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第十二話 冒険者ギルドにて

冒険者ギルドと言えば?

 恥ずかしいと思ったが、慣れなければならない。と言うか俺は現在神の使徒と言う立場にある。嫉妬の目は理解出来るが、逆に堂々と構えて居ないと問題だよと諭され、いっそ開き直って歩いている。


 冒険者ギルドは安芸の屋敷から、徒歩で約20分程度。精霊都市は複数の小国が集まり、成り立つ共和制の都市国家だ。規模も人種も様々だが、お互いが協力し合い成り立つ、平和的国家と言うのが謳い文句。その中でも中心にあるのが、教会とギルドだ。


 教会は医療、傷病の治癒、教会とは枝分かれした医師ギルド、薬師ギルドが存在する。一般人を中心に治療するのが、教会。比較的安価。本格的な医術が必要なら医師ギルド。割高だが、確実に傷病を治す。冒険者も職業柄利用が多い。


 最後に薬師ギルド。万人向けに医薬品を販売、商人ギルドと連携しており、比較的安価で薬が手に入る。本格的な傷病には効果が薄いが、日常的な傷病には用いられることが多い。


 次に冒険者ギルド、商人ギルド、錬金術師ギルド、一般人でも登録可能で、掛け持ちも可能だが、年会費を払う必要もあり、払い忘れて牢獄入り、なんて人間も少なからずいるらしい。罪自体は割と軽いが、奉仕作業に従事する期間が長く後ろ指を刺されるのは間違いないそうだ。


「まーそこまで深刻に考えなくても良いよ。どのギルドも連携して情報を共有してるから、例えば商人ギルドの年会費を、錬金術師ギルドで払うのも問題無いんだよ。最終的にはギルド連合が統括してるからね」


 なんとも良くできたシステムだ。当然支払期限の一月前には、ギルド連合からコンタクトがある。それで払えないのはある種自業自得とも言えよう。南無。


 そして大体想定が付いたのだが、このギルド連合システムも先々代精霊騎士の提案で始まっていたらしい。この形態に至るまで紆余曲折あったが、先々代が引退した頃に漸く正式にシステムが稼働し始めたそうで、引退者に無理をさせる。と愚痴があったとかなかったとか。


 そんなこんなでを聞きながら冒険者ギルドへ到着。ギルドの扉を開けて中に入るが、なにやら不穏な空気が漂っている。明らかにチンピラ、と言う感じの冒険者が受付嬢に詰め寄って居たのだ。

 

「お約束だな……どうする、レオナ?」

「ん。ちょっとOHANASHIしてくるよ。まっかせてー」


 さて、お手並み拝見と行こうか……実は安芸、精霊騎士として働く中で、冒険者としても登録している。冒険者にはランクが存在し、安芸のランクは上から三番目、ミスリル級まで昇格している。


 最上位がオリハルコン級。現役最高レベルを誇る水の精霊騎士マリンのみがこの地位を獲得している。二番目がアダマンタイト級。各国に居る英雄級と呼ばれる人々がこのクラスになる。レベル100を超える事が出来た、少数の猛者のみが到達出来るランクとされている。


 しかしこのレベル帯に属する者は数少なく、このため平均を算出すると数値が軒並み下がり、平均が50前後と言う物になる。決して超えられない壁ではないが、本当に一握りしかなり得ない。


 そして安芸の所属するミスリル級。レベル75を超えるか超えないか、と言う段階の者が到達する。これが上位の下限でもあり、その上に行ける者は中々排出されない。


「ま、安芸なら全力を出せば、オリハルコン級にだってなれるとは思うがね」


 身内贔屓と言われても仕方が無いが、実際安芸の実力、到達レベル共に人類としては最高峰の物だ。上に行く気を聞いてみたが、上げる意味は余りない。と言われた。ミスリル級は以上は単独で戦略兵器並みの存在でもあるので、余程の非常事態にでもならない限り、緊急招集される事が無いからだとか。


 次にミスリル級以下のランク付けが、ゴールド級、プラチナ級、シルバー級、ブロンズ級、アイアン級、スチール級と言うのが現状の冒険のランク付けとなっている。一般人が冒険者として届く限界が、大体ブロンズ級。シルバー級からは危険度の増す依頼も多く、ここで打ち止めになる者も多い。


 従って、シルバー級以上のランクに至れば、一般的には上位者の部類に入るので、驕り高ぶり増長する輩もごく少数だが存在する。もっともそんなごく一部の輩は長生きしない可能性の方が高い。真面目に誠実に、時に狡賢く活動した者だけがプラチナ級から上への道が開かれる。


 しかしそれ以上、ゴールド級に上り詰めるには障害も多い。ゴールド級になると、有力者は元より王侯貴族、国家が指名依頼をする事も多い。そして大体の場合がハイリスクハイリターン。時には戦争時の傭兵として使われる事もある、一種の戦術兵器的な存在と言う事になる。


 さて、ここまで話を聞いていた事から察するに、受付嬢に詰め寄って居る冒険者は、最低でもシルバー級と言う事になる。大柄で筋骨隆々、強面で大声を上げている事から、受付嬢も委縮してしまっている。


「あ、レオナさん……!」


 委縮していた受付嬢が、安芸の姿を見て安堵の息を付く。受付嬢の反応に、強面の冒険者が振り返ると、無表情の安芸が軽い殺気を発して威嚇をする。殺気の向け方は指向性で、強面にのみ向けて放たれていた。流石は精霊騎士、踏んでいる場数が違うのだろう。


「あ、あんたは……」

「失せなさい、邪魔。ギルドはあんた一人の物ではない、他の冒険者の邪魔をするのも、仕事なの?」


 更に発せられる殺気が強くなると、強面は顔を青褪めさせ、額には脂汗が浮かび上がって居る。


「ま、ま……待てよ、お、俺様は……シルバー級冒険者なんだぞ。折角この俺が用心棒として……」

「シルバー級? 冗談も程々にしなさいよ。そんな品位の低い行動を取って、恥ずかしくないの? 失せなさい、ここはあんたの様なチンピラが来る場所ではないわ」


 強面の言葉にノータイムで切り返す安芸。その言葉に恐怖を超えて、怒りに満ちた表情を浮かべる強面。確かにチンピラ、ならず者だろう。周りから笑いが巻き起こる。


「こ、こっ……この、クソアマァ!!」


 怒りに狂う強面。瞬間湯沸かし器かなと思ってしまった。そんな男が、安芸に殴り掛かる。が、ミスリル級冒険者であり風の精霊騎士である安芸に、そんな攻撃が通る筈も無く――。


「直ぐに暴力に訴える。これだから低能は……か弱い女の子に手を挙げるなんて、サイテー」


 軽く拳を払われ、鳩尾に軽く一撃。と言ってもそれを目で追う事が出来たのは俺だけだろう。傍から見ればただ立っているだけの安芸に、殴り掛かった強面が勝手に倒れた様にしか見えないだろう。


「ぐっ……ぁ……」

「ちょっと、何勝手に転んでるのよ? 貴方、本当にシルバー級? 何もない所で転ぶなんて、ある意味芸術ね」


 見ていて思った。安芸さん、意外と容赦ない。いやまぁ、確かに異世界、冒険者と言う職業。舐められたら終わりだろうし、実際モンスター相手に命のやり取りもしているだけに、生半可な覚悟の者を許せないと言うのも理解出来る。


 そう、安芸の言葉は一見煽ってるようにしか見えないが、しっかりと道理は伝えている。シルバー級なら品位を持て。暴力で解決するな。足元を疎かにして本当に大丈夫? と取れなくもない。


「ぐ、くく……お、覚えてろぉぉぉぉ!!」

「はいはい、転ばないでねー……で、ミーシャちゃん大丈夫? 怪我はない? 怖かったでしょう、今度一緒に美味しいもの食べに行かない? あ、私がケーキ焼いても良いよ、食べる?」


 チンピラを追い出した安芸は、受付嬢の猫耳の付いた女の子に声をかけて居る。猫耳? それとさり気無くお持ち帰りにしようとしている。いや、アフターフォローの一環か?


「は、はい。済みません、助かりました。現在ギルマスが不在でしたので、副マスもまだ出張から帰って来てませんし……ふにゃぁぁぁぁ……」

「よしよし。もう大丈夫だからねー。所で新規の冒険者登録なんだけど、大丈夫?」


 そう言ってミーシャと呼ばれた猫耳少女の頭を撫でながら、冒険者登録の為の用紙を取り出す安芸。ちょいちょい、と呼ばれたので俺も登録用紙に目を通す。どうやら俺の名前、冒険者名を書く欄以外は全て埋められていた。


「はい、ええっと……ユウキ、様ですね。承りました、ギルドカード発行まで少々お待ち下さい」


 こう言うギルドに登録、と言う場面では主人公が絡まれるものだけど、俺はその例外になったみたいだ。待ってる間にミーシャの事を聞いてみたが、彼女は獣人族と言う種族の中の、猫人族の族長の娘で、小柄で年齢もレオナの一つ下の17歳。


 この世界では16歳で成人扱いになる。彼女はこのギルドで働いてもう一年が過ぎており、数名居る受付嬢の中でも高い人気を誇っているそうだ。アイドル的な人気ではなく、マスコット的な位置付けだそうで。

 ミーシャも昔から、この町に来た当初からレオナと交流があり、昨日風呂で見た石鹸に関しても、ミーシャも色々協力していたらしい。因みに安芸は無類の猫好きであり、ミーシャのぴこぴこ動く耳、モフモフな毛並みを整える為に、リンシャンの開発にも至ったのだとか。


「お待たせしました。スチール級からのスタートになりますが、ご説明は……」

「私がするから大丈夫よ。先に買取の方へ回るわ」

「え、あの。確かにレオナさんなら卒なく説明できると思いますが、宜しいのですか?」


 ギルドの説明、システムの説明、色々説明するのもギルド職員の役割だ。尤も、俺には超一流冒険者の安芸が付いているし、最悪帰宅後に色々話を聞けばどうとでもなるのは間違いないだろう。


「当然よ。だってユウキさんは、私の大事な人なんだからね!」

 

 その一言にギルド内全てが凍り付いた。油の切れたロボットの様に、冒険者達がギギギと俺に視線を向けて来る。勿論、その視線には軽いながらも殺気が含まれている。無理もない。レオナの容姿は間違いなく超が付く程の美人だ。


 そんな彼女が、この人は私の大事な人! と言う発言をすれば、そりゃ当然やっかみの視線も向けられるだろう。冒険者ギルドに来るまで安芸に話を聞いていたのだが、彼女に、嫁に、と告白されているらしい。


 中には今のチンピラの様に、無理やり連れて行こうとしたりする者、結婚を賭けて決闘を! なんて馬鹿も居るらしい。当然そんな奴は一撃に下される訳だが、中にはその一撃が良いと喰らい付く変態も居るそうだ。ドエムかよ!?


「ちょっと待って下さいレオナさん。確かに貴方は強く美しい。ですがそこの彼は、見るからに弱そうです。そんな人より、いい加減僕とお付き合いをして頂けませんか?」


 そう言って一人の青年が立ち上がり、安芸に詰め寄る。この青年、なんと豪胆。そして雰囲気に釣られるように、冒険者ギルドが騒がしくなっていく。あ、アカン。これ俺が実力見せる奴や。


 アクシデントとは無縁で終われそうだったのだが、これも王道パターンなんだろうと若干諦めつつ、溜息を付いてしまった。


「冒険者の心得、人を見かけで判断しない事。そして、私はあんたとは付き合わないわよ……それにね、冗談抜きに教えてあげる。ユウキさんの現在レベルは78。あんたの何倍も強いわよ?」

「は? いやいやいや、そんなまさか。僕だって50から超えれて居ないのに、そんな冗談を言われましても」

「あーそっか。昨日の公示まだ見てないのね? まぁいいわ。ユウキさん、ステータスを」


 安芸の言葉に言い返す冒険者の青年。確かにレベル50の壁は厚い。実際彼もそこを超えれて居ないだけに、眉唾物と思っているのだろう。そんな彼に安芸は俺にステータス見せる様に指示してくる。まぁ見せて困る物ではないので、俺もステータスを公開する。


『え、え。ええええ!?』


 俺のステータス開示に、ギルド内が絶叫する。当然ステータス画面には俺の職業、称号等が記載されている。当然、神の使徒、異世界人、と言う超ネームが表示されている。レベルにしても安芸の宣言通り78と表示されている。レベルだけで判定するなら、俺も安芸と同等のミスリル級と言う事になる。


 異世界人はこの世界の住人より、遥かに恵まれたステータスを持ち、ステータスの上昇量も桁違い。一つレベルが上がるだけで、文字通り絶対に超えられない差が付くのである。


「さぁ、文句のある人は出てきなさい? …………無いわね。じゃあ行きましょう、ユウキさん」


 図らずしもアクシデントは回避出来た。いや、安芸は俺が絶対的な存在と知らしめる為に、ワザとこの茶番を仕組んだのかも知れない。確かに俺が神の使徒と言う事は大々的に公表されたが、当時都市内に居なかった者は知る由もない。冒険者は家業故に都市外で活動する事の方が圧倒的に多いからな。

 余談だが、冒険者登録日から10日後に、俺は特例でミスリル級冒険者に昇格した。買取に持ち込んだアースドラゴンの討伐が大きく貢献したらしい。同時に数多の冒険者から、レオナさんの相棒ならせめて同級のランクを! と強く懇願されたと言う事を知った。


 因みに買取だが、アースドラゴンの状態がほぼ狩った直後と言う破格の状態の為、生き血から内臓から全てが超高値で取引されたそうで、累計で金貨5000枚となった。


 流石に全て一括で支払える程ギルドに余裕が無かったので、今回はギルド連合で動き買取を行ったそうだ。ドラゴンは下位でも上位でも、本当に余す事無く素材として活用出来る、と言う事で全てのギルドから感謝された。


 そしてこの買取は、安芸の予想を大きく上回る結果である。また、他の素材も軒並み高価で引き取られ、現在の俺の資産は金貨換算で約6000枚になっている。ついでとばかりにこちらもギルド連合が関与。次回からも是非にと言われ、俺は苦笑いであった。


 こんな風に稼げるからと、冒険者を目指す者が後を絶たないのだが、当然こんな大金を得る事は滅多に無い。俺の場合はスキルによるゴリ押しなので、誰も真似する事も出来ないだろうしな。


 ただ、取り合えずその場にいた冒険者面々に、冒険者ギルド内に併設されている酒場で料理と酒を奢る事にした。成金と思われるかも知れないが、皆命を張ってモンスターと対峙しているのだ。無事を祝いながら、皆で楽しく飲み食いと言うのも、悪くないだろう。


 少なくともこれで、多少なり冒険者からの信頼も得られたとも考えられる。飲み食いで得られる信頼と言うのも安っぽそうではあるが、食事は生命維持の大前提なので、こう言う機会は可能な限り設けたい物だと思った。





主人公が絡まれる。大抵そうですよね?

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