの力を備えて居る。頭数は減る事になったが、やるしかない。
「驚かせてすまん、詳細は後で説明する。今は攻めるぞ!」
「分かった、総員全力攻撃!」
俺の号令で再び大攻勢が掛けられる。瞬時に大規模攻撃可能な邪神であるが、そのエネルギーは確実に半減している。もう一押し、もう少しで討ち取れる。
『舐メルナァァァァ!!』
しかし、俺達の攻撃が着弾すると同時にカウンターの様に邪神の攻撃が放たれる。同じスーパーノヴァの衝撃波が俺達を襲う。
「ぐっ! だが、負けない。負けるものかぁぁぁぁ!!」
魔法の完全防御が可能な指輪なら防げると思うだろうが、俺達に着弾するのは衝撃波であり魔法ではない。超強力な物理ダメージでもあるので防ぎ様がない。
それでも俺は邪神に喰らい付き、全身に被弾しながら攻撃を続ける。手を止める訳には行かない。隙を作らない。今の俺なら邪神の攻撃で死ぬ事はない。死ななければこの程度のダメージは安い物だ。
「おおおおおおおお!!」
『ッチ!!』
邪神の攻撃を被弾しつつも、俺は神剣と、瞬間換装したバケットアームによる近接戦闘を繰り返す。邪神も忌々しげな表情で、元勇者の持っていた巨剣で迎撃するが、僅かに俺の方が上回っている。
「ユウキ! 被弾し過ぎだ! 無理をするな!」
『コノ、小僧ガァァァァ!!』
そう言ってヴァルが割って入り、邪神へと魔剣カタストロフによる連続攻撃を繰り出し、ダメージを与えて行く。
この短時間の間にヴァルの存在値が大幅に上昇しているのは、やはり先程、側近二人を取り込んだ事が大きいのだろう。最後まで油断せず、打ち取る。
「問題ない、攻めるぞ」
進化により俺の防御力は、この場に居る人魔連合の中で最大の物となって居る。ノーラのガイアフォートレス、マコト君のフォースフィールド、俺のフォーステリトリーの三重障壁に加え、超重機融合の耐久値も大幅に増加している。
かと言って無敵ではないが、俺が防御を引き受ければ、その分ヴァルを始めとするオフェンスが機能する。
「肉を切らせて骨を断つと言う諺があるんだよ。俺を信じてくれ、ヴァル!」
「コトワザ? まあいい、無理だけはするなよ……だったら攻めるぜ、援護は任せた!」
そんな会話をしながらも、邪神への攻撃の手は緩めない。進化した俺の能力も大幅に向上しているが、火力の一点だけはヴァルの方が上だ。俺の言葉にヴァルは信頼を返してくれた。
そう言ってヴァルは再び突撃する。ならば俺もその信頼に応える。俺もヴァルに続き邪神へと肉薄し、神剣にて攻撃を繰り出す。ヴァルの強烈な一撃の合間に、超常殺しを纏わせた小技で削り、邪神に反撃の隙を与えない様に連携をして行く。
『オノレ、青二才共ガ!!』
「それがどうした!」
「そのガキに追い詰められる老害は何処にいるんだかな!?」
剣戟の合間に交わされる言葉の応酬。忌々し気な邪神をイラつかせる様に、挑発を織り交ぜながら攻撃を加えて行く。
そんな俺達の連携に呼応するかの様に、邪神の攻撃は苛烈を極める。俺とヴァルは何とか凌いでいるが、次々と仲間達が被弾し、徐々に風向きが悪くなっていく。それでも、俺達は戦い続ける。もう少しで落とせる。負ける訳には行かない。
俺が進化した事で、神剣ロード・オブ・シンフォニアには新たなる必殺技が追加された。恐らくこの一撃が入れば邪神を打ち取れる。
しかし、時間が足りない。俺にも元勇者が備えているスキルがあれば解決出来るのだが、このままでは必殺技を放つ事は出来ないだろう。このまま時間を掛けて邪神を削るのも手の一つだが、その前の俺達以外が全滅する。それでは勝利とは言えない。
『喰ラウガ良イ!』
「がはっ……」
そんな焦りを邪神が見過ごす訳もなく、その巨剣が俺の腹部を貫く。クソが、何度も何度も同じ所ばかり刺しやがって。だが、計算通りだとは思うまい。
「ユウキ!?」
「け、計算通りだ……離れろ、ヴァル!!」
心配するヴァルに応えると、俺は左腕をグラップルアームユニットに切り替える。俺は吐血しながらその巨剣を、邪神の腕ごとグラップルアームで掴み取る。
この一瞬の内にヴァルと思念連携を取り、作戦を伝えると、ヴァルは瞬時のその場を離脱し、傷付いた仲間達を援護する動きを取る。
この時を待っていた。邪神を捕らえると同時に、俺は四大聖獣を召喚する。この召喚は一時的な物であるが、創世神ゼフィロス様から貰った助言を元に、俺は一気に全魔力を開放した。
「つ、捕まえたぞ……来い、四大聖獣! そして……降臨せよ、森羅万象を司る神々よ!! コールゴッドアドヴェント!!」
『マサカ、貴様!?』
邪神を無理矢理捕獲した直後、俺と邪神を中心として四つの神々しい光の柱が出現する。光の柱の起点となるのが、今呼び出した四大聖獣だ。
元々彼らは各女神様の眷属であり、最初に俺の前に姿を現したセラフィーナ様も、ガルーダを依り代としていた。つまり同様の事が他の聖獣達にも行えると言う事。
そして俺の呼びかけに答え、四大女神がこの場に降臨する。その神々しい力は、間違いなく神界で感じたもの。四聖獣を依り代として、四大女神が顕現した事で神力が更に増している。神に対するのは神、流石の邪神もこの状況に焦りが隠せない。
『貴様、我ト心中スルツモリカ!』
「その気は、ねーよ……お前だけで逝きやがれ!」
その言葉が放たれた直後、俺と邪神が巨大な光の柱に包まれる。それは神々が放つ超強力で神聖な魔法による結界。本来なら俺も同時に囚われるが、神格を得た事で閉じ込められるのは邪神のみ。
同時に俺を貫いていた巨剣も、神々の力によって浄化されて行く。
『コレハ!?』
腹部の圧迫感から解放された俺は、焦る邪神から数歩の距離を取る。巨剣に貫かれたダメージは大きいが、回復テリトリーと強力な自己治癒能力によって、傷を塞ぎ体力の回復を行った。
四大聖獣の召喚、神々の召喚に続いて大幅に魔力を消耗するが、背に腹は代えられない。この機会を逃す訳には行かない。
「我は神々の剣なり。その光の刃を以て、悪しき者を無へと還さん……ゼフィロス様、貴方の教えは今ここに。解放!」
俺の言葉に神剣ロード・オブ・シンフォニアが呼応し、流れるような動きで邪神へと突撃する。左腕をブレーカーユニットに換装し、まず一発。
「マキシマム、ブレーカーステーク!」
『グ!?』
俺の渾身の力で放たれる正拳突き。ブレーカーユニットは硬質な物質の破壊に用いる。進化した事でその威力も、嘗てとは比較にならない火力となり、邪神の対物理防御を瞬時に打ち貫く。
フルパワーのブレーカーユニットの攻撃は、現実ならば油圧配管、エンジンに多大な被害を与える危険性のある行為だ。ただし現在の超重機融合状態なら、ブレーカーユニットも補強されているので問題はない。
「俺に力を貸せ、神剣シンフォニア!」
そのまま対物理防御を崩した邪神へと、神剣による連続攻撃を加えて行く。神剣により超常殺しの力を増幅し、物理と魔法の混合攻撃で邪神の対魔法防御を打ち崩す。
『グフゥ……!?』
「まだだ!」
物理と魔法の防御を失った邪神。俺はムラマサ殿から教わった剣技で追撃を掛ける。殆ど付け焼刃に近い技だったが、進化によりその技術も昇華されている。
「真っ向! 一閃! 唐竹! 逆袈裟! 連突! 収束、ギガントドリルブレイカー!!」
『ツ、グ、ガ、コ、コノ、ゴフ!?』
防御能力を失いつつある邪神に、連続斬撃を喰らわせ続ける。最後の一撃は、アースオーガに換装した、収束攻撃。進化した事により事細かな制御も可能となっている。
俺の攻撃に必死に邪神も抵抗するが、その身を捕縛する四大女神の力には及ばず、生命エネルギーを削られるのみ。
「頼みます! セラフィーナ様、チェルシア様、アンジェリナ様、メルヴィア様!」
『森羅万象を司りし女神の名の下に、邪なる神に裁きを下さん。カルテッドスペル、神々の座す処!!』
最早抵抗不能に近い邪神へ、止めそ刺すべく四大女神へ呼び掛けると、瞬く間に邪神が光に囚われて行く。カルテッドスペル、神々の座す処。四つの無限にも等しいエネルギーが邪神の動きを、完全に封じ込めた。
四大女神の力を借りて邪神を空間に固定した所で、俺は光速で邪神へと斬り掛かる。両手で神剣をしっかりと握り、光の刃で真っ向から切り裂くのみ。
「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」
俺は渾身の力を込めて、神剣を振り下ろした。創世神ゼフィロス様から授かった、真なる闇を断つ剣。
流石に邪神であろうとも、同格かそれ以上の神々。森羅万象を司る、四大女神による拘束を解く事は叶わない。結界に囚われた邪神を神剣ロード・オブ・シンフォニアは確かに捉えた。
四大女神のカルテッドスペルによって、現在、過去、未来。全てにおいて輪廻転生の輪から切り取られた邪神が膝を付く。
『ァ、バカ……ナ……コンナ、コンナ事ガ……』
光の刃に叩き切られた邪神の存在値が消えていくのが分かる。元勇者の肉体を構築し、膨大なエネルギーを圧縮した身体の端部から光の粒子となっていく。
「これが、真伝・魔劫消滅斬。神々と共に、全ての因果を切り払う神なる剣。闇は光の下へと浄化される……眠れ、安らかに。天魔、伏滅!!」
『ァァァァァァァァ……………!!!!』
ゼフィロス様が神剣ロード・オブ・シンフォニアに封じた必殺技。それがこの真伝・魔劫消滅斬。光速で流れるかの如く連続した斬撃を叩き込み、聖獣を依り代にした四大女神との連携で、行動力を奪った所でとどめの一撃で切り裂く、破邪の一撃だ。
超常殺しの力を神なる力で増幅した一撃に、遂に邪神は耐える事が出来ずに――無へと還って行った。経験値の取得を確認、今度こそ。今度こそ邪神ナグツェリアートは滅んだのだ。
「……」
俺は、無言で神剣ロード・オブ・シンフォニアを天に掲げる。一拍置いて、この場で戦い抜いた者達の歓声が上がる。そう、俺達は勝ったのだ。夢でも幻でもなく、勝利したのだ。
そして、俺達の勝利を見守った後、四大聖獣に憑依していた女神様方が神界へと帰っていく。もし、ゼフィロス様の援護が無かったら、もし、女神様方の援護が無かったら。
もしも俺がたった一人だけだったのなら、きっと人類は……いや、この星は滅んでいたのだろう。皆が居たから勝ち取れたこの勝利だ。
「よう、お互いボロボロだな……ユウキ、俺達は勝ったんだよな?」
そう言って魔剣カタストロフを杖代わりに立ち上がるヴァルが問い掛けて来る。俺は膝を付き何とか神剣を杖に崩れ落ちるのを防ぎながら答えた。
「ああ。間違いなく邪神は滅んだ……俺達の、勝ちだ」
しかし、流石に俺も無理が祟った様だ。ヴァルに答えた所で目の前が真っ暗になった。多分張り詰めていた糸が切れたのだろう。
「ったく、お前は色々背負い過ぎなんだよ……でもま、今は休めよ。お休み戦友、またな」
崩れ落ちた俺をヴァルが支えてくれているのだろう。ヴァルもボロボロだろうに、済まない、な。そんな事を思いながら、俺の意識はそこで途切れたのだった――。
閲覧ありがとう御座います。これにて対邪神戦は終了です。
次回から、また舞台が変わります。エピローグ的な回を挟みつつ、ユウキ達は新たなる戦場へ。
そして、新スキルと新キャラと新展開に繋げていきます。
引き続き、異世界重機オペレーター~義妹と往く異世界冒険記~を宜しくお願い致します(*'▽')