特別編 恋心
新キャラ、地の高位精霊騎士ノーラ視点のお話です。
私の名前はノーラ。地の精霊都市に所属する高位精霊騎士ですが、今私は病床に伏せって居ます。原因は今回のモンスターの大襲撃に起因する、災厄級モンスターギガスウルフとの戦闘によるものです。
情けの無い事に、最強と呼ばれる精霊騎士の一角でありながら一番到達レベルが低いのが私です。努力はしているのですが、この所の内勤が忙しく少々実戦感覚が鈍って居たのも原因でしょう。
いえ、全て言い訳ですね。どちらにしても、私はギガスウルフと相討つ形で倒れてしまいました。この為引退した先代高位精霊騎士様が、非常事態に付き代理で業務に当たっております。
先代様は、自分もそんな時があった。気にする必要はないから、しっかり休みなさいと諭して下さいましたが、本当に面目有りません。
「……はぁ、うぐっ!?」
思わずため息をついてしまいましたが、実際の所呼吸をするのさえ辛い状況です。今私が養生しているのが、自然治癒力が大きく高まる神殿最深部の病室であり、ここから一歩でも出ようものなら、即時命を失う事になるでしょう。
それ程の重傷でありながら、生きて居た事自体が奇跡に近いと言えます。色々後悔の念がありますが、今はただ回復する事に専念するほかありません。
そうしてベッドの上で回復を待って居る事数日。風の精霊都市、精霊騎士レオナより一報が齎されます。私が重傷を負った件は既に各精霊都市に通達されています。この為でしょうか、レオナから意外な提案が持ち掛けられました。
それは、風の女神セラフィーナ様の使徒としての任務を受けた戦士、神の使徒サクラユウキ様が私が回復するまでの間、精霊騎士代理として地の精霊都市再興に協力を申し出てくれたと言う話でした。
使徒様の噂は聞いております。なんでもレオナと婚約をしている他、風の精霊都市の技術力の向上に一役買っているそうです。今はまだ実験段階だと聞きますが、農作物、収穫量の向上、識字率の向上と言った様々な分野で協力していると聞きます。
正直言えば、心苦しくはありますが非常に助かると言うのが現状です。私はそんな話を聞き、妹であるノルンを通してレオナへと返信を行いました。使徒様の協力をありがたく受ける、と。
その数日後、転移門を介して使徒様がいらっしゃいました。その場に立ち会う事は叶いませんが、転移門が使用された事は即時私に伝わります。暫くして部屋がノックされます。ノルンが使徒様を連れてやって来たようです。
『お姉さま、使徒様がお見えです。面会の準備は宜しいですか?』
「ええ、良いですよ」
当時は喋る事すら辛かったのですが、自然治癒力が高まるこの部屋のお陰で、何とか喋る事が可能となっております。尤も回復して居るのは声帯だけで、心身共に完全回復には至っておりません。
「この様な姿で、申し訳御座いません。高位精霊騎士、ノーラと申します。この度は、ご助力誠に感謝致します」
使徒様の姿を見て、私は痛む体に鞭を入れて誠心誠意の挨拶をしました。その様子を見ていた使徒様の心が、私の持つ魔眼を通して伝わってきます。傷だらけの私をどうにかして癒そうと、憐みではなく本気で心配されております。
「失礼、お手を拝借します」
「え、は、はい」
私は言われるがままに、使徒様へと手を伸ばします。使徒様はその手をそっと取り、左手に聖剣を呼び出しました。その様子にノルンが慌てて止めに入りますが、私は視線でノルンを止めました。
「我、風の女神セラフィーナ様の使徒として、彼の者に癒しの力を与えん……シャイン・リジェネレート」
使徒様は治癒の為の魔法……いえ、聖剣の持つ癒しの力を解き放った様です。物凄い光量の光に包まれますが、私は成り行きを見守って居ます。
「こ、これは……」
正直、これが神の御業なのかと思っています。瞬く間に全身の傷が癒え、失われていた力、筋力、魔力、あらゆる物が回復していきます。傷口を塞いで居た、血の滲んだ包帯もハラリと剥がれ落ちて行きます。
「取り合えず、外傷は消えた筈。失った血液、体力までは戻って居ないから、しっかり休んで、しっかり食事を摂る事。すまないね、余りにも痛々しくて、な」
「いえいえ、神の御業。しかと見届けさせて頂きました……本当に、何とお礼を述べて良い物か……」
使徒様はそっと手を離すと、治療を終えた私から背を向ける。恐らく包帯が剥がれ落ち、私の素肌が目に入ったからでしょう。でも、正直嫌な感じは一切しません。純粋に私を心配してくれての行動ですので、咎める気にもなりません。
「お気になさらないで下さい。治療行為ですし、何より貴方様は清廉潔白で在らせられます。とても紳士的対応に、好感すら覚えます……私の瞳は、所謂魔眼と呼ばれる物。真実を見通す力の前には、嘘偽りは通じないのですよ」
「お姉さま、こちらを」
背を向ける使徒様を他所に、ノルンが私の着替えを手伝ってくれます。使徒様は部屋から出ていかれようとしていますが、回復の効果を見届ける為なのか、着物の擦れる音を必死にシャットアウトしている様です。
「お待たせ致しました。改めまして、地の高位精霊騎士、ノーラと申します」
「神の使徒、サクラユウキ。気軽にユウキと呼んでくれ。それと、無理だけはしないでくれ。何度も言うが、俺が治せたのは傷だけだ」
使徒様、いえ……ユウキ様は傷を癒しただけと言いますが、状態で言えば既に完治と言っても差し支えの無い状況です。こんな所までご謙遜されるとは、どこまで神の使徒様は慈悲深いのでしょうか。
「ふふ。そう言う事にしておきますよ、ユウキ様。ノルン、下位精霊騎士を集めて、講堂へ来る様に伝えて下さい。これは命令です」
「承知致しました」
そう言ってノルンに指示を出し、私はユウキ様を連れて講堂へ向かいます。とても大きくて、とても暖かい。繋いだ手から伝わる温もりに、私は心からの安堵を覚えます。
そんな事を思いながら歩いていると、魔眼を通してユウキ様の心が伝わって来ます。どうやらユウキ様の世界では、私の様な幼い容姿の子と歩くのが非常に気まずい状態らしいです。成程、そう思い私は一つ悪戯をしてみました。
「ふふ、ご安心下さい。私達はドワーフの血を引いております。体力、筋力共に他種族に引けは取りませんし、獣人族特有の、柔軟さと敏捷性を併せ持っております。そこまで軟では御座いませんよ……それとも、パパ、とでもお呼びしましょうか?」
「頼むからやめてくれ。異世界人の俺からすれば、本当に心配し過ぎてこう言う発想になっちまうんだ……」
「存じております。冗談ですので、お気になさらず」
既にこの時、私はユウキ様に心を許して居たと思います。可能なら、この身も全て彼に委ねても良い。今思えば、一目惚れに近い状態だったのだと思います。死の瀬戸際ですらあった私を、あっさりと救い上げて貰った事も一因でしょう。
でも、きっと許される事は無い。彼の心は既に決まって居ます。もしも、もう少しだけ彼と出会うのが早ければ、或いは。そんな気持ちを心に秘めながら、淡い恋心を抱いていたのでした――。




