第三十二話 集結する希望
≪行くぞ! ペイバックタイムだ!≫
『我が名は、サクラユウキ。創世神ゼフィロス様の名の下に、神の使徒として、悪鬼羅刹に天罰を下さんとする者なり!!』
そう高らかに宣言した俺は、ナグツェリア王国軍の前に姿を現す。奇襲でもなく、大量殺人でもなく、正々堂々と正面から乗り込んだ。一歩、また一歩と、不退転の意思で前進する。
その威風堂々とした俺の姿に、敵兵士達は呆気に取られている。たった一人で、数万人からなる軍勢に挑むなど、馬鹿げているだろう。だが、これでいい。俺に注目が向いて居れば、その分他の者が動き易くなる。
そして、俺の存在を最も敵視する者。勇者が、俺の前に姿を現した。
「底辺野郎の癖に、何を堂々としていやがる。まあ良い、あの時逃げられたのは、国的には大失態だったろうが、俺にとっては幸運だった。何故なら、俺が自ら裁けるからな」
「何とでも罵るが良い、貴様が俺をどう思おうと構わない。だが、ナグツェリア王国がやって居る行為は、明確なる戦争犯罪だ。それに加担するのが勇者なら、貴様の罪も相当重いだろうな」
俺の言葉に、勇者はニヤリと口角を上げる。
「戦争犯罪? はっはっは! 笑わせるな。弱肉強食。弱き者が食われる世界で、何を言っている? 弱いのは罪だ。罪人を、正義の頂点たる俺が裁くのは、当然の権利だ……まぁ、底辺には分からないだろうな。さて、死ぬ覚悟は出来たか?」
確かにこの世界は弱肉強食の世界だ。しかし、それは人類にも適用されるかと言えば、否だ。ゲラゲラと気持ち悪い笑い方をしながら、勇者は巨剣で自分の肩をトントンと叩く。
俺はこれでも神の使徒として、人類を守るべき立場にある。だからこそ勇者へ問い掛けを繰り返す。
「……何の力も持たない、民間人、一般人相手に、か。それが勇者のする事か?」
この問い掛けの最中も、俺は油断なく勇者を射程範囲に収めている。仮に俺達異世界人が、役職故に、ステータス故に現地人を下に見ると言うなら、それも間違って居る。
それが、敵対せざるを得ない相手なら止むを得まい。しかし、相手は一般人。戦う力のない女子供。絶対強者たる、異世界人の勇者だからとは言え、虐殺をして良い理由にはならない。
「分かる必要は無い。いや、馬鹿過ぎて分からないのだろうな。理解する必要は無い。お前は死ぬのだから」
やはり、勇者とは対話にならない。時間を稼ぐ意味でも、対話を望んでみたが、大した時間稼ぎにもならなかったな。俺は溜息を付き、腰を落とし構えを取る。
俺の左腕には、アースオーガによる巨大なドリルが顕現している。ギガントドリルブレイカーを発動するつもりは無いが、牽制には十分だろう。
「ふん、逃げ延びて少々強くなったか。あの時の仕返しでもするつもりか? 勇者を舐め過ぎだ。まぁいい、殺してやるよ……底辺やろぉぉぉぉ!!」
怒声を上げながら、勇者が凄まじい速度で俺に突っ込んで来る。その右手に持つ巨剣を振り上げ、大上段から俺を叩き切る。
俺はアースオーガによる迎撃も考えたが、万が一を考え回避行動を取る。
「遅いッ!」
「何っ!? ぐっ!」
しかし、そんな隙だらけの攻撃が当たる訳も無い。左に半身ずらすだけで斬撃を避け、反撃の一撃を喰らわせた。
勇者は巨剣以外にも、金色に輝く鎧に身を包まれている。正拳突きを打ち込む事も考えたが、わざわざ金属を拳で殴る事は無い。取り合えずアースオーガのドリルをぶち当て、軽く勇者を後退させた。
「まさか、俺の攻撃を避けただと? そんなマグレ、何度も続くものか。なら、こいつはどうだぁ!?」
一撃がダメならと、その巨剣の重さを感じさせない動きで、連続した斬撃を放ってくる。が、あの時対峙した鬼神の連撃に比べれば、まるでスローモーションだ。
俺は勇者の連撃を軽く避けつつ、一撃一撃に合わせてカウンターを叩き込んで行く。鎧による装甲を施されている箇所には、アースオーガによる打突を。装甲の無い顔には拳を。
巨剣と言う距離のアドバンテージがあるのに、拳に撃ち抜かれる勇者は、笑いものだろう。そして思い過ごしかも知れないが、最悪の未来から比べて勇者が若干弱い気がする。
「ち、この……何で当たらない! 避けるな、この底辺野郎! 大人しく死ね!!」
当たらない攻撃にイラつきを隠せない勇者。当然剣戟は大振りになるのでそこに合わせて拳を叩き込む。
カウンターにより結構ダメージを与えている筈だが、まだまだ動きが鈍る様子は見せて居ない。もう少し攻めるか。
「ふっ!」
「がっ!? こ、このぉぉぉぉ!! 舐めるなぁぁぁぁ!!」
勇者が何か喚きながら巨剣を振るが、構わずカウンターで顎を打ち抜く。フルフェイスならドリルをぶつける所だが、ヘッドギア的な兜しか装備して居ないのでそのまま拳で打ち抜いた訳だ。
と言うか、いい加減顔面を狙われているんだから、防御なりすれば良いのではないかと思うのだが。怒りによるバッドステータスでも掛かっているのか?
「よっわ」
「クソがぁぁぁぁ!!」
当然カウンターを成功させた瞬間には、煽り口上を述べて挑発を忘れない。確かにレベル、ステータスで俺は劣る。しかし、あの鬼神との訓練で俺は学んだ。
あの時は俺が持つ圧倒的なステータスによって互角にやれるかと思ったが、一方的にやられ続けていた。それは技術、技量の差であった。幾ら一撃必殺の力を出せるとしても、当たらなければ何の意味も無い。
それは激流に身を任せ同化する様に。勇者としてのステータスが上乗せされた凶悪な一撃でも、俺は受け流し自身へ受けるダメージ、装備へ受けるダメージを最小限に抑えて行く。
「はっ!」
「ぶっ!?」
そして激流を制した俺は、当然の様に勇者へ反撃を加えて行く。今度は意図的に拳だけで攻撃に合わせてカウンターをしてみる。硬いと思った鎧も、割と素手でも行けて驚いている。
まぁそれでも主に狙うのは顔面なんですけどね。やれるのは間違いないが、反動でちょっと拳が痛い。素直に柔い部分を狙う。
序に、アースオーガを使うまでもないとばかりに、拳による攻撃のみを当て続ける。この調子で鼻を潰してやれば、呼吸困難を狙えるか? 等と考えて居ると。
『兄さん、都市内部の掃討完了だよ。これから表に出るけど、タイミングはどうする?』
安芸の念話を確認し、一瞬だけ視線を都市部に向ければ、安芸、アリシア、マリン、ムラマサ殿、マコト君、カエデさんの六名が隠蔽状態で、都市外縁防壁付近に待機しているのを確認した。
驚いたな。この短時間で都市内部を制圧するとは。だが、これで安心して攻勢に出れる。しかし油断はしない、恐らく勇者は釣り出せるだろうが、軍勢を動かせるかは謎だ。
「一旦引く。敵が追撃に転じたら、出撃だ」
『了解、気を付けてね』
そう言って念話を終了させた。少なくとも勇者にも感付かれていないとみている。よし、作戦開始だ。
「ほらどうした? 勇者と言う肩書は只の飾りか? 来いよ、当ててみろよ。底辺に避けられてどんな気分だ?」
「て、てて……底辺やろおおおおおおおお!!」
そんな挑発を行うと、勇者は烈火の如く怒り出す。文字通り顔を真っ赤にして突撃して来る。矢鱈目ったらに巨剣を振り回すが、怒りに任せた攻撃など俺には通らない。
左腕に装備したアースオーガの切っ先で、軽く斬撃を叩き落とし迎撃しつつジワジワと後退。当たらなければどうと言う事はないが、当たれば致命傷は免れない。
「この、死ねぇぇぇぇ!!」
怒りに狂う勇者。軽く受け流している巨剣だが、一歩間違えばアースオーガ自体が壊される危険性を備えるものだ。対峙して分かる事だが、まず間違いなくレベル、ステータス共に俺を凌駕する。
俺は油断せず徐々に後退、ゆっくりじっくり勇者、及び軍勢を釣り出す準備を行う。時折流し切れない振りをしてバックステップを連続で繰り出し、ワザと距離を取ると、当然怒り心頭の勇者は俺を追いかけて来る。単細胞な奴だ。
その勇者を追う様に、兵士が隊列を維持したまま前進する。略奪品と、捕虜に最低限の人員を残して、だ。そろそろ良いか? まだ引き付けるか?
「舐めやがって……総員突撃! あの底辺を逃がすな!!」
俺が防戦と挑発を繰り返す事に、遂に勇者の堪忍袋の緒が切れた模様。勇者は軍勢に号令を掛け、数万からなる兵士が動き出す。その光景に俺は、全力でその場から逃亡――後退をする。余りに潔い撤退行動に、軍勢は唖然とした様子。
そんな状況でも、勇者が猛追して来る。竜騎士と魔法使いが慌てて追従すると、釣られる様にナグツェリア王国軍が追随し、巨大な砂煙が舞い上がる。良し、ここまでは計画通り。皆、ノーラを頼むぞ。




