表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/93

第二十二話 地の聖獣、ベヒーモス

 地の精霊都市に来て、既に10日となって居る。この間に下位精霊騎士達のレベリングを行い、概ね全員が100を超える事に成功。俺もレベルが上がり、現在は163から168となっている。


 ノーラは下位精霊騎士全員のレベリングに立ち会い、彼女のレベルも大幅に向上しており、現在は152から170まで上がっている。やはり、上位存在が同時に戦ってくれる、と言うのが効率よく稼げる。正直俺とガルーダだけで、と考えて居たので、予定より早い行程を取れた。


 念の為と毎日、安芸との連絡は取って居たが、風の精霊都市では特に問題なく日常が送れていたそうである。その中でも俺を驚かせたのが、エルフ、ドワーフ連合による、トラクターの解析が完了。魔力を動力とした試作機の作成に入ったと言うのである。

 

「中々やるなぁ。トータルでも一月も経っていない筈なのに。まあこれで、疑似産業革命も可能、か?」


 機械化による弊害はあるが、少なくとも飢える事は大幅に減るであろう。この辺は俺の肩書を使い、調整を掛けて行けば、権力者による搾取も、最小限に抑えれるだろう。


 さて、風の精霊都市の事は一旦置き、俺本来の目的を果たそうか。俺が土の精霊都市に来たのは、魔法耐性を向上させる、上位アクセサリーの制作依頼である。俺はさっそくノーラの元へ向かい、特注品の受注に関する相談をしたのだが、一つ問題が発生してしまった。


「はい、そのお話はレオナから聞いております。ですが、少々素材に関して問題が御座います」


 その問題とは、半月前の大規模な戦闘により、鉱山地区の産出量が減ってしまった事。この半月で一応持ち直してはいるが、産出量に比例して、高品質の素材が中々出回って来ないとの事だ。


「こればかりは、今少し時間を頂ければ。誠に申し訳御座いません」

「気にするな、仕方ないさ。何より人命最優先だし、まぁ気長に待つとするよ」


 深々と下げられる頭に、俺も気にするなと言う対応を取る。確かに急ぎで欲しいのではあるが、急ぎ過ぎて失敗しては元も子もない。安芸と直接会えない期間は長くなるが、最悪転移門で飛び、と言うのも考えて居る。


「一応、方法が無い訳では御座いません。いえ……寧ろ、待つよりこの方が確実でもありますが、往かれますか? 大山脈の麓。鉱山地区に隣接する荒野、ベヒーモス様の寝床へ」

「ベヒーモス?」

『それは我から説明しよう』


 ベヒーモスと聞くと、旧約聖書に登場する陸の怪物、と言う記憶がある。確か、ガルーダもインド神話に出て来る、神鳥だったか?


『その聖書や神話が何かは知らんが、主の世界にも似て非なる我らが居る、と言う類の記述かのう。まあ大筋で合っておる。ベヒーモスはこの西方を守護する聖獣で、大地の恵みをも管理する。作物は言うに及ばず、鉱物と言った物まで操れる』


 余談ではあるが、ベヒーモスの管理地帯は聖域とも言われており、万が一悪しき意思を持ち接近、侵犯すれば、ベヒーモスの怒りで、消し炭されると言う話もあるそうだ。


 今回のモンスターとの戦闘が起こった時も、モンスターはヘビーモスの聖域に踏み入り、ベヒーモスに討伐されている。モンスターや魔族からも危険、と思われているそうだが、過去の一度もベヒーモスに傷が付いた事は無いと言う。


『とにかく、我と互角に戦える、超常の存在だ。時折力試しをしている故、主が対話をするのも、問題無かろう』

「喧嘩友達って所か? まさか、戦いで力を示せば! なんて展開にならんだろうな?」

『さてな。それは主の目で確かめるが良い。案ずるな、主なら我以上に戦えるであろう』

「戦うのが前提なのかよ!?」


 どうにも頭が痛い。可能なら対話で全てを解決したい所だが、致し方あるまい。俺は半分諦めの表情で溜息を付いた。


「……」


 そんな俺の横に、ノーラがやって来る。トコトコ、と言う擬音が聞こえてきそうだ。見た目そのものが子供と思いがちであるが、この娘、外見よりずっと年上である。


 安芸は無類の猫好きであるが故に、ちゃん付けで呼んだりしているが、実際『レオナ』と『ノーラ』で見た場合、レオナの方が年下になる。『安芸』と『ノーラ』で見た場合は安芸が年上である。


 その筈なのに、何故か波長が合うのか、レオナにナデナデされるノーラ、と言う図式に誰も突っ込みを入れないと聞く。いや、ノーラがレオナの内に居る、安芸に気付いている可能性も無くは無いか。


 等と思っていると、無言で俺の頭をナデナデしてくるノーラ。なんだ、この甘やかされている感覚は。いかん、なんかダメになりそう。


「よーしよし。ノーラが付いて行きますから、あまり心配しなくても大丈夫ですよー」


 一応俺の方が年上ではあるのだが、何故か感じる滲み出る母性。言葉遣いもほんわかしており、とても甘やかし上手と思える。思えば、母親に甘やかされたのなんて、それこそ幼少期のみだ。実の母は他界しており、義母には中々甘えられなかった記憶がある。


「ありがとな。帰って来れなくなるから、その位で。案内は頼めるか? 急ぎの要件があれば、そちらを優先してくれていいが」

「大丈夫ですよ。現時点で火急の案件であれば、それこそユウキ様を、ベヒーモス様の寝床に案内する事でしょうし」


 そう言って耳をピコピコさせるノーラ。俺は、安芸程の猫狂いではないが、こいつは本当に破壊力がヤバイ。どれくらいヤバいか? 考えるな、感じろ。猫耳超美少女が、ニコニコしながら耳をピコピコさせているんだぞ!?


「では、参りましょうか。ガルーダ様、宜しくお願い致します」

『うむ』


 取り合えず理性を保ちつつ、ノーラに誘われベヒーモスの寝床へ向かう。毎度ガルーダの背に乗りの移動だが、現状これ以上の移動手段を持ち合わせていない。苦労を掛けるな、と思えば、気にするなと念話が帰って来る。


 ガルーダに乗る事数分、大山脈に隣接する荒野の様な場所へ到着。そこでノーラの説明を受ける。この荒野の最深部にベヒーモスの寝床があるが、基本的に近付く以前に、境界を超える事は難しい。何故ならと言うと、少しでも悪意や殺意があれば、即時迎撃の使い魔が迎撃行動をしてくる。


 仮にそれらの使い魔を掻い潜ったとしても、その先に待ち受けるのは、この西方を守護する聖獣ベヒーモス。ガルーダ同様、全属性の適正があり、強力な地系列の魔法、自身の巨体から繰り出す攻撃力も桁違い。生半可な覚悟で挑んだ者は、その一片すら残さず地に還るのみ。


「ですが、私が居れば話は別です。ベヒーモス様は、地の女神チェルシア様の眷属です。私自身も、ベヒーモス様の加護を頂いておりますので、私が来たと分かりますし」


 そう言えば、原初の神々は四大女神だったな。風がセラフィーナ様、地がチェルシア様。それぞれ聖獣を眷属としており、東西南北を守護させる任を与えている。尤も、活動範囲が自由なのはガルーダのみ。その分より多くの戦闘を行うが、そんなガルーダのお陰で俺は生きている、感謝しないとな。


 そんな事を思いながら、領域へ一歩踏み出した所で、異変が発生した。ベヒーモスの使い魔が複数現れた。俺は敵意を持っていないし、ノーラも動揺が隠せていない。


『……すまぬ、我のせいだ。言ったであろう? 喧嘩友達である、と』

「だったら最初から何とかしとけよ!? ベヒーモスの使い魔なんだろ、無暗矢鱈と倒せんぞ!?」

『復活するので気にする必要はない、存分に戦うが良い』

「やっぱりこうなるのかよぉぉぉぉ!!」


 半分涙目の俺。何でって? 純粋に戦いに持ち込まれた事が半分だが、ベヒーモスの使い魔、全部つぶらな瞳の動物なんだよ。どうする、お金の借り入れ。のCMに出て来る、チワワの様なつぶらな瞳の獣達。


 俺は神経を擦り減らしながら、迫り来る動物達を気絶させて行く。使い魔と言えど基本が動物。神経を絶つイメージで、意識を刈り取って行くが、罪悪感が半端無い。


「ノーラ、ベヒーモスに呼びかけられないか!? このままじゃ俺の精神が参っちまう! こ、こいつら可愛過ぎて困るんだけど!!」

「はっ!? そ、そうですね。申し訳ありません、只今連絡致します!」


 ぽけーっとしていたノーラは、慌ててベヒーモスへ念話を入れる。普段こんな事が起こらない故に、焦ってしまったのであろう。暫く動物を迎撃していたが、その波が止んだのは数分後の事であった。


「ユウキ様、もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました」

「ノーラのせいじゃ無いから、気にしないでくれ……んじゃ、改めて案内頼む」


 お任せを。と言って、テクテクと歩いて行くノーラ。俺も、小型化したガルーダを肩に乗せ、その歩調に合わせて歩く。暫く歩いた所で、大きな岩で作られた、ベヒーモスの寝床に辿り着いた。が、その場にベヒーモスは居ない。


 それもその筈。ここは寝床。夜、眠る場所だ。常時ここにいる訳では無い。俺は横に居るノーラに視線を向ける。


「え、えっとですね。た、確かに念話ではこちらにおられると言われてまして、その……」

『気にすんな、ノーラの嬢ちゃん。少し狩りに行っていただけだ』


 そう言った念話が聞こえて来る。振り向けば、そこには巨大な動物を咥えている、地の聖獣ベヒーモスが現れた。音も影も無く現れるとは。やはり聖獣は、物理法則を無視した超常の存在と言う事か。


『おう。俺を前にして動じず、か。流石は神の使徒って所か? 俺の名はベヒーモス、地の女神チェルシア様の眷属で、そこのノーラ嬢ちゃんに加護を与えている。用件は知っている、良質な鉱石だろ? だがその前に、飯食おうぜ! 嬢ちゃん、頼むぜ』


 ベヒーモスは咥えていた動物、牛系の動物をひょいっとぶん投げると、ノーラはワタワタとしながら、牛系の動物を捌いて行く。確かに思えば、そろそろ昼時なんだよな、と思い俺も手伝おうとしたのだが。


『おっと、飯の準備は嬢ちゃんに任せな! ああ見えて、嬢ちゃんの料理は絶品なんだぜ? それよりもよ、あんちゃんが欲しい鉱石、この辺の相談をしなきゃだろ? ん、なんだボケっとして。意外だったか?』

「ま、まぁ。ガルーダには喧嘩友達、と聞いていただけに、って、その手には乗らんぞ!?」

『はっはっは。心配しなくても、戦いやしねぇよ! ガルーダを従えてるって時点で、俺より強いって分かるしな。好き好んで、負ける戦いなんざしないぜ?』


 その言葉に俺はガルーダに視線を向ける。ガルーダはどこ吹く風、と言う風に気にして居ない模様。こやつめ、ははは、こやつめ。


『そう睨んでやるなよ。ガルーダは良かれと思って、俺の使い魔を集めたんだぜ? どうだ、レベル上がってるだろ?』

 

 そう。後から知ったのだが、あの使い魔達はガルーダが意図的に集めた物だ。道理でノーラがベヒーモスに呼びかけた後も、俺を狙い続けて来た訳だ。確かにレベルは上がった。お陰で168から、173までレベルが上がっている。


「ありがたいけど、もうあんな可愛い動物を相手にするのは、勘弁して欲しいぞ」

『おうおう、嬉しい事言ってくれんじゃねーの! 俺は実りに加えて、獣を統べる者でもある。あんちゃん見たいな動物好き、そうそう居ないから嬉しいぜ!』


 それにしても、豪快、そして気さく。物凄いフレンドリーさを出す、聖獣ベヒーモス。ガルーダが喧嘩友達、と言うのも分かる気がする。友人として、付き合い易いタイプなのだろう。


『さて、腹ごしらえの前に、真面目な話をしようぜ。鉱石だが、俺の力で採掘場から出すより、俺が溜め込んだ魔素に浸した物の方が良いだろう。用途はどんなんだ?』


 気さくな友人の顔から、真面目な仕事人に変貌するベヒーモス。俺は自身の魔法耐性を上げる為、特注のアクセサリーを作りたいと言う旨を伝えた。


 ベヒーモスは数瞬考えて、宝石系のアクセサリーにして、元素属性を強化するのもありだが、魔鉱石を用いて、全面的な耐性強化も有り、と言うプランを提出して来た。


『元素属性なら、ルビー、エメラルド、トパーズ、サファイア。魔鉱石なら、ミスリルやアダマンタイトだろうが……そうだな、逆にこいつを使ってみろ、オリハルコン鉱石。勿論俺の魔素に浸したモンだぜ。加工は容易じゃねぇが、その分効果もデカい筈だ』


 そう言って受け取ったのは、特大のオリハルコン鉱石。この量なら、フルプレートアーマーを作る事も出来そうだが、俺はベヒーモスに質問を返してみた。


「素人ながらの相談なんだが、このオリハルコンに、宝石を組み込む事は可能か? そうすれば、更に効果を上げられそうな気もするんだが」

『やっぱし、着眼点が違うな。通常のオリハルコンなら不可能だが、俺の魔素に浸したオリハルコンなら、話は別だ。尤も、それなりに時間も掛かるぜ?』


 どの位の時間を要するかは、ベヒーモスにも分からない。ノーラが紹介してくれた、最上級の職人との相談で決めるしかない。例え時間が掛かっても、妥協はしたくない。可能なら少しでも高性能な物が欲しい訳だし。


「ベヒーモス様。調理が終わりましたが、如何なさいますか?」


 そんな相談をしていた所に、牛系動物の調理を終えたノーラがやって来た。良い香りが漂い、食欲がガンガンと湧いて来るのが分かる。


『よっしゃ、早速食うぜ。あんちゃんも遠慮せず食べてくれ。嬢ちゃんの飯はとにかく絶品なんだ。無理言って偶に作りに来て貰ってる』

「ベヒーモス様、褒め過ぎです。ささ、ユウキ様も冷めない内にどうぞ。ナイフとフォークはありませんので、豪快に齧り付いて下さいませ」


 そう言って手渡される、所謂マンガ肉。ノーラ達のレベリングの際、昼食を摂る事があった。その時に、ノーラが空間格納持ちである事が分かった。容量は小さいが、調味料を持ち歩くには丁度良いらしく、絶品料理を振る舞って貰った。


 当然このマンガ肉にも、調味料が加えられている。尤も、シンプルに塩での味付けらしいが、シンプルイズベスト。齧り付くと、口の中に広がる芳醇な味わい。味は牛肉、外国産の筋肉質な肉に近いのだが、和牛の持つ脂のうま味を兼ね備えると言う、正に究極の肉と言った感じだ。


「う、うめぇ……」

「ちょ、ユウキ様!? 泣く程ですか!?」


 そう、俺は余りの美味さに感動していた。普段の絶品料理も美味しかったが、これは肉その物が格別。それを美味しく調理されているのだから、感動するのも無理は無い。


「……ああ、ノーラには言って無かったな。俺は、レオナと再会してから、味覚を取り戻したんだ。約5年間位だが、味とは無縁の生活だったからな。久し振りに思い出したよ、牛肉の味わいって奴をな」


 恐らく、地球にもこの肉に匹敵する、超級の存在があるとは思う。今となっては確認する術も無いが、今はここが俺の第二の故郷だ。不老の効果もあるし、世界を巡って美味い物を探すのも、また一興かも知れない。


『くっくっく……言ったろ、あんちゃん。嬢ちゃんの飯は美味いってな! まぁ、素材自体も俺が管理した物だ。これで不味かったら、俺の沽券に関わる。食事は生き物の生命線だしな』


 してやったり、と言う表情のベヒーモス。彼が居なければ、この飯にも有り付けなかった訳だ。本当に感謝しないとな。そう思いつつ、マンガ肉に舌鼓を打つのであった。

 




筆が進んだので、ちょいと連続で更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ