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第二十一話 地の精霊都市

新キャラ登場回です

 緊急時に使用する転移門を利用し、安芸は地の精霊都市とコンタクトを取った。この世界に生きて長い安芸は、精霊騎士間でのやり取りも手慣れたもので、交渉の類もスムーズに進んだ。実際問題として、風の精霊都市だけで神の使徒が活動するのも、贔屓と取られるから、と言う言い分であっさり通ったらしい。


 それもその筈、地の精霊都市は喉から手が出る程、即興でも戦力が欲しい。少なくとも精霊騎士ノーラの復帰までは、と言う形ではあるが。交渉内容は俺も聞いていたが、ここで俺は一つ提案をした。


 それは、フィリア達を高位精霊騎士候補へ導いた、パワーレベリングの話だ。ノーラを含む、下位精霊騎士のレベルを上げて、ノーラが復帰後、俺が帰還後の態勢を整える協力が出来ないかと言う提案だ。


 この話は、地の精霊都市側としても寝耳に水。速攻で可決された。実際の所、この世界の聖獣、ガルーダ以外は固有のテリトリーから移動することが難しい。この為、使徒と聖獣のコンビによるレベル上げは大いに賛同を得たのであった。


「行って来る、何かあったら直ぐ連絡をくれ」

「うん、気を付けてね」


 そう言って俺は転移門を潜る。一瞬視界が真っ白に染まり、次の瞬間には、地の精霊都市の転移門の前へと移動していた。


「お待ちしておりました、神の使徒様、ガルーダ様。私は下位精霊騎士の一人、ノルンと言います」


 そう言って俺達を迎えてくれたのは、見るからに子供の様な姿の女性。地の精霊都市は、ドワーフ族を中心とした種族で運営されており、この少女もドワーフ族の血統を持っているのであろう。そのピコピコ動く茶色の耳と尻尾は、恐らく獣人族のもの。恐らく彼女はハーフなのだろう。


「神の使徒、サクラユウキ。サクラが姓でユウキが名だ。気軽にユウキと呼んでくれ。知ってるとは思うが、こっちが風の聖獣ガルーダ。ともに宜しく頼む」

「そんな、畏れ多い。ですが、我が姉ならば、使徒様をお名前で呼んで下さるでしょう。ご案内します」


 どうやらこの、下位精霊騎士ノルンは、高位精霊騎士ノーラの妹である様だ。と言う事は、ノーラもドワーフと獣人のハーフと言う事になるだろう。安芸の言っていた、超絶可愛いから惚れるな、と言うのも納得だ。滅茶苦茶可愛いぞ、動物好きなら、軽く落ちるだろう。


 だが残念だったな。確かに可愛いが、俺はガルーダの様な猛禽類が持つ、もっふもふの羽毛の方が好きなんだ!


『……お主も好きよの』


 照れたガルーダの声を聴きつつ、ノーラの元へと向かう。ノーラは今回の戦いで重傷を負った為、神殿最深部にある、自然治癒力が大幅に高まる部屋にて療養しているそうだ。今回ノーラが戦った相手は、ウルフ系の最上位モンスター、ギガスウルフ。


 巨体に似合わず俊敏で、複数属性魔法を行使する他、ウルフ系モンスターのボスであり、眷属として無数の下位ウルフ系モンスターを使役すると言う、個でも群でも強い、魔王種級の災厄系モンスターであった。


「お姉さま、使徒様がお見えです。面会の準備は宜しいですか?」

『ええ、良いですよ』


 そう言う返答を受け入室したが、そこに居たのは、安芸が言っていた以上に可愛い生き物が居た。サラサラセミロングの茶髪、鮮やかな金色の瞳、犬系と言うよりは猫系と言うイメージの、超絶美少女が存在した。ベッドから上半身を起こし、その瞳で俺を見据えている。


「この様な姿で、申し訳御座いません。高位精霊騎士、ノーラと申します。この度は、ご助力誠に感謝致します」


 これが高級料亭などなら、三つ指を付いてお辞儀をするのではないか? と言うレベルの、とても丁寧な物腰。しかし、戦闘によるダメージが抜けきって居ないのか、その表情には苦悶が伺える。


「失礼、お手を拝借します」

「え、は、はい」


 そう言って弱々しく伸ばす手を取り、俺は左手に聖剣を召喚。傍に控えて居たノルンが、ぎょっとした顔で俺を止めようとするが、ノーラが視線で黙らせる。


「我、風の女神セラフィーナ様の使徒として、彼の者に癒しの力を与えん……シャイン・リジェネレート」


 俺の詠唱に答える様に、聖剣が光を放つ。余りの光量にノルンは目を逸らしたが、ノーラは俺から目を逸らさず、ただ成り行きを見守るのみ。


「こ、これは……」


 驚くノーラ。光がノーラの傷と言う傷を癒していく。若干血が滲んでいた包帯も、自然と剥がれ落ちる。光が収まればそこには、傷一つなく回復したノーラが、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったかの様に、目をパチパチと瞬かせていた。


「取り合えず、外傷は消えた筈。失った血液、体力までは戻って居ないから、しっかり休んで、しっかり食事を摂る事。すまないね、余りにも痛々しくて、な」

「いえいえ、神の御業。しかと見届けさせて頂きました……本当に、何とお礼を述べて良い物か……」


 俺はそっと手を離すと、気にしないでくれと言って背を向ける。包帯が取れてしまった彼女の素肌、乙女の柔肌が白日の下に晒されている。しかし、その事に気付いたノーラは恥ずかしがる事も、動揺する事も無かった。


「お気になさらないで下さい。治療行為ですし、何より貴方様は清廉潔白で在らせられます。とても紳士的対応に、好感すら覚えます……私の瞳は、所謂魔眼と呼ばれる物。真実を見通す力の前には、嘘偽りは通じないのですよ」

「お姉さま、こちらを」


 ノーラの言葉を聞きながら背を向ける俺を他所に、ノルンがノーラの着替えを手伝う。部屋から出た方が良いかと思ったが、念の為リジェネの効果が尽きるまで待っている積りだったが、それすら見抜かれて苦笑いである。


「お待たせ致しました。改めまして、地の高位精霊騎士、ノーラと申します」

「神の使徒、サクラユウキ。気軽にユウキと呼んでくれ。それと、無理だけはしないでくれ。何度も言うが、俺が治せたのは傷だけだ」

「ふふ。そう言う事にしておきますよ、ユウキ様。ノルン、下位精霊騎士を集めて、講堂へ来る様に伝えて下さい。これは命令です」

「承知致しました」


 俺の言葉は嘘と取られてしまったが、実際ノーラの体内では血液が不足している筈。そんな無理をさせたくないのだが、彼女も精霊騎士としての矜持があるのだろう、素直に黙って置くとしよう。


 ノルンが精霊騎士に通達をする為移動する。自然と俺とノーラの二人になる訳で、講堂とやらへの案内はノーラに任せる事になった。流石に大丈夫だとは思うが、倒れられても困るので手を繋いで歩くが、傍から見るととんでもない犯罪臭。


 俺の身長は、これでも176センチ程であるが、ノーラはドワーフの血筋の為か、約130センチ位の大きさしかない。本当に大人と子供と言う感じである。フィリア達も小柄ではあったが、それより更に小さいと言う点で、体力等大丈夫なのかと実に不安になる。


「ふふ、ご安心下さい。私達はドワーフの血を引いております。体力、筋力共に他種族に引けは取りませんし、獣人族特有の、柔軟さと敏捷性を併せ持っております。そこまで軟では御座いませんよ……それとも、パパ、とでもお呼びしましょうか?」

「頼むからやめてくれ。異世界人の俺からすれば、本当に心配し過ぎてこう言う発想になっちまうんだ……」

「存じております。冗談ですので、お気になさらず」 

 

 そんな冗談を交えつつ、神殿内部を移動する。移動の最中に様々な情報を聞いたが、概ね地の精霊都市も、風の精霊都市と設備や人口に大差はない。が、やはり突出しているのは技術力。エルフが魔法系技術の粋だとすれば、ドワーフは製造系技術の粋。


 風の精霊都市は全般的に魔法技術が先行し、製造系技術と上手く融和した都市であったのに対し、地の精霊都市は所謂スチームパンク的な、製造技術を魔法技術で支えている様なイメージを受けた。


「到着です。暫くお待ち下さい」


 どうやら講堂に着いたが、緊急の呼び出しの為か、下位精霊騎士はまだ集まっては居なかった。無理も無い。ノーラが戦線を離脱している間、引退した元精霊騎士と、その補佐で目まぐるしく働いて居る、仕方あるまい。


「ノルン、状況はどうですか?」

『はい、お姉さま。流石に緊急の案件でして、各所の対応が追い付いておりません。各人数日以内に予定を付ける、と言う回答でした』

「分かりました。ではノルン、貴女だけでも講堂に」

『承知致しました』


 どうやら、ノーラは念話でノルンと話をしていた様だ。流石に急な予定変更なので集まらないのも仕方ない。そんな事を思っていると、先程分かれたノルンが、少々息を切らして参上する。


「お、遅れまして申し訳御座いません……」

「急ぐ必要など無かったのですけど……ごめんね、ノルン」


 ノーラはノルンに抱き着く感じで、ノルンの頭をポンポンとしている。ノルンの尻尾がブンブンと振られる様を見て、とても和やかな気分になった。猫が猫をナデナデしている光景を思い描いて欲しい。猫好きなら発狂もんの可愛さだろう。


「ではユウキ様。下位精霊騎士の予定もありますので、彼女らはまた次回。今回はノルンと、私のレベリングをお願い致します」

「何だと!? ちょっと聞き捨てならんぞ!?」

「お、お姉さま!? な、なりません! お姉さまは……!」


 下位精霊騎士をレベリングするのは当然として、ノーラのレベリングもする予定ではあった。しかし、提示された案はノーラも今からレベリングをすると言う点。俺もノルンも、流石に反対した。息が合ったのはきっと同じ位、ノーラを心配しているからだろう。


「ノルン、ユウキ様にもご予定があります。私の代理として戦って頂く以上、時間は無駄に出来ませんよ。ユウキ様、決して足手纏いにはなりません。どうか、ご同行の許可を」

「し、しかしだな……ガルーダ、どうよ?」

『ん、問題無かろう? 我が結界を張れば事足る』


 俺は思う。可能なら休んでて欲しい所だが、恐らくノーラは意地でも付いて来るだろう。無理に断って、協力関係に亀裂が出来るのも避けたいし、やるしかあるまい。ノルンも心配そうではあるが、風の聖獣ガルーダに太鼓判を押されれば、納得せざるを得まい。


「分かった。だが、もし俺が無理と判断したら、即引き上げる。そこだけは了解してくれないと困る」

「畏まりました。ユウキ様に全てをお任せ致します。ノルンも、良いですね?」

「はい」


 こうして、地の精霊都市外縁でのレベリングが開始されたが、結局ノーラも戦闘に参加。常時ガルーダが直掩に付き、風の結界で守りつつの狩り。俺はノルンと連携して、安芸とやったトレインからのまとめ狩りで一気に経験値を獲得していた。


 トレインをするに当たって、ノルンのレベルが不安であったが、種族特性による高い素早さで、想像以上にトレインの効率が高くて驚いたものだ。


 結果的にレベリングは大成功。ノーラが128から152に、ノルンが50から101に、俺はと言えば、レベルが159から、163となっている。


 この数値は異常とも思えるだろう。実の所、事前にレベルアップしていたのだ。魔王種二体の撃破が、予想以上に経験値を生んでいたらしく、105からギガンテス戦で126に、鬼神戦で126から159までレベルが上がって居たのである。


 魔王種の経験値、凄まじいな。そして同時に、鬼神殿の力は俺が継ぐと、気持ちを新たにしたのであった。






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