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第十六話 鬼神、武人との試合

明日は朝晩更新予定です

 俺は安芸を信じて送り出し、深部の強敵の元へ向かった。相対した敵は、オーガロードと呼ばれるオーガ族を束ねる存在だ。


 この世界のオーガと言えば、腕力が強く乱暴。人を喰う等と言われているが、それも己の生存の為でもある。弱肉強食なモンスターの世界では、当然の事だ


 そんな話を聞いていたが、目の前のオーガロードは……どちらかと言えば寡黙な武人のような印象を受ける。決して理性を失った化け物では無く、知性と技術を併せ持つ武人、その様な雰囲気を纏っている。


 本来族長としてオーガを束ねる筈の彼には、配下の姿はどこにも見えず。さらに言うならば、彼はまるで俺など気にせず、たった一人で座禅を組み精神統一を図って居た。


 これがオーガロード? いや、俺の目には更に上位の存在に見える。オーガ族も安芸に聞いていた話に合わせれば、魔王種へと進化する事もある。人類に対して脅威となるなら、討たねばならないのだが……。


(駄目だ、俺は彼と戦えない。いや、戦うべきではない。彼は)


 ガルーダも俺の思念を読み解き、攻撃もせずただ見るに徹するのみ。暫くの沈黙、それを破ったのは彼。


「我が名は、鬼神。もし、其方が本当に強くなりたいのであれば、我は喜んで其方に技術を託しても良い。だが……殺す気で来ると言うなら、我も遠慮はしない」

「俺は、サクラユウキ。サクラが姓でユウキが名だ。俺は強くなりたい、俺には守らなければならない人がいる。強くなりたいが、殺しをしたい訳では無い」


 鬼神と言った彼の問いに俺は答えた。目を瞑ったままこちらへ意識を向ける鬼神。心拍数が上がるのが分かった。この人は、間違いなく強い。


 恐らく、本気で命の取り合いをしたら俺に勝ち目はない。現在は重機外装を纏っているが、この装甲値すら鬼神の前では紙切れ同然と言っても過言ではない。


「……日ノ本の人間にしては、随分と甘い考えを持っている様だ。だが、嫌いではない……来い、稽古を付けてやろう」

「貴方は、やはり」


 ――転生者。俺がそう言おうとした所で鬼神は、フ。と口角を上げるのみ。ああ、無粋な質問をする所だった。転生者だとか、異世界人だとか、今この場に於いては関係のない事か。


 鬼神は座禅を解き、腰を落とした構えを取る。俺も純粋に礼をして、構えを取る。武術の事には詳しくは無いが、俺はかつて剣道は習っていた。だからだろうか、俺は自然と礼をしていた。


 例え竹刀は持って居なくても、例え空手は習って居なくても。礼に始まり礼に終わる。これは心の奥底で理解していた。


「来い! 日ノ本の若人よ!」

「おおおお!!」


 そこから始まる、格闘戦。正拳突き、払われる。掴まり、投げ飛ばされる。空中で態勢を変え、壁を蹴り踵を落とす。受け止められ、放り投げられる。


 何度も何度も、俺は音を上げず鬼神に立ち向かう。恐らく、ステータスは圧倒的に凌駕している。けれど、技術は圧倒的な差が存在した。素人と達人。超えれない高い壁が立ち塞がる。


 この世界の人間が、レベル上限の壁を超えれ無い様に、俺には今の鬼神が、超えれない壁となって居る。


「その程度か!? 其方の守りたいと言う想いはその程度か!? その程度では、何も守れぬ!! 本気を出せ、全力を尽くせ!! さもなくば、其方はただ朽ち果てるのみとなるぞ!!」

「まだまだぁぁぁぁ!!」


 愚直に進み、払われる。単純な動作を繰り返し、打ち込んでいく。例え当たらなくとも良い。格上との組手は、自然と俺の糧となり力となる。


 そして組手をしながら思う事は、やはり俺は平和に慣れた一般人であると言う事。この世界での初戦闘、モンスターを相手にレベル上げした時とは訳が違う。


 真剣勝負なら、俺は既に何度も死んでいる。全ては鬼神の恩情の上に成り立っている。本当に俺は小さく弱い存在だと再認識させられる。


「そうだ。愚直でも良い、己の意思を貫き続けよ!!」

「応!!」


 しかし、それでも俺は諦めない。自分が矮小な存在と思うと、即座に鬼神の檄が飛ぶ。この人は、何処までも高潔な武人と言う事だろう。その思いに応えるべく、只管に転がされ続けている。


 傍から見れば、俺がただ襤褸雑巾になっていくだけに映るだろう。だが、決して無駄ではない。俺は我武者羅に、ただ目の前の武人に届きたい一心で、全力で前に進み続ける。

 もう一歩。あと少し前進する。届く、届かない。何度も転がされ続けるが、諦めず何度も立ち向かう。


『そこまで! 双方拳を引け!!』

「む」

「ガルーダ!?」


 俺の眼前に迫る鬼神の拳。その拳が顔面を穿つ直前で、ガルーダによって静止させられる。それはもう綺麗な位の寸止めで、この一撃を受けて居たらまた死亡判定になって居た所だ。


『鬼神よ、稽古の最中に横槍を入れたのは詫びよう。我が主にとって、重要な事態が発生した』

「ほう。それは、あの魔王種の巨人の事かね?」


 ガルーダの問いに、鬼神はあっさりと答える。魔王種の、巨人。魔王種の話は安芸から聞いている。冒険者ギルドでの説明を肩代わりした安芸から、俺は様々な情報を得ていた。


 モンスターの種別に加え、活動範囲や生息分布。進化個体や固有個体の話の中に出て来たのが、魔王種。魔王の資格を有するモンスターの中でも最上位の脅威とされる存在だ。


『左様。我が主は、あの様な、知性無き化け物を討伐する事を使命とする。そして、主にとって守りたい者が、今まさに危機に晒されている』

「……ふむ」


 そう言ってガルーダが状況の説明をし、鬼神は俺を一瞥しつつ、顎に指を置き考える仕草をする。暫しの沈黙の後、鬼神が口を開いた。


「聖獣ガルーダよ。この若人との稽古は、中途半端で終わる。我にはそれが許せぬ、だから……その巨人を倒したら、戻って来い。再びここに来る事を約束せぬなら、この若人は今ここで殺す」


 そして俺に向けられる、鬼神の本気の殺気。嘘偽りはない、ここでこの約束を交わさなければ間違いなく俺は死ぬ。どんなに抵抗しても勝てないだろう。いや、抵抗すら無意味かも知れないが。


 額に汗が浮かび上がる。モンスターとの戦闘でも殺気は向けられたが、ここまで強力な殺気はこの世界に来て初めてだ。恐らく現世の俺なら一発で失神するだろう、本当に俺は弱いな。


『あい分かった。また後程、我が主神セラフィーナ様に誓って、その約束を果たそうぞ。主よ、準備は良いな? 少し急ぐぞ』

「分かった。鬼神殿、この度は申し訳ない。必ずここに戻ります。ありがとう御座いました」


 俺は強くなりたいと願った。だからこそこうして、鬼神の手解きを受けている。習う側の俺でさえ申し訳ない気持ちになっているのだ、鬼神が不満を現すのも無理はない。


 しかし、俺の答えに鬼神はニヤリと笑みを浮かべるだけ。元々座っていた台座へ戻ると、また座禅に戻り瞑想を始める。それを見た俺は、一礼をして即座に出口へと向かう。


「ガルーダ!」


 鬼神の住処、洞窟を抜けると俺は即座にガルーダに飛び移る。俺が騎乗したのを確認したガルーダは、森を突き抜け高速飛行する。俺が安芸と離れてから僅かに十分程度の出来事だ。


 本気で失敗した。あの時無理にでも安芸に付いて行くべきだった。しかし後悔してももう遅い。今はとにかく全力で安芸の元に向かうしかない。


『状況は最悪だ。魔王種、巨人ギガンテス。最早一刻の猶予も無い。最大戦力で当たる事を勧める』


 ガルーダの言葉に、俺は頷き現状使用可能な最大の戦力を、超重機融合にて顕現させた。少なくとも、この出力なら巨人にだって負けやしない。


『我は精霊騎士の保護に回る。不服であるが純粋なパワーでは、我はギガンテスには及ばぬ。主に全てを委ねる』

「任せろ……見えた、あれがギガンテスか!? って、あれは……ガルーダ、急いでくれ!!」


 俺の視界に移った光景に、焦りを隠せずガルーダに無茶振りをしてしまう。ギガンテスの攻撃を受け止めて居るのは、間違いなく安芸だ。そして、その後ろで狼狽えて居る少女を、安芸は弾き飛ばした。


 しかし、それと同時に払われるギガンテスの左手によって、安芸は高速で大地に叩き付けられる。遠目に見ても分かる、苦悶の表情を浮かべる安芸の姿。


「安芸!! あのクソ巨人、絶対に許さねぇ!!」

『その怒りのすべてをぶつけてやれ、往け!』


 地上へ叩き付けられ、行動不能となって居る安芸に追撃を行おうとしているギガンテス。今まさに踏み潰されようとしている安芸。


 俺は全速力のガルーダと共に、ギガンテスの足元へ突っ込むと、瞬時に彼女の元へと俺は降り立ち、右腕に装備されたバケットアームに、持てる最大出力を注ぎ込む。


 バケットアームに若干の軋みを感じると共に、ギガンテスの巨大な足を食い止める。安芸は完全に諦めていたのか、俺の気配に気づく様子は無い。


 そして、踏み潰されない違和感に目を開けば……食い止める俺の姿を見て安堵の気持ちに包まれたのか、僅かに微笑みが零れる。


「安心しろ、俺に任せて置け……ガルーダ、頼む」

『任せよ』

 

 ガルーダが安芸を始め、他の精霊騎士の回収に動くと同時に、俺はギガンテスの足を払い除ける。


「第二ラウンドだ、このクソ巨人。妹を虐めてくれた礼は、たっぷり返させて貰うぞ」


 今の俺に、制限と言う言葉は存在しない。出せる全ての力を持って、殲滅するのみ!!





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