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第五十五話 時空間制御

休日更新夜の部

 想像以上だ。人魔連合は俺の想像の遥か先を行く。闇の結界を破り、瞬く間に狂邪神将を打ち取った。残るは元勇者を象る邪神ただ一人。俺は聖剣シンフォニアを構え直し邪神と対峙する。


『フ……』


 しかし、邪神が何やら不敵な笑みを浮かべた瞬間、一気に体の自由が奪われる。いや、これは……奪われているのでは、ない。時間が、止まって……。


『何ガ勇者カ。何ガ神ノ使徒カ。我ヲ何ト心得ル。我ハ邪神、貴様等ガ崇拝スル神ト同義ノ存在デアルゾ、控エヨ。尤モ、停止シタ時間ノ中デハ、控エル事モ出来ヌダロウガナ』


 そう言いつつ邪神がユラリと俺の眼前に現れる。邪神は元勇者が持っていた巨剣を、ゆっくりと振り上げ振り落とす。俺の頭をカチ割る寸前の所で停止させたかと思うと、同時に無数の漆黒の刀剣を召喚して人魔連合へと投擲を行う。


 ご丁寧に、全てを寸前で止めると言う状態で、だ。駄目だ、この時間停止が解除された瞬間に全ての刃が、文字通り俺達を切り裂く。回避する余裕も防御する暇も無い。


『……死ヌガ良イ』


 そう言って邪神は無造作に挙げた右手の人差し指と親指をパチリと鳴らそうとして――。


『ヌゥ!?』


 恐らくその指を鳴らされたら、俺達人魔連合は全滅していただろう。驚異的なその力を止めたのは、新緑を基調とした、白銀の全身鎧に身を包んだ騎士。流れるような金色の長髪が、時が止まったこの空間で靡く。


「……今ここで彼らを死なせる訳には行かないのでね」


 その言葉と共に人魔連合を葬ろうとした漆黒の刀剣が、一瞬にして光の粒子となり消え去る。また、離れた所で動きを止められていた聖獣達も、次の瞬間にこの場から消え去る。


 邪神に葬られた訳では無い。俺と四大聖獣の魂のパスが繋がっている事から、強制的に自分達のテリトリーに送還されたと思われる。それを行った彼から、脳内に直接言葉が響く。


『危ない所だったね。私の名はオーディン。君の知る所で言えば、先々代精霊騎士だよ』

 

 この人が、安芸が言っていた先々代精霊騎士。この世界の文明を昇華した、転生者か。


『前にゼフィロス様も言ってたと思うけど、神々が直接介入は出来ない。まぁ『魔神』の介入により、予想外の邪神が誕生したから、特例措置としてだけどね』


 それは以前、俺が神の使徒の称号を得る為に、新界へ誘われていた時の事だ。神々は見守るだけの存在であり、この世界への直接介入は禁止となって居ると聞いている。


『詳細は君の脳に直接送っている。少しの間時間を稼ぐから、最後は頼むよ……ああ、その心配? 大丈夫、今回は特例措置だからね』


 俺の思念を理解してか、オーディン殿は答えてくれた。本来は駄目だが今回に限ればそのルールの範疇と言う事に収まったそうだ。


 そして俺はオーディン殿から受け取った詳細を見て理解した。オーディン殿が強制的に四大聖獣をこの場から転移させたのは、彼ら四大聖獣がこの邪神討伐での勝利の欠片となるからである。


『貴様、何者ダ』


 俺達へのとどめの一撃を封じられ、忌々し気な邪神がオーディン殿へと問い掛けるが、オーディン殿はその答えと言わんばかりに、その右手に携えられていた神々しい剣を振り抜く。正に、閃光の横一閃。


 邪神はその一撃が自分を葬れるだけの力があると読み、瞬時に後方へと下がり光速の斬撃を回避する。しかし完全に回避するのは難しかったのだろう。僅かばかりその鎧の一端に切り傷が刻まれている。


 時間停止の中で動ける存在。恐らく邪神や神々と同義の存在であると推測出来る。彼から滲み出る神々しいオーラは、間違いなくあの時神界で感じたあの感覚と同一の物だ。


『特例だからね。今この身は半神半人となっているけど、この状態でも創世神ゼフィロス様を降ろすのは、負担が凄まじくてね。まぁ、時間は稼ぐから気を確かに持つんだよ』


 そう、彼。オーディン殿はその身にこの世界を統べる最高神、創世神ゼフィロス様を降ろしている。それは凄まじい精神力と、並外れた修行の成果だろう。


 そんな状態でも、負担が凄まじいと言う事から、どれだけ神族が強力な存在かと言う事が分かるだろう。


「さて、思考は出来ているようだね。今から停止空間での戦い方を伝授する。尤も、今の君では絶対に不可能だが……一線を越えれば可能だ。その為の種子は聖剣に眠っている」


 無拍子に飛び出したオーディン殿は、邪神から目を離さずに俺に言葉を告げると――次の瞬間には邪神へと斬り掛かっていた。


『貴様ッ』


 彼は邪神の言葉に耳を貸さず、ただ純粋に剣舞を繰り出す。邪神は辛うじて回避をしているがやはり完全に回避し切れていない。巨体の頃と比べ被弾面積は小さくなったが、それでも彼の剣戟が僅かに邪神へと傷を付けて行く。


「対邪神、正確には超常殺しの正しい使い方だ。確かに超常の存在を葬れる力を持つが、当たらなければ意味はない。まずは当てる事だ。そして、超常の存在に効果を齎す為には、ヒトと言う存在を超越する必要がある」


 人を超越する。それは即ち進化と言う事だろう。安芸が聖人へと至った様に、ノーラがケットシー種へ至った様に。しかし、一体何がトリガーとなる?


「さて、いい加減動ける筈だよ……アキ、ノーラ、マリン、ムラマサ、リチャード、ヴァーミリオン。彼に手本を見せるべきだろう? なぁ、超越者達よ」


 その言葉に、安芸達が停止空間の束縛から解放され、俺を守る様に周囲に円陣を組む。


「ユウキ、答えには辿り着いているだろう。君に足りないのは踏み出す覚悟だけだ……それとも君は、他人に全てを任せて自分は何もしないつもりか?」


 それは嘗て、フィリア達に告げた言葉と酷似する。覚悟、俺には覚悟が足りない。不老と言う力を持ち、超常を討つ力を行使する為には、踏み出さなければならない一歩。それが、種族進化だ。


 今彼に呼び出された安芸達は、自然進化を含め各種族から超越した者達。人は神を討つに至れない。ならば同じステージに立ち、同じ土俵で戦えば良いだけの事だ。何を悩む必要がある。俺は誓った筈だ、大切な者を守る為にと。


「……決まった様だね。これが私から君に送れる最後の欠片だ。往け、導きし者よ!」


 彼の言葉に、俺の停止時間が緩んで行く。俺はまだ自力で解除出来る訳では無い、これが最後に託された神々の欠片。応えて見せる。俺は誓っただろう、この身この魂、身命を賭してでも果たすと!


「開放……目覚めよ……神剣、ロード・オブ・シンフォニア……!」


 俺の脳裏に浮かんだ言葉を紡ぐと、聖剣シンフォニアが呼応しそのフォルムを変化させる。風の女神セラフィーナ様から託されたこの剣には、創世神ゼフィロス様の宿した種子が眠っていた。


 人の身で神々へと至る為に、俺がこの世界の守人としての覚悟を持つ事が、この種子が芽吹く条件。聖剣、いや。神剣となったシンフォニアから、身体が崩壊しそうな程の膨大なエネルギーが俺に流れ込む。


「兄さん!?」

「……」


 俺の変化に安芸が駆け寄ろうとするが、俺はそれを手振りで制する。


「……大丈夫だ、問題ない。だが……」


 現在俺は進化途中にある。膨大なエネルギーと、膨大な知識、様々な情報が俺の脳内に流れ込んで来る。本来この様な戦場で行う物ではないが、状況が状況だ。超えて見せる。


「その意気だ。進化完了までは私も加わる。往くぞ、世界の守り手達よ!」


 そう言って邪神を迎え撃つ超越者達。オーディン殿を筆頭に、流れるような連携で攻撃を加えて行く。邪神は多勢に無勢であるが、元より鑑定不能と言わしめる相手であり、恐らく余力は十分にある筈だ。


 その証拠に、時折狂邪神将に匹敵する闇の眷属を召喚し攻撃に対応する。尤も、狂邪神将と同クラスの相手は既に安芸達の敵ではない。邪神からすれば苦い状況だろうが、それでも超越者達の攻撃は致命傷に至っていない。


 邪神の持つエネルギーは、文字通り強大かつ無限に近い物。先の邪神戦では俺達人族や、進化して居ない者の攻撃は、超越者の攻撃に比べてダメージが出て居なかった。


 今は超越者のみが戦っているが、戦況は若干不利と言って良い。未だ時間停止は解除されておらず、新勇者パーティ、精霊騎士、ヴァル配下達は行動不能にある。火力が足りない。


「くぅ!?」


 攻め切れない状況に焦りが生じたか、安芸に一瞬のスキが出来てしまう。その隙を見逃さず、邪神は再召喚で狂邪神将に匹敵する眷属を無数に呼び出し、一気に安芸へと嗾ける。


 邪神の眷属達が安芸に取り付く。安芸も迎撃を繰り返すが、幾ら熾天使級の力を行使できるとは言え、自身と同等の存在を無数に相手取れる筈も無く――。


「ぅ、くぁ……」


 迎撃から逃れた一体の狂邪神将により捕らえられ、その禍々しい腕が安芸の首を締め上げる。同時に戦力の一端を捕縛された超越者達から、一気に流れが邪神へと傾く。


 邪神の眷属が安芸の首を捻じ切らんと力を籠める。熾天使級の力の行使により、辛うじて抵抗力を得ている安芸だが、現在は時間が停止した停止空間内。物理法則を無視した超エネルギーによる攻撃が、確実に安芸の生命エネルギーを奪っていく。


「ちぃ!」

「させん!」


 そんな安芸を救出すべく、ムラマサ殿、ヴァルが突撃し邪神の眷属を薙ぎ払うが、恐らく間に合わない。助ける前に安芸が力尽きるのは明白だ。


「……ぐ、ぅ……」


 首捻じ切る為に狂邪神将がその手に力を籠めると、締め上げられる安芸から生気が失われて行く。もう一刻の猶予も無い。安芸の救出に向かったムラマサ殿、ヴァル以外も手一杯の状況だ。


 それでも何とかと、超越者達が一斉に救出へ向かうが、更に呼び出された眷属に阻まれる。そんな絶体絶命の状況下で、遂に俺の進化が完了した。


「オオオオォォォォ!!」


 俺は雄叫びを上げながら、左腕に召喚したアースオーガの破壊の暴風を開放する。アースオーガによる必殺技、ギガントドリルブレイカーは敵味方の識別をしない広域攻撃であるが、それは進化前の話である。


 種族進化を果たし、半神半人となった俺にとっては敵味方の識別すら造作もない。破壊の暴風は超越者を阻む眷属を貫き、安芸を殺さんとする眷属を文字通り木っ端微塵とした。


「……死ぬ所だったよ、割と本気で」

「すまんな。だが、これ以上好きにはさせない」


 そう言って苦し気な視線を送る安芸の元へ瞬時に駆け寄り、新たに獲得した回復テリトリーを発動。神剣となったシンフォニアによって、効果を増幅して安芸のダメージ回復を図る。


 そのまま俺は油断なく邪神に神剣を向ける。同時に左腕のアースオーガをブレーカーユニットに換装し、超エネルギーの攻撃を大地に打ち込む。


「全力解放、マキシマム、ブレーカァァァァ……インパクトォォォォ!!」


 ブレーカーユニットによる必殺技、マキシマムブレーカーインパクトが同心円状に広がれば、この停止空間が瞬時に打ち破られる。迷わない、俺はこの道を突き進む。


「反撃開始だ。行くぞ邪神、今度こそ光の下に還してやる!」


 俺は神剣ロード・オブ・シンフォニアを構え邪神と対峙する。文字通りこれが邪神ナグツェリアートとの最終決戦だ。ここで終わらせる!





閲覧ありがとう御座います。明日も朝晩更新です。

邪神戦最終局面、前後編にてお送りします。引き続きよろしくお願い致します。

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