第九話 新たな光と一筋の闇
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慌ただしく会議が進む。俺が神の使徒として選ばれた事が大々的に公表された。都市国家全体に俺の噂が広まっている。中には非難系の噂もあるが、これも仕方のない事だ。
安芸、精霊騎士レオナは人々の希望。そんな彼女との電撃的な婚約発表。彼女に想いを寄せていた者が羨む事は当然の事だ。
云われ無き誹謗中傷を受ける気は無いが、ここは受け入れておく事にした。
何故婚約止まりかと言えば、前にも述べたが位は十分。精霊騎士より上位の聖獣を従え、女神セラフィーナ様より神の使徒の証を携え、その聖光にて民に安寧を齎したにも拘らず、即時結婚を認める訳には行かない事情があった。
四大元素属性の頂点たる精霊騎士は、現在安芸を含めて四名。その全員が女性で構成されているのは決して偶然ではない。
各属性を司るのが全員女神であるから、精霊騎士への適正が高いのは、基本的に女性、となっている。
女性。新たな生命を宿し、後世に歴史を残し続ける者。そう、単純な話だ。今ここで安芸が結婚、妊娠からの引退でもしようものなら、それは人類側の守りが一枚少なくなる事を意味する。
仮に俺が獅子奮迅の活躍をした所で、所詮は一人。同時多発的な大規模な大災厄には対応出来ない。
次代の精霊騎士、及びそれに準ずる戦力を確保出来るまで待って欲しいと懇願されたのだ。
「むー……はぁ、仕方ない。けど、その言葉は絶対に忘れないでよ? 後継者が就任したら即引退するからね」
不貞腐れている安芸を、教会関係者、有力者、権力者、その他諸々が宥めようと必死だ。事実上の最強戦力を遊ばせられる程、現人類に余裕はない。
余談だが精霊騎士の総数に上限は無いのだが、精霊種と心を通わせる、と言う段階で数多の候補が弾かれる。
自然界に存在する精霊種の中でも、各属性の上位種と心を通わせる為には、それなり以上の能力が求められる。具体的には、レベルが80以上からである。
以前にガルーダも言っていたのだが、この世界での上位者のレベルは極一部の物を除き、平均が50前後と言う物。
そして、レベルは50に近付くにつれ、非常に上昇し難くなり、50から先は更に上がり難くなっている。
この事から中々次世代が育ち切る事は難しく、だからこその現在の精鋭、高位精霊騎士は四名しか存在していないと言うのが現状である。
一応下位精霊騎士も複数いるが、レベルの壁も邪魔しており、中々難しい所だ。一説にはレベル50を境にして、人類種の限界と言う壁が立ちはだかっていると言われている。
高位の精霊騎士は、その限界を精霊の加護によって突破している。先に上位精霊との契約はレベル80以上からと言ったが、例外も存在する。
そもそも精霊種との適正が高ければ上位精霊と契約が可能であり、レベル50の壁は突破出来るそうだ。
この事から他のレベルの壁をも突破し、各都市守護者として高位精霊騎士が君臨する。
と言っても安芸だけは例外で、転生者であり風の女神セラフィーナ様の加護を持つ事からか、レベル50の壁に阻まれる事無くすんなりとレベル上限を突破している。
因みに四名の精霊騎士達のレベルだが、精霊騎士レオナのレベルが167。安芸は変わらずレベルが上がったが、レベル50の壁を超えると、レベル75の壁、レベル100の壁と次々壁が立ち塞がる模様。
レベル50でさえ超え難いのに、更に上があるとかこの世界は中々に厳しいようだ。
次いで火の精霊騎士アリシアでレベルは145となっている。ただしレオナの主属性である風属性は、火属性に弱い。
実際はレベル以上に対等に戦えると言う位の技量を火の精霊騎士は備えているとの事。
他の二名、土の精霊騎士ノーラが四騎士の中では最もレベルが低く、レベル128。最大が歴代精霊騎士中最強と言われる、水の精霊騎士マリンでそのレベルは脅威の241。
かつて人類種最大と言われた勇者に届かんとする勢いだと言う。
話が逸れたが、如何様かにしてレベル上限を突破しなければ、次世代にその任務を引き継ぐ事が難しい。これが精霊騎士の現状だ。
……尤も、安芸には何か考えがあるらしく、不満顔の中にほんのり見える笑顔のオーラを俺は見逃さなかった。
そんなこんなでドッタンバッタン大騒ぎの会議をしている訳だが、その中で俺は議題に上がった内容に顔を顰めた。
俺達を召喚した、ナグツェリア王国の動向だ。流石に写真の様な技術の無い世界ではあるが、俺の事を罪人として捜索しているとの事。
似顔絵的な手配書も出回って居たのだが、このレベルの似顔絵では決して俺に辿り着かないだろうと思われる。
幾ら何でも俺に、悪魔の様な角や羽は生えて居ない。ただ、名前だけは一致している。これは最初にステータス画面を見られたし、裁判で王自ら俺を裁いた事から記録が残っているのだろう。
当然と言うべきか、俺の名前が一致している。と、とある有力者が俺を問い詰める。隠していても仕方のない事なので、ついでに俺は自分の正体、そしてこの世界に呼ばれた経緯を語る事にした。
小一時間その話を続けた後、会場に漂うのは悲しみの感情、憐みの感情、ナグツェリア王国に対する怒りの感情。俺自身の説明で納得が行かない可能性も考え、ガルーダに顕現して貰い事実を証明して貰うと、有力者を含め俺に物申す者は居なくなった。
結果、都市国家の意思は一つに集約された。ナグツェリア王国を断罪すべし。神の使徒となった事も有り、ナグツェリア王国は世界に反逆する者とするべし、と声高らかに宣言する者が多くなった。
なので、俺はその場で言葉を発する。
「静かに。皆の意見は理解出来るが、あの国に対して何かを仕掛け、国力を擦り減らす事は無い。皆のその想いだけで俺は十分救われている、ありがとう」
俺の言葉で会場が静まり、攻撃的感情を持っていた者達も、冷静さを取り戻し、頭を下げていた。やっちまった、神の使徒が礼を言ったのだ、平伏までは行かなくとも感涙までしている者もいる。
「と、とにかくこの議題は終了だ。次の議題に入ってくれ、レオナ、進行を頼む」
「はい、では……」
ただ、それでも防衛を蔑ろには出来ないので、俺を含め安芸、配下の神殿騎士、冒険者ギルドを含めた戦闘力を持つ者達は、有事の際には全力で迎撃する事を約束。
一応有力者の保有する私兵、傭兵等とも連携を取れる体制も確立する取り決めも行われた。
こんな感じで議題が上がり、対策、検討、実行出来るかを話し合っていく。現世で仕事をしていた時は、この様な大規模な話し合いをした事も無く、飽きもせず新鮮な感覚を覚えたのは、今まで人との繋がりが少なかったからだろう。
次の議題は農業、産業と言った生産に関しての物。現在の食料生産体制だが、これは神殿、教会主体で行っている他、各種商会や権力者の貿易によって賄われている。
自給自足の態勢は不完全ではあるが、有事の際にも備えれる程度のものだった。
神殿、教会はその圧倒的な組織力を武器に、農作物の生産に努め、商会、ギルドがこれらの買い取り、交易、防衛を行う形で連携が組まれているが、土地がそれでも余っている現状だ。この土地を生かせれば更なる増収が得られるが、現状では手一杯だと言う。
耕地の拡大、収穫はやって出来ない事は無いが、利益率が悪く伸びや悩んでいるとの事だ。それもその筈、マンパワーには限界が存在する。
だが、俺にはそれを覆せるスキルがある。これを使えば利益に加えて備蓄等様々な面で有利になるだろう。
結局はただのスキル頼り、俺頼りになるが、実際にモノを見ればそれを模倣した物で、農作業も簡略化、高効率で稼働させる事が出来るのではないかと思っている。
何より俺は、不老の身である。何世代か先を見据えた都市計画などを考えるのも面白いかも知れない。
「よし、皆、今から俺のスキルを使う。先程話したが、俺は異世界人だ、今から出すのは異世界で使われている物、驚くなよ……重機召喚、来い! トラクター!」
スキルを叫ぶと、ポンっという効果音と共に、トラクターが現れる。その様子を見て腰を抜かす者も居れば、やはり平伏する者も現れる。話が進まないので、軽く詳細を説明する。
「こいつは俺のスキルで呼び出した、農地や耕地を耕す……一種の魔法道具だ。レオナ、この世界での農業形態は三圃制だったな?」
「はい。現在は三圃制に移行しています。労力は変わらず人、牛、馬。動力としては水車と言う形ですね」
「よし、なら説明は簡略化するが、この魔法道具は牛、馬より早く力強く、疲れも知らずに広範囲を耕耘する事が可能だ。勿論耕すだけではなく、刈り取る魔法道具も存在する。小麦、大麦の収穫も大規模に行える」
覚えてる範囲では、三圃式が終焉を迎えた背景には飼料の減少があった筈だ。最終的には輪裁式に移行すると思うが、そこの行き着いた後でも労力の問題が残る。
この世界でも産業革命でも起これば、重機類でこの問題も解決できると思が、この世界では魔力と言う概念があるので、これを動力に用いる研究も進めば、疑似農業用機械誕生もありえる。
現世では魔法と言う概念が無く、蒸気機関、内燃機関、電気技術と科学技術が進んでいたが、未来技術を見せる事で技術力を一気に引き上げるのが俺の目的だ。
そこに至るまでは俺がスキルを駆使しまくれば、と言うとても安易な発想である。
「最初から最後まで俺が携われる訳ではないから、この魔法道具を模倣するなり、実際に稼働してる所を見て研究してくれ。俺に答えれる範囲で質問なども答える」
この世界にはドワーフやエルフと言った種族も存在している。彼等は現人類よりも高い技術力と魔法制御能力を有する。
この都市国家にも外交、調停役や、鍛冶の指導、販売と言った分野で様々な種族が生活している。
この会場にも各種族の代表的身分の者が出席しており、俺の出した重機に目を輝かせている。早速質問攻めにしたい様に見えるが、目の前にニンジンをぶら下げる状態で留まらせる。
どのみち俺が動かさない限り動かないのだ。
調べたくても調べられない、彼等には生殺しだが会議が終わるまで我慢して貰う。仮に強行するなら、それこそ神の使徒の肩書が爆発するぜ。




